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宇宙科学の最前線

雷放電観測の展開 対流圏から超高層大気,そして惑星へ

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惑星宇宙望遠鏡による惑星大気観測へ

 惑星や衛星の大気・プラズマの研究において,その天体のオービターまたはランダーなどによる直接的な探査が最も効果的なことは言うまでもない。一方で,低いリスクで複数の天体について継続的な観測が可能な,地上望遠鏡による観測も重要である。しかし地上での観測は,地球の大気・エアロゾルの影響を強く受け,安定したモニター的な観測がものをいう惑星大気・プラズマ観測にとって,必ずしも満足のいく手段ではない。

 もし地球周回軌道に惑星観測専用の宇宙望遠鏡を置くことができれば,たとえ小口径であっても,その威力は絶大である。第一に,天候に左右されず連続モニターが可能になる。回折限界に近い安定した像が得られ,例えば口径30cmでも近紫外から可視にかけては,すばる望遠鏡のベストコンディションに引けを取らない解像度が常時確保できる。第二に,大気の吸収を受けないので,木星オーロラなど紫外域の観測や,惑星大気中で大きな役割を持つ水蒸気などの計測を精度良く行うことができる。第三に,大気散乱がないので,惑星から流出する大気や内惑星の夜面観測で高いコントラストが得られる。

 このように,宇宙望遠鏡の観測意義,メリットは非常に大きく,これまでに米国やヨーロッパで独立に複数の提案がなされてきたが,まだ実現には至っていない。筆者らは,オーロラ観測を目的とした紫外線(121nm)から,波長1100nmまでの可視,近赤外をカバーする,口径30cmの惑星宇宙望遠鏡TOPS(Telescope Observatory for Planets on Small-satellite)を提案している(図3)。既存の最新民生技術の応用によって,400波長以上でのスペクトルイメージングや,形状可変のオカルティングマスク(惑星の明るい昼面を隠し,夜面の淡い光や外気圏大気を撮影できるようにする)などの機能を持つことが特徴である。



図3-A
図3 惑星宇宙望遠鏡TOPSの想像図


 TOPSの重要なターゲットの一つが,雷放電発光を含む,木星の雲と大気組成の立体観測である。木星の雷が積乱雲に対応した場所で起きているらしいことは指摘されているが,積乱雲と雷放電活動の同時観測は例がない。宇宙望遠鏡の高解像度と連続性というメリットを生かした,いわば木星の気象衛星と呼べる機能によって,これまで目にしたことのないダイナミックな大気活動の様相が明らかにされると期待される。こうした観測は,金星夜面での雷放電・雲観測でも力を発揮するだろう。

 TOPSのような宇宙望遠鏡による観測は,PLANET-C,BepiColombo,Solar Sail,さらには日本とヨーロッパが20年後の実現を目指して検討を開始しているCosmic Vision計画など,世界が進める数々の惑星オービター・プローブ計画に優れた見通しを与え,また,もし同時期に運用ができれば相補的性能を活かした理想的な惑星観測プログラムが実現するだろう。

(たかはし・ゆきひろ)



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