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宇宙科学の最前線

S-310-36号機による網展開,フェイズド・アレイ・アンテナ実験の成果速報

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アクティブ・フェイズド・アレイ・アンテナ実験


図5
図5 レトロディレクティブ試験の概念図


 今回のS-310-36号機でのアクティブ・フェイズド・アレイ・アンテナ実験は,図5に示すように,親機に搭載されたレトロディレクティブ装置と子機3台にそれぞれ搭載されたアンテナ素子から構成され,それぞれに地上から送信されるパイロット信号を受ける受信機と,位相制御された電波を地上に送る送信機が搭載されている。内之浦にある直径20mのパラボラアンテナからパイロット信号を送信し,直径20m,10mと3.6mのパラボラアンテナで親機と子機から送信される電波を受信して,レトロディレクティブ機能を確認する。

図6
図6 地上でのレトロディレクティブ試験


 図6に,打上げ前に行われた電波暗室での試験結果の一部を示す。レトロディレクティブ機能を用いない場合は,図中赤線で示したように,子機の位置が変化すると位相差により受信レベルが大きく落ち込むが,レトロディレクティブ機能を用いた場合は青線で示したように,子機を動かしても受信レベルは一定に保持される。この結果は,レトロディレクティブによりフェイズド・アレイ・アンテナとして機能できることを示している。ロケット実験後すぐに,親子機間の測距,パイロット信号の位相差測定のデータから解析を開始した。図7にパイロット信号の位相差測定の一例を示す。子機が親機から離されて,地上との送信距離が変化するために,パイロット信号の位相が変化している。この位相変化は,ほぼ妥当な値を示している。次に測距データと地上での受信データを解析し,今回開発したレトロディレクティブ機能が設計通りに正常に働いているかどうかを見極める予定である。

図7
図7 ロケット実験におけるパイロット信号の位相差測定の一例


網上移動実験装置の走行実験

 網が展開された後,網上移動実験装置が網上を走行する実験を実施した。今回開発した移動装置は,永久磁石で上下に駆動機構を保持する構造となっている。2005年3月に行った航空機による無重力実験で,この移動装置は無重力下でも網上を無事に走行できた。

 今回の実験は,学生の宇宙工学教育の一環として,実験用ペイロードをほとんど学生の手作りで作製したことも特徴であり,彼らが製作した装置がすべて正常に動作したことは大きな成果であった。地上試験,噛合せ,打上げ前調整,そして打上げ運用を通して,確実に動作するものを作る厳しさをはじめ,学生は多くのことを学ぶことができたと考える。辛抱強くお付き合いいただき,たくさんのことを教えていただいた稲谷・樋口・石井各先生をはじめ,宇宙研のロケットチームの皆さまに,心より感謝の意を表したい。

(なかすか・しんいち,かや・のぶゆき)



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