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宇宙科学の最前線

月の重力場地図を作る〜SELENEの小型衛星Rstar/Vstarの活躍に向けて〜

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Rstar/Vstarの開発

 RstarとVstarは,先に述べた通り重力場観測に特化した衛星であり,姿勢制御のためのニューテ−ションダンパはありますが,重力異常の検出を邪魔するスラスタによる軌道・姿勢制御を行わないスピン衛星です。両衛星の形状はほぼ同じで,八角柱の主構体に地球向けの通信を行うS/X帯垂直ダイポールアンテナなどが搭載されています(図1右上)。幅が約1mと,小型衛星と呼ぶにはやや大きめですが,これは側面の太陽電池セルの面積を大きくとるための措置で,内部は比較的空いており,質量は約45kgです。


図4
図4 SELENEの小型衛星Rstar/Vstar用に開発された軽量型分離機構。上の長方形の内側が,分離される小型衛星側の部品。


 RstarとVstarは,軽量化のためのさまざまな工夫がなされていますが,その代表が分離機構です(図4)。Rstar/Vstarはスラスタやホイールによる姿勢制御がないため,分離時に与えられる姿勢とスピンが命です。このため,軽量ながらも安定した分離特性を与えられる機構が必要です。一般にスピン衛星の分離には,ターンテーブル上でスピンを与えて切り離すタイプが使用されますが,Rstar/Vstarでは二つのリングを伸展バネでつないで,ねじりを与えて保持する機構にしました。3ヶ所のブラケットにある火工品で固縛が解放されることにより,伸展バネがリングを押し出して分離速度を与えるとともに,小型衛星下部に設置されたフックが上部リングの回転を伝えて,スピンを与えます。この方式によって分離機構の設計質量が4分の1程度に低減されました。この分離機構の性能を測定するには微小重力での試験が必要ですが,大掛かりなものである場合は条件を変えて多数の測定データを取得したり,測定結果を設計にフィードバックさせて再測定を行ったりすることが困難になります。そこで,ゴムひもで模擬衛星をつり下げて張力と重力が釣り合う位置に分離機構を置くことによって,微小重力を模擬する装置を考案して試験を行いました。図5の中央にある箱が質量特性を小型衛星と一致させた模擬衛星,その上に少し見えているのが衛星をつり下げるショックコードです。こうして得られたデータをもとに開発モデルが作られ,ピギーバック衛星μ-Lab Satによる軌道上実証も行いました。


図5
図5 模擬衛星とショックコードを用いた,分離機構の地上分離特性計測試験。


 RstarとVstarは,現在プロトフライト試験が続けられており,本稿が皆さんのお手元に届くころには熱真空試験が佳境に入っているでしょう。月の重力場の地図を表も裏も飛躍的に改良し月の内部構造を解明する決定打として,世界中の注目を集めながら,RstarとVstarの開発は最終段階に入りつつあります。

(いわた・たかひろ)


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