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宇宙科学の最前線

「ロケットの次のゴール」または「詐欺師ペテン師の世界」

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表紙


 「正月にふさわしいことを書け」と言われて「いつも正月ネタにされるのはイヤだ」と,ひねくれてもしょうがないので,「誌面をもらってありがとう。先のことを考えるよすがにでもしてください」……と素直な前置きで始めます。ロケットの次のゴールをどうするかという話をします。

 一発打ったら全部捨てる今のロケットは,通信や放送や航法といった,電波に乗せて情報をばらまく世界を作り上げ,ビジネスができる状況を作りました。打ち上げる荷物としての人工衛星とは,要するに電波をばらまく道具や情報を捕ったり伝えたりする道具です。昔に比べて情報伝達や通信の技術はこんなに進歩したのに,ロケット屋はこの30〜40年何か進歩したのかい?と言われても「うーん,すみません」とうなってしまいます。この衛星の世界では,どの市場調査によっても今後の15年以上輸送の需要は頭打ちで,衛星が高機能化したり寿命が延びたりするので,毎年見直されるたびに打上げ市場は縮小してしまって,新しい打上げシステムの出現や,そのための大規模な投資を促すことには全然なっていないのです。スペースシャトルは宇宙へのアクセスの障壁を取り除いて新しい輸送需要の喚起を期待したのですが,今では年に数回しか飛ばない状態からさらにストップしてしまって,繰り返しのメリットがまったく生かせないことになっています。輸送機自身の技術の問題と需要が盛り上がらなかったために「うまく転がらない再使用」の見本になってしまいました。

 それでは,衛星を運ぶのではない別の需要とはどんなものでしょうか? 技術的に可能でかつ経済的に成り立つ輸送需要のうち,定量化されているのは太陽発電衛星の建設と一般の人の宇宙旅行です。これらのスタディによると,輸送コストの低減の目標は2桁のダウンだといわれます。前者は巨大な発電設備を軌道上に置いて地上に送電するもので,エネルギー問題の解決と地球環境の保全という社会的な要請が出発点です。電力の供給価格がほかの手段と競争できるとか,ゼロエミッションが発電衛星ですが,建設や軌道上への輸送のために発生する環境負荷がほかの発電に比べてどうか,という意味で,輸送に対する要求が決まります。後者の旅行では,一般の人へのアンケート調査に基づいて年間旅客数を推定し,今のエアラインのように一般の人が切符を買って乗客となるためには,と詰めていくと,毎年百万人の乗客がいてこれを運ぶ仕掛けを作れば年間収入が1兆円オーダの事業ができる,と試算されています。新しいロケットの開発をするお金くらい,すぐ出てくると思いませんか。どちらの輸送も毎日何十機も飛ぶ輸送船団のようなものが必要で,毎回捨てているようなロケットではとても回転する世界ではありません。偶然ですが両者の輸送規模や頻度は同じ程度になって,表1のようになります。これから本当に役に立つ再使用型とはどんなものか少し考えてみます。


表1
表1 2桁コストダウンの世界


 今のロケットとシャトルと宇宙旅行の輸送機1フライト当たりの費用内訳を図1に示します。使い捨てロケットは打ち上げるたびに新品ですから,費用の大部分は結局ロケットの製造費です。シャトルは年に6回の打上げが前提で,運行するのにだいたい1万人の人がかかわっているので,この人件費を飛行回数で割ったものと同じです。さて宇宙旅行の機体では,アンケートを参考に切符が1枚200万円で1機に50人の旅客とすると,1回1億円がフライト経費です。エアラインのバランスシートを参考にすると,直接間接の運航経費とは別に経費の10〜15%を減価償却に充てられると健全な経営なのだそうです。1飛行での収入が1億円で減価償却費は1000万円のオーダですから,機体が1機何百億円とすると何千回の飛行が必要ということが分かります。真の再使用とは,機体を作るだけでは全然ダメで,高い頻度で繰り返し飛ばなければペイしないことがよく分かります。

図1
図1 運航経費の内訳


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