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宇宙科学の最前線

「ロケットの次のゴール」または「詐欺師ペテン師の世界」

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 さて,このように1日に何十回も飛ぶ世界では,今のロケットの安全率では1日か2日に1回墜落することになってしまいます。現在の航空輸送では事故で機体を失う確率は百万回に1回以下です。図2はある再使用型エンジンの安全性の論文からの引用ですが,まったく故障なしに飛んだ場合が左側で,何らかの故障が起きても検知してエンジンを安全に止める,検知できなくて不意に壊れたり火災になってもほかにダメージを与えない,この場合でも所定の飛行性を失わずに安全に降りられる,それでもダメなら一番右の機体喪失,という図式です。使い捨てロケットで信頼度を上げよ,というのは要するに故障しない確率を上げることで,図の左側の線だけで頑張ることです。再使用とは,図の中ほどの故障許容の仕掛けと帰還能力を使って安全に降りるシステムにすることが,その本質です。今の飛行機もシャラーッと飛んでみんな安心して乗っていますが,実はけっこう故障していて,それでも大丈夫なのは今言った故障してもよい仕掛けが最初からシステムに組み込まれているからです。今のロケットの成功率を飛行機の10-6と単純に比べて,ロケットは危険だと言う人がいますが,この議論抜きに比べても無意味であることが分かります。どうやったら,こういうロケットを設計できるか考えてみてください。再使用で大事なのは1000回オーダの繰り返しと故障許容型のシステムの構築であることが,ここで言いたいことの本質です。

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図2 再使用の故障許容システムが安全性を桁違いに上げる


 ロケット屋は物事を大層にやるのが好きです。燃料の液体水素を入れるときは半径1km立ち入り禁止,とやります。世の中では環境の要請からすべてのエネルギーをクリーンエネルギーと水素で賄おうとする「水素社会」構築の仕事が進んでいます。クルマ屋さんやエネルギー屋さんですが,彼らと話すと考え方がずいぶん違うと気が付きます。要するに宇宙と言って特別な世界を標榜したがる我々と,世の中に受け入れられるシステムを作ろうとする人との違いです。ガソリンスタンドで燃料を入れるときやクルマが走るときに,誰も退避しません。水素でも同じことをするにはどうしたらよいか,と考えて投資をしている人たちと,総員退避の人たち,または世の中を相手にしている人とそうでない人,などという対比までできそうです。今でこそまだクルマ屋さんがロケットはどうしているの?と聞きに来たりしますが,そのうち向こうの方がずっと進んでしまったら,古臭いロケット屋はカッコ悪いですね。宇宙の殻に閉じこもっていたら進歩はない,というのがもう一つの言いたいことです。

 そこでまず,繰り返しとはどんなものかを実際に体験しようと,おもちゃのようなロケットを飛ばしています。故障を見つけたら緊急着陸する仕掛けを組み込んであるんだ,とか,液体水素を積んで繰り返しだ,とか,1日1回3日連続だ,などと調子に乗ってやっていますが,高度何十mをうろうろ飛んで降りるだけなのでヒコーキにも勝てないロケットです。今のロケットは1回だけ持てばいいということでモノを仕上げますが,帰ってきたらまた明日やれと言われる仕掛けはやっぱり違う考えで設計せんといかんな,と実感します。このへんを上等に言うと「再使用のシステムアーキテクチャ」とでもなるのかなと思います。ただしやっていると,普段のロケットとは違う外からの反応があります。「宇宙旅行ってこんな感じですか?」と何やら送られてきたのが表紙の絵です。お土産の紙袋を持って乗り込んだりスリッパを履いている人もいたりして,こんなに気楽には乗れないなあとか,機体もちょっと違うわな,と何だか変なのですが,でも雰囲気はあります。M-VやH-IIAではこんな反応はないので,これを世の中の関心とサポート,または「これに未来を見てくれたか」と勝手に誤解することにしています。



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