宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > 宇宙科学の最前線 > ハイブリッドロケット CAMUI

宇宙科学の最前線

ハイブリッドロケット CAMUI

│2│

●小型打上げ機体の開発

 ハイブリッドロケットを小型ロケットに適用するためには,推力密度を上げることと併せて,液体酸素供給系を小型機体に組み込むことが必要である。液体酸素は爆発の危険性および毒性がなく,高い比推力が期待できるが,極低温液体である液体酸素の供給システムを小型機体に組み込むのは容易ではない。極低温用バルブ一つとっても,汎用バルブに比べ大型である。また,CAMUI方式では従来型と違って燃焼室壁面が火炎にさらされるため,燃焼室壁面を冷却する必要がある。つまり,極低温液体による再生冷却方式を備えた供給システムを,小型ロケットに組み込む必要があるということである。

 バルブの小型化および再生冷却ラインの簡素化を検討した結果,液体酸素流路にバルブを使用しないバルブレス供給方式を考案した。その概念を図2に示す。液体酸素タンクは,燃焼室の周囲に円環状に配置されている。液体酸素タンク内側壁面と燃焼室壁面との間は液体酸素流路となっている。液体酸素はタンク底部のオリフィスを通ってこの流路に流れ込み,燃焼室壁面を冷却しながら上方に流れ,噴射器から燃焼室へと噴射される。液体酸素タンクから燃焼室に至る流路にはバルブは存在せず,再生冷却流路も極めて簡素化されている。液体酸素の液面は噴射器よりも下方に位置するため,タンクを加圧しない限り,液体酸素が燃焼室に供給されることはない。加圧用のヘリウムタンクは三方弁を介して液体酸素タンクとつながっており,供給開始前はガス化した酸素を燃焼室に排気することにより液体酸素タンクの圧力が上昇するのを防いでいる。


図2
図2 バルブレス液体酸素供給方式

 燃焼開始の手順は以下のようになる。点火前は,液体酸素タンクでガス化した酸素は燃焼室に排気されており,燃焼室はガス酸素で満たされている。このため,初段ブロックの前端面に取り付けられているニクロム線を通電加熱することにより,容易に点火することができる。このとき,酸素は自然蒸発により供給されているだけなので,推力はほとんど発生しない。点火を確認した後,三方弁を切り替え,ガス化酸素を燃焼室に排気するラインを閉じると同時に高圧ヘリウムタンクから液体酸素タンクに通じるラインを開くと,液体酸素の供給が開始される。実機の場合はこれが打上げの瞬間となるので,この三方弁のことを我々は打上げバルブと呼んでいる。バルブ切り替えにより推力は速やかに立ち上がり,定常燃焼に移行する。


●打上げ実証試験

 バルブレス供給方式が打上げ環境下でも正常に作動することを確認するため,打上げ実証試験を実施した。機体の概要を図3に示す。全長1.6m,外径89mm,燃焼室内径50mmである。燃焼室には高さ35mmの円柱形アクリルブロックが7個配置されており,その全重量は450gである。

図3
図3 打上げ実証試験機体の構成

 燃焼室の外周部は液体酸素タンクで,エンジン部分の基本的な構造は図2と同じである。450gの燃料を約4秒で燃やし切ることにより,約50kgfの推力を発生する。エンジンの上は打上げバルブで,ハンドル部分は機体の外に出ており,発射台に取り付けられたアクチュエータで打上げバルブを切り替えることにより機体が打ち上げられる。打上げバルブの上はヘリウムタンク,その上はペイロード搭載部である。ペイロード搭載部はシリンダ構造となっており,底部に仕掛けられた少量の火薬により飛び出し,機体頭部のフェアリングを跳ね上げる。跳ね上げられたフェアリングは半割りになり,内部のパラシュートを解放する。機体の初期全備重量は10.5kg,到達高度は安全上の制約から約900mとした。

 打上げ実験は2002年3月と2003年1月の2回,北海道大樹町において実施され,共に成功であった。打上げ実験の詳細についてはhttp://www.hastic.jp/camui/default.htmを参照されたい。なお,本機体による教育用途などでの打上げサービスは,NPO法人 北海道宇宙科学技術創成センター(HASTIC,http://www.hastic.jp/)から一般販売されている。



│2│