ロケット実験による宇宙空間のその場観測や技術実証の機会は、宇宙科学研究の基盤です。宇宙科学研究所は、宇宙科学に関する学術研究活動を推進するため、基盤活動の1つとして観測ロケットを使った宇宙実験を実行しています。観測ロケット実験は、宇宙理工学委員会所掌の観測ロケット専門委員会が主体となり公募という形で実験機会が提供されています。同専門委員会は、募った提案実験について学術的意義等の審査を行います。そして、採択された実験提案は、観測ロケットグループが事業計画を整備します。同グループは、各計画をいわゆるプロジェクト相当の活動として運営し、提案者と共に打上げに至るまでに機器開発の支援を行っています。

提案が採択されると、研究者は本格的なロケットを使った宇宙実証実験に挑戦する機会を得たことになりますが、未経験あるいは経験が浅いことも多いです。そのため、自ら開発を手掛ける搭載機器がロケットへの実装に適切なものとして設計できるか不安だと思います。また、プロジェクト活動についても同様でしょう。このような初心者ユーザ向けに観測ロケットハンドブックを整備しており、機器開発に向けての助言を行っています。このハンドブックは近々に一般向けに公開する計画としており、潜在的なユーザに向けて情報を提供し、新しいロケット実験の計画検討に役立てていただくことを狙っています。

観測ロケット実験は、実験採択から打上げまで概ね2年~2年半の時間を要します。その間、提案者は実験計画や安全計画を立案整備し、機器開発を進めることになります。計画当初は実験の安全に関する議論から始めることになります。搭載機器にはどのような部品や化学材料を取り扱う予定であるか一覧をまとめます。その中でハザード要因となり得るものを抽出し、ハザードコントロールの方針を決めます。いわゆる安全審査Phase 0/1に相当する活動です。観測ロケットグループでは、安全審査に必要な文書作成支援も行っており、ユーザにとってはハードルが高いロケット実験の安全に関する助言も行います。搭載機器は安全要求を満たしたものである必要がありますが、初心者にとってはこの要求を理解し、設計に反映することが難しいと思います。そのため、宇宙科学プロジェクトと同様に安全審査をPhase毎に区切って段階的に進める方法を採用しています。

次の段階では、実験の安全指針に沿って実験計画を見直し、ミッション要求書の案をまとめます。この時点でロケット実験の概要が明らかになってきます。ミッション要求書は、観測ロケット実験で行うサイエンスの目的に準じた搭載機器への設計要求がまとめられ、機体システムおよび各機器は、この文書を拠り所に基本設計を進めます。そして安全審査Phase 2では、基本設計が観測ロケット実験の安全要求を満たしていることを確認します。このような段階的な確認工程は、作業の出戻りを無くし、それぞれの計画をスケジュール通りに進めるために必要と考えています。装置の種類にもよりますが、設計を固めてからフライト品が出来上がるまで半年~ 1年程度を要します。搭載機器の単体が完成したら、ロケット頭胴部として組み上げて総合機能検証試験(噛み合わせ試験)を行い、ロケットシステムとしての機能を確認します。

以上の工程を簡単にまとめますと、実験採択 ― 実験計画案策定 ― 安全審査Phase 0 / 1 ― 基本設計 ― 安全審査Phase 2 ― 詳細設計確認 ― 安全審査Phase 3(フライト品の設計結果確認、飛翔前試験・打上げ運用方法の確認) ― 噛み合わせ試験 ― 打上げ、という流れになります。

以上のように、観測ロケット実験の実態が、宇宙科学ミッションとして採択されたプロジェクトの小規模サイズとなっていると気が付いた方もおられるでしょう。我々観測ロケット実験グループは、計画立案から実行までの一連の活動が比較的短期間で一巡できることを活かし、プロジェクト運営や本格的な宇宙機の実装設計を学ぶことに適した環境を構築してきました。その結果、昨今は実践的な宇宙人材育成の場としての活用も盛んになってきました(写真1、2)。若手のJAXA職員だけでなく、ISASに所属する大学院生のインターンシップにも活用されており、宇宙科学分野の研究者、技術者の修行の場となっています。

観測ロケットユーザハンドブックが公開されましたら、ぜひ皆さんもロケット実験の計画を検討してみてください。

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写真1:2022年度計画のS-520-32 号機ミッション関係者(挑戦者?)。

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写真2:FM単体をロケットに実装する工程。

【 ISASニュース 2022年6月号(No.495) 掲載】