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宇宙科学の最前線

液体ホウ素は半導体だった 学際科学研究系 助教 岡田純平/学際科学研究系 教授 石川毅彦

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 スーパーコンピュータを用いて実験結果を解析した結果、ホウ素融体中の価電子の挙動を可視化することができました。図4は価電子が動き回る範囲を示したものです。図の横軸は、右に行くほど電子の稼働範囲が広いことを示します。ホウ素との比較のためにケイ素の結果を示します。固体のケイ素はダイヤモンド構造を持つ典型的な半導体です。価電子は原子間の共有結合にすべて拘束されているため、図4に示されるように、電子の動き回る範囲(遍歴範囲)は限定されます。ケイ素は溶けると一転して完全な金属になり、融体中を電子が自由に動き回るようになりますが、図からもケイ素融体中の電子の遍歴範囲が大きく広がっている様子が分かります。


図4 実験結果の解析により求められた価電子が動き回る範囲(遍歴範囲)
図4  実験結果の解析により求められた価電子が動き回る範囲(遍歴範囲) [画像クリックで拡大]


 ホウ素も固体状態では半導体であり、価電子は原子間に拘束されていますが、結晶構造が複雑なために結合の長い共有結合が存在します。それ故にケイ素と比べると、価電子の遍歴範囲が広がっています。融解に伴い遍歴範囲の分布は右へシフトしますが、固体と融体の分布の大部分はオーバーラップしています。ケイ素の場合とは明瞭に異なり、ホウ素の場合、融体中の価電子の遍歴範囲は固体と似ています。このことは、ホウ素は溶けても固体と同じく半導体的な性質を保持しており、金属にならないことを示します。これまではホウ素は溶けると金属になると考えられていましたが、実際には半導体であることが明らかになりました。


宇宙実験に向けて

 地上では、重力に抗して試料を浮遊させる際に、高電場が必要となるため、高真空雰囲気を用いて放電を防ぐ必要があります。ところが、真空雰囲気で液体を高温に熱すると、蒸発、解離が避けられません。蒸発や解離しやすい材料、例えば、酸化物は真空雰囲気で加熱すると酸素が抜けてしまい、溶かし切ることができません。それ故、融点の高い酸化物など、溶融状態の性質が未解明の物質が多く存在します。一方、微小重力環境では、そもそも試料が浮遊しているので、数百V程度の低い電圧で試料の位置を制御することができます。この場合、ガス雰囲気でも放電しません。ガス雰囲気を利用できるメリットは大きく、真空雰囲気では溶かせない材料を溶かすことが可能になります。

 今年8月に宇宙ステーション補給機「こうのとり」5号機で、静電浮遊溶解装置が国際宇宙ステーション(ISS)へ打ち上げられます。ISSではガス雰囲気を用いた実験が予定されており、地上の真空雰囲気では溶融が難しい材料の性質を調べる実験が始まります。貴重な実験機会を存分に活用し、材料に対する新たな知見が得られるように努力したいと考えています。

(おかだ・じゅんぺい/いしかわ・たけひこ)

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