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宇宙科学の最前線

燃料電池を使ってCO2を除去する 長岡技術科学大学 大学院工学研究科 教授<br>宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 客員教授 梅田実

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 宇宙閉鎖空間における生命維持のためには、酸素の供給と二酸化炭素(CO2)の除去が必要不可欠です。私たちの研究グループでは、燃料電池を用いてCO2を有効利用する新しい研究を進めています。第一段階では、CO2を還元しながら発電する新規な燃料電池の研究と、それを用いる次世代空気再生システムの開発を行っています。第二段階では、CO2を還元して資源化する究極の炭素循環システムを目指します。本稿では、私たちの取り組みについて紹介します。

宇宙閉鎖空間とCO2の除去

 CO2は地球上ではほぼ無尽蔵に存在し、自然界で循環しています。CO2固定化の典型例が光合成ですが、化石燃料の使用による大気中CO2濃度の増加は、CO2固定化を上回る勢いです。それによる大気組成の変化が、地球温暖化の要因としてたびたび取り上げられていることは周知の通りです。

 地上の生活空間におけるCO2濃度は現状で0.03%程度ですが、これが数%を超えた場合、人間は頭痛、めまい、吐き気を催すようになります。さらに高濃度になると、意識を失い重篤な状態になるとされています。このことは、通常の生活空間では重要視されないCO2濃度管理が、人間の活動を伴う宇宙閉鎖空間では、生命維持の観点から極めて重要な課題であることを意味します。

 現在、宇宙閉鎖空間でのCO2除去技術は、アルカリ性の水酸化リチウムに吸収させる方法や、ゼオライトと呼ばれる吸着材に吸収させる手法が採用されています。特に前者の場合は、吸着材が使い捨てになってしまいます。

 長岡技術科学大学の研究室と宇宙研の研究グループは共同で、宇宙閉鎖空間のCO2を単に除去・廃棄するのではなく、リサイクルすることに取り組んでいます。そのためには、CO2を還元する新しい技術開発が不可欠です。なぜなら、CO2は炭素が最も酸化された安定状態にあるからです。

 私たちは、独自の技術開発によりCO2を還元しながら発電する新しい燃料電池の研究を行っています。第一の要点は、この燃料電池を利用した次世代空気再生システムの開発です。第二に、この技術開発が完成すれば、CO2を資源として活用することが可能となります。これは、閉鎖空間におけるCO2リサイクルに限らず、地球上あるいはCO2を持つほかの惑星や衛星においてCO2を炭素資源として利活用する革新技術になると期待されます。


CO2還元はなぜ容易に進行しないか

 一般にCO2は化学反応に対して安定です。ここでは、熱化学方程式でCO2が関わる反応を眺めてみましょう。メタン(CH4)の燃焼は、

 CH4 + 2O2=CO2+2H2O+890kJ……(1)

で表され、生成熱は890kJ/molです。つまり、酸素を使ってメタンを燃焼させると、890kJ/molの燃焼熱が得られます。

 次に、CO2の還元を考えるに当たり、CO2にH2を作用させると、次の(2)式が成立します。

 CO2+4H2=CH4+2H2O+253kJ……(2)

この反応は、253kJ/molの生成熱を伴う発熱反応であり、自発的に進行すると考えられます。しかし実際に発熱反応が起こることはなく、正反対の吸熱反応であることが経験的に知られています。

 この(2)式をめぐる一見矛盾した反応は、式中に表記されない吸熱過程の存在で説明されます。その一つが、結合解離エネルギーです。具体的に、C−O解離させるためには、348kJ/molの熱エネルギーを外部から加える必要があります。この例が示すように、(2)式はいくつかの素過程に分解でき、その中で最も遅い(吸熱量が大きい)ものを律速過程といいます。

 では、律速過程を解消する方法はないのでしょうか? この問いに対する解答は、触媒の利用です。

 少し難しい説明になったかもしれませんが、適切な触媒を使用することで、律速過程は解消できます。もし、すべての素過程が触媒の使用で円滑に進行するなら、(2)式のCO2還元反応は発熱反応として進行することになります。さらには、(2)式の生成熱の一部は、発電に使うことができます。

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