宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > 宇宙科学の最前線 > 「はやぶさ2」搭載ハニカム構造軽量高利得平面アンテナ

宇宙科学の最前線

「はやぶさ2」搭載ハニカム構造軽量高利得平面アンテナ 東京工業大学大学院 電気電子工学専攻 准教授 宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 客員准教授 広川二郎

│3│

小型衛星搭載用合成開口レーダシステムへの適用

 このハニカム構造平行平板スロットアレーアンテナを100kg級の小型衛星に搭載可能な合成開口レーダシステムへ適用する共同研究を、宇宙研宇宙機応用工学研究系の齋藤宏文 教授と行っています。多数の小型衛星に合成開口レーダを搭載して、数時間以内の高頻度観測を行う災害観測や海上監視などを想定しています。地表に露出したターゲットの短時間での視認が中心となるため、直進性の強いXバンドの高周波観測バンド(9.65GHz)が適しています。さらに、人工物の視認に必要な約3mの分解能を得るために、9.65GHzを中心として130MHzの周波数幅を持った電波を送受信する必要があります。また、100kg級の小型衛星を低コストで実現するためには、レーダシステムのすべての電子装置を衛星内に搭載し、電子機器が搭載されていない平面アンテナのみを展開して軌道上で形成する方法が適しています。

 図3(a)に衛星外観図を示します。アンテナは0.7m四方のパネル6枚から構成され、ピギーバック打上げ可能な0.7m立方サイズに収納されています。展開時には4.6m×0.7mになります。アンテナと反対の面には太陽電池パネルが設けられます。

図3(a) 合成開口レーダ用平面アンテナ 衛星外観図
図3(a) 合成開口レーダ用平面アンテナ 衛星外観図
小型合成開口レーダ衛星のアンテナ収納状態と展開状態。アンテナの裏面にシート太陽電池を設置する。

 図3(b)に1枚のアンテナパネルの構造図を示します。0.7m四方の正方形のハニカム構造の両面にアルミニウムのスキンを貼り、平行平板導波路を形成します。下面が放射面であり、円偏波を放射するスロットペアを格子状に配列しています。導波路内の電波のスロットペアへの入射方向により、円偏波の回転方向を変えられます。そこで、上面の両端に給電導波管を設け、スロットペアへ2つの方向から入射する構造とし、それぞれから右旋円偏波と左旋円偏波を放射できるようにしました。給電導波管は2種類からなり、外側は上述のようにパネル内に電波を給電し、内側は6枚のパネルに電波を分岐給電します。各パネルへの線路長を同じにするため、パネル間給電導波管は、スポーツ大会のトーナメント方式の図のような、どのパスも長さが等しい構成になっています。動作原理を説明します。パネル間給電導波管の狭壁に開けられた給電窓からパネル内給電導波管へ電波が伝搬します。さらに、パネル内給電導波管の広壁に開けられた結合スロットを通して平行平板導波路へ電波が伝搬します。最後に、平行平板導波路上のスロットペアから円偏波として放射されます。

図3(b) 合成開口レーダ用平面アンテナ 構造図
図3(b) 合成開口レーダ用平面アンテナ 構造図 [画像クリックで拡大]
展開型アンテナの構造図

 動作の確認をするため、平行平板導波路の上面の一端だけに給電導波管を設けた右旋円偏波のアンテナパネル(0.7m四方)1枚の設計、試作、評価を行いました。ハニカムコア材料としてはアラミド繊維シートを用い、その厚さは6mmです。利得35.0dBiが得られ、アンテナ効率は55%となりました。「はやぶさ2」の円形アンテナと同程度です。損失は1.6dBあり、半分の0.8dBはハニカムコアによると考えられます。残りの0.8dBに関しては、給電導波管を平行平板導波路に固定する際と平行平板導波路の周囲を金属チャネルで固定する際に用いた導電性接着剤による損失などであると考えています。この矩形アンテナの特長は、太陽電池パネルと同様、びょうぶのように折り畳みと展開ができる点にあります。図3のように小さく収納して0.7m立方の小型衛星に搭載して打ち上げて軌道上で展開できるので、レーダを搭載した小型衛星が大活躍する日もそう遠くはないと思っています。

図3(c) 合成開口レーダ用平面アンテナ 試作品
図3(c) 合成開口レーダ用平面アンテナ 試作品
試作した0.7m四方のXバンドハニカムパネルスロットアレーアンテナ。アンテナ効率55%を達成した。


むすび

 衛星搭載を目的としてハニカム構造により軽量化した高利得平面アンテナの説明をしました。今後は、より低損失なハニカムコア材料の使用に加え、ハニカム構造を正確に取り込んだアンテナの電磁界解析による特性向上を検討していく必要があると思います。

(ひろかわ・じろう)

│3│