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宇宙科学の最前線

フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡で探るフェルミ加速の物理 立教大学理学部物理学科 准教授 内山 泰伸

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フェルミ衛星による超新星残骸の観測

 フェルミ衛星の主検出器であるLATは対生成望遠鏡と呼ばれ、宇宙から飛来したガンマ線が検出器内でつくる電子・陽電子対の飛跡とその全エネルギーを測定することで、20メガから300ギガ電子ボルトのエネルギーを持つガンマ線を観測することができます。LATの前身といえるコンプトン衛星搭載のEGRET検出器をはるかに凌駕する性能を持ち、超新星残骸のガンマ線観測もLATの登場によって大きく前進しています。

 LATによる観測がもたらした重要な成果として、超新星残骸の衝撃波において高エネルギー陽子に分配されるエネルギー量を推定できるようになったことが挙げられます。このエネルギー分配量は、現在のフェルミ加速理論では上述の「入口」問題のため不確かでした。約300メガ電子ボルト以上のエネルギーを持つ高エネルギー陽子が、星間ガス中の水素原子核に衝突すると中性π中間子を生成し、それが直ちに2つのガンマ線光子に崩壊します。このπ中間子崩壊ガンマ線を捉えることができれば、高エネルギー陽子のエネルギー量を測定できます。そして有名なティコの超新星残骸からのガンマ線は、X線観測で得られていた結果と組み合わせると、π中間子崩壊ガンマ線であると結論づけられ、高エネルギー陽子に大きなエネルギー量が分配されていることが分かりました。これまで高エネルギー電子についての推定はありましたが、初めて陽子についての推定が可能になり、その結果、電子に比べてはるかに多いエネルギー量を陽子が担うことが分かりました。これは銀河宇宙線の起源の解明に向けた重要な一歩であり、またさまざまな天体における衝撃波加速の理解にも資することになります。

超新星残骸からの逃走

 フェルミ加速のプロセスで粒子が加速されるためには、超新星残骸の外部である衝撃波上流においても粒子が十分に散乱され、衝撃波に戻ってこないといけません。衝撃波上流で散乱体として働く乱流磁場は、加速されている粒子自身によってつくられると考えられています。このような非線形性のため、上述の「出口」問題の理論的解決は難しい課題となっています。加速プロセスから抜け、超新星残骸から「逃走」した粒子を観測することが、この問題を理解する上で重要になります。

 私たちはフェルミ衛星により、そのような観測例を初めて見つけることができました。図2に示すように、超新星残骸W44のガンマ線観測において、衝撃波の上流へ「逃走」した高エネルギー粒子が、周囲の巨大分子雲と衝突し、ガンマ線を放射している様子を捉えました。粒子の加速、特にその最大到達エネルギーと粒子の逃走は、いわば表裏一体の関係にあり、フェルミ加速の機構の理解へ向けた新しい情報をガンマ線観測から得ることが可能になってきています。

図2
図2 フェルミ衛星で撮像された超新星残骸W44周辺部のガンマ線放射マップ
W44は強い電波源であり(マゼンタ色の等高線)、ガンマ線放射も強いが、この図では周辺のガンマ線分布を見るためにW44本体からのガンマ線放射は差し引いてある。緑色の等高線は一酸化炭素(CO)ライン電波放射のマップであり、 さしわたし300光年程度の大きさの巨大分子雲がW44を取り囲むようにして存在していることを示す。


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