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宇宙科学の最前線

「ひので」衛星による太陽研究の進展 太陽系科学研究系 准教授 坂尾 太郎

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はじめに

 この原稿が出るころには、JAXAの新型ロケット「イプシロン」が打ち上げられていることと思います。イプシロンは7年ぶりに打ち上げられるJAXAの固体燃料ロケットですが、今から7年前の2006年に先代の固体燃料ロケットM-Vの最終号機で打ち上げられたのが、太陽観測衛星「ひので」です。「ひので」は可視光磁場望遠鏡(SOT)、X線望遠鏡(XRT)、極端紫外線撮像分光装置(EIS)という3台の望遠鏡を搭載し、打上げ以来7年間、私たちが目にしたことのない太陽の新しい姿を見せ続けてくれています。

 ここでは最近の話題から、その一端をご紹介したいと思います。

太陽の極域磁場分布の変遷

 従来の地上からの観測では、太陽の極域には広がったごく弱い磁場しかないと思われてきました。この描像を一新したことは、「ひので」の大きな成果といえましょう。SOTは、0.2秒角の空間分解能を持つ可視光望遠鏡ですが、同時に、太陽表面の磁場の3次元情報(ベクトル磁場情報)を得ることができるという強力な特徴を持ちます。人の頭のてっぺんの様子がほかの人からはよく見えないのと同じように、太陽の極域は地球からは表面にほとんど平行な方向から見ることになるため、そこの様子はあまりよく分かっていませんでした。こんな悪条件をものともせず、SOTはその高い空間分解能を活かして、まるで真上から見下ろしたかのような太陽極域の精密な磁場マップをつくることに成功しました(図1a)。これを見ると、驚くことに極域には、太陽黒点に迫る1000G(ガウス)もの強さを持つ単極性の磁場パッチが至る所に分布していることが分かりました。極域に分布するこれら「強磁場パッチ」からの磁力線は、太陽表面に垂直に近い方向に生えていますが、地上からの観測は、このような視線方向に垂直な磁場成分を精密に測定することは苦手です。高い空間分解能と、ベクトル磁場3成分を精密に計測できるSOTで、初めて極域の磁場分布の様子が明らかになったのでした。

図1
図1 「ひので」が捉える極域磁場の反転過程
a:「ひので」SOTで観測した、太陽の北極点周辺の極性反転の様子。2007年は北緯70度以上の極域の全域にわたってS極性(オレンジ色:図中では負極)の強磁場パッチが分布していたのに対し、2012年にはN極性(青:図中では正極)とS極性の強磁場パッチが入り交じった分布となっていることが分かる。
b:磁束が1018 Mxを超える強磁場パッチを用いてつくった、極域の平均磁場強度の経年変化。青がN極性、オレンジがS極性を表す。


 ところで、太陽の北極域・南極域の磁場の極性は、11年の太陽の活動周期のピークごとに入れ替わることが昔から知られています。例えば、それまで北極域が磁石のS極性を示していたとすると、N極性に反転するのです。今年2013年、太陽は活動周期のピークを迎えるといわれています。上述の単極性の強磁場パッチ(「ひので」打上げ直後は、北極域の磁場パッチの大半はS極性でした)がどのように振る舞って極域全体の極性が反転していくのか、「ひので」は毎月定期的に極域を観測することで、その過程を克明に観測し続けています。北極域では、N極性の磁場パッチが低緯度側から混じり始め、現在は極域全体にわたって両極性がほぼ均等に存在しています(図1a)。

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