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宇宙科学の最前線

次世代赤外線天文衛星SPICAが目指すもの 宇宙物理学研究系 教授 中川 貴雄

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 SPICA(スピカ、Space Infrared Telescope for Cosmology and Astrophysics)は、ビッグバンから生命の発生に至るまでの「宇宙史」の解明を目指して、世界の研究者が協力して推進している国際宇宙天文台計画です。口径3.2mの大型望遠鏡を打ち上げ、それをマイナス267℃という極低温にまで冷却することにより、今までにない圧倒的な高感度観測を実現しようとしています。それにより、太陽系研究から宇宙論まで幅広い分野に大きなインパクトを与えると期待されています。2022年度の打上げを目指して研究開発を進めています。

赤外線観測で宇宙の進化を探る

 宇宙の進化を探るためには、赤外線による観測を欠かすことができません。

 赤外線観測の第一の役割は、星や銀河の誕生を探ることです。生まれたての星(原始星)は、主に赤外線で輝いていると考えられています。図1は、可視光線で見たオリオン座と、「あかり」が赤外線で見たオリオン座との比較です。赤外線では、可視光線とはまったく異なる場所が明るく輝いていることが分かります。赤外線で明るい場所こそが、星が生まれているところであると考えられています。

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図1 可視光線で見たオリオン座(左)と赤外線(あかり)で見たオリオン座(右)
赤外線で明るく輝いている場所では、若い星が活発に生まれていると考えられている。(左写真提供:国立天文台)


 赤外線観測のもう一つの役割は、若いころの宇宙を探ることです。我々の宇宙は約137億年前にビッグバンで始まり、その後、膨張してきました。この膨張の影響を受け、遠方の天体(=若い宇宙に存在した天体)を私たちが観測すると、その波長は本来の波長より長くなります。そのため、若い宇宙に存在している銀河は、もともとは可視光線で光っていたとしても、観測されるエネルギーの大半が赤外線領域に移動してきます。したがって、若いころの宇宙を探るためには、赤外線での観測が最も有効な手段となるのです。

「あかり」からSPICAへ

 赤外線による宇宙観測では、2006年に打ち上げられた「あかり」がとても重要な役割を果たしました。波長9〜160マイクロメートルという広い範囲にわたる6つの波長で全天をサーベイ観測したことが、「あかり」の重要な成果の一つです。その結果、130万個もの天体を含む赤外線カタログが作成されました。実は、このカタログに記載された天体の過半数は、いまだに正体の分からない謎の天体です。いわば今後の研究のための「宝の山」です。

 ただし、個別の天体の性質を調べるということになると、「あかり」の能力には限界があります。それは、搭載された望遠鏡の口径が70cmと、それほど大きくはないからです。

 「あかり」の成果をもとに宇宙進化の理解をさらに発展させることが、SPICAの重要な使命です。SPICAには、「あかり」を超える「高い空間分解能」と「優れた感度」とが要求されます。そこで私たちは、口径3.2 mという大口径望遠鏡をSPICAに搭載することを考えました。「あかり」望遠鏡の口径の約5倍です。それにより図2に示すように、大幅な性能向上が期待されます。私たちは、「あかり」がつくってくれた地図を片手に、SPICAで「宝さがし」の旅に出掛けたいと考えているのです。

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図2 銀河観測における解像度の向上
波長24マイクロメートルにおける「あかり」(左、観測結果)からSPICA(右、シミュレーション画像)への解像度向上


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