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宇宙科学の最前線

太陽系プラズマ科学と天体物理学を橋渡しする土星探査機カッシーニでの成功例 JAXAインターナショナルトップヤングフェロー Adam Masters

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 宇宙空間における観測が始まる以前、惑星間空間がどのようなものであるのかということについて、多くの議論がありました。探査機による「その場」観測により、今では惑星間空間が太陽から噴き出す荷電粒子(プラズマ)の風(太陽風)によって満たされていることが分かっています。その密度は大変低く、また人間の目には見えないものではあるけれども、太陽風は惑星の宇宙環境を変動させるエネルギー源となっています。地球のように固有磁場を持つ惑星は、「磁気圏」というバリアをつくることで、太陽風に惑星本体が直接さらされることがないようになっています。水星、木星、土星、天王星、海王星も磁場を持つ惑星であり、磁気圏を持つところまでは共通しますが、それら磁気圏の様相は惑星ごとに異なっています。

 太陽系におけるプラズマ・ガスの振る舞いを理解しようとするとき、太陽風が惑星磁気圏と相互作用する様相は、一つの大きな研究課題です。地球極域のオーロラ発生や、人工衛星の故障や宇宙飛行士の避難を余儀なくされる宇宙嵐の発生は、この太陽風と地球磁気圏の相互作用の結果です。複雑な振る舞いを示す「宇宙天気」を理解するために、地球周辺の宇宙空間では磁気圏観測衛星が常時観測を続けていますが、宇宙天気の予報は始まったばかりです。一方、今では地球以外の磁気圏の探査も行われるようになってきました。そこから明らかになってきたことは、太陽系におけるプラズマの振る舞いの理解を進め、そして我々が地球周辺の宇宙天気をどこまで理解しているのかを知るためにも、これら惑星磁気圏の観測データの解析を遂行するべきであるということです。

 さて、この記事では、太陽系における宇宙プラズマ研究のもう一つの側面について触れたいと思います。それは、はるか遠方にある、我々が生きているうちに探査機が訪れて「その場」観測するなんてことはありそうにない天体におけるプラズマ現象の理解にも役立つ、ということです。天体物理において重要とされる天体には、低密度の電離ガスで満たされているものがあり、その状態は太陽風で満たされる太陽系空間と類似しています。このことは、太陽系プラズマ科学と天体物理学を横断する研究が挑戦するに値するものであることを示します。その成功例だと自負する成果を二つ、ここで紹介したいと思います。いずれも、土星探査機カッシーニのデータ解析結果からのものです。

 土星探査機カッシーニは、2004年7月に土星周回を開始、2017年9月までの運用継続が決まっています。搭載観測機器のいくつかは、土星周辺宇宙空間「その場」で磁場やプラズマ粒子の観測をするものです(図1)。土星と太陽との距離は、地球と太陽との距離の10倍であり、カッシーニはこれまでで最も外側の惑星を周回する探査機です。はるばる土星の位置まで到達した太陽風の状態は地球でのものとは大きく異なり、地球周辺ではまず観測されることのない現象に「その場」で出くわすこと、そして宇宙プラズマに関する重要な観測的新発見がなされることへの期待が高まります。

図1
図1 土星探査機カッシーニが土星周辺宇宙空間での「その場」観測をする様子
灰色の領域が磁気圏を示す。その前面に、超音速流の太陽風が磁気圏と衝突することで形成される衝撃波が描かれている。土星においては、衝撃波のマッハ数が地球での値よりも大きくなることが、今回の発見に関わる大きなポイントである。(提供:ESA-C.Carreau)


 一つ目の成功例は、カッシーニが土星磁気圏の前面にできる衝撃波(ショック)を横切った際のデータを解析することで得られました。地球の大気においてショックが超音速機の前面にできることはよく知られていますが、実は、超音速の太陽風が惑星の磁気圏にぶつかるときにも、ショックが磁気圏の前面にできることが知られています(訳注:ちなみに、地球磁気圏前面での「その場」観測で実証されるまでは、宇宙プラズマ・ガスにおけるショックの存否は大きな議論の的でした)。

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