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宇宙科学の最前線

観測角度による月の明るさと色の変化 国立環境研究所 環境計測研究センター 環境情報解析研究室 横田 康弘 特別研究員 / 松永 恒雄 室長

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 可視・近赤外光による月の光学観測は、月表面の鉱物組成を調べる上で非常に有用です。ただし、その詳細解析には「測光補正」が必要とされます。本稿では、月周回衛星「かぐや」搭載スペクトルプロファイラ(以下、SP)における測光補正法の研究について紹介します。

可視・近赤外データの測光補正

 我々が自分の目で見ている光(可視光)の波長は0.4〜0.75μm(1μm=1000分の1mm)ですが、それより長い波長の光は赤外線と呼ばれます。中でも可視光より少しだけ長い波長(3μm程度まで)は近赤外線と呼ばれ、月表面にある主要な鉱物は、それぞれこの波長帯で特有の反射スペクトル(広い意味での「色」)を持っています。ですから、月面で反射された太陽光の「色」を詳しく調べることで、表面の物質が分かるのです。観測される反射光の明るさ(光の強度)は、光源(太陽)・月面・観測者の三者がなす角度条件によって変わります。どの波長でも均等に明るさが変化するわけではなく、色の傾向も変わります。異なる角度で観測した複数のデータを相互に比較するためには、角度条件の効果を補正する必要が出てきます。この手順を英語ではphotometric correction や photometric normalizationと呼ぶので、本稿では「測光補正」と呼びましょう。測光補正の目的は、観測データから角度条件の影響を除き、鉱物組成などの情報を残すことです。

 反射光強度と観測角度条件の関係を示すモデル式を、測光関数と呼びます。測光関数の中でも特に、位相角依存性を示す部分を位相関数あるいは位相曲線と呼びます。位相角は、太陽−月面−観測者のなす角度です。位相曲線は表面粒子の光散乱特性や詰まり具合などに影響されます。また、観測波長によっても変わります。位相関数に含まれるいくつもの係数を観測から決めるには、理想的には、月面上の同じ場所に対して何回もの違う角度での観測が必要になります。何らかの仮定なしに各係数を求めるには、少なくとも係数の個数以上の観測が必要です。例えば、この分野でよく知られたHapkeモデルには6つの係数があるので、6回以上の観測が必要となります。しかし、いろいろな制約のある探査機にとっては、全月面を何回も希望通りの条件で観測することは困難です。そこで現実には、幅広い種類の月面に共通して適用できる平均的位相曲線が利用されています。

 月面には大別して、黒っぽい「海」と呼ばれる場所と、白っぽい「高地」があります。海と高地で位相曲線の形が違っていることは、以前から指摘されていました。ですから、少なくとも海と高地の2種類以上には位相曲線も分けて調べる必要があります。

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