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宇宙科学の最前線

X線で探る超新星残骸 理化学研究所 玉川高エネルギー宇宙物理研究室 基礎科学特別研究員 勝田 哲

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超新星と超新星残骸(SNR)

 空に突如明るく輝き出す「超新星」。あたかも新たな星が出現したように見えるためその名が付いたのですが、実際には星の終焉を飾る大爆発です。爆発エネルギーはすさまじく、最大光度は銀河1個分にも匹敵します。長い歴史の中では、地球近傍で起こった故に昼でも見えるほど明るくなった例もあります。歴史書には2世紀から17世紀の間に7例の記録が残っていますが、その中で最も明るかったものは西暦1006年の超新星と考えられており、その光度は満月の4分の1にも達したそうです。世界各地でその観察記録が残っており、日本では藤原定家が、伝聞をもとに『明月記』に記述しています。

 超新星は出現後1年もすれば、ピーク時の1000分の1以下にまで暗くなり、肉眼では見えなくなります。その一方で、爆発に伴う爆風は、10000km/s(1秒間に地球を4分の1周する)ほどのすさまじいスピードで周囲の星間ガスをのみ込みながら広がっていきます。その結果、宇宙空間に極高温プラズマ雲(プラズマとは原子が電子とイオンに分かれた状態)が形成されます。これが「超新星残骸(SNR)」と呼ばれる天体です。肉眼では見えませんが、近年の観測機器の発達により、銀河系内だけでも300個近く見つかっています。

X線でSNRを観測する

 SNRプラズマの典型的な温度は百万〜数千万度です。これほど高温になると、可視光帯域の放射は微弱ですが、X線帯域(可視光の1000分の1の波長の光)で明るく輝きます。そのためSNRは可視光ではあまり目立たない天体ですが、灼熱のX線宇宙においては大きな存在感を示しています。

 X線は大気を透過しないため、天体からのX線を観測するには、人工衛星や気球などを利用します。現在軌道上にあるX線天文衛星は、米国の「Chandra」、欧州の「XMM-Newton」、日本の「すざく」の3機で、いずれも焦点面検出器として非分散系のX線CCDを使用しているため撮像分光が可能です。この観測システムは日本が1993年に打ち上げたX線天文衛星「あすか」以降標準的に利用されており、撮像分光を武器にSNRの観測的研究を急速に進展させています。本稿では、その一部をご紹介します。

SNRの運動学:爆風が広がる様子を直接捉える

 新星爆発に伴う爆風はすさまじいスピードで周囲に広がりますが、その様子を直接捉えるのは難しいことです。というのも、距離が遠いため(最も近くのSNRでも1000光年ほど離れている)、地球から見るとその運動は1年当たりせいぜい1秒角にしかならないからです。そこで、膨張率の測定は、これまで角度分解能の優れた可視光や電波領域のみで行われてきました。しかし、一般に可視光や電波ではSNRのごく一部の領域しか見えないといった欠点もあり、SNRの隅々から強く放射されるX線での測定が待ち望まれていました。過去にはドイツの「ROSAT」と米国の「Einstein」による測定はありましたが、両衛星の空間分解能(5秒角)を考えれば、それは極めてチャレンジングな試みだったと言わざるを得ません。

 この状況のもと、空間分解能0.5秒角を誇る「Chandra」と、それには劣るものの10秒角程度と優れた視力を持つ「XMM-Newton」が1999年に、それぞれ米国と欧州によって打ち上げられました。これらの衛星が打ち上げられて10年以上たった今、打上げ初期に撮られた画像とその後の画像の比較から、SNRが膨張する様子を精密に測定することが可能になってきました。私たち(筆者を中心とする大阪大学、宮崎大学、NASA Goddard Space Flight Centerなどの研究グループ)は、世界に先駆けて近傍のSNRの膨張率を測定することに成功しました。

 初めに手掛けたのはベラジュニアSNRでした。このSNRは1998年に「ROSAT」によって発見され、それと同時にガンマ線天文衛星「コンプトン」による観測で44Ti(チタン44)の崩壊に伴うガンマ線(半減期60年)の検出が報告されました。SNRからのガンマ線の検出はカシオペヤAに続いて2例目であり、多くの研究者から高い関心を集めました。観測されたガンマ線強度から44Ti量が見積もられ、元素合成モデルから予測される爆発時の量と比較することによって、SNRの年齢が680年と推定されました。ところが、このSNRに付随すると考えられる中性子星の年齢は数千年と見積もられ、その矛盾が疑問として残されていました。私たちは、「XMM-Newton」によるベラジュニアの北西端の4回(2001、2003、2005、2007年)の画像データを解析することにより、その膨張率が0.84±0.23秒角/年であることを明らかにしました。さらに、SNRの膨張率が年齢とともに低下する関係を利用して、その年齢が1700〜4300年であると推定しました。この年齢とすると、44Tiの爆発時の生成量が桁違いに大きくなり非現実的であることから、ガンマ線の検出が見誤りであったという重要な結論を導くことができました。実際、ガンマ線データの再解析では有意な検出が認められていません。

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