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しかし、パルサー風の信号には、観測を可能にする重要な性質があります。それは、パルサー風の信号がパルス的に変動するであろうということです。これは、かにパルサーの場合、パルサー磁気圏でつくられるパルス化したターゲット光子場のフラックスが支配的である、という事実によっています。図2に示すように、ターゲット光子場の時間変動は、パルサー風のガンマ線信号においても維持されるはずです。このことから、パルサー風からの放射を、星雲内でつくられるより明るいほかの放射から区別することが可能となります。さらに、かにパルサーのスペクトルと放射強度は容易に測定できるので、観測されるパルサー風の信号は2つのパラメータ、すなわちパルサー風形成場所までの距離とそのバルクローレンツ因子 ※5 にのみ依存します(図2)。重要なことは、パルサー風からの放射スペクトルの形が非常にくっきりと現れたため、磁気圏放射から明確に識別できることです。 ![]()
最近、かにパルサーからのパルス状の高エネルギーガンマ線が、2つの大気チェレンコフ望遠鏡 ※6 の研究グループ、MAGICおよびVeritasによって報告されました。そのスペクトルは、パルサー風によってつくられた信号であると解釈することが自然で(図3)、パルサー風の性質をかつてない精密さで測定しています。驚いたことに、その結果は、25年以上も前に示唆された「理想的な」モデルにパルサー風の性質が完全に一致するだけでなく、パルサー風がこのモデルが予測していた状態にほぼ瞬間的に(星雲の大きさの10億分の1に等しい距離で)収束することを示唆しています。これは、非常に複雑な現象が最も単純なモデル理論に期待以上に当てはまったという、唯一の例です。 ![]()
(ドミトリー・カングリヤン/日本語訳監修:小高裕和)
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