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宇宙科学の最前線

宇宙最果ての大爆発をとらえる フェルミ衛星で迫るガンマ線バーストの謎 高エネルギー天文学研究系 宇宙航空プロジェクト研究員 大野雅功

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最も遠く、最も激しい爆発

 現在、人類がとらえた最も宇宙の遠方にある天体は、「ガンマ線バースト」です。ガンマ線バーストは、可視光やX線よりエネルギーの高い電磁波であるガンマ線で数ミリ秒から数百秒程度だけ突然明るく輝く現象です。

 近年の観測により、ガンマ線バーストの発生源は、宇宙論的遠方における大質量星の崩壊もしくは中性子星やブラックホール同士の融合時に生じた超相対論的な速度を持ったプラズマの流れ(ジェット)であり、その放射を真正面から見たものであることが分かってきました。ガンマ線バーストは現在人類が観測できる中で最も遠方の宇宙で明るく輝いているため、宇宙の初期の姿を照らし出すサーチライトとしても注目を集めています。しかし、どのようにしてガンマ線で輝いているのか、超相対論的ジェットの発生機構は何か、などの肝心なところがまだ分かっていません。

 本記事では、ガンマ線バーストに残された謎に迫る鍵である高エネルギーガンマ線観測について、2008年6月に打ち上がった日米欧国際協力ミッションであるフェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡(フェルミ衛星)によって得られた最新の成果を紹介します。


ガンマ線放射機構は何か?

 ガンマ線バーストの放射機構はいまだ大きな謎ですが、1000〜1000万電子ボルト※のエネルギー(本記事では便宜的に、低エネルギーガンマ線と呼ぶことにします)では、ジェットで加速された電子が磁場中でらせん運動をすることにより生じるシンクロトロン放射により輝いているとする説が有力です。しかし、フェルミ衛星の先代に当たるコンプトン衛星のイグレット検出器によって検出された1億電子ボルト以上のガンマ線(高エネルギーガンマ線と呼ぶことにします)の振る舞いは、シンクロトロン放射では説明のつかないものがありました。高エネルギーガンマ線のスペクトルはシンクロトロン放射で見られる折れ曲がったベキ関数には従わず、異なる「別のベキ関数」で表されていました。また、低エネルギーガンマ線の継続時間が数十秒程度であるのに対して、高エネルギーガンマ線ではもっと長く輝いており、90分にもわたって観測されることもありました。

 この高エネルギーガンマ線は、シンクロトロン放射で発生した光子が周辺の高エネルギー電子と相互作用して生じる逆コンプトン散乱であるとか、加速された陽子とガンマ線が反応して生じた電子による放射であるともいわれました。いずれにしても、スペクトル的にも時間的にもシンクロトロン放射とは異なる振る舞いを示す高エネルギーガンマ線は、ガンマ線バーストの放射機構を探る上で重要な鍵です。特に、加速された陽子からの放射であるとすると、ガンマ線バーストから宇宙線の起源に大きく迫ることができる可能性が出てきます。

 しかし、コンプトン衛星による観測では高エネルギーガンマ線はわずか数例しか検出されておらず、十分な議論が行えませんでした。そのような中、コンプトン衛星の後継機として2008年6月、フェルミ衛星が打ち上げられました。


図1
図1 フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡(フェルミ衛星)
左は、打上げ前、ロケットに格納されるフェルミ衛星。主検出器であるLarge Area Telescope(LAT)は入射ガンマ線(赤線)を電子・陽電子(青線)に変換し、その飛跡をシリコンストリップ検出器でとらえ、ガンマ線のエネルギーと到来方向を測定する。(左©NASA/Jim Grossmann、右 ©NASA)。

 図1に示したように、フェルミ衛星の主検出器であるLarge Area Telescope(LAT)は、入射した高エネルギーガンマ線を電子・陽電子対生成反応で電子・陽電子に変換して、その飛跡をシリコンストリップという半導体検出器で追うことで、1000万〜1000億電子ボルトという広帯域でガンマ線の到来方向やエネルギーを測定できます。ほかにも1万〜1000万電子ボルトの低エネルギーガンマ線をとらえるGamma-ray Burst Monitor(GBM)を搭載しており、7桁にも及ぶエネルギー範囲で、多くのガンマ線バーストからのガンマ線をとらえることができます。

 フェルミ衛星の開発には、日本から広島大学を中心にJAXA宇宙科学研究本部や東京工業大学などが貢献してきました。特に、心臓部ともいえるシリコンストリップ検出器は広島大と浜松ホトニクスの協力で設計開発を行い、その性能品質が認められ、あとの約1万枚にも及ぶセンサーの製造管理を主導しました。さらに、気球実験や組み立て時の全数検査、打上げ後の運用・モニター、データ解析にも、日本グループは大きく貢献しています。


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