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宇宙科学の最前線

GEOTAIL衛星で探るオーロラ発生の謎 名古屋大学 太陽地球環境研究所 研究員 宮下幸長

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爆発的なオーロラ〜サブストームとは

 夜空を美しく彩る神秘的なオーロラは、北極や南極の超高層大気中で発生する現象です。オーロラは、しばしば、真夜中付近で突然明るくなり、激しく動きながら爆発的に広がることがあります。この激しいオーロラの活動は、オーロラブレークアップ(オーロラ爆発)と呼ばれています。このとき、超高層大気中に数十万から数百万アンペアもの非常に大きな電流が流れるため、地上では地磁気の乱れが生じます。また、磁気圏と呼ばれる地球の持つ磁気の勢力範囲(図1)でも、電磁気や、電気を帯びた気体であるプラズマの激しい変動が起こります。

図1
図1 地球磁気圏を夕方側から見た子午面断面図
矢印はエネルギーの流れを示している。(上出洋介氏より提供)


 これらの変動のもとになるエネルギーは太陽にあり、太陽風というプラズマの流れによって、地球周辺の宇宙空間まで運ばれてきます。太陽風が運んできたエネルギーの一部は、磁気圏の中に入り込んできます。このエネルギーは、磁気圏尾部と呼ばれる、磁気圏がしっぽのように長く引き伸ばされた夜側(太陽と反対側)の領域に、いったん蓄えられます。ある程度たまり、磁気圏尾部内で何らかの現象が引き起こされると、たまっていたエネルギーは爆発的に解放されます。その結果、磁気圏内で激しい変動が起き、また一部のエネルギーは地球の方にもやって来て、オーロラ爆発を引き起こします。この一連のエネルギー解放の現象をサブストーム(オーロラ嵐)といい、平均して1日に数回発生します。オーロラ爆発は、サブストームが発生したことを知る重要な手掛かりになります。何がサブストームのエネルギー解放のきっかけとなるかについては、いまだはっきりした決着はついておらず、磁気圏研究の大問題になっています。

 地球周辺の宇宙空間で見られる激しい変動はほかにもありますが、サブストームはその代表的なものです。ここで、サブストームの研究の意義について述べておきたいと思います。現代社会では、人類の宇宙空間の利用が不可欠になっています。ところが、太陽活動の影響による激しい変動が生じると、宇宙空間に滞在する人工衛星の損壊、宇宙飛行士の被ばく、通信障害、送電システムの損傷や停電が起きることがあります。このような被害は、人類の活動にも経済的にも大きな打撃です。この打撃を最小限にとどめるために、宇宙空間の変動である宇宙天気の基礎研究と、その変動を予報する宇宙天気予報の研究が重要になってきます。

 また、サブストームは、宇宙空間で起きる爆発現象の典型例であるといえます。地球と環境が異なりますが、水星、木星、土星などの惑星の磁気圏、太陽フレア、宇宙にあるほかの天体でも、サブストームと似た電磁気やプラズマの激しい変動が普遍的に見られます。サブストームの解明は、宇宙で起きる同様の爆発現象の解明や普遍的な宇宙プラズマ現象の理解にもつながります。このように、宇宙天気と宇宙プラズマ物理の観点から、サブストームの研究は重要です。

 次に、サブストームを引き起こすきっかけだと考えられている現象について説明し、その後、私たちの最近の研究成果を紹介します。


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