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宇宙科学の最前線

「すざく」がとらえた宇宙で一番熱いガス 東京理科大学 理学部第一部 物理学科 助教 太田直美

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はじめに

 銀河団とは、その名の通り多数の銀河が群れをなす、宇宙で最も大きな天体です。この銀河団を目で見える光で見ると、銀河がお互いの重力で引き合って寄り集まっているように見えるだけですが、X線で観測すると数千万度から1億度近い高温のガスが全体をすっぽりと覆っている様子が浮かび上がります(図1)。このような温度の高いガスを一つの領域に閉じ込めておくためには、銀河団を構成する銀河の重力だけではとても足りず、いまだに正体の分からないダークマターという物質が大量に潜んでいるといわれています。とはいっても銀河団は珍しい天体ではなく、今までに見つかっているだけでも1万個を超える銀河団があります。太陽系を含む天の川銀河も、おとめ座を中心とする銀河団の一部といわれていますから、私たちも紛れもなく銀河団の住人なのです。  さて、銀河団のような巨大な天体がいつ生まれ、どのように成長してきたのでしょう? 我々は遠い宇宙を観測することで、昔の宇宙の姿を知ることができます。ですから、遠い銀河団を詳しく観測することで、銀河団の進化の歴史に迫れないかと考えたのです。

図1
図1 RXJ1347銀河団
左:ハッブル宇宙望遠鏡による可視光画像(STScI提供)
右:チャンドラ衛星によるX線画像
いずれも図の一辺は110秒角で、約200万光年に対応する。


銀河団の中に宇宙一熱いガスを確認

 そこで我々は、RXJ1347銀河団という遠方の天体に注目しました。この銀河団は、地球から約50億光年の距離にあります。全体としておよそ500万光年の広がりを持ち、特にX線の波長では全天で最も明るい銀河団の一つとしても知られます。遠方にありながら格段に明るいので、天体内部でどのようにガスやダークマターが分布しているかを探るのに適しています。
 X線天文衛星「すざく」の打上げ以前には、ヨーロッパのローサット衛星、日本の「あすか」衛星、アメリカのチャンドラ衛星などを使って観測が行われてきました。1990年代後半には、この銀河団の中心に、周辺よりも冷えたガスが存在していることが報告されました。一般に、銀河団は中心に近づくほどガスの密度が高くなる傾向があります。そのような領域では放射冷却がより起こりやすく、時間がたてばたつほど温度が下がっていきます。その様子から、これまではどちらかというと、RXJ1347銀河団は誕生から十分時間がたって進化の進んだおとなしい天体だと思われていました。ところが、さらにX線や電波で観測を進めていくうちに、次のような新事実が浮き彫りになったのです。
 我々は2005年に打ち上げられた「すざく」を使って、2006年6月30日と7月15日の2回にわたり、RXJ1347銀河団をじっくりと観測しました。そして、その観測データを詳細に解析し、RXJ1347銀河団の中に、なんと3億度にも上る極めて高温のガスが存在しているという確かな証拠を得ることに成功しました。


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