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宇宙科学の最前線

衛星構造の高精度化

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 光学望遠鏡を使う衛星の場合

 電波のアンテナであれば鏡面誤差は0.1mmから数mmですが、波長の短い赤外線(波長800nm〜1mm)や可視光(波長380〜780nm)を使う望遠鏡であれば、鏡面精度要求は一気にマイクロメートルオーダー、ナノメートルオーダーとなります。材料にはガラスが使われて、鏡面誤差が波長の1/20以下となるよう研磨されます。口径を大きくしたいのは観測者の共通の希望であることを最初に書きましたが、この鏡を大きくすると地上では鏡自身の重量により変形してしまいます。地上の大型望遠鏡では、望遠鏡の向きによって異なる変形を補正しながら運用しています。一方、宇宙で使う望遠鏡であれば重力変形はなくなるので、地上で製造・研磨するときに無重力環境で使うことを考慮しなければなりません。赤外線観測衛星SPICA(2017年ごろ打上げ予定)には、ロケットのフェアリングに入るぎりぎりの大きさである3.5m径の望遠鏡を搭載しています(衛星が望遠鏡に搭載されているといった方が実感)。
 SPICAの赤外線望遠鏡は遠くの星を赤外線で観測するので、望遠鏡自身が赤外線を出してはなりません。そのため、望遠鏡を極低温(4.5K)に冷却する必要があります。望遠鏡の製造と研磨は常温で行い、常温で打ち上げて宇宙空間で時間をかけて複数の機械式冷凍機で絶対0度近くに冷やすという使い方をします。その結果、300度近い温度変化でも構造破壊はおろか、熱歪で変形しないような鏡をつくらなければならないという過酷な製造・運用条件となります。材料には熱膨張率の小さいSiC(炭化ケイ素)などが考えられていますが、材料だけでなく、鏡の支持方法も開発課題です。


図3
図3 赤外線観測衛星SPICA

打ち上がってから

さて、このような課題を克服し、ロケット打上げ環境にも耐えて、めでたく宇宙空間に行っても、軌道上の衛星は何らかの微小振動(擾乱という)環境にあります。擾乱源としてはジャイロ、制御用ホイール、冷凍機、地球を1周するときに太陽電池パドルを太陽方向に追随させるモーター、それに観測機器自身を動かすモーターなどがあります。このような擾乱力・擾乱トルクが衛星構造を伝わり、ミッション機器の指向性能に影響を及ぼします。特に構造部分を伝達するとき、振動の大きさが構造共振により増幅されるのですが、この正確な予測と抑制が困難です。


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