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宇宙科学の最前線

宇宙天気の科学

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太陽の嵐

 一瞬にして数十を超える人工衛星が、太陽の発する放射線によって機能停止あるいは機能喪失に遭いました。2003年10月に発生した史上最大規模の太陽フレアの影響です。その後の復旧措置で、多くの衛星は正常に戻りましたが、米国の気象衛星の観測機器をはじめ、いくつかの計測装置や実験機器は壊れました。
 太陽フレアに伴って発生する太陽放射線(太陽宇宙線)の影響は、1990年代の中ごろから、人工衛星に現れ始めています。極度に集積され高性能になった宇宙部品が、太陽放射線の影響で壊れました。永久故障した人工衛星も多くあります。
 太陽フレアは、発達した黒点群を中心に、太陽表面の彩層からコロナ領域にかけて発生する、大規模なエネルギー解放現象(爆発現象)です。光や電波で太陽フレアの発生はいち早く察知できますが、その後わずかな時間を経て、太陽放射線が地球近傍の人工衛星に押し寄せてきます。
 太陽物理の研究成果を応用して、いつ、どこで、どの程度、太陽が危険な状態になるかを知ることは、安全な宇宙開発を行う上で必須です。太陽放射線は、宇宙飛行士たちにも影響を及ぼすことが懸念されています。放射線被曝に遭わないようにすることが重要です。
 太陽からのX線は、地球の電離層にも悪い影響を与えます。具体的には、高度80km付近の大気を電離させて、D層と呼ばれる新しい電離層をつくります。これは太陽の光が当たる日中(昼間側)に限られていますが、その領域を通過する電波(特に短波)を強く吸収してしまいます。人工衛星からの電波が地上にうまく届かないような状況も、時には発生します。


宇宙の天気

 宇宙は、何もない真空の世界と思われがちですが、決してそうではありません。例えば地球の超高層大気です。地上500kmといえば、国際宇宙ステーションが飛ぶ高さの少し上ですが、ここには10−8パスカルの大気があります。地上1000kmに行くと10−9パスカルになりますが、それ以上の高さでは、今度は電離気体であるプラズマが主役になります。
 地球周辺の宇宙空間は、プラズマと地球の磁場が共存する空間です。いろいろな構造が形成されていて、非常に激しくエネルギーをやりとりしています。地球の夜側にエネルギーのたまる場所ができています。また、静止軌道より少し地球に近い領域にも、地球をぐるりと取り巻く形で、エネルギーのたまる場所ができています。
 太陽に目を転じると、日食時にきれいに見えるコロナのガスの一部は、太陽の重力を振り切って、太陽系空間に飛び出していきます。これは太陽から吹き出す風という意味で、太陽風と呼んでいます。太陽風は、平均で3日かかって地球に到達します。地球周辺の空間は、地球磁場とプラズマで囲まれていて、磁気圏と呼ばれていますが、太陽風は磁気圏の磁場やプラズマと相互作用して、エネルギーや運動量を磁気圏に絶えず注入しています。日本など世界の大きな国が毎日使っているのとほぼ同じ量のエネルギーを、磁気圏は太陽風から、いつももらっています。
 地球の気象現象に目をやると、そこでは時々、低気圧や台風が発生します。それは赤道域にたまったエネルギーを冷たい極域に移す仕組みです。磁気圏でも同じように、蓄え過ぎたエネルギーを時々解放しています。その現れの一つが、オーロラ嵐です。そして、磁気嵐と呼ばれる地球の磁場が大きく減少する嵐も、時々起こります。



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図1 「ひので」衛星が観測した太陽コロナ


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