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宇宙科学の最前線

宇宙(そら)に航路を拓く

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 深宇宙探査においては、1回の打上げで複数の探査機を別々の目標天体に送るのは、容易ではありません。目標天体が異なれば、探査機の打上げ時期も、探査機を投入する軌道も異なるからです。昨今、当たり前のように「相乗り打上げ」が行われる地球周回の衛星と比べれば、これは深宇宙探査機に課された大きな制約といえます。図3は、この制約を緩和するために考えた軌道です。4機の探査機は同時に打ち上げられ、いったん、同一の軌道に投入されます。そして1年後に地球に接近するときのスイングバイ条件を個別に設定することで、スイングバイ後に4機の探査機を別々の軌道に投入します。4機の探査機は、1年のうちに別々の小惑星に次々とフライバイします。この軌道のポイントは、最初は同じ軌道にいる複数の探査機を別々の軌道に投入することにあります。地球スイングバイを用いることで、推進薬をほとんど消費することなしに、これを実現しています。もちろん、1回の地球スイングバイで探査機をばらまける範囲にも限界はありますから、目標天体を自由に選べるわけではありませんが、打上げ時に探査機を別々の軌道に投入するのと比べれば、選択肢はずっと広がります。

図3

図3 1回の打上げで4機の探査機を別々の小惑星に送り込む軌道

 さて、「スイングバイ」という切り口で、いろいろな軌道を紹介してきました。限られた誌面の中で、宇宙科学の最前線を正確に、分かりやすく伝えるのは難しいことですが、「自由がない」などと言いながら、結構楽しんでいる様子が伝わればと思います。また、「描く」「創る」という言葉を用いてはいますが、軌道設計がひらめきに基づいた芸術ではなく、緻密な論理と物理に基づいた「技術」であることが伝わればと思います。

おわりに

 人類はこれまでたくさんの深宇宙探査機を打ち上げてきました。どのミッションでも、軌道設計・ミッション設計は重要な役割を果たしてきました。遠くない将来、もっともっとたくさんの探査機が、あるいは人を乗せた宇宙船が、宇宙を往来することになるでしょう。その時代、宇宙船が航行する軌道は「航路」と呼ばれるようになるでしょう。宇宙(そら)に航路を拓く、それが私の仕事です。

(かわかつ・やすひろ)

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