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宇宙科学の最前線

割れても割れないセラミックス 繊維強化セラミックス、繊維強化炭素複合材料

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はじめに

 硬くてもろいという認識が一般的なセラミックスや炭(炭素)を、くぎを打っても壊れないようにした、信頼性のある繊維強化複合材料の研究を実施しています。くぎを打てるということは、材料の内部の損傷を許容できることを意味します。セラミックスや炭素はもろく、材料の内部の損傷を許容することができません。セラミックスやガラスのような脆性破壊を起こす材料で構成される構造体では、大きな亀裂を含んでいるものや表面に傷のあるものは、低い強度になってしまうのです。一方、金属材料のような損傷許容性のある材料では、一定の大きさまでの表面の傷や内部の欠陥は、構造体の強度には影響しません。
 以下では、セラミックスや炭素に損傷許容性を持たせる手法について解説します。


損傷許容性を付与する方法

 セラミックスや炭素は、金属材料では実現不可能な耐熱性、耐薬品性などの優れた特性を持ちます。また、これらの優れた特性は、材料の原子レベルでの微細構造や原子の結合状態などに起因しています。しかし、原子の結合力が強く、変形しにくいということは、破壊様式は脆性的になります。では、炭化ケイ素(SiC)の複合材料を例に取り、セラミックスに損傷許容性を付与する手法について解説します。
 SiCは、ダイヤモンド、炭化ホウ素に次ぐ硬さを持つ共有結合性の結晶であり、常温では塑性変形しません。SiC単体のいわゆるセラミックスでは、1500℃以上でも安定であり、切削工具などに広く使用されています。SiCの安定性を用いて損傷許容性を持たせるためには、セラミックスの内部や表面に破壊が発生しても全体が破壊しないようにしなければなりません。そのためには、破壊する単位を小さくして、束ねたもので構造を形成することが有効です。その結果、強度ばらつきが大きいセラミックスでも、全体では強度ばらつきの小さい信頼性のある材料になります。また、それぞれの破壊ユニットを小さくすることにより、それぞれの内部、表面に存在する亀裂や欠陥が小さくなり、セラミックスの強度が大きくなる効果も併せ持ちます。これまでに、日本独自の技術により、直径数μmから数十μmの高強度で破断伸びの大きいSiCや炭素の繊維が開発されています。これらの繊維を利用することで、繊維の一本一本は脆性的に破壊するものの、繊維を数千本から数万本束ねた繊維束は脆性的な破壊をしなくなります。
 しかし繊維では、ロープや織物はつくれますが、構造体を形成することはできません。構造体とするためには織物をセラミックスで固めて、複合材料にする必要があります。繊維の織物をセラミックスで固める方法には、(1)ガスからの反応による方法、(2)SiやCを骨格に持つ樹脂を高温で分解する方法、(3)金属(Si)を溶融して、内部の炭素と反応させる手法があります。これらの手法および組み合わせを用いて複合材料にすることにより、損傷許容性を持つセラミックスになります。
 図1は、繊維強化セラミックスとセラミックスの変形、破壊様式について示したものです。図の縦軸は単位面積当たりに作用する引張り力(応力)で、横軸は無次元化した変形量(ひずみ)です。二つの材料を比較すると、セラミックスは弾性率、強度は大きいが、破壊は脆性的であり、破壊ひずみも小さくなります。繊維強化セラミックスでは、弾性率、強度はセラミックスには及びませんが、破壊ひずみが大きく、破壊までに小さな亀裂が材料内部に累積する破壊様式となります。繊維強化セラミックスでは、繊維を固めているセラミックス(マトリックス)はセラミックスと同様の脆性的な破壊挙動を示しますが、その亀裂が繊維を切らないように材料を設計し、損傷許容性を確保します。その結果、破断面は図2に示すように、ほうきの先のような繊維が突き出した状態になります。材料設計ができていない場合は、セラミックス繊維が周囲のセラミックスと一緒に破壊してしまい、破断面が平坦なものになり、破壊が脆性的になります。繊維を破壊しないようにマトリックスとの接着性を弱める、繊維―マトリックスの界面の設計が、セラミックス複合材料の性能を決定します。最も損傷許容性を持つセラミックス複合材料では、切り欠きを入れた試験片の強度が、切り欠きのない部分のみで考えた強度と同等になるという、切り欠き敏感性がまったくない材料を作製することも可能です。



図1

図1 セラミックスおよび繊維強化セラミックスの破壊様式の概念図


図2

図2 2000℃で破壊した炭素繊維強化炭素の破断面繊維が突き出ているのが分かる。


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