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宇宙科学の最前線

超新星残骸で加速される宇宙線

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宇宙線の起源

 宇宙の彼方から地球にやってくる謎の高エネルギー粒子の存在に、人類が気付いたのは、およそ100年前のことでした。「宇宙線」と呼ばれる、宇宙を飛び交う非常にエネルギーの高い荷電粒子(主に陽子)です。近年の電波、X線、ガンマ線天文学の発展により、宇宙線のような高エネルギー粒子が宇宙で果たしている役割の重要さに、私たち宇宙物理学者は気付き始めています。と同時に、その理解の難しさに手を焼いている、と言わなくてはいけないかもしれません。

 宇宙線発見以来の伝統的な課題が、地球に到達する宇宙線がどこでどのように生成されているのか、という宇宙線起源の問題です。特に銀河系内に起源をもつ宇宙線(銀河宇宙線)は、超新星残骸の衝撃波でほぼ光速に加速され、極めて高いエネルギーの粒子となって、生成されるという考えが有力な説となっています。この問題を解決する上で鍵となる観測結果が、日米のX線天文衛星「すざく」「チャンドラ」を用いた、若い超新星残骸のX線観測によって得られました。本記事で、その最新の成果を報告します。


超新星残骸

 宇宙にある重い星は必ず壮絶な最期、重力崩壊による超新星爆発を迎える運命にあります。超新星爆発によって、中心にはブラックホールや中性子星といったコンパクト天体が残る一方、星の外層は爆風となって星間空間を超音速で膨張します(実はそのような「イジェクタ」と呼ばれる超新星の放出物こそが、地球上の万物の素となっています)。イジェクタの爆風は、超音速ジェット機のように、星間空間に衝撃波をつくります(外部衝撃波)。そして爆風の運動エネルギーが熱エネルギーに転化して、星間ガスが100万度から1000万度に熱せられます。一方、イジェクタ自身の内部にも衝撃波が発生し(内部衝撃波)、やはり1000万度程度に熱せられます(図1)。高温となったガスはX線を放射し、「超新星残骸」として輝くことになります。

図1
図1 若い超新星残骸の構造の模式図。X線を出す高温プラズマは2層の殻状になっている。外側は外部衝撃波で加熱された星間ガスで、内側は内部衝撃波で加熱されたイジェクタ(超新星の放出物)。衝撃波で「加熱」された電子は熱制動放射(X線)を出し、高エネルギーに「加速」されたごく一部の電子が電波からX線にわたるシンクロトロン光を出す。


 現在知られている、銀河系で最も若い超新星残骸は、約340年前に爆発した超新星の残骸カシオペアAです。図2左に「チャンドラ」X線衛星(NASA)の観測によるカシオペアAの現在の姿を示しました。「チャンドラ」は1秒角を切る非常に優れた空間分解能のX線反射望遠鏡を持ち、美しい残骸の様子が見事に撮像されています。主に内部衝撃波で加熱されたイジェクタがX線を放っています。X線画像の赤色と青色は、星内部の核融合反応や爆発時に合成されたケイ素と鉄による輝線をそれぞれトレースしています。



図2
図2 左:超新星残骸カシオペアAの「チャンドラ」衛星によるX線イメージ(赤:ケイ素輝線1.7−2.2keV、緑:連続成分4−6keV、青:鉄輝線6.4−6.9keV)。
右:「すざく」衛星によって得られたカシオペアA全体の広帯域X線スペクトル。10keV以上に「非熱成分」があり、私たちの解析からシンクロトロン光(図1参照)であることが分かった。


 X線天文衛星「すざく」は、X線CCDカメラ「XIS」と硬X線検出器「HXD」の2種類の検出器をもっています。図2右に「すざく」によって得られたカシオペアAの広帯域X線スペクトル、つまりX線エネルギーの分布を示します。このように、軟X線から硬X線にわたる広いエネルギー帯域での高感度観測を可能にするのが「すざく」です。イジェクタのケイ素、硫黄、鉄といった元素による輝線のほか、熱電子による熱制動放射(高速の熱電子が原子核のクーロン力を受けて放射するX線)による連続X線が、スペクトルを構成します。さらに第3の成分、いわゆる「非熱X線」が高エネルギー側に現れています。この成分が、宇宙線の謎を解く鍵なのです。



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