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フォトルミネッセンスを用いた太陽電池用半導体基板の品質評価〜1秒以下で微細な欠陥分布をとらえる〜

宇宙科学の最前線

フォトルミネッセンスを用いた太陽電池用半導体基板の品質評価〜1秒以下で微細な欠陥分布をとらえる〜

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活況な太陽電池市場

 近年、環境・エネルギー問題への関心の高まりから、持続可能なクリーンエネルギーとして太陽光発電が注目されています。そのような中で、太陽電池の生産量は毎年30%以上の急成長を継続しており、Si(シリコン)原料が不足するような事態にまで至っています。
 地上用としては安価で光電変換効率も高めの多結晶Si太陽電池が主流で、全体の6割以上を占めています。従来の単結晶Si太陽電池と合わせると、結晶Si系太陽電池は9割を占めます。残りは薄膜系や化合物系の太陽電池で、割合は少ないですが次世代の太陽電池の担い手として重要です。特に、高効率のGaAs(ヒ化ガリウム)系多接合太陽電池や放射線耐性の極めて高いCuInSe
2(CIS:セレン化銅インジウム)系太陽電池は宇宙用として最適であり、最近の衛星に搭載され始めています。

渇望される品質評価技術

 太陽電池需要の爆発的な増加に伴い、太陽電池の高品質化が急務となっています。太陽電池の効率が上がればそれだけ設置面積は小さくなるため、低コスト化し原料も少なくて済みます。また、宇宙用としてもモジュールの重量を削減することができるので、効率の改善が非常に重要です。
 現在の太陽電池の効率は理論限界にはまだ到達しておらず、さまざまな改善の余地があります。太陽電池の高品質化のためには、品質を劣化させている要因がどのようなもので、どこにあるのか、それがどの段階で発生するのかを検査する技術が必要です。つまり、インゴットやブロックの状態から基板、セル、モジュールに至るまで、各製造工程における品質をミクロンオーダーの細密さをもって評価することが不可欠です。また、大量の試料を評価するためには、秒オーダーの検査速度が要求されます。さらに、評価が試料の特性に影響することや、生産性を損ねることを避けるため、評価法は非破壊・非接触かつ特別な前処理を必要としないことが要求されます。
 太陽電池の評価は主に電流電圧特性などの電気特性で評価されていますが、太陽電池セル化したものでしか評価できず、セルのどの部分が悪いのかといった空間分解能を上げた評価は不可能でした。セル化前の基板を評価する手法としてマイクロ波光導電減衰法や表面光起電圧法などがありますが、測定時間が1枚数十分と長く、空間分解能も数mm程度と不十分でした。
 このように、従来法は現在の太陽電池産業の要求を満たしておらず、革新的な評価技術が渇望されていました。そこで我々は、太陽電池の高品質化に貢献すべく、新しい評価技術の開発を進めてきました。


フォトルミネッセンス・イメージング法の開発

 我々の研究室では、「フォトルミネッセンス(PL)」を利用した半導体の品質評価を行っています。半導体に禁制帯幅以上のエネルギーを持つ光を照射すると、光の吸収に伴い、電子―正孔対が過剰に生成されます。これらが再結合する際に発生する光をPLといいます。蛍光剤にブラックライトを当てると特有の光を発するのをご存知かと思いますが、これも身近なPLの例です。PL強度は半導体の品質をストレートに反映するため、PL強度の試料面内分布を見ることで、半導体の品質を2次元的に高分解能で評価することができます。この方法は光を当て、出てきた光を検出するだけですから、非破壊・非接触という利点を持ちます。また、特別な前処理を必要とせず、基板の状態でもセルの状態でも品質を評価することができます。
 これまでは「PLマッピング法」と称する手法で、レーザーを試料に当て、試料をXY方向に走査して1点1点PL強度を測定して、PL強度分布を得ていました。しかしそれでは測定に時間がかかり過ぎるため、新たに「PLイメージング法」を開発しました。この手法は、一様な光を試料全面に照射し、発生したPL像の写真を撮るという非常にシンプルなものです。光源には高出力LEDアレイを用い、近赤外領域に感度を持つ冷却CCDカメラで写真を撮ります。
 図1に装置の外観を示します。コンパクトで可搬式のため、太陽電池製造ラインへの組み込みも問題ありません。本装置の開発により、100万画素の高空間分解能と1枚当たり1秒以下の測定時間で、表面処理済みSi基板や太陽電池の品質を評価できるようになりました。



図1
図1 PLイメージング装置とそれを組み立てた大学院生の杉本広紀君


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