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宇宙科学の最前線

ジオスペース最高エネルギー 粒子誕生の謎を追う 放射線帯の研究

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 地球周辺の宇宙空間は,何もないように見えても,希薄な,しかしエネルギーの高いプラズマ粒子(イオンや電子)が,地球の磁場の中で飛び回っています。このプラズマや磁場に関して,地球からの影響が,そして逆に地球への影響が強く及ぶような宇宙空間を「ジオスペース」と呼びます。このジオスペースの中の,スペースシャトルが飛ぶような高度から気象衛星「ひまわり」がいる静止軌道の間の空間は「内部磁気圏」と呼ばれ,そこには「放射線帯」が存在します。放射線帯は,数百keV(キロ電子ボルト)から数十MeV(メガ電子ボルト)のエネルギーを持つイオン,電子から構成され,ジオスペースで一番エネルギーの高い粒子が集まっています。

図1
図1 (左)放射線帯電子の模式図。
(右)「あけぼの」衛星によって観測された2500keV以上の電子の空間分布。
色で粒子のフラックスを示しています。


 図1に,放射線帯電子の空間構造の模式図(左)と日本の「あけぼの」衛星による2500keV以上の電子の観測結果(右)を示します。電子の放射線帯は,「内帯」と「外帯」という地球を取り囲む二つのベルト状の分布と,その間に「スロット」と呼ばれる間隙を持っています。一方,図には示していませんが,イオンの放射線帯はこのような二重構造ではなく,単一のベルト状になっています。


放射線帯の発見

 放射線帯は,1958年にアメリカのExplorer衛星によって発見されました。発見したバン・アレン教授の名前をとって,放射線帯のことを「バン・アレン帯」と呼ぶこともあります。その後,1960〜70年代にかけて放射線帯の観測および理論的な探究が精力的に進められ,平衡状態における放射線帯の空間構造について,定量的に説明することができるようになりました。その後1980年代になると,人工衛星による探査領域が,オーロラ帯の北極・南極域やそれにつながる磁気圏の尾部領域,そして太陽系の惑星へと移ったこともあり,放射線帯の研究は一時下火となりました。


激しく変動する放射線帯

図2
図2 「あけぼの」衛星によって観測された,1993年の2500keV以上の放射線帯電子フラックス。
横軸にtotal day,縦軸に地球半径で規格した地球からの距離を示しています。
下段は,磁気嵐の強さを表すDst指数。


 図2の上パネルに,「あけぼの」衛星が観測した2500keV以上の電子の時間変化を示します。横軸は1993年1月から6月までの半年間の期間を示し,縦軸は地球からの距離です。下のパネルは,Dst指数と呼ばれる磁気嵐の指標を示しています。この指数がマイナスに大きく振れると,磁気嵐が発生していることを意味します。磁気嵐が起きると,外帯の電子はいったん消失し,その後ゆっくりと増加し,外帯が再形成されていることが分かります。この再形成の際,電子フラックスは2桁以上も増大することがあります。また,すべての磁気嵐で再形成が起こるわけではなく,消失した後しばらく戻らないような場合があることも分かります。このように,放射線帯の外帯は,磁気嵐によって激しく変化する領域です。

 外帯が磁気嵐とともに大きく変化することは,1960〜70年代の研究でも指摘されていましたが,この現象に再び関心が集まるようになったのは1990年代のことです。その理由の一つは,1990年代に内部磁気圏を探査した米国のCRRES衛星や「あけぼの」衛星によって,放射線帯が激しく変化している様相が「再発見」されたことです。もう一つの理由は,放射線帯の高エネルギー粒子によって引き起こされる人工衛星の故障が,一般社会にとって大きな問題となってきたためです。



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