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宇宙科学の最前線

オーロラの起源粒子を運ぶ宇宙空間ガスの渦

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次世代の多点同時観測へ

 磁気圏脇腹での巻き上がった渦の発見は,太陽風磁場が北向きのときの磁気圏へのプラズマ供給につながる物理過程を同定したという意味で磁気圏物理学的に重要な成果であり,またプラズマ混合に果たす渦の役割を観測的に証明したという意味で宇宙プラズマ物理学的にも大きな成果といえるでしょう。しかし,渦中で起きているはずのミクロな混合過程が分かったわけではありません。CLUSTERの観測でも,渦のすぐ近くで地球磁場と太陽風磁場がねじれて逆向きの成分を持っている場所があることは分かりましたが,ここで実際に磁気リコネクションが発生しているのかどうかは不明のままです。また渦中の混合は,電磁波動を介した拡散のような別のメカニズムによるという指摘もあります。このミクロ過程の本質が分からない限り,渦に伴って太陽風が浸入する効率を正しく評価することは不可能でしょう。

 渦中のミクロ過程の詳細を理解するには,渦の全体構造や成長段階を把握しつつ,どの部分で何が起きているのかを解明しなくてはなりません。要するに,渦(マクロスケール)構造を分解できる衛星編隊と同時に,ミクロスケールの構造を分解できる衛星編隊も必要です。さらには非常に高い時間分解能でプラズマ観測を行い,混合の現場を押さえることも不可欠でしょう。



図3-A
図3 「CROSS-SCALE」計画


 CLUSTERプロジェクトを推し進めてきたヨーロッパの研究者たちも,大小の時空スケールを同時に観測することの必要性を感じており,現在私たちはESAと共同で10機以上の衛星群で磁気圏を観測する計画「CROSS-SCALE」を検討しています(図3)。衝撃波での粒子加速や磁気リコネクションなど,宇宙プラズマに普遍的な物理素過程の本質的理解が主な目的です。約10年後に期待されるCROSS-SCALEの打上げ後には,これらのメカニズムとともに渦に伴うプラズマ混合の謎も解き明かされているかもしれません。

(はせがわ・ひろし)



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