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宇宙科学の最前線

太陽コロナ〜活動・加熱の源を求めて〜

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 太陽は,非常に興味深い身近な天体プラズマ実験室です。約6000度の太陽表面(光球)から2000kmほど上空に行くと,100万度を超える高温のプラズマが存在します。「コロナ」と呼ばれる太陽大気です。コロナはフレア(太陽面爆発)が突発的なエネルギー解放を起こす場所で,フレアやコロナ質量放出は地球での磁気嵐の発生と密接な因果関係を持っています。昨今,国際宇宙ステーション建設などで宇宙飛行士が宇宙空間で活動する機会が増えつつあり,人類が宇宙空間を利用する上でも,太陽―地球間の宇宙環境を理解することの重要性が増しています。いわゆる,宇宙天気のことです。

 太陽の観測的研究は,400年ほど前のガリレオ・ガリレイによる太陽黒点のスケッチ観測を最初として,古くから行われてきました。しかし,太陽フレア発生の物理,太陽コロナ存在の謎,太陽11年活動周期の謎など,太陽は知っているようで基本的なことの多くがよく分かっていない星なのです。



図1
図1 軟X線で見た太陽コロナ


太陽コロナ

 太陽観測衛星「ようこう」の軟X線望遠鏡は,1991年の打上げ以来10年以上にわたり,軟X線で見た太陽コロナ(図1)の姿を観測し続けました。この軟X線の動画は,研究者にさまざまな科学的な興味・衝撃を与え,また広く一般の方へも強い印象を与えました。軟X線で太陽を見ると,太陽表面が黒い円盤として見え,コロナは表面からは想像できないほど濃淡のある構造から成り立っています。太陽表面は約6000度であるのに対して,コロナは100万〜300万度という高温のプラズマから成り立っているので,軟X線でよく観測することができます。

 なぜ太陽表面の上空に数百倍の温度を持つプラズマが存在するのでしょうか?いわゆる「コロナ加熱問題」とも呼ばれ,我々が長年理解に苦しみ続ける不思議な現象です。とはいえ,コロナ加熱が磁力線の存在と切っても切り離せない関係にあることは,磁場の強い活動領域でコロナの加熱が高いことから,確かなようです。



コロナ加熱とマイクロ・ナノフレア

 では,コロナを加熱する具体的な物理的過程はどのようなものなのでしょうか?考え方としては大きく二つあり,一つは磁力線を伝播する波(電磁流体的波)がコロナで放散するという「波動加熱説」,もう一つはコロナ中にできた多数の磁気的不連続点で極めて小規模なフレアが非常に多数起きているという「マイクロフレア加熱説」です。いずれの考え方でも観測で得られた事実を説明するには至っておらず,まったく理解できていないというのが現実です。

 このうちマイクロフレア加熱については,「ようこう」の軟X線連続画像観測などによって観測的な理解が大きく進みました。「ようこう」の観測以前は,通常観測で受かるフレアのエネルギー規模は1029〜1032エルグでした。「ようこう」の高解像度・低散乱・高時間分解能の観測のおかげで,2桁もしくはそれ以上小さな爆発が頻発していることが分かりました。さらに,1024〜1025エルグ程度の極めて小さな爆発の存在も明らかとなりました。これらの爆発現象は,最大級フレアに対して規模が6桁,9桁と小さいことから,マイクロフレアあるいはナノフレアと呼ばれます。観測からは,マイクロフレアの解放エネルギー総量はコロナに必要な加熱量には足りず,ナノフレアの観測的理解に重点が移ってきています。また,これらの現象は活動領域にある小さなコロナループ(磁束管)が突然加熱される現象であることが分かり,形態的な理解も大きく進みました。



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