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宇宙科学の最前線

宇宙科学の新たな展開〜宇宙環境利用科学〜

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非線形流体力学研究
 浮遊液滴が回転や外力などにより大きく変形するようになると、外力と変形量の間に比例関係が成立しなくなり(微小な変形であれば比例関係が成立します)、非線形性と呼ばれる複雑な効果を考えなければなりません。図5に、先に述べた浮遊技術を用いて、直径2mmほどの液滴を浮遊させながら大きく変形させた結果を示します。このような実験や理論的検討により、表面や内部の流れなどに対する非線形効果を明らかにする研究を現在行っています。微小重力下では大型液滴の浮遊が可能となることから、精度の良い実験ができます。また、この研究は、現在盛んになりつつある界面流体力学の発展に貢献するとともに、先に述べた熱物性計測における高精度化への貢献が期待されます。

図3
図5 大きく変形させた液滴の観察例(中央の白い部分で直径約2mm)


大過冷却からの凝固による新機能材料創製研究
 準安定な物質はしばしば新しい機能を発揮することから、大過冷却からの凝固による新たな機能材料の創製を目指した研究を進めています。このため、超音波あるいはガスにより溶融試料を浮遊させる技術を開発しました。図6に、超音波によって浮遊させる装置の写真を示します。この装置を用いて、従来に比べて10万倍程度高速に酸化物超伝導物質を成長させることに成功しました。また、比誘電率が10万程度の極めて高い値を有する材料の創製に成功しました。現在、この新機能出現のメカニズム解明に取り組んでいます。ガス浮遊では、2mmほどの真球に近い単結晶の製造に成功しました。これは、光ファイバーの接続部品などに利用される球面レンズとしての応用が期待されます。地上での過冷凝固を利用した新機能創製の機構解明を基に重力依存性を明確にし、大型試料製造が可能な微小重力下での実験計画への発展を図っていきたいと考えています。



図4
図6 超音波浮遊装置


今回はJAXAで行っている物質科学分野の一部の研究しか紹介できませんでした。今回紹介した研究以外に、生命科学、燃焼科学、基礎科学分野などの多くの研究がJAXAで行われています。

(よだ・しんいち)

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