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宇宙科学の最前線

宇宙開発における標準化と情報化 〜Faster Better Cheaperを実現する方法〜

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表紙


Faster Better Cheaperとは?

 Faster Better Cheaper(以下ではFBCと略す),すなわち「より早く,より良く,より安く」は,NASAのゴールディン前長官が提唱したスローガンです。これが提唱された当時から「この三つを同時に満たすなんて不可能だ」とか「自己矛盾したスローガンだ」と悪評を買ってきました。「FBCのおかげでNASAは失敗が増えた」とさえ言われました。確かに,FBCの三つを同時に満たすのは容易ではありませんし,FBCを適用したために失敗することもあるでしょう。

 しかし,私はFBCを実現する方法はあると思っています。「うんと早く,うんと良く,うんと安く」は困難かもしれませんが,「ちょっと早く,ちょっと良く,ちょっと安く」程度ならば,うまく工夫すれば実現できます。私は,宇宙開発でFBCを実現するための方法として,標準化と情報化の研究を行っていますが,このそれぞれについて以下で説明します。



標準化

 宇宙開発でFBCを実現する第一の方法が,標準化です。これは,いろいろな衛星やいろいろな目的で使える標準的なものを開発し,それを利用しましょうということです。これが実現すれば,衛星ごと,あるいは目的ごとに別々のものを開発する必要がなくなるので,初めに開発する手間は大きいかもしれませんが,複数の衛星を平均して考えれば「より早く」と「より安く」は実現できます。「より良く」についても,初期の製品のまずい点を後の製品で改良すれば,実現できます。

 というように,作文を書くのは簡単ですが,実際にはそれほど簡単ではありません。なぜかというと,やはり衛星や目的ごとに事情の違いがあり,それを一つのもので吸収するには限度があるからです。それを吸収するためには,一般的な枠組みを設定し,事情の違いがその枠組みの中にうまく収まるようにする必要があります。広い範囲に適用できる枠組みは必然的に抽象的になりますが,抽象的かつ実用的な枠組みの構築は,けっこう大変です。私は何年も標準化にかかわってきましたが,私の経験から言えば,良い枠組みを作るには良いアイディアを出すことが必要です。


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