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宇宙科学の最前線

宇宙科学の最前線 宇宙に生命を探し 生命に宇宙を見る 宇宙科学研究所 山下雅道

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両生類の宇宙・重力生物学

どんな現象、生物種を研究の対象として選ぶかは繰り返し検討され、その中でとりあげられたひとつが両生類である。両生類は、およそ4億年前に陸上に進出した初めての脊椎動物である。陸棲化には、重力に抗して体を支えての運動、耐乾燥、空気による呼吸のしくみをつくるなどいくつかの要求があった。陸上に進出した生物群は、その棲息環境を多様に豊かにつくりだし、爆発的な適応放散を果たした。

両生類は陸棲に移行した初期の脊椎動物の姿を保存している。オタマジャクシは多くの場合水中に棲息し、変態時に繰り返し陸棲移行の歴史をたどる。さまざまな段階の陸棲適応がみられ、水中で幼生期を過ごすことなく直接発生する種すらある。両生類は多様な種に分化して、種の数ほどに多様な生態や行動を示す。棲息域をみても、地表にくわえ、水辺に近い地表、樹上、地中、水中と多様な種が両生類にはある。重力への適応は、動物の生態や行動世界にしたがって多様に要求される。水中や樹上では、動物の行動世界は3次元的であり、重力は行動する世界を認知する参照座標軸として活用される。多様な生態や棲息域を示す両生類のいくつかの種を系統的に選んで、その体や器官の形態や機能、動物個体のしめす行動などの比較から、陸棲への移行と重力に対する適応のようすを知ることができる。


動物個体の行動や生理と重力

動物は、餌をさがし、捕食者からにげ、生殖の相手にであい、生存に適した環境を選ぶ。動物の行動とは、丸のままの動物個体がしめすふるまいである。微小重力下で自由な空間にカエルが飛び出すと、四肢をのばし背側にそらせ、腹を横にふくらませる。地上でも高いところから飛びおりれば、カエルは微小重力状態を経験する。落下中には、腹をふくらませて流れに対向する体の断面積を増大し、四肢を背側に反らせて流体力学的な抗力中心を重心より背側にずらし、腹側を下にむけて安定して降下する。宇宙で自由な空間に漂ったときに、地上での微小重力状態においてとる姿勢をカエルが示したと推定できる。

ニホンアマガエルは、宇宙で表面にとまったときに頭を背側につよくそらせる姿勢を頻度高くみせた。これは、腹圧をあげて吐きもどそうとするときにみせる姿勢に似ている。航空機による無重力飛行実験から、乗り物酔へのかかりやすさが種の生態に依存するのがわかった。高いところから飛び降りる樹上棲の種で、微小重力下での姿勢制御プログラムをもつものが、長秒時の微小重力を経験すると高い頻度で嘔吐する。これは宇宙飛行士が広い宇宙船内を遊泳するようになってから、前庭覚と視覚などの入力情報が中枢神経系で混乱することで宇宙酔が始まったとする説と符合する。生物個体は、その生存能や適応能を高めるさまざまな反応を示す。嘔吐は毒性の餌を胃から吐き戻すもので、生理学的適応反応のひとつである。毒は動物に食害される植物がうみだし、ある動物はそれを蓄えて他の動物種に対抗したりする。宇宙酔での嘔吐は嘔吐中枢の刺激によるのだが、悪心や発汗、心拍数の変化や変動などいくつかの指標があり、これらは小宇宙としてある生物体の総合的な反応である。

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