太陽の質量の1億倍にもなるという超巨大ブラックホールを中心に据えたクェーサーという天体が、宇宙には存在します。そのブラックホールに物質が落ち込むことで、重力エネルギーを解放し、明るく光り輝いています。このようなクェーサーは、宇宙に数多くある銀河と密接な関係を持つことが知られており、宇宙全体の進化にも重要な役割を果たしていると考えられています。しかしながら、クェーサー、そしてその中心にある超巨大ブラックホールがどのようにでき、どのように成長してきたかは、よく分かっていません。
そのようなクェーサーですが、もう少し詳細に見ていくと、超巨大ブラックホールをご本尊に据え、そこに落ち込む物質が円盤状に取り巻き、光り輝いています。そのまわりに高速(秒速数千km)で運動しているたくさんのガスの雲があり、その外側には塵(固体微粒子)がドーナツ状に存在しており、これらは光り輝く円盤に激しく照らされていると考えられています。そのため高速で運動しているガス雲中の原子は電離し、それが電子と再び結合するときに数多くの輝線(それぞれの原子に特有の、特定の波長のみで起きる放射)を出します。また、塵が直接照らされているドーナツの一番内側では、まさに微粒子が融けている現場を見ることができるわけです。クェーサーは、ドーナツの穴を上から見ているので、中のものをすべてまとめて見ることができると考えられている天体です。
さて、このような天体がどうしてできたかを知るために一番手っ取り早いのが、その形成途中を見ることです。そこで、遠くの宇宙を見る、すなわち宇宙の若き日のクェーサーを見てやろうと考えたわけです。しかし宇宙は膨張しているために、遠くを見るとその光は、より赤い光へシフトしてしまいます。そこで、赤い光を見るのに長けた「あかり」が必要となりました。

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図18 120億年前のクェーサーAPM08279+5255の「あかり」による近・中間赤外線スペクトル
下の横軸は観測での波長,上は波長のシフトを補正した値。縦軸は放射強度。

我々は、「あかり」の近・中間赤外線カメラ(IRC)の分光機能を使い、120億年前、すなわち宇宙ができてからまだ17億年しかたっていない時代のクェーサーAPM08279+5255を見てみました(図18)。5~12マイクロメートルという波長を観測したわけですが、実は、もしこのクェーサーが我々の近くにあれば、可視光から近赤外線という地上からも観測できる波長帯を見たことになります。このクェーサーの観測から、超巨大ブラックホールに落ち込む物質の放射、高速で運動しているガス雲の水素・ヘリウムからの輝線、そして塵のドーナツの内壁から来ている、まさに塵が融ける絶対温度1300Kの熱放射の検出に成功しました。120億年前のクェーサーにもかかわらず、その様子は今、我々が知っている近傍のクェーサーとまったく同じ姿のように見えることが分かりました。
宇宙がわずか17億歳であってもクェーサーの姿が変わらないとすると、クェーサーという天体は、考えられているよりももっと短時間で形成していなければなりません。クェーサーがどうやってできたのかという問題は、今後も大事な研究課題として残っています。はてさて。

(おおやぶ・しんき)