●プロジェクトマネージャ 篠原 育

「捕らえろ粒子。感じろ電磁波。」これはジオスペース探査(ERG)衛星のミッションを表すキーメッセージです。

ERG衛星は、放射線帯(ヴァン・アレン帯)と呼ばれる、地球周辺に高エネルギー粒子が大量に存在する領域の変動を"探査"します。近年、放射線帯外帯の高エネルギー電子がどのように生まれるのか、について、宇宙空間に発生するコーラス(小鳥のさえずり)と呼ばれる数kHz帯の電磁波が重要な役割を果たしているのではないか、という最新の研究成果が注目を浴びています。ERG衛星はこの"コーラス"を感じて、"生まれゆく高エネルギー電子"を世界ではじめて捕らえることを目指していますから、このキーメッセージがERG衛星をとてもよく表していることをご納得いただけると思います。

このようなERG衛星ですが、元をたどればミッションの原案は、今から15年ぐらい前に当時の若手研究者が集まって、「あけぼの」やGEOTAILなどの成果を受けて、今後どのようにサイエンスを発展させるべきかという議論を重ねる中から生まれてきました。当時から放射線帯変動の研究の大切さを強く主張されていたのが、この時はまだ大学院生だった現プロジェクトサイエンティストの三好由純さんです。そして、その後、若手研究者たちの背中を力強く押し、ERG衛星実現に向けてリーダーシップをとってくださったのが東北大学の小野高幸先生でした。とても残念なことに小野先生はERG衛星の成功を見届けることなくお亡くなりになりました。小野先生に「いよいよ衛星が打上げまでこぎ着けた」ことをご報告したいと思います。私たちにとっては15年越しの検討が実ったのですから、素晴らしい科学成果の果実を味わえるよう、良い科学データが得られるよう、頑張ってまいります。

(篠原から三好さんへ)
三好さんにとっては計画立案当初から15年間、科学計画を主導されてきて、いよいよ打上げが間近に迫った今、この瞬間の一番の期待を教えてください。プロジェクト立上げの過程や、立ち上がってからも、何度も挫けそうなことがあったと思いますが、苦難を乗り越えてきた心の支えは何だったのでしょう。


●プロジェクトサイエンティスト 三好 由純

放射線帯は、ジオスペース(地球周辺の宇宙空間)で一番危険な場所です。危険だからこそ十分な探査が行われず、ジオスペース最後のフロンティアともいうべき場所として残されています。コーラスが活発になると放射線帯電子が生まれてくるという、新しい粒子の加速メカニズムが本当に存在するかどうかの決定的な証拠をつかむために、ERG衛星はこの過酷な環境に向かって旅立ちます。

篠原さんが書かれているように、計画は約15年前の当時の若手研究者を中心とした議論からスタートしました。たくさんの方に支えられ、励ましていただきながら、メンバーが一丸となって一歩一歩と準備を進めてきた15年でした。先日、内之浦の射場を見ながら、ここまで歩んできた道のりと、次の歩みの先はもう宙(そら)ということをひしひしと感じました。ここに至る道のりにはいろいろなことがありましたが、私自身は篠原さんはじめ、プロジェクト成功に向けて志を同じくする仲間の方たちといっしょに仕事していることを支えに、やりがいを持って歩んできました。計画がアイデアから技術的検討をふまえて衛星としての形となり、そして開発へと進んでいくのを牽引されたのが高島健さん、淺村和史さんです。開発にあたられた方たちの魂の結晶ともいうべきERG衛星は、海外の大型科学衛星に引けを取らない性能を持つとともに、コーラスの謎を解き明かすための世界初の機能も搭載されています。

打上げを目前にした今、ERG衛星がジオスペースで観測する新しいデータを、心から待ち遠しく感じています。衛星の観測が始まった後は、サイエンスチームの出番です。ERG衛星の最先端の観測、地上観測やシミュレーションとの連携による科学成果の創出に向けての決意を新たにしています。そしてその成果を、故小野先生にもお伝えしたいと思っています。

頑張れ、ERG! 過酷な場所の探査に挑む君の雄姿を、チームのみんなが見守っています。宙のさえずりを、届けてください。

(三好から高島さんへ)
ERG衛星は、放射線帯という過酷な領域を探査するというミッションですが、その危険な場所に手塩にかけたERG衛星が飛び込んでいく今の心境を教えてください。また、ERG衛星は9つの観測装置を搭載していますが、これだけ多くの観測装置が宇宙空間で効果的に観測を行うための秘策を教えてください。

打上げ日の一日の流れを模擬した試験の様子

打上げ日の一日の流れを模擬した試験の様子。

【 ISASニュース 2016年12月号(No.429) 掲載】