●「スピンは悩みの種」
 構造系担当 竹内 伸介

「ヤバいと思っていたものも中にはありましたか?」ですが、衛星喪失につながりかねない危惧があったのは衛星分離から太陽電池パドル展開までのニューテーションダンパー(ND)周りでしょうか。とは言っても心配していたのはERG側の計算ではなく、イプシロン側の初期値の方です。ERGは1Hz弱の高速スピンでイプシロンロケットから分離されますが、地上の試験では重力補償などの関係からスピン形態での分離擾乱を精密に測るのが難しく、過去の知見(今までスピン分離で大きく擾乱が増えたことはない)に頼らざるを得ない部分があります。過去の衛星では小さいD-subのコネクタが多数分離機構近傍に配置されていることが多かったのですが、イプシロンになってからは比較的大きなDBASのコネクタが2個半径方向にかなり離れた位置にありますので、これが変な干渉を起こして分離時に大きく姿勢が乱れないか、というのが一番の心配事項でした。結果的には無事初期運用に入れたので、杞憂で良かったというところでしょうか。

構造担当の仕事は、設計評定になるのが主に打上げ時の荷重であり、また衛星の大枠の入れ物を作る・その中に入る各搭載機器の設計条件を決めるという関係上、他の担当の方と時間軸がずれていることが多いです。ERGの構造としての試験(MTM)が始まったのは2013年の夏で、前の「ひさき(当時はSPRINT-A)」の打上げと並行していました。MTMが終わって構造設計を確定し、各搭載機器の機械環境条件を調整・設定すれば、通常は構造担当としての仕事のかなりの部分は完了で、後は問題発生時の対応が主な仕事になります。ERGではその後も伸展物関連やスピン衛星特有の運動関連等々で要検討事項が発生し、色々勉強させてもらいました。特に先述のND関連の話は、最初からもっと扁平な形状に衛星を作れば全く問題は起きない事は分かっていましたが、コスト等の関係で実現できず、様々な検討が必要になりました。結果的には問題をクリアでき、その過程で色々な計算手法など次のSLIM等に生かせる技術が蓄積できたので、良かったと思います。「ひさき」では打上げ後第一可視で太陽電池パドルが展開して電力が発生していれば構造担当の仕事はほぼお役御免だったのですが、ERGでは伸展物がありクリティカルフェーズの運用まで参加させていただき、これも良い経験になりました。定常運用に入ってしまうと構造は完全に用無しで寂しい限りですが、ERGで得た経験を基に、次の衛星・探査機・ロケットの構造担当の仕事を進めていきたいと思います。

(竹内から丸 祐介さんへ)

SPRINT-A と ERG のバスの違いは、スピン衛星ということに加えて、推進系の有無という側面もあります。ERG から追加になった推進系の具合はいかがだったでしょうか。

●「初めての衛星開発プロジェクト(ERGで良かった)」
 推進系担当 丸 祐介

私は、スペースプレーン用の空気吸込式エンジンの開発研究を行っていた研究室の出身で、私の専門は推進系だと思っています。しかし、「推進系を研究対象としている」ことと、「衛星の推進系サブシステムを担当する」こととの間には大きなギャップがあり、私のERG推進系開発は、右も左もわからない中を、たくさんの人に助けてもらい勉強しながら進めてきました。なので、竹内さんからのお題のような、大局的な視点の感想を持ち得る余裕はなかったのが正直なところです。

感じたギャップは、端的に言えば、モノを開発して運用するまでを一通り行うには、幅広い知識が必要である、ということです。当たり前ですが、全ての目的は、衛星の正常動作です。動かすところまでやるためには、例えば、単に流体的に推力が計算できたりするだけでは不十分で、構造や熱といった機械的な部分はもちろん、バルブの動作などに関連して電気的な見識も必要となります。さらに、品質保証や機能検証の考え方も重要です。この見識の広さの観点で力不足を感じることが多々ありました。ただ、これらを全て一人でカバーする必要はありません。私が不甲斐ないからかもしれませんが、ERG推進系は、本当にたくさんの人が親身に携わってくれました。メーカー/JAXA、システム/他サブ(特に構造、熱)/推進系、プロジェクト内外、にかかわらず、それぞれの立場で、またときには立場を超えて、作業、支援、指示、助言を頂きました。ERG推進系の成功は、このように多くの人に関わってもらえた結果だと思っています。

私の中でのクライマックスは、第一可視で打上げ後最初にテレメデータが降りてきたときです。打上げ前にはオフノミナルなテレメを想像して、判断や対処を悶々と考えていましたが、目に入ってきたデータは正常動作が確実に判断できるものでした。思えばもう5カ月も前のことなのですが、そのときの興奮は昨日のことのように思えます。

ERG推進系は、クリティカルフェーズの最後に遮断弁を閉じて出番を一区切りしています。私自身は行くことはほとんどなくなってしまいましたが、運用室では今日も素晴らしい科学データが次々と生み出されていることと確信しています。

推進系射場作業のメインイベント、推薬充塡は準備も慎重に行いました。スケープスーツの機能確認は、プロジェクトの安全担当、仁田さんに体を張っていただきました。

推進系射場作業のメインイベント、推薬充塡は準備も慎重に行いました。スケープスーツの機能確認は、プロジェクトの安全担当、仁田さんに体を張っていただきました。

(丸から宮澤 優さんへ)

宮澤さんは打上げ直前に、万全の電源系を残して産休に入られ、打上げ直後に無事ご出産なさいました。その間、ERG打上げはどのように迎えられたのですか?

【 ISASニュース 2017年6月号(No.435) 掲載】