Liyi Gu (顧 力意)博士(理化学研究所)が率いる国際共同研究チームは、宇宙最大の天体である銀河団が衝突する際に最初に形成されると予言されていた衝撃波の存在を世界で初めて確認しました。 本研究成果は、衝突と合体による銀河団の形成と進化、さらに宇宙の大規模構造の形成過程の解明に貢献すると期待されます。

研究チームは衝突初期段階にある銀河団ペアを詳細に調べるため、 X線天文衛星Suzaku[1], Chandra[2], XMM-Newton[3]と電波望遠鏡LOFAR[4], GMRT[5]による大規模な多波長観測キャンペーンを行いました。X線の観測から、銀河団ペアの間には7000万度もの高温ガスが帯状に分布していること、衝突軸に垂直な方向に走る衝撃波[6]が存在していることを確認しました。また、銀河団ペアの間に広がった電波源の観測から、エネルギーを失っていた電子が銀河団同士の衝突現象により再加速されていることが示唆されました。銀河団が衝突する際に衝撃波が発生することは、過去に行われた数値シミュレーションで予測されていましたが、実際に観測されたのは本研究が初めてです。

銀河団が衝突・合体する際にどの位エネルギーが解放され、そのエネルギーがどのくらいの領域まで影響を及ぼすのかを理解することは、銀河団の成長や宇宙大規模構造の形成過程を理解するというパズルを解くための重要なピースの一つです。本研究成果によって、これまで欠けていた,「衝突の瞬間」という重要なピースが埋まったことになります。

本研究は、英国の科学雑誌『Nature Astronomy』に掲載されました。

銀河団とは、直径が数億光年にも達する銀河や高温ガスなどが重力により束縛された宇宙で最も大きな天体です。銀河団は宇宙大規模構造のなかでも、重力が特に強い場所に位置しています。宇宙の歴史の中で、銀河団は互いに衝突と合体を繰り返すことで成長してきたと考えられています。銀河団同士が衝突する際に解放されるエネルギーは莫大で、ビッグバン以降、最も劇的な現象とされています。 このエネルギーは、銀河団の内部だけでなく、周囲の構造へも影響を与えると考えられており、銀河団の衝突現象を理解することはそのまま、宇宙大規模構造はどのように形成したたのかを理解することにつながります。

銀河団が衝突・合体し、一つの銀河団になるまでにかかる時間は数十億年です。そのため、私たちが衝突合体の一部始終を観測することはできません。私たちが観測できるのは、異なる衝突段階にある銀河団ペアのスナップショットだけなのです。スナップショットを集めて時間変化を調べるという手法は、宇宙における様々な天体の進化を調べるのに用いられ、成功を収めています。

今回のように、銀河団同士の衝突の場合に課題となるのは、いかにして、二つの銀河団が「まさに触れたとき」のペア(図1の "衝突の瞬間")を見つけるか、という点です。理論的には、「まさに触れたとき」は短時間ですので、発見できる確率がとても低いのです。実際、衝突の早期段階にある銀河団はこれまでに数天体しか観測されていませんでした。そのため、銀河団衝突の初期にどのような現象が起こるのか、どのくらいのエネルギーが解放されるのかといったことは、不明なままでした。

図1. 銀河団衝突の模式図 (Ha et al. 2018 より改変)

図1. 銀河団衝突の模式図 (Ha et al. 2018 より改変)。 色は銀河団プラズマの温度を表し、赤が高温、青が低温。衝突が進むと衝突軸に沿った衝撃波が形成さる(青円弧)。これまでの研究では、衝突の瞬間、衝突軸に垂直な方向へと衝撃波(赤円弧)が走ると予測されていた。本研究で初めて青円弧で示される衝撃波の存在を確認することに成功した。

本研究で国際共同研究グループは、大規模な多波長観測キャンペーンを行い、まさに衝突し始めている銀河団ペアを詳細に調べました。観測したのは、X線天文衛星SuzakuとXMM-Newton衛星によるX線のデータ、並びに、GMRT全天電波探査データに基づいて2016年に本研究チームが発見した銀河団ペアです。今回の観測キャンペーンではX線天文衛星Suzaku, Chandra, XMM-Newtonと電波望遠鏡LOFAR, GMRTが用いられました。XMN-Newton衛星とChandra衛星、それぞれの観測時間は40時間を超えます。長時間観測することで、高温ガスの詳細なデータを取得することができたのです。研究チームは、撮像能力に優れたChandra衛星で、銀河団ペアを「高解像度撮像」し、分光能力に長けたSuzaku, XMM-newton衛星で広範囲に渡る銀河団プラズマの特性を詳細に調べました。図2は、可視光画像に、本研究で行ったX線画像と電波画像を重ねたものです。

「我々が取得したX線のデータによって、初めて、衝突の際の衝撃波をはっきり捉えたのです」、と筆頭著者のリーイー グー氏は述べます。「衝撃波は銀河団の間に7000万度にも達する高温ガスをつくり出し、その高温ガスは広範囲にわたって帯状に広がっていることが明らかになりました。高温ガスは銀河団よりさらに広い範囲に広がっていると予想されます。観測された衝撃波は銀河団の進化だけでなく、宇宙の大規模構造にも影響を及ぼしたと言えます。」

図3の左パネルは銀河団の高温ガスの温度マップを、右側のパネルは圧力マップを示しています。これらのデータを解析すると、高温領域の端で、高温プラズマの温度と密度が急激に下がることがわかります(図4)。これは、高温プラズマ中に衝撃波が存在することを示す結果です (衝撃波の位置は図3右パネルの白破線)。この衝撃波は、これまでに確認されてきた衝突軸に沿った方向に走る従来のもの(青円弧)と異なり、衝突軸に垂直な方向に走るもの(図1赤円弧)になります。

これまで行われた数値シミュレーションによると、衝突軸に垂直方向に走る衝撃波は、衝突初期、特に銀河団同士がまさに衝突した瞬間に発生します。そしてこの衝撃波は、銀河団同士の衝突エネルギーを銀河団のみならず、銀河団周辺領域まで伝搬し、大規模構造にまで影響を及ぼすと予想されています。そのため、銀河団の成長過程のみならず、大規模構造形成に至るまで重要な役割を果たすと考えられています。本研究により、このような衝撃波が観測的に確認されました。

さらに、電波観測から、400-600 kpc(約130万-200万光年)にも渡る電波放射が銀河団ペア中間部に存在することがわかりました(図4右パネルの白等高線)。この放射は、高周波電波帯域では確認できず、低周波側での電波放射スペクトルのベキ指数が、-2.5と非常に小さいという特徴があります (図3右挿入図)。 この特徴は、通常の天体からの電波放射では説明できません。ある程度加速された電子が、銀河団衝突によって発生した衝撃波によって再加速された結果であると考えられます。すなわち、電波観測のデータは、衝突現象が銀河団規模の粒子加速にも影響を与えることを示唆しているのです。

SDSSによる可視光画像に, Chandra衛星によるX線画像 (青), GMRT望遠鏡による325 MHz 電波画像 (赤)を重ねたもの

図2. SDSSによる可視光画像に、 Chandra衛星によるX線画像 (青)、GMRT望遠鏡による325 MHz 電波画像 (赤)を重ねたもの

図3. 左: XMM-Newtonによる銀河団プラズマの温度マップ.緑,白等高線がX線,電波放射強度を示している. 今回確認された衝撃波の位置を黒破線で示している.右: 圧力マップ. 衝撃波の位置は白破線.

図3. 左: XMM-Newtonによる銀河団プラズマの温度マップ。緑,白等高線がX線、電波放射強度を示している。今回確認された衝撃波の位置を黒破線で示している。右: 圧力マップ。 衝撃波の位置は白破線。

研究チームの一員である赤松 弘規氏は、「早期の衝突段階にある衝突銀河団が、今年打ち上げ予定のX線全天探査計画eROSITAによって見つかるでしょう。さらに2020年代初頭に運用が始まる大型電波干渉計天文台Square Kilo-meter Arrayによっても発見されると期待しています。発見された衝突銀河団は、 2021年度に打ち上げ予定の日本のXRISM衛星、2030年代打ち上げ予定の欧州のAthena衛星によって、より詳細な研究が行われ、銀河団衝突によって発生した衝撃波が銀河団の成長過程、宇宙の大規模構造形成の中で果たす役割が明らかになっていくでしょう」と期待しています。研究者は今後の観測によって「スナップショット」を集め、銀河団が衝突によって成長する過程を連続的に理解しようと計画しています。

【補足説明】

[1] X線天文衛星Suzaku
日本の宇宙航空開発機構(JAXA)が打ち上げた日本5台目の宇宙X線天文衛星. 安定した雑音レベルと精度の高い検出器校正を武器に,銀河団外縁部のような希薄なX線放射に対して力を発揮する.

[2] X線天文衛星Chandra
米国のアメリカ宇宙航空局 (NASA)が打ち上げた宇宙X線天文衛星. 優れた空間分解能を誇り,詳細なX線画像を取得することを得意とする.

[3] X線天文衛星XMM-Newton
ヨーロッパ宇宙機関(ESA)が打ち上げたX線天文衛星で,広い視野を持ち,分光撮像を得意とする

[4] 低周波電波望遠鏡 LOFAR (Low-Frequency Array)
オランダを中心とした国際電波干渉計. 周波数10MHz から230Mhzの電波を観測できるが、低周波(120 MHz) での観測に力を発揮する

[5] 巨大メートル波電波望遠鏡 GMRT (Giant Metrewave Radio Telescope)
インドにある、周波数50MHzから1500MHzの電波を観測できる電波干渉計。

[6] 衝撃波
音速を超えて伝播する圧力波。他の波動と同様にエネルギーを輸送し、波面の後方で媒質が圧縮され、温度・密度・圧力が上昇する。

【研究チーム (現所属) 】

Liyi Gu/顧 力意(理化学研究所)
赤松 弘規 (オランダ宇宙研究所SRON)
Timothy Shimwell(オランダ電波研究所 ASTRON)
Huib Intema(カーティン大学)
Reinout van Weeren (ライデン大学)
Francesco de Gasperin (ハンブルグ大学)
Francois Mernier (エトヴェシュ・ロラーンド大学)
Junji Mao/毛 俊捷(ストラスクライド大学)
Igone Urdampilleta (オランダ宇宙研究所SRON)
Jelle de Plaa  (オランダ宇宙研究所SRON)
Virial Parekh (ローズ大学)
Huub Rottgering(ライデン大学)
Jelle Kaastra (オランダ宇宙研究所SRON)

本研究は、RIKEN Special Postdoctoral Researcher Program, SRON, VIDI research programme (639.042.729), Lendulet LP2016-11, UK APAP network grant ST/R000743/1 による助成を受けました。

【論文】

Gu, Akamatsu, Shimwell et al., 2019, Nature Astronomy,
"Observations of a Pre-Merger Shock in Colliding Clusters of Galaxies"
DOI: 10.1038/s41550-019-0798-8