電子顕微鏡で撮影された小惑星イトカワ微粒子表面の微小クレーターの写真

小惑星イトカワ微粒子表面の微小クレーター(矢印)© ISAS/JAXA

小惑星イトカワ表面には、1μmより小さい微小クレーターが見つかる場合があります。Dennis Harries博士(Friedrich Schiller Jena大学)が率いる国際研究チームは、この微小クレーターを走査電子顕微鏡と透過電子顕微鏡を用いて詳細にしました。観察の結果、この微粒子には、15個もの微小クレーターが確認されました。これまでに、他の微粒子にもクレーターが見つかっていますが、1-2個しかクレーターは確認されておらず、とてもクレーターが多い微粒子だったといえます。

また、今回確認された微小クレーターは、小惑星イトカワ表面で天体衝突が起こった時に発生した微小破片により形成した二次クレーターであることもわかりました。

これまで、微小クレーターの存在は、微粒子が1万年以上の長時間、イトカワ表面に露出していたことを示していると考えられていました。しかし、今回の研究で表面露出時間が千年以下の粒子にも二次クレーターとして存在していることが分かりました。このような衝突現象はイトカワ表面の反射スペクトルを変化させるため、イトカワの宇宙風化を進行させる一つの大きなメカニズムであると考えられます。

「極めて重力が小さく、表面物質の露出時間が1000年以下と非常に短い小惑星イトカワの粒子にもこのような微小なクレーターが存在し、それが天体の衝突現象によって形成された事を明確に確認出来たことは、太陽系の天体の表面進化過程を知る上で非常に重要です。」と共同研究者の上椙真之氏(SPring-8)は語ります。

「はやぶさ」が持ち帰った微粒子の初期分析段階で、1例だけ衝突痕跡だとわかった微小クレーターがありました。しかし、初期分析の段階ではどのようなメカニズムで生じたクレーターなのか、解明できていませんでした。

研究チームは、微小クレーターに鉄ニッケル合金の破片がべったりとくっついていることを発見しました。これは、鉄ニッケル合金の破片が高速で飛んできて、クレーターが形成したのだということを示しています。小惑星イトカワには鉄ニッケル合金の大きな塊がありません。つまり、鉄ニッケル合金を多く含む天体が小惑星イトカワに衝突し、その破片によって微小クレーターが形成したのだと考えられます。

今後はより多くの微小クレーターを詳しく調べることで、望遠鏡などの観測では調べることのできない極微小な天体の組成やサイズ分布に対しても、重要な手がかりを得ることが出来るのではないかと期待されます。

上椙氏は次のように語っています。「微小な天体の組成やサイズ分布がわかると、地球に飛来する隕石と宇宙塵(主にInterplanetary Dust Particle, IDP)の組成が異なっているという疑問を解決できる可能性があります。隕石は普通コンドライトがその大半を占めていますが、地球の成層圏で回収されたIDPには、含水鉱物を含む炭素質コンドライトライクなものの割合が多く、サイズによって組成が変わっています。これが、地球に降ってきた物に限られるのか、太陽系全般でそうなっているのか、 は、太陽系(小惑星)の岩石物質全体の化学組成にも影響する問題なのです。」

本研究成果は、惑星科学の学術専門誌"Earth and Planetary Science Letters"に掲載されます。

誌名:
Earth and Planetary Science Letters (2016.9.15付)

論文タイトル:
Secondary submicrometer impact cratering on the surface of asteroid 25143 Itokawa

著者:
Dennis Harries, Shogo Yakame, Yuzuru Karouji, Masayuki Uesugi, Falko Langenhorst

DOI番号:
10.1016/j.epsl.2016.06.033

この研究は、JAXA宇宙科学研究所・地球外物質研究グループが進めている、小惑星イトカワ微粒子の国際公募研究の成果です。国際公募研究は、世界中の研究者たちに広く研究テーマの募集を行い、さらなる科学的知見を得ることを目的にした公募型研究です。これまでに、計40以上の研究テーマが採択され、世界中の研究者たちによって小惑星イトカワ由来の微粒子サンプルを用いた研究が進んでいます。