これまでの連載を振り返ると、「飛んでいってしまうもの」や「地球を回っているもの」といった題材を取り上げていることが、やはり多いようです。新しい世界を開拓し、新しい発見を求め、新たに人類の知見を増やしていく衛星・探査機、そしてロケットたちの話は、我々の心をワクワクさせ、応援したくなる気持ちを自然と膨らませてくれます。

そのような感情を同じように持ち、それでいて地上にあって幾多の「宇宙の旅人」を見送り、そしてかすかな便りを待ち、見守り続ける存在があります。ミッション達成に欠くべからざるものでありながら、まさに縁の下の力持ち的存在、それが「地上系」と呼ばれているものです。今月号から新たな連載として、「地上系」について紹介していきます。地上系を構成する各システムの詳細な解説は次回以降とし、今回は導入として地上系概観のお話をします。

「地上系」の概要図

図1 大まかな「地上系」の概要図

一言で「地上系」と書いていますが、それが指し示すのは非常に多くのものを含んでいます。縁の下の存在とはいえ、地上系の中でも目に触れやすい部分はあります。例えば、「アンテナ」です。宇宙との信号のやりとりをイメージさせるために、テレビや映画などでもアンテナの映像が使われます。また別の例では、いわゆる「管制センター」です。トラブルを抱えて対応に苦慮する緊迫したシーンであったり、探査機からの初の画像が送られてきて歓声が湧き上がるシーンであったり、こちらも印象的な場面で登場します。この二つは、地上系の中でもまさに「端っこと端っこ」に当たる部分です。

衛星や探査機に対しやりとりを始める起点になるのは、「管制システム」です。このシステムの中核となる管制ソフトウェア自体はその時々によって変わっていきますが、基本的な機能は変わらず、それは「衛星の搭載装置を動かすための指令を送り、その反応を折り返しで確認する」ことです。衛星を衛星として機能させるための最も重要なシステムともいえます。

その管制システムもそれ単体ではもちろん機能せず、送るべき指令を衛星まで届け、また衛星の反応を手元で受け取るために、「データ伝送ネットワークシステム」が必要となります。このシステムには、相模原キャンパス内でのやりとりはもちろん、内之浦宇宙空間観測所や臼田宇宙空間観測所、さらには海外の通信局などとの間でも、求められた時間内に正確確実にデータのやりとりを行うことが求められます。

臼田宇宙空間観測所の直径64mのパラボラアンテナの写真

図2 空に陰る臼田宇宙空間観測所の直径64mのパラボラアンテナ

それらデータのやりとりを衛星・探査機との間で行うためのシステムが、「アンテナ局設備」になります。実際に電波で送受信するための大小のアンテナ、伝送されてきたデータを電波として送れるように変換する「送信設備」、逆に受け取った電波をデータとして流せるようにする「受信設備」といったものが、そのシステムの構成要素として挙げられます。

このようにして、衛星・探査機を計画通りに稼働させ、さまざまな観測データを取得することが地上系の各システム・設備の主な目的ですが、それらの観測データも同様にアンテナで受信し、科学データとして相模原キャンパスまで送られてきます。このデータは衛星運用そのもののために利用されることはまれですが、科学データ取得こそがプロジェクトを立ち上げた根本の目的であり、プロジェクトメンバーをはじめとして国内外の研究者の研究活動のために適切に配布されることが求められます。

科学データは整理・選別・加工され、いくつかの段階に分けて蓄積されます。衛星から送られてきたデータそのままでためておく場所(SIRIUS)、研究活動に使いやすく研究者の視点で処理を施したデータを研究者の視点で整理しておく場所(DARTSなど)といった用途に応じて構築されたデータベースシステムで、日々生まれるデータを着実に保存し続けています。

こういったデータの地道なやりとりを黙々と日々支えているのが「地上系」であり、そのありようはまさに「衛星・探査機の一部」といえるほど、その活動に密接に関わっています。

(ちょうき・あきなり)

ISASニュース 2015年5月 No.410掲載