IKAROSは、「あかつき」の打上げ振動を緩和するためのダミーウェイトの代わりとして打上げを認められたものです。IKAROSとしては、相乗りでありながら、ソーラーセイル航行の実証にとって最も望ましい惑星間軌道へ投入してもらえるため、願ってもない機会であったといえます(ちなみに、IKAROSの「I」はInterplanetary、すなわち「惑星間」を指しています)。

しかし、IKAROSは計画開始から打上げまでわずか2年半で、従来の科学衛星の1/2~1/3しかありませんでした。さらに、プロジェクト経費も従来の科学衛星の1/10規模しかなく、スケジュールとコストに常に悩まされることとなりました(何度も夢に出てきました)。

この無理難題を克服するため、IKAROSではいくつもの思い切った開発方針を取りました。まず、熱・構造試験モデルを製作しない方針とし、その代わりに熱真空試験で問題があった場合には、本体下面にある放熱面の面積を調整できる設計としました(実際には、これを行ったにもかかわらず、打上げ直後に温度が冷えて肝を冷やしました......)。また、本体を単純な円柱形として機械環境を予測しやすくし、質量をケチらずに頑丈な設計とすることで、振動試験を一発で確実にクリアできるようにしました。

次に、バス部とミッション部のI/F(インターフェース)を明確にすることでそれぞれ独立に開発できるようにし、詳細設計審査も別々に実施しました。バス部は、M-Vロケット、月探査機LUNAR-A、「はやぶさ」、データ中継技術衛星「こだま」など、ほかのプロジェクトの利活用品を積極的に流用しました。また、多少オーバースペックであっても、「あかつき」などの既開発品をそのまま再製作することで開発リスクを軽減しました。一方、ミッション部については、マンパワーを集中させ、若手職員・学生が開発を主導しました。

IKAROSの開発が間に合わない場合、打上げ延期は認められず、ダミーウェイトの役割を果たすために未完成のまま強制的に打ち上げられることとなります。この罰ゲームを避けるため、どんなに苦しくてもスケジュールに適切なマージンを確保するようにしました。特に「あかつき」と交互に実施する熱真空試験・振動試験はスケジュール変更が困難であることを踏まえ、その前に1ヶ月の予備期間を用意しました。結果、フライト品の製作の遅れをここで吸収し、スケジュールをキープできました。また、射場への移動前にも2ヶ月の予備期間を設けましたが、ここも総合試験で判明した問題点の改修作業などに充てることができ、ギリギリ間に合わせることができました。

このように、IKAROSの開発には多くの困難を伴いましたが、IKAROSのミッションは世界で初めてソーラーセイルに挑戦するという大変魅力的なものであったため、チームの士気を維持するのは比較的容易でした。この厳しい条件で開発されたIKAROSが大成功を収めることができた一番の要因は、やはりワーキンググループで事前研究をしっかりとやっていたことだと思います。

上記の体験から、コスト・スケジュールの制約は決して甘く見ることはできないですが、工夫次第で何とかなるものであり、やりたいことを諦める理由にはならない、と考えるようになりました。

(もり・おさむ)