ソーラー電力セイル探査機は、"日本独自のアイデア"であり、2001年度の検討チーム(ワーキンググループ)発足以来、多くのJAXA職員、大学や研究機関の専門家、学生が、その実現に向けて研究開発を積み重ねてきました。その結果として、木星トロヤ群小惑星への「ソーラー電力セイル探査機による外惑星領域探査の実証」ミッションは、宇宙研公募中型計画の二つの候補のうちの一つとして選定されています。現在は次フェーズへの移行に向けた準備の段階です。

ここでは、今までの研究開発成果がどのように実を結ぼうとしているかについて、その一部をご紹介します。

①ソーラー電力セイル

ソーラー電力セイルには、探査機に必要な電力を発電するための薄膜太陽電池のほか、姿勢を制御する機器や薄膜構造の理学観測機器が搭載されます。

各種バス機器とイオンエンジンを駆動するための電力は、地球近傍で約5.6kW、トロヤ群小惑星近傍で約3kWです。太陽から遠く離れたトロヤ群小惑星では、太陽光強度が地球近傍に比べて1/30程度まで弱くなるため、最も発電が苦しくなる小惑星での要求電力を確保することが、ソーラー電力セイルの大きさを決める要素になります。現在、この要求を満たすようにソーラー電力セイルを設計すると、一辺が約50mの大きさになります。

このソーラー電力セイルの設計と製作工程を検証するため、実際と同じ大きさである50m級セイルの試作と、その収納展開試験を進めています。試験の際は、大きさや清浄度・温度などを考慮し、より良い環境を使える筑波宇宙センターの設備を用いています。

搭載する薄膜太陽電池(CIGSタイプ)は、耐宇宙環境性に優れ、かつフレキシブルで軽量なものです。ソーラー電力セイルの製作をシンプルにするため、薄膜太陽電池1枚の大きさは、できるだけ大きくすることにしています。現在は、フライト品を想定した試作品の性能・温度特性の取得、紫外線や放射線などの耐宇宙環境性評価のほか、ソーラー電力セイル製作や軌道上でセイルを展開する際にかかる荷重による影響の評価を行っています。

図1 一辺50mのセイルの試作

図1 一辺50mのセイルの試作

②子機(ランダー)

今回のミッションでは、小惑星を探査するための子機(ランダー)を搭載しています。この子機が単独で小惑星へ降り立ち、その素性を明らかにするわけです。この子機が持つメインの機器は、「サンプル採取機器」と「サンプル分析器」の二つです。子機は小惑星の表面および地下1mのサンプルを採取した後、その場ですぐに分析を行います。小惑星まで片道10年以上の飛行時間を要する気の長いミッションです。世界に先駆けていち早く小惑星を調べるため、サンプルを地球へ持ち帰ることなくデータを取得できるようにしているのです。この子機開発はDLR(ドイツ航空宇宙センター)と共同で進めており、2年間にわたる合同検討会と、DLRの設備を利用したCE Study(Concurrent Engineering Study:1週間の集中検討会)により、概念設計を行いました。

図2 CE Study(2015年8月)の様子と子機の検討結果

図2 CE Study(2015年8月)の様子と子機の検討結果

③サンプルリターン

小惑星で分析を行った後はオプションとして、小惑星のサンプルを地球へ持ち帰る「サンプルリターン」を行います。これを実現するためには、子機が採取したサンプルをソーラー電力セイル探査機に受け渡さなければなりません。地球周回衛星では、国際宇宙ステーションと宇宙ステーション補給機「こうのとり」に代表されるような2機間のドッキングが頻繁に行われていますが、本ミッションのように地球から遠く離れた場所での例は過去にありません。地球からのサポートなしに2機が自律ドッキングをすることを目指し(まるでSF!)、現在はアンテナを用いて互いの相対位置を認識する手法の検討や、安全にドッキングをするための機構・サンプルを搬送する機構の試作、試験を進めています。

(かとう・ひでき、まつもと・じゅん)