宇宙最大の爆発「ガンマ線バースト」と偏光観測

ガンマ線バースト(GRB)とは、100億光年以上先の、初期宇宙から数十秒間という短時間にだけ大量のガンマ線が飛来する現象です。ガンマ線の総エネルギーは超新星爆発をはるかにしのぐような、宇宙最大の爆発現象と認識されています。最近、このGRBという現象がとても注目されています。GRBは一瞬だけではありますが非常に明るく輝くため、はるか昔の初期宇宙を見渡せる光源として利用されているからです。

金沢大学・山形大学・理化学研究所のグループは、GRBの放射メカニズムを探求するために「ガンマ線偏光」を観測できる小型の観測装置GAP(Gamma-ray Burst Polarimeter)を開発し、IKAROSに搭載しました。光(電磁波)は電場と磁場が振動しながら伝わる波です。電場が振動している向きを偏光方向と呼び、たくさんの光を観測したときに全体として電場がそろっている場合は「偏光している」といいます。自然現象で発せられる光は、ほとんど偏光していません。偏光した光は、特別な条件下でないとつくられないのです。

偏光した光の最も有名な例として、磁場のまわりに絡み付く電子が発する光(シンクロトロン放射光)があります。逆に、光が偏光している場合、そこにはよくそろった磁場があると推測できます。磁場は目に見えないので直接観測することは困難です。偏光観測は、磁場の存在を明らかにする最も良い手段と考えられていて、電波や可視光では頻繁に利用されています。ガンマ線は波長の短い電磁波ですが、これまでにガンマ線の偏光観測はほとんど例がなく、信頼度の高い観測結果もありませんでした。我々はGAPにより、世界に先駆けたガンマ線偏光観測を行うことができました。

GAPによる偏光観測

図1にGAPのフライトモデルの写真を示します。直径17cm、 高さ16cm、重量3.7kg、消費電力5Wとガンマ線観測装置としては非常に小さいですが、ガンマ線の偏光を測定する機能を持った世界的に見ても大変ユニークな観測装置です。ガンマ線は偏光方向と垂直に散乱しやすいという性質があるため、その散乱角度分布を測定できるようになっています。

図1 GAPのフライトモデル。右の円筒形のものが偏光検出器で、左の小さな箱は検出器を駆動するための電源。

図1 GAPのフライトモデル。右の円筒形のものが偏光検出器で、左の小さな箱は検出器を駆動するための電源。

GAPはIKAROSが宇宙を航行している最中に、30例のGRBを検出しました。その中で特に明るい3例のバースト(GRB 100826A、 110301A、 110721A)から、統計的に有意なガンマ線偏光を検出しました。このうち最初の例であるGRB 100826Aは継続時間が100秒程度と長かったため、バーストの前半と後半で偏光を調べたところ、偏光角の方向が大きく変化していることを検出しました。前後半の平均的な偏光度としては、27±11%であるという結果が得られました。一方で、GRB 110301AとGRB 110721Aからは70%程度の高い偏光度を検出しましたが、バースト中の偏光角の変化は検出されませんでした。

これらの観測結果より、GRBを発生させる相対論的な速度を持ったジェット内部には強い磁場が存在していて、かつ内部構造(いくつかの放射領域)を持っていると考えられます。そして、GRBのガンマ線放射は、ジェット内部の磁場を利用したシンクロトロン放射の可能性が極めて高いことを示しました。GAPによるガンマ線偏光観測で、これまでは見えなかったジェットの内部を調べることができたのです。より詳しいGAPの観測については、『ISASニュース』2014年6月号にも記事が掲載されていますのでご覧ください。

偏光で時空構造を捉える

偏光した光が方解石のような異方性のある結晶の中を通過すると、電磁波の振動する電磁場が結晶から影響を受けて、偏光方向が回転するという現象がよく知られています。もし、宇宙空間に何らかの異方性が存在している場合、100億光年先から飛んでくるガンマ線はその影響を受け、偏光方向が回転してしまうはずです。

一般的に、電気のプラス・マイナスを反転させても、座標を反転させても(鏡に映したような世界でも)、時間の流れを反転させても、物理学の本質は変わらないと考えられています。しかし、物理学の究極理論である量子重力理論などでは、これらの対称性(CPT対称性)が保たれている場合と、破れている場合の二つが考えられています。もし対称性の破れている時空の中を偏光したガンマ線が100億光年という途方もない距離を飛んでくると、異方性のある結晶の中を進むときと同じように偏光方向が回転してしまうので、偏光観測によって時空の対称性が保たれているかどうかを検証することができます。

そのような効果を考慮して、GAPで観測した偏光データを詳細に解析したところ、我々の宇宙は極めて正確に対称的である(CPT対称性が保たれている)ことを実証することができました。未開拓の分野であったガンマ線偏光に挑戦した結果、GAPのような小さな観測装置であっても、物理学における最先端の究極理論の検証もできたのだと思います。

(よねとく・だいすけ)