系外惑星 OGLE-2012-BLG-0950LBの想像図。©NASA/GODDARD/F. REDDY

系外惑星 OGLE-2012-BLG-0950LBの想像図。Credit: NASA/GODDARD/F. REDDY

概要

鈴木大介氏(JAXA宇宙科学研究所)率いる国際共同研究チームは、重力マイクロレンズ効果を用いた太陽系外惑星探査の結果から推定される冷たい惑星(主星から遠い公転軌道をもつ惑星)の惑星/主星の質量比分布と、惑星形成理論モデルから予測される質量比分布を比較しました。その結果、惑星があまり形成されないと考えられる20-80地球質量の範囲において、理論予測よりも10倍程度多くの惑星が存在しているという結果が得られました。本観測結果を説明するためには、太陽系形成モデルから発展してきた標準的な惑星形成モデルの修正が必要かもしれません。
本研究成果は、2018年12月20日発行の米国の天文学専門誌 Astrophysical Journal Letters に掲載されています。

本文

標準的な惑星形成理論モデルであるコア集積モデルでは、次のように巨大惑星が形成すると予想しています。まず、惑星形成の現場である原始惑星系円盤において、微惑星が集積し地球質量の10倍程度に成長した"コア"が形成します。コアの周りにガスが十分存在すると、そのガスを大気として集めます。大気の重さがコアの重さくらいまで成長すると、周囲のガスが惑星に暴走的に落ち込み、一気に木星の様な巨大ガス惑星に成長します(暴走ガス降着過程)。暴走ガス降着過程は、原始惑星系円盤中のガスが散逸する時間に対して非常に短い時間で起きると考えられています。一方、コアが形成された時に周囲に十分なガスがないと、海王星程度の質量の惑星が形成します。そのため、コア集積モデルでは、海王星の様な惑星と土星や木星の様な惑星が多く形成され、その間の20-80地球質量の惑星は形成されにくいことが予測されています。

研究をリードした鈴木大介氏は「重力マイクロレンズ法は系外惑星の検出法の一つです。この方法で検出できる主星から遠い軌道を公転する冷たい惑星の軌道付近は、原始惑星系円盤中で塵(ちり)に加え氷も存在するため固体成分が多い領域です。そのため、惑星形成の効率が最も高い領域であり、木星の様な巨大ガス惑星の形成現場と考えられます」と解説します。

コア集積モデルは有力な惑星系形成理論ですが、太陽系の状況に基づいて構築された理論であり、系外惑星系に当てはまるかどうかはわかっていません。コア集積モデルの予測を確かめる方法の一つは、系外惑星の質量分布を観測から調べることです。

系外惑星検出法の一つである重力マイクロレンズ法は、木星の様に主星から離れた軌道の冷たい惑星を検出することができ、地球質量程度の軽い惑星まで検出することができます。現時点では、冷たい惑星のうち土星質量より軽いものを検出できるのは重力マイクロレンズ法だけです。

本研究では、重力マイクロレンズ探査で発見した30個の惑星を含むデータを統計解析し、見積もった冷たい惑星の質量比(主星質量に対する惑星質量の比)分布を、コア集積モデルから予測される質量比分布と比較しました。その結果、20-80地球質量に相当する質量比を持った惑星の観測数が、モデルから推定される量よりも約10倍多いということを見出しました。

惑星形成理論モデルが予測する冷たい惑星の質量比分布と観測結果との比較が初めて行われ、20-80地球質量の惑星は予測よりも10倍ほど多く存在することがわかりました。

研究をリードした鈴木氏は「巨大ガス惑星形成過程は、地球のような主星近傍の岩石惑星に水を供給したとも考えられています。そのため、実際には20-80地球質量の惑星が多く分布しているという、今回明らかになった観測結果と理論予測の不一致を今後解明していくことが、巨大ガス惑星形成だけでなくハビタブル惑星形成も含めた普遍的な惑星形成の理解へ繋がると期待されます」、と語っています。

さらに鈴木氏は「今後、10m級の大型望遠鏡による追加観測によって、マイクロレンズ探査で検出された惑星の質量を精密に測定し統計を増やすことが、惑星形成解明への次のステップとなります」とさらに研究を進めることに意欲を示しています。

今回の観測データは銀河系中心方向の恒星密度が比較的高い領域で集められました。今後、違う領域の観測データを増やすことが出来れば、コア集積モデルによる惑星系形成理論の見直しが必要なのか、もしくは、惑星系は環境に依存するのかといった議論も進むと期待されます。

土星と海王星、系外惑星planet OGLE-2012-BLG-0950Lbの想像図を比較したもの。©NASA/JPL/GODDARD/F. REDDY/C. RANC

土星と海王星、系外惑星planet OGLE-2012-BLG-0950Lbの想像図を比較したもの。
Credit: NASA/JPL/GODDARD/F. REDDY/C. RANC

本研究は、科学研究費(JSPS2425004, JSPS26247023, JSPS23340064, JSPS15H00781, JP16H06287, JSPS17H02871、JP18J00897)の支援を受けて実施されました。