7.研究施設

a.鹿児島宇宙空間観測所(Kagoshima Space Center)
 観測ロケット及び衛星打上げとその追跡データ取得のための実験場で,昭和37年2月に開設された.観測所は鹿児島の東南岸,内之浦町の太平洋に面した長坪地区にあり,丘陵地を切り開いて造成された数個の台地で構成されている.S型及びK型ロケット打上げのためのKSセンタと,ラムダ型及びミュー型ロケット打上げのためのミューセンタの二つの発射場をもち,また発射管制のためのコントロールセンタ,観測データ受信記録のためのテレメータセンタ,ロケットを追跡し飛翔経路を測定するレーダセンタ,搭載機器の組立調整を行う各種センタのほか,衛星の整備調整のためのクリーンルームを備えた衛星整備センタ,衛星の追跡データ取得のための衛星追跡センタ, 衛星テレメータセンタ,衛星光学追跡センタなど, 各種の施設,設備がおかれている.敷地総面積約72ha,建物数71,棟建屋延面積18,079m2となっている.

 ラムダロケット用ランチャ
 ラムダ型ロケットの打上げ用で,吊り下げ発射方式を採用.ブーム長21m,重量125ton,発射点固定式で旋回,ブームなどの駆動諸操作は油圧式を用いている.

 S-520型ランチャ
 S-520型ロケットの打上げ用で,ディーゼルエンジンを動力源とした自走式のランチャである.ブーム長9.8m,全重量約22ton,上下角0〜85°,旋回角±15°,油圧駆動方式.

 中型ランチャ
 直径110mmφ以上310mmφまでの中型ロケット発射用で,ブーム長9m,油圧駆動方式.

 門型クレーン
 ミューセンタには,ミュー型ロケットの組立,運搬用として,40tonクレーンと,全天候型50tonクレーン×2基の2種類がある.主に40tonクレーンは,M組立室内でロケットの組立に使用.50tonクレーンは,ロケットの組立や整備塔までのロケットの運搬作業に使用.
      50tonクレーン:揚程11.5m,走行速度1.25〜 25m/min,巻上基50ton×2台
      40tonクレーン:揚程  7m,走行速度1  〜7.5m/min,巻上基10ton×4台

 KSロケット用天蓋開閉式発射保護装置
 本装置は,小型及び中型観測ロケットの屋内打上げを目的とした鉄筋コンクリートの建築構造物(発射室高さ16.6m,長さ17m,幅9m)である.本室内での発射可能な角度は,上下角70°〜80°,方位角N+130°からN+160°である.

 ミュー型ロケット発射装置
 本装置は発射点固定のランチャ(吊下げ傾斜発射ガイドレール方式)と固定式整備塔(高さ47m,幅17m,奥行13m,11階天井に50t走行クレーン,総重量約1000t)で構成,ランチャブームは直立旋回駆動で整備塔内に格納され,ロケットの組立とランチャへの装着が行われる.発射角度範囲は上下角90°〜78°,方位角N+85°からN+115°,また打上げ作業時のロケット頭胴部の環境保持を目的としたN2ガスパージ機能と大型空調装置を装備している.


 M用発射管制装置
 ミューセンタの地下室内に設置,中央司令卓,タイマ点火系,ランチャ,搭載機器,集中電源制御系,衛星系の各管制装置からなっている.

 KS用発射管制装置
 発射管制中央司令卓,発射管制盤,搭載機器管制盤などからなり,ロケット打ち上げ実験時等の安全確保を目的とし,各班の作業操作に対する指令系統を構成している.

 標準時刻発生装置
 JJY標準電波及びロランC電波,GPS電波により較正,±1×10−11/月の安定度を持つルビジウム発振器を用いている.本装置で作られた標準時刻信号は伝送装置により所要の機器に供給.

 自動追跡レーダ装置(4mφレーダ)
 コニカルスキャンニング方式の自動追尾レーダ,ロケットをランチャ上より自動的に捕捉追尾し,飛翔経路を標定する.使用周波数1.6GHz帯,送信出力500kW.測角精度0.05°rms,測距精度10m rms.

 ロケット追跡用Lバンドレーダ装置(3.6mφレーダ)
 3チャンネルモノパルス方式の自動追跡レーダ,使用周波数,送信出力は前項,自動追跡レーダ装置と同じ,測角精度0.05°rms,測距精度10m rmsである.本レーダは主に観測ロケットの追跡に用いる.

 旧精測レーダ装置
 ミュー型ロケット等の飛翔経路の精密標定と誘導制御等に用いる指令信号を送信する.使用周波数5.6GHz帯,送信出力1MW主アンテナ直径4m,測角精度0.006°rms,測距精度4m rms.追跡データは光モデムを介してRG計算機システムとRS計算機システムへ送出し,新精測レーダのバックアップに用いる.

 新精測レーダ装置
 上記旧精測レーダに代わってミュー型ロケット等の飛翔経路の精密標定と誘導制御等に用いる指令信号を送信する.使用周波数5.6GHz帯,送信出力1MW(クライストロン)200KW(TWT),主アンテナ直径7m,初期補足レーダ平面アレーアンテナ(直径90cm).測角精度0.003°rms,測距精度4m rms,追跡データは,光モデムを介してRGとRS計算機システムの他,各アンテナ設備(テレメータ,コマンド等)へ送出する.

 ロケット電波誘導装置(RG)
 S-520型,M-V型等ロケットの電波誘導計算,コマンド送出用電子計算機システム,新旧精測レーダ,PCMテレメータ,20アンテナ等からのデータ入出装置で構成.飛翔経路の標定と誘導制御計算を,リアルタイム処理し,表示,コマンド信号の送出を行う装置.

 飛行安全監視計算機システム(RS)
 ロケット飛翔中の状況を監視し,必要な保安処置を迅速に行うために開発されたシステムである.レーダ,テレメータ,光学データを取得処理しその飛翔状況を最も的確に判断できるような形式で2台のグラフィックディスプレイに表示.


 テレメータ受信用高利得空中線装置
 300MHz帯のロケットテレメータ電波の受信に使用.導波器に円板を用いた16素子のアレイで構成され,左右両偏波の受信端子を有し,ダイバシティ受信を可能にしている.

 テレメータ受信空中線
 主に観測ロケットのテレメータ電波の受信に使用.4素子のアレイで構成された300MHz帯のアンテナである.

 テレメータ受信記録装置
 ロケットからのテレメータ信号受信復調装置.300MHz帯の受信復調とIRIG-Bandの周波数多重化のFM方式とPCM-PM方式の復調が可能.

 高速度データ受信記録装置
 ロケットからの大容量データ受信,復調記録装置.300MHz帯及びS帯(2GHz)のPCM-PSK方式によるビット周波数204.8kbpsまでの復調記録装置.8ビット/ワードのデータ62と16ビットの同期ワードで構成される高速PCMデータの復調記録が出来る.

 高速PCMテレメータ装置
 主にミュー型などの大型ロケットから送られる振動特性等の広帯域信号受信に用いる.S帯のPCM-QPSK方式によるビット周波数870kbpsの高レートの復調,記録ができる.

 テレメータデータの処理装置
 ロケットのテレメータデータ処理装置.ミニコンピュータA-100及びA-80システムで構成.各テレメータ受信記録装置からのデータ取込みと各種計測データ等のリアルタイム処理,及びQL表示機能を有する.

 コマンド送信装置
 周波数450MHz,出力1kW,大型の多段式ロケットの点火司令並びに異状飛翔時の保安を目的とした点火の停止,あるいは推力停止などに用いる.

 ドップラ追跡受信装置
 400MHzの受信装置,衛星の運動に伴うドップラ周波数の精密測定を行う.データは,衛星の軌道標定に用いる.

 S/400MHz帯ダイバシティ受信装置
 本装置は衛星からのS帯(2270〜2290MHz)あるいは400MHz帯の水平一垂直(直線偏波時)または,右旋−左旋(円偏波時)を組とする受信波を中間周波段階において最適比合成し,ベースバンド復調用信号として送出する機能を有する.

 科学衛星データ受信,復調装置
 科学衛星テレメータ受信,復調記録装置.400MHz帯とS帯の2系統の受信装置は,いずれもダイバシティ方式を採用.

 科学衛星コマンド送信装置
 コマンド符号発生装置と送信装置で構成されている15ビットの循環PN符号によるコマンド符号を1kWのS帯,送信周波数で送出する.
 10mφパラボラ空中線装置
 主として地球周回衛星の追跡に使用.本装置は400MHz帯及びS帯の信号によるアンテナ角度の追尾並びにコマンド送信10kWが可能.

 20mφパラボラ空中線装置
 主として地球周回衛星の追跡用として使用.衛星からのS帯(2200〜2300MHz),X帯(8400〜8500MHz)信号によるアンテナ角度の追尾,S帯(2025〜2120MHz)コマンド送信10kWが可能.

 科学衛星追跡用S/X帯送受信設備
 地球周回軌道に打ち上げられる科学衛星の追跡受信に使用.S帯及びX帯の2系統の受信装置は,いずれも偏波ダイバシティ受信方式.それぞれのテレメータシステムにコンボリューショナル符号の複号機能を有する.コマンド信号の送出は,S帯で10kW(最大).また,アップリンクにS帯,ダウンリンクにS帯及びX帯の周波数を用いた距離及び距離変化率計測を行う機能を有し,PNコード方式により最大50万kmまでの距離計測が行える.

 科学衛星管制装置
 本装置は,衛星テレメトリデータより衛星運用管制に必要なデータの抽出と表示を行い,衛星運用に必要な指令信号の編集,送出照合の機能を有し,衛星に対する司令が正しく実行されていることを確認する.これにより衛星運用の省力化を図っている.

 科学衛星光学追跡装置
 科学衛星軌道の精密測定を目的とするもので,主鏡後景50cm,焦点距離75cmのシュミット望遠鏡.架台は4軸方式で,固定法及び追尾法の2方法で撮影を行う.カメラは70mm×150ftのフィルムを用い,画角は4.2°×14°である.パーソナルコンピューターにより衛星軌道に合わせて架台軸の運動を制御.

 科学衛星追跡用大型アンテナ設備
 主鏡34mφ,S帯捕捉用2mφ,X帯捕捉用1mφのパラボラアンテナ系で構成.アンテナの自動追尾はS/X帯受信周波数(2200〜2300MHz,8400〜8500MHz)で行い,同時にKa帯(17200〜17300MHz)の受信機能を有している.送信周波数帯域はS帯(2025〜2120MHz)とX帯(7145〜7235MHz)である.主に高速データを必要とする科学衛星に用いる.

 S/X帯追跡管制設備
 本装備は送信設備,受信復調復号装置,距離計測装置,試験校正装置,局,及び衛星運用管制装置等で構成.通常は34mφアンテナ設備を接続され高速データレートを必要とする科学衛星や,惑星探査機等の追跡運用に用いる.最高速の復調データレートは10Mbps.

 観測ロケット姿勢制御装置用地上支援装置
 本装置は,S-520型ロケットに搭載される姿勢制御電子機器(CNE)の地上支援装置.飛翔前に行う機器単体調整及び他搭載機器等との噛合せ試験に用いる.

 観測ロケット姿勢制御装置用発射支援地上装置
 本装置は,S-520型ロケットに搭載される姿勢制御電子機器(CNE)のロケット発射時に使用する地上支援装置.姿勢センサ部と搭載計算機ソフトウェアの起動,停止,データの設定等に用いる.

 M-V慣性誘導装置用発射地上支援装置
 本装置は,M-V型ロケットに搭載されている慣性誘導装置(ING)のロケット発射時に使用する地上支援装置.ロケット発射時にINGの立ち上げ,制御パラメータを含む初期データの設定,内部データの監視等を行う.

 M-V慣性誘導装置用地上支援装置
 本装置は,M-V型ロケットに搭載されている慣性誘導装置(ING)の飛翔前試験に使用.ING単体試験,他搭載機器との噛合せ試験,3軸モーションテーブル試験時等に,INGの立ち上げ,初期データの設定,内部データのモニタ等に使用する.

 SJヒドラジンエンジン整備装置
 M-V型ロケット第三段には,ヒドラジンを燃料とするサイドジェット(SJ)装置が搭載され,第三段の推力飛行中はロール制御を,その後の慣性飛行中は3軸制御を行う.本整備装置は,ロケット発射前のヒトラジンエンジンの点検整備に用いる.

 ヒドラジン,四酸化二窒素(NTO)供給装置
 衛星の姿勢及び軌道制御用として搭載される二液式(ヒドラジン,NTO)方向制御装置にそれぞれの液を供給する装置.

 ヒドラジン,NTO検知警報装置
 M-V型ロケット・衛星の姿勢及び軌道制御用燃料であるヒドラジン,NTOによる危害を防止するため,検知警報システムを設置している.検知機は整備塔7,9階とM組立室クリーンルーム内にM警報機は警備塔をはじめとして各要所に設置しており,観測所受付けにおいては4時間体制で監視している.

 SJ-TVC管制卓
 M-V型ロケットの各種制御装置の飛翔前試験及び打上げ時タイムスケジュール内の司令応答,搭載側テレメータデータと地上設備からのデータの照合監視を行う.飛翔後においては,データ処理の機能も有している.

 TVC設備装置
 M-V型ロケットの第1,2,3段階には推力飛行中ピッチ・ヨー方向の姿勢及び飛行軌道を制御するための可動ノズル式推力方向制御(MNTVC)装置〔第1,3段〕,2次流体噴射推力方向制御(LITVC)装置〔第2段〕,第2段の慣性飛行中の方向制御用には,固体推進薬サイドジェット式方向制御(SMRJ)が搭載されている.第1,2段のロール制御には,固体推進薬式ロール制御(SMRC)装置が搭載されている.本設備装置は,以上の各段制御装置のロケット飛翔前の点検及び整備を行うことを目的とする装置である.

 TVC噴射体(過塩素酸ナトリウム55%水溶液)供給装置
 M-V型ロケット第2段2次流体噴射式推力方向制御(LITVC)装置に噴射体である過塩素酸ナトリウム55%水溶液(SP55)を供給する装置.

 TVC注気装置
 整備塔内ランチャ上のロケットのTVC装置に,高圧窒素ガス製造設備により気畜された窒素ガスを供給するためのもので,M管制室より遠隔操作される.


 高圧窒素ガス製造整備
 窒素ガスを製造,供給するための設備で,液化窒素貯槽(内容積2900),高圧液化窒素ポンプ(吐出量120Nm/h),蒸発器(内容積900,使用圧力250kg/cm2),操作盤からなる.

 風向風速塔
 KS及びミュー台地に設置され,高さはそれぞれ50m,80mの塔で,地表付近の風向風速の高度分布を測定する.

 風向,風速設定装置
 ゴム気球に吊したラジオゾンデを放球高度約30kmまで自動受信し,上層の風向,風速,気温,気圧に関する情報を取得し,主に,ロケット発射角の補正に役立てる.

 発射角修正量計算装置
 風向風速塔及び風向風速レーダで観測した風のデータよりロケット発射角に及ぼす影響を算出,発射角の修正量を決める.

 気象衛星画像受信装置
 気象衛星ひまわりの画像を受信し打上げ準備作業中の局地気象予報に役立てる.

 ファクシミリ装置
 天気図の無線も射伝送を受信記録する.

 レーダー雨量計データ受信装置
 打上げ作業時の局地気象状況の把握のために設置.建設省が全国に配線中のレーダ雨量計のデータ受信端末装置.雨域の移動状況を実時間で得ることが出来る.

 雷検知予報装置
 ロケット発射作業時の安全性確保の一環として設置,半径50km程度の雷発生点を求める.宮原及び気象台地に設置された雷電波の到来方位測定器による方位情報をリアルタイムで処理し,雷発生地点をもとめ,雷雲の位置,移動方向予測等に使用.

 電波視準装置
 34mφアンテナ,20mφアンテナ,10mφアンテナ,精測レーダ,3.6mφ及び4mφレーダの視準その他の調整のため,視準塔が設けられ,所要の信号発生器とアンテナが設置されている.

 追跡データ電送装置
 宇宙開発事業団軌道計算センターと鹿児島宇宙空間観測所とを結び,衛星軌道データの受信と追跡データの伝送を行う.

 マリン・レーダ装置
 実験場沖海面の船舶保安の目的で実験場沖の船舶を捜索表示する.

 無線連絡設備
 SSB50W固定局,SSB10W移動局,海岸局よりなる.

 ITV装置
 作業状況,ロケット発射状況を監視する.カメラはK・S用として4台,ミュー用に10台,モニタはK・S及びミュー用で合計42台用いている.

 発射司令専用電話装置
 K・S系として1系統30回線,ミュー系として6系統110回線.

 外部電源,充電電源装置
 外部電源は搭載機器の発射前のチェック時等に電力を供給する装置.
 充電電源はロケット搭載バッテリー(集中電源)を安全に充電する装置.

 光学観測装置
 6箇所の観測点に各種の観測装置及び高速度カメラが配置されている.主なものを列挙すると,
1)サーボ駆動追跡装置(1式):動作測度30°/秒,精度20″で35mm高速度計測カメラ(10〜20f/秒)及び各種ITVカメラに超望遠レンズを付け,手動,プログラム駆動が可能.
2)手動追跡装置(2式):精度60″で35mm高速度計測カメラ,目録記録用16mmカメラを連動させ手動追跡する装置,付加設備のビデオ機器を含む飛翔保安用データ出力装置を1式持つ.
3)16mm各種高速度カメラには以下がある.
 ・プリズム式高速度カメラ
  16HS型(500〜5,000コマ/秒)
  STALEX WS・2型及びWS・3型(250〜3,000コマ/秒)
 ・かき下し式高速度カメラ
  Photosonics 1PL型(10〜500コマ/秒)
  Locam M・51型(10〜500コマ/秒)
その他,追跡用ズーム駆動部を持つ超望遠ビデオ記録システム及び画像伝送システムなどを用いる.

 自家用発電機設備(非常用)
 構内の電源は常時商用により供給されているが,ロケット打上げ時において商用が停電になった場合に実験に支障なく電源を供給するための設備である.タイムスケジュールに合わせて2基の発電器を商用と並列運転し,無停電切り替えにより電源の供給を確保する.
 台風等災害時には構内保安用電源として使用.
 設備容量等は,
 1号機 内燃機関 6気筒4サイクルディーゼル機関
          1,200rpm,950PS
   発電器 三相 6,600V 60Hz 750KVA 力率80%
 2号機 内燃機関 6気筒4サイクルディーゼル機関
          1,200rpm,600PS
   発電器 三相 6,600V 60Hz 500KVA 力率80%

 60cm反射望遠鏡
 主としてX線星など特異な星の光学的観測を光電観測及び冷却CCDカメラによって行うことを目的とする.口径60cm反射望遠鏡を迅速かつ正確に目的の天体に指向し日周運動に従って追尾する.      (宇宙放射線)


 宇宙科学資料センタ
 ロケット,人工衛星,宇宙観測器,実験場設備などの実物,模型あるいは写真を展示し,広く一般民間の方々に宇宙探求の理解を深めてもらう目的で建設されたものである.

b.能代ロケット実験場(Noshiro Testing Center)
 能代ロケット実験場(NTC)は,鹿児島宇宙空間観測所(KSC)から打ち上げられる観測ロケット,宇宙探査機打上げ用Mロケットの研究開発のために必要な各種固体ロケット・モータの地上燃焼試験を行うために,1962年に開設された.1975年から液酸・液水エンジンの研究開発が開始され,その基礎実験を行うための施設設備が増設された.秋田県能代市浅内の日本海に面した南北に細長い敷地に,固体ロケット・モータの地上燃焼試験に必要な諸施設設備(大型大気燃焼試験棟,真空燃焼試験棟,冷却水供給設備,高圧高純度窒素ガス製造気蓄設備,火薬庫,火工品操作・接着剤調合室,エンジン準備室,第1・第2計測室,研究管理棟,中央管制設備,データ集中処理装置,器材庫等),及び,液酸・液水エンジンのシステム試験を行うための諸施設設備(水素液化装置,同貯槽,竪型燃焼試験棟,極低温推進剤試験棟,エア・ターボ・ラムジェットエンジン試験設備等)等の主要建屋が設置されている.

 固体ロケット・モータ真空燃焼試験設備(真空燃焼試験棟)
 棟内には,幅7.6m,高さ6m,長さ13.3m,内容積475の大型真空槽が設置されている.重量60tの真空槽天蓋部が油圧自走装置によって適宜退避できる構造になっており,これにより槽内テストベンチでは,長さ10m,直径3m,総重量30t,推力150tまでの固体モータの真空燃焼試験及び大気燃焼試験を行うことができる.主要付帯設備として,150横型冷却水槽,15t2連天井走行クレーン,計測・操作・電源系準備室,実験班控室等が完備しており,1982年の完工以来今日まで,槽天蓋を退避させた状態での大気燃焼試験,真空槽に大気開放拡散筒を結合して行う真空燃焼試験が頻繁に実施されている.また,同真空設備の大容量と構造上の利点を生かして,ペネトレータ貫入実験等,様々な理工学実験にも活用されている.

 LOX/ALC-GGロケット・モータ高空性能試験設備
 上段モータ及び宇宙探査機用軌道変換モータは,比推力増強の目的でますます大開口比化するとともに,段間接手の限られた空間内に大型ノズルを収納するために伸展ノズル,伸展・展開ノズル等の新機構が導入される.この様な大開口比ノズルの推進性能,伸展ノズル,伸展・展開ノズル等の耐熱特性を実証的に検証するためと,ノズル内混相流の挙動解明と解析手法の確立を図るために,ロケット・モータ高空性能試験設備HATS(High Altitude Test System)の導入が計画され,1992年度に完工した.同HATSは,流量率84kg/s,有効燃焼時間120sの液体酸素・25%水エタノールを酸化剤・燃料とするガスジェネレータの高温高圧燃焼ガスを作動流体とする亜音速-超音速エジェクタにより,推力10t,ノズル開口比100程度までの上段モータの高空性能試験を行う能力を持つ.その排気系は,真空燃焼試験棟の海側屋外に真空槽に直結して設置され,供試モータは同真空槽内で燃焼試験に供される.一部の固定設備を除き,装置は全て分解可搬型機材で構成され,所用時のみ真空燃焼試験棟周辺に組立て展開される.同HATSは,排気系を工夫することにより,高エンタルピー風洞としての用途も可能である.

 大型固体ロケット・モータ大気燃焼試験設備(大型大気燃焼試験棟)
 M-V型ロケット開発計画の始動に呼応して,総重量82t,薬量71.7t,推力約400t,可動ノズル推力方向制御装置装備の第1段ブースタM-14の地上燃焼試験を行うための大型大気燃焼試験設備の建設工事が1990,91,92の3年度にわたって行われ,1992年6月に完工した.同設備は基礎,モータ組立・分解塔設備,懸垂式テストスタンド設備,計測・操作・電源系準備室より構成され,テストスタンドを覆う固定及び移動ドームにより供試モータを屋外気象条件から保護する.テストスタンドから約30mの距離に基礎と一体化して設置された耐火コンクリート製火炎偏向盤により,排気プルームを上空に偏向,拡散させて隣接海域の汚染を予防する.
 付帯設備として,一級火薬庫,危険物保管庫,火工品操作・接着剤調合室建屋が新営された.
 液水液酸エンジン燃焼テストスタンド
 推力7〜10トン級液水/液酸ロケットエンジンの燃焼試験を行う設備である.試験設備はタンクアダプター,推力アダプター,各種ガスの供給・排気系及び計測制御系から成っている.ステージシステム試験を行う時にはタンクアダプター及び推力アダプターを取り外し,代わりにシステム試験用アダプターに置換えて試験を実施する.各アダプター及びエンジンは,器材庫で整備された後レール上を移動してたて型スタンドに運ばれ,スタンド備え付けの起立ブームによって垂直に起立される.エンジンはその下部に取り付けられて試験するよう計画されている.運転操作は第2計測室に設置された制御盤と監視盤によりすべて遠隔で行われる.

 エアーターボラムジェットエンジン試験設備
 能代ロケット実験場に設置されている液水/液酸ターボポンプ試験設備にエアーターボラムジェットエンジン(ATRエンジン)を試験するための機能が追加してある.追加された主な設備はATRエンジンテストスタンドと高圧液体水素供給設備および制御装置である.作業性を高めるために,テストスタンドは移動式ドームで覆われている.また,液体水素供給設備は1200Lの容量を持ち最大6MPaまで加圧でき,約3分間ファン直径300mmのATRエンジンの燃焼試験を行う仕様となっている.また,この設備は高温高圧空気供給設備(タンク最高圧力15kg/cm2,容量6m3)を保有しており,最高温度約1000℃までの空気を0.4kg/sの流量で流すことができる(常温空気は1.2kg/sまで).この高温空気供給設備を用いて高空高速状態を模擬した小型の燃焼器試験やプリクーラの試験を行っている.なお,計測用のプリアンプ室がスタンドの間近に設置されている.今年度は,推力架台の改修に伴い,ATRテストスタンド水素配管系の改修,源圧弁パネル,スタンド点と第2計測間の操作計装系の光システム化を行った.

 極低温推進剤実験棟
 液水/液酸ロケット用各種コンポーネントの試験を行うために設けられたもので,中央の管制室をはさみ,ターボポンプ試験室,大型タンク試験室,準備室が隣接している.ターボポンプ試験,液水/液酸タンク断熱試験及び熱交換器や弁あるいは流量計測器といった小型コンポーネントの試験を同棟内で実施することができる.

 10m3液水貯槽
 液水エンジンの開発試験の進展に伴って,より大量の液体水素を各試験設備に供給する必要が生じたため,容量10の液化水素貯槽を昭和54年度に新設した.本貯槽は水素液化装置の運転により液化水素を貯液できるほか,タンクローリーから市販の液化水素を受け入れることができる.各試験設備への送液は第2計測室に設置された操作盤から遠隔で行うことができる.

 液化水素供給設備
 液水/液酸ロケットエンジンの開発試験に液化水素を供給するために設置されたもので,昭和52年3月に完成した.本設備は水素液化装置(液化速度30liter/hr,95%以上パラ水素)と1液化水素貯槽から構成されており,竪型燃焼テストスタンドとターボポンプ試験設備に液化水素を供給することができる.

 ターボポンプ試験設備
 推力7〜10トン級液水/液酸ロケットエンジン用のターボポンプを試験する設備である.この試験設備は液水ターボポンプと液酸ターボポンプを同時に試験できる機能を備えている.主な機能を以下に示す.
ポンプ液体である流体水素及び液体酸素の供給・排液,タービン駆動ガスの供給,ポンプ及び配管系のパージ,ポンプシールガスの供給.
 ガスジェネレータサイクル及びエキスパンダーサイクルのターボポンプの試験を行うことができる.現在はATRの試験に用いられている.

 ヘリウム回収・昇圧設備
 使用済みの低圧カードル(あるいはボンベ)からヘリウムガスを回収し,別の使用済みカードル(ボンベ)に補充填するための設備である.昇圧装置はエアー駆動の2段式圧縮機より構成されており,第1段目で90kgf/Gまで圧縮し,更に2段目の圧縮機で150kgf/Gまで昇圧する.本設備は180N/day以上の回収・充填能力を有している.

 中央データ処理装置
 燃焼実験の際の計測データの較正,収録,リアルタイム表示,後処理及び予め設定されたシーケンスに従ったリレー接点信号の出力等を一括して行う装置で第一計測室に設置されている.
 計測データはプリアンプ室に設置されたエンコーダによりディジタル化され光ファイバ経由で中央処理装置に入力される.チャネル数は128であるが,オプションとして16チャネルのアナログデータの取り込みも可能となっている.ディスプレイ等の周辺機器はLANケーブルによって接続されている.

c.三陸大気球観測所(Sanriku Balloon Center)
 科学観測用大気球の飛揚実験場である.岩手県の太平洋岸,三陸町にある.昭和45年11月に起工,昭和46年7月に開所した.リアス式の海岸を見おろす山間地,標高230mの地点に,長さ150m,幅30の飛揚台地が作られ,その一端に放球指令棟及び受信室が置かれている.また,放球指令棟の南西約700m,標高442mの台地にテレメータセンターが設けられた.その後,昭和57年に放球指令棟の増築が行われ,以後もランチャ車庫,大型観測器組立室,気球倉庫等が順次整備された.さらに,昭和61年には,観測所の西方約5kmの大窪山に直径3.6mのパラボラアンテナを持つ受信点が建設された.平成10年度に面積114m2の気球組立室の増築が行われた.また,飛揚台地も20m拡張され,長さが170mになった.
 三陸大気球観測所では,5〜6月,8〜9月,1〜2月,の時期に大気球観測実験を行っている.平成10年度までに同観測所から放球された気球の総数は323機となっている.

 遠距離長時間観測用追尾受信機
 この装置は気球から送信される1680MHz帯のテレメータ電波を受信し,観測データを得ると共にコマンド送信装置を併用して測距を行い,気球の航跡計算,表示を行う.受信アンテナ,気球追尾受信機は三陸受信棟西方4.5kmの大窪山の稜線上(標高827m)に設置されており,一部の方向を除いて半径700kmの範囲の気球に対処できる.大窪山受信棟と三陸受信棟間は12GHz帯のマイクロ回線,三陸受信棟と大気球観測所間は光ケーブルで結ばれており,観測データの取得及び受信装置の操作は総て大気球観測所で行うことができる.構成は,直径3.6mのパラボラアンテナ,自動追尾受信装置,伝送変換装置,FM及びPCM復調装置,磁気記録装置,コマンド送信装置,測距装置,時刻信号発生装置及び非常用電源装置などからなる.受信装置は同時に2つの周波数を受信でき,中間周波増幅器及びディスクリはテレメータ受信用の200kHz帯域,ITV受信用の1MHzと6MHz帯域を備えている.コマンド送信装置の周波数は72.3MHz,送信出力25W,制御方式は二波制御方式,トーンバースト方式,PCM方式が用意されており,送信機は2系統備えており故障時には自動的あるいは手動で切り換えることができる.測距装置は500Hz及び5kHzの正弦波をコマンド回線及びテレメータ回線を経由して往復させ,300m以下の精度で気球までの直距離を計測する.磁気記録装置は観測データをアナログ記録及びデジタル記録できる2系統の装置を有している.時刻信号発生器は安定度1×10−7/日の基準発信器を備え,1kHz,100Hz,10Hz,1Hz等の基準信号,磁気記録計用のIRIG時刻信号(A, B, C, E)ペンレコーダ用の直列符号型時刻信号などを出力する.また,内部にJJY受信機を備えており適宜時刻較正を行える.非常用電源装置はUPI(無停電装置)及び20kVAの水冷ディーゼル発動発電機を備えており,瞬時及び長時間の停電に対応できる.


 大気球チェックアウト装置
 気球飛場にあたって地上気象の監視,搭載機器類の総合的チェックアウト,ビデオモニター監視等を行う.また放球準備作業の確認,浮力の測定等を計算機で自動監視を行い,合わせて放球のための指令を行う.

 時刻管制装置
 安定度±5×10−9/日の水晶発信器を備えており,基準信号として1kHz,100Hz,50Hz,20Hz,10Hz,1Hzの内の1周波数を選択できる出力ボートを2系統用意している.このうち1系統は1Hzを選択して,三陸受信棟の受信装置のコントロール信号として供給している.また,IRIG-B型の変調された時刻信号を出力しており,磁気記録計用の時刻信号としている.なお,本装置は平成5年度に更新した.

 大容量ヘリウムガスコンテナ
 気球注入用ヘリウムを150気圧で貯蔵するコンテナで3基ある.常圧換算で各々730貯蔵できる.

 ランチャ回転テーブル
 気球放球時にランチャの向きを地上風の風向に合わせる回転台である.直径12mφ,回転速度0.3r.p.m.で,回転盤は15トンの荷重に耐えるようになっている.

 大気球移動観測車
 受信,追跡可能範囲を拡大するために製作された.直径2.0mφのパラボラを持つ自動追尾受信装置,コマンド送信装置,測距装置,航跡計算用計算機及びX-Yプロッタ,データ記録装置,自家発電装置等を積載している.車輪総重量は11tである.

 放球ローラー車
 「立上げ方式」によって気球放球を行うにあたって,気球をローラーで押さえ,移動しつつガス注入を行う必要がある.本設備はこの機能をもつ車で,ローラーの直径50cm,幅1m,耐浮力1トンである.総重量は約7トンである.

 気象衛星画像処理装置(ESDAS)
 気象衛星からの天気図を受信し,テープレコーダーに記録,再生を行う.大気球実験を行う際の気象判定の資料として使用する.

 立上げ放球車
 「立上げ放球車方式」において観測器を保持,放球するための車で,総重量約6.5トン,約1トンの観測器を6.5mの高さに保持できる.

 可搬型大気球受信装置
 気球用のテレメータ受信装置である.可搬型とするために,装置の各部分が30kg以下となるように製作している.装置は,直径2.0mφの網目型パラボラを持つ自動追尾二波同時受信装置,測距装置,コマンド送信装置からなる.

 局地使用型立て上げランチャー車
 気球放球用ランチャーであり,浮力1トンまでの気球を立て上げたまま自走出来る.気球浮力計測はダブルレバー方式でロードセルで計る.気球浮力を計測した後,気球下部をウインチロープで繰り出して,観測器に浮力がかかるようにして,完全立て上げ放球も可能になっている.
 局地使用型立て上げローラ車
 ガスの注入を行いながら気球を立て上げる機能を持つ車で,ローラーの直径60cm,幅1.1m,耐浮力1,000kgである.4輪駆動,4輪制動である.

 局地使用ヘリウムガス減圧器
 150気圧充填されたヘリウムガスを気球に充填する時,減圧器を介して充填している.この減圧器はガス注入者が減圧器の圧力調整弁を遠隔操作で調整し,ガス注入量を自由に可変できる.注入ガス量は毎分30kgである.

 大容量ヘリウムガス減圧器
 150気圧充填されたヘリウムガスを気球に充填する時,減圧器を介して充填している.この減圧器は2次圧力を10気圧以下に一定圧力に減圧し,その後遠隔操作の自動開閉弁によって気球注入ガス量を調整している.

 観測器移動台車
 組み立てられた観測器を放球場に移動し,放球時に観測器の設置位置の変更等をするバッテリー台車である.運転操作は手持ち操作盤で行いケーブルで接続されている.

 2トン走行クレーン
 気球組立室に2トンの走行クレーンを設置した.これにより観測器の組立調整等が容易に行える.

 海上監視レーダ
 三陸実験場沖150km以内の船舶保安の目的で船舶の捜索表示する.電波の周波数は9740MHz,空中線電力は25kWである.

 風向・風速測定装置
 小型気球(ゴム気球,薄型軽量ポリエチレン気球)に搭載したラジオ・ゾンデを高度約40km以上まで自動受信し,上層の風向,気温,気圧に関する情報を得,主に大型気球の飛翔航跡の予測及び観測器のパラシュートによる降下地点の予測等に役立てる.

 低高度宇宙通信実験装置
 気球追跡,受信可能範囲を拡大するためのコンテナーに収納された通信実験装置である.直径2mφのパラボラを持つ自動追尾受信装置,広帯域受信装置,コマンド送信装置,測距装置,GPS受信装置,データ記録装置,遠隔制御監視装置,自家発電装置等を積載している.本装置は,設置した場所から電話通信回線を通してデータの取得,装置及び気球の制御を三陸大気球観測所および他の場所から行うことができる.

 大型気球放球装置
 総浮力2トン以上の大型気球を「立上げ放球方式」において,観測器を保持・放球するための昇降機付き放球装置であり地上風の風向に合わせる回転テーブルに設置されている.

d.宇宙科学企画情報解析センター
 宇宙科学企画情報解析センター(愛称PLAINセンター)は,近年急速に多様化,高度化,国際化が進む宇宙科学の分野で,重要となりつつある世界的な情報の収集,分析及びそれに基づく研究計画の企画,立案を目的としている.
 さらに,大規模な衛星データベースへのデータの蓄積,膨大な衛星データの処理,大規模計算機シミュレーション,コンピュータネットワークによる科学衛星データの交換など,宇宙科学研究所においてコンピュータ及びデータネットワークの重要性が増しているのに対応し地上計算機システム,データ伝送ネットワーク,及び衛星データベースの設計,開発,運用を行っている.
 また,本センターでは,科学衛星によって得られた観測データを収集し,広く全国の研究者による活用の便を計るとともに,計算機シミュレーション等による理論及びデータ解析の共同利用研究を行っている.
 本センターの主な設備は,以下のとおりである.
1.センター計算機システム
  センター計算機として大きく分けて以下の4つが位置づけられている.a)スーパーコンピューターとして,VPP500/7(富士通製),b)汎用大型計算機として,GS8400/20(富士通製),c)高速計算機サーバーとして,VX2(富士通製),d)アプリケーションサーバーとして,DECalpha8200.これらのセンター計算機システムは,所内及び全国共同利用の大型計算機システムであり,衛星データ処理,各種シミュレーションをはじめとするさまざまな科学技術計算に利用される.また,当センターにおける計算機利用共同利用研究にも使用されている.汎用大型計算機システムGS8400/20では,従来の資産を生かすべくMSPのOSを利用できる計算機であるが,他の3つはUNIXシステムで稼働する.
2.衛星運用計算機システム
  衛星運用計算機システムは,GS8400/10システム(富士通製)からなり,衛星のコマンドやテレメトリデータの配信,衛星データの基本処理,軌道関連の計算などの衛星運用関連業務に使用されている.また,テレメトリデータの蓄積を行う科学衛星SIRIUSデータベースの管理も行っている.
3.データベース
  SIRIUSデータベースと呼ばれる衛星テレメトリーの生データを蓄積・保存するデータベースと,DARTSと呼ばれる1次処理を施した物理量に変換されたサイエンスデータベースがある.SIRIUSデータベースには,総容量18TBを越える大容量記憶装置が接続されている.一方,DARTSは,4.8TBの磁気テープライブラリを有する基本システムから構築される.DARTSでは国内外の科学者が自由に利用できるような一般公開のデータベース・システムを有し,平成9年5月より「あすか」「ようこう」観測データの公開をはじめた.平成10年10月よりGEOTAILデータの公開が始められた.
4.情報ネットワーク
  情報ネットワークは,LANにより所内の計算機相互を接続し,電子メール,ファイル転送などの通信機能を提供する.LANの方式としては,支線はイーサネットおよびファーストイーサネットが多く用いられているが,相模原地区においてはATM交換機を用いた超高速の幹線が設置されており,センター計算機を収容するFDDI LANと共に所内LANの中枢を担っている.外部のネットワークとは,学術情報センターとの間の高速ディジタル専用回線を通して学術情報ネットワークなどと接続している.
  SINETを通してインターネットと接続し,国内及び海外の大学・研究機関等と通信が可能である.

e.臼田宇宙空間観測所(Usuda Deep Space Center)
 臼田宇宙空間観測所は,「深宇宙探査の窓」として,昭和59年10月に開所した.この施設は,超遠距離にある探査機に指令を送ったり,探査機の微弱な信号を受けるため,都市雑音の少ない長野県臼田町に建設されている.
 宇宙工学と宇宙理学の一致協力のもと,「さきがけ」(平成11年1月に送信電波停止),GEOTAIL,「のぞみ」の追跡管制,および「はるか」の観測データ受信運用を実施している.

 直径64mφ大型パラボラアンテナ
 鏡面修正カセグレン方式で,Az-EL 駆動.右旋円偏波と左旋円偏波切換え可能で,M-70モデル50でアンテナ予報値を内挿計算するプログラム追尾及びモノパルス自動追尾機構を持つ.最大駆動角速度は,0.5deg/secである.
 S帯の送受信利得約62dB,アンテナ雑音温度40K(天頂指向時,LNA入力端)であり,X帯の受信利得約71dB,アンテナ雑音温度27K(天頂指向時,HEMT入力端)である.尚,この数値は,周波数選択鏡面を用いたS/X共用系のものである.
 S帯受信設備
 受信周波数2.28〜2.30GHz(深宇宙用バンド)と2.20〜2.30GHz(近地球用バンド)で,選択可能である.深宇宙用バンド/近地球用バンドのLNAとして,各々パラメ/HEMT方式を使用している.
 システム雑音温度は各々33K(LNA:9K)以下/75K以下,最少受信可能レベル−174dBm/−170dBmである.また,テレメトリ信号復調方式は,PCM/PSK/PM又はPCM/PM(ビタービ復号付き)である.

 X帯受信設備
 受信周波数8.40〜8.50 GHzで,HEMT方式LNAを使用している.システム雑音温度82K以下,最少受信可能レベル−170dBmである.また,テレメトリ信号復調方式は,PCM/PSK/PMまたはPCM/PM(ビタービ復号付き)である.

 S/X帯測距設備
 最長4.5億kmまで測距可能なシーケンシャルコード方式を採用し,FC-98Vを用いて最高99回まで連続計測可能である.ドップラ計測は,2wayコヒーレントドップラ計測方式により最大±30km/secまで可能である.

 S帯送信設備
 送信周波数2.105〜2.120GHz(深宇宙用バンド)と2.080〜2.120GHz(近地球用バンド)で,各々最大送信電力20kwである.コマンド信号変調方式は,PCM/PSK/PM(PNコード付き)である.

 衛星管制設備
 相模原管制センターと対向で,探査機の状態表示,送出コマンドの編集および実行管理を行っている.既存衛星管制設備系として,「さきがけ」用MS-120 1台,GEOTAIL用MS-175 1台,新衛星管制設備として,2台のUNIXワークステーションで構成されており,「のぞみ」は新衛星管制設備で運用されている.

 局運用管制設備
 3台のUNIXワークステーション(1台は相模原)で構成され,探査機軌道予報値に基づく局運用計画の立案・実行と地上機器の制御・監視及び追跡データの取得・編集を行なっている.

 データ伝送設備
 相模原管制センター(SSOC)との間を768Kbpsの高速デジタル回線で結び,衛星テレメトリデータ,コマンドデータ,追跡データ,アンテナ予報値,設備制御・監視データなどの授受を行っている.A400,MS175などのミニコンを中心にした既存設備系に384Kbps,UNIXワークステーションのネットワークから成る新地上設備系に384Kbpsを割り当てている.

 掩蔽実験システム
 受信周波数2294.5〜2296.7MHzで,受信可能レベル−185〜−145dBmの性能を持ち,ボイジャー2号海王星掩蔽実験に使用された.IF/VF変換装置とデータ記録装置から構成される.

 VLBI受信・記録設備
 K3システムはベースバンド変換装置・フォーマット装置・磁気テープ記録装置及び制御計算機(HP1000)から構成される.従来これを用いて各種VLBI実験を行ってきたが,記録帯域の拡張・「はるか」ミッションへの対応を図るためにVSOPターミナルを開発した.これは128Mbpsのヘリカルスキャン型の磁気テープレコーダ及びトータル記録帯域が32MHz及び64MHzの周波数変換装置及び高速A/D変換装置及び制御計算機から構成される.

 高安定周波数・時刻設備
 水素メーザ装置3台より構成され,3台の比較により高安定な周波数標準を供給するとともに,GPSを搭載した時刻監視装置と相互比較校正することにより、長期的にも高安定な時刻信号つくり各設備に供給している.

 気象観測システム
 臼田局周囲の気象観測を行い,局の運用に利用するほか,アンテナ予報値の大気補正データを取得するためのシステムである.気象観測装置とデータ処理用FM R-60から成り,相模原でのデータ表示も可能である.

 電波天文観測設備
 #7ミラー系にL/C/Ka帯共用ホーンが設置されており,L帯及びC帯の2偏波冷却受信機,及びKa帯冷却受信機が設置されている.これにより「はるか」観測時の地上観測局として対応することができる.
 また,周波数切り替えや較正を簡易にするために,周波数切り替え装置や自動較正システムの開発を行い,これにより従来のS/X系の観測をはじめとしてすべての周波数帯で自動観測が可能である.

 Ku帯送受信設備
 「はるか」の追跡を目的として建設され,Ku帯で送信(15.3GHz)と受信(14.2GHz)を行う設備である.
 アンテナは,直計10mのカセグレン方式アンテナであり,非常に高精度なパラボラ面で構成されており,開口能率は70%である.
 送信設備は,位相伝送を行うため,水素メーザーを基準に作られた15.3GHzの高安定リファレンス用信号のアップリンク機能を有し,受信設備は,128Mbpsの高速QPSKダウンリンクデータ復調機能を有する.また,高精度軌道決定のために,装置各部に位相安定度に優れた回路が採用されたKu帯のドップラー周波数計測設備も有する.

 広帯域VLBI記録装置
 「はるか」の観測データ記録のための広域帯VLBI記録装置である.衛星から送られてくるドップラーシフトした128Mbpsのデータと衛星データに同期したタイミングクロックをもらい,広帯域のデータレコーダに記録する.このデータレコーダは,日本国内で相関処理を行うためのVSOPT記録装置および米国の相関器を用いるようにVLBA記録装置を備えている.

f.宇宙基地利用研究センター(Space Utilization Research Center)
 宇宙活動の飛躍的な拡大に基づいて,宇宙科学の新たな領域である宇宙利用研究の推進が可能となっている.宇宙基地利用研究センターは,宇宙基地等の科学的利用をはかることを目的として,特に生命科学や材料科学などに力点を置いて活動している.宇宙利用研究の推進にあっては,学術的に意義のある課題を取り上げ,現在十分には熟成していない分野にあっては宇宙実験に先立つ準備研究を組織する必要のあること,既存の宇宙科学研究計画との調和を保つよう考慮することが求められている.
 これらの諸点を踏まえ,宇宙利用研究委員会が全国の大学等における宇宙利用研究のとりまとめやその体系化を行っており,センターはその決定を実施する機関として位置づけられている.センターにおいては,宇宙実験や予備的研究における基本的な手法の開発や,推進すべき研究の発掘を行っている.活動の対象は宇宙基地に限定されることなく,宇宙利用について幅広く取り扱っている.宇宙利用研究の国際的な動向の調査や,国際協力による宇宙実験の連絡,調整もセンターに課せられている責務である.また,研究者が共同利用するのに適当な設備を整備・開発し,宇宙実験機器開発を支援している.

g.次世代探査機研究センター
 本センターは,愛称をキャスト(CAST: Center for Advanced Spacecraft Technology)といい,今までに経験のない月・惑星の探査や,飛躍的に高精度な天文観測などに必要な新しい探査機技術の先行的な研究を行うことを目的としている.本センターは,このため,宇宙研内の研究系はもちろん,外の大学・研究機関・産業界等と協調し,幅広く,難度の高い,独創性に富む新技術の研究開発を進めている.
 例えば,STRAIGHTというコードネームのプロジェクトでは,次世代の探査機を目標に,搭載用のプロセッサ,通信機器,電源,恒星センサ,月・惑星ローバなど,広範囲の先進技術の研究を進めている.その結果は,既に,「のぞみ」,LUNAR-A, ASTRO-E, MUSES-C, ASTRO-Fなどに一部,応用が始まっている.
 また,INDEXという愛称のピギーバックの小型衛星による小回りのきく理・工学ミッションの研究も進めている.