2.研究系の研究活動

a.宇宙圏研究系

 科学衛星を使ったガンマ線バーストの観測
	教 授	小川原嘉明	教 授	長瀬文昭	助教授	村上敏夫
	助教授	山上隆正	助 手	石田 学	助 手	上田佳宏
	助 手	藤本龍一	理 研	吉田篤正	立教大	吉森正人
 「ようこう」や「あすか」を使ったガンマ線バーストの観測が行われている.とりわけ「あすか」やアメリカのXTE衛星を使ったガンマ線バーストの残光X線の観測が注目された.イタリアのSAX衛星により,ガンマ線バーストには残光Xがあることがわかり,世界中のX線衛星により残光X線観測が行われている.残光X線の観測からその位置が割り出されて,大型光学望遠鏡の精密な観測に結び付いた.また残光X線には時間的にも,スペクトラム的にも奇妙な振舞いがあり,それをとおして発生源を取り囲むガスの性質などが議論されている.「あすか」の観測からガンマ線バーストは遠方の銀河の中の,比較的ガスの多いところが起源ではないかとする貴重なデータが得られている.今後も世界のX線衛星と連携して,X線残光の観測が行われる.

 科学衛星「あすか」の運用
	教 授	槙野文命	教 授	小川原嘉明	教 授	長瀬文昭
	教 授	井上 一	助教授	村上敏夫	助教授	満田和久
	助教授	高橋忠幸	助 手	堂谷忠靖	助 手	石田 学
	助 手	藤本龍一	助 手	上田佳宏	助 手	尾崎正伸
					        他「あすか」チーム
 昨年に引き続き,「あすか」の運用を行った.「あすか」は,1993年2月に打ち上げられた日米共同によるX線天文衛星で,現在は全世界の研究者によるプロポーザル(観測提案)に基づいた観測が行われている.平成10年度は,日米両国およびESA(ヨーロッパ宇宙連合)に採択されたプロポーザルに基づき約300天体の観測が行われた.「あすか」チームのプロジェクト観測としては,銀河面サーベイ観測や乙女座銀河団のマッピング観測,活動銀河中心核の多波長観測が行われており,他のX線衛星では取得できない貴重なデータとなっている.また,TOO(target of opportunity)観測として,ブラックホール候補天体やガンマ線バースト源などが緊急に観測された.このような過渡的な現象をうまく捕らえた観測は,高エネルギー天体の解明に貴重なデータとなっている.

 科学衛星「あすか」による宇宙X線の観測
	教 授	槙野文命	教 授	小川原嘉明	教 授	長瀬文昭
	教 授	井上 一	客員教授	常深 博	助教授	村上敏夫
	助教授	満田和久	助教授	高橋忠幸	助教授	紀伊恒男
	客員助教授	国枝秀世	助 手	堂谷忠靖	助 手	石田 学
	助 手	藤本龍一	助 手	上田佳宏	助 手	尾崎正伸
	特別研究員	田村隆幸	COE研究員	本多博彦	COE研究員	山下朗子
	東大・理	牧島一夫	東大・理	田代 信	東大・理	深沢泰司
	都立大・理	大橋隆哉	都立大・理	山崎典子	都立大・理	石崎欣尚
	理 研	松岡 勝	理 研	河合誠之	理 研	吉田篤正
	理 研	三原建弘	京大・理	小山勝二	京大・理	鶴  剛
	京大・理	粟木久光	名大・理	田原 譲	阪大・理	北本俊二
	阪大・理	林田 清	阪大・理	宮田恵美	阪市大・理	中川道夫
	宮崎大・工	廿日出勇	宮崎大・工	山内 誠	神大・工	吉田健二
	神戸大・理	伊藤真之	岩手大・理	山内茂雄	    他「あすか」チーム
 「あすか」は,わが国4番目のX線天文衛星であり,約10keVという高いエネルギー領域まで撮像能力のある初のX線衛星である.この望遠鏡の焦点面には,広い視野と高い時間分解能を持つ位置検出型蛍光比例係数管と,高いエネルギー分解能を持つX線CCDカメラが配置され,お互いに相補的な役目を果たしつつ全体として優れた性能を発揮するように設計されている.「あすか」は1993年2月20日に打ち上げられ,約8ヶ月の試験観測期間を経た後,現在は日米欧から提案されたプロポーザルに基づく一般観測が行われている.平成10年度中には,約300の天体が観測された.これまでに得られた主な成果に,近傍銀河M81に出現した超新星SN1993JからのX線の検出,軟ガンマ線バースト・リピータの超新星残骸への同定,銀河中心付近に分布する広がった高温ガスの電離構造の同定,超新星残骸からの玉葱状の輝線構造の発見,超新星残骸での宇宙線加速の証拠の発見,銀河中心でのX線反射星雲の発見,楕円銀河の元素存在比の精密測定,活動銀河核の相対論的降着円盤からの鉄輝線の発見,活動銀河核からの吸収線構造の精密測定,銀河団の温度構造の発見,X線背景放射の源となる微弱X線源のスペクトル測定,超光速ジェット天体からの吸収線の発見,γ線バースト天体のX線残光の観測,軟ガンマ線バースト・リピータからのX線パルスの検出,などがある.

 「あすか」搭載位置検出型蛍光比例係数管の軌道上での較正
	助 手	石田 学	助 手	上田佳宏	東大・理	牧島一夫
	東大・理	田代 信	東大・理	深沢泰司	都立大・理	大橋隆哉
					都立大・理	石崎欣尚
 「あすか」搭載焦点面検出器のひとつである位置検出型蛍光比例係数管の軌道上での較正を昨年に引き続いて行い,データ解析の精度の向上を達成した.この検出器は,「てんま」衛星で使われた蛍光比例係数管の経験をもとに新たに開発された位置検出型の蛍光比例係数管で,優れたエネルギー分解能,バックグラウンド除去能力等を持ち,ガス検出器の極限に近い性能を達成している.今年度は,エネルギーとパルスハイトの間の関係や高計数率下でのゲインの変化を見直し,改訂されたX線反射望遠鏡の較正データと整合性が取れるよう各種パラメーターの調整を行った.この結果,多くの観測データについて,より精度の高い解析ができるようになった.改訂された較正情報は,「あすか」解析用ソフトに取り込まれ,全世界の研究者により利用される予定である.

 「あすか」搭載X線反射望遠鏡の軌道上での較正
	客員助教授	国枝秀世	助 手	石田 学	助 手	上田佳宏
			都立大・理	石崎欣尚	名大・理	田原 譲
				 NASA・ゴダード宇宙飛行センター
 「あすか」搭載斜入射X線反射望遠鏡は,10keVまでのX線の集光能力を持ち6-7keVでも大きな有効面積(600cm2)を維持しているという,これまでにない特徴をもっている.反面,点源の像が特微的な四つ葉型を示し,低輝度のすそを引くため,X線像の解析には,X線反射鏡の特性を精度良く押えておくことが不可欠である.これまでは,X線反射鏡の較正は,カニ星雲等の実観測データをもとに行われてきたが,反射面の蒸着に使われている金のX線領域での光学定数の精度が近年著しく改善されていることから,較正情報も最新の金のデータを使うように改訂作業を行った.この改訂作業では,打ち上げ前の地上試験データ等とも不整合をきたさないよう,細心の注意が払われた.また,解析方法を再検討し,光軸の位置を決定し直した.これらの較正情報は,解析ソフトの一部として全世界の研究者の利用に供される予定である.

 「あすか」搭載X線CCDカメラの軌道上での較正
	助 手	堂谷忠靖	COE研究員	山下朗子	大学院生	高橋一輝
		マサチューセッツ工科大学	 NASA・ゴダード宇宙飛行センター
 「あすか」搭載のX線CCDカメラ(SIS)は,高いエネルギー分解能と位置分解能を兼ね備え,かつバックグランドが低いという特長を持つ反面,宇宙放射線によって作られる格子欠陥のため,軌道上で徐々に特性が劣化していく.したがって,特性の経年変化を追跡し,較正情報を定期的に更新する必要がある.平成10年度は,各読み出しモードでの暗電流の分布の再現を中心に,較正情報の改訂を行った.放射線損傷により格子欠陥が生じたピクセルは,過剰な暗電流を発生するようになる.放射線損傷が進むにつれて暗電流の平均値が増加するだけでなく,そのピクセル毎のばらつきも増加するようになる.このばらつきは,エネルギー分解能の劣化をもたらすため,暗電流の分布を適当な関数で再現し,応答関数に取り込む必要がある.解析の結果,暗電流の分布は,ピクセル毎の格子欠陥の数はポアッソン分布に従い,各々の格子欠陥は平均して一定の暗電流を生じるというモデルでうまく再現できることがわかった.このモデルは,SISの解析ソフトに組み込まれ,全世界の研究者に提供される予定である.

 「あすか」データ解析用ソフトウエアの整備
	助教授	満田和久	助教授	高橋忠幸	助 手	堂谷忠靖
	助 手	石田 学	助 手	藤本龍一	助 手	上田佳宏
	助 手	尾崎正伸	東大・理	田代 信	東大・理	深沢泰司
	都立大・理	石崎欣尚	          NASA・ゴダード宇宙飛行センター
 「あすか」の標準的なデータ解析に必要なソフトウエアの整備を,ゴダード宇宙飛行センターと共同で行った.「あすか」のデータ解析ソフトは,すでに全世界の研究者によって利用されており,本年度は,X線反射鏡の性能を模擬するシミュレーションプログラムの整備,検出器の経年変化に対応する較正情報の更新,などを中心に行った.また,さまざまな解析環境でデータ解析が行えるように,解析ソフトの移植性の向上にも努めた.

 ASTRO-E計画
	教 授	槙野文命	教 授	小川原嘉明	教 授	長瀬文昭
	教 授	井上 一	客員教授	常深 博	助教授	村上敏夫
	助教授	満田和久	助教授	高橋忠幸	客員助教授	国枝秀世
	助教授	紀伊恒男	助 手	堂谷忠靖	助 手	石田 学
	東大・理	釜江常好	東大・理	深沢泰司	東大・理	牧島一夫
	東大・理	田代 信	都立大・理	大橋隆哉	都立大・理	山崎典子
	都立大・理	石崎欣尚	理 研	松岡 勝	理 研	河合誠之
	理 研	吉田篤正	理 研	三原建弘	京大・理	小山勝二
	京大・理	鶴  剛	京大・理	粟木久光	名大・理	山下廣順
	名大・理	田原 譲	阪大・理	北本俊二	阪大・理	林田 清
	阪大・理	宮田恵美	神戸大	伊藤真之	     他ASTRO-Eチーム
 第19号科学衛星ASTRO-Eは,平成11年度に打上げが予定されている我が国5番目のX線天文衛星で,広い波長帯にわたってすぐれた分光性能をもつ大型高性能X線天文台である.平成10年度はフライトモデルの製作を昨年度から継続して行った.ASTRO-E衛星には,現在運用中のX線天文衛星「あすか」の性能をさらに向上させたX線反射望遠鏡,その焦点面におかれる高精度X線分光装置とX線CCDカメラ,これら軟X線望遠鏡と同時にX線源からの硬X線をこれまでにない感度で観測する硬X線検出器が搭載される.X線反射望遠鏡,高精度X線分光装置は,日米協力により開発される.高精度X線分光装置はこれまでにないすぐれたX線分光能力を持ち,国際的に大きな期待を受けているものである.平成10年度には,これら観測装置を含めて,衛星搭載機器の一時噛み合わせを行い,機械・電気的な相互干渉や不具合の有無を調べた.一時噛み合わせで明らかになった問題点は,すべてが解決され,総合試験に入る準備が万端整えられた.


 ASTRO-E搭載X線反射鏡の製作と較正
	教 授	小川原嘉明	教 授	井上 一	客員助教授	国枝秀世
	助 手	石田 学	助 手	上田佳宏	COE研究員	本多博彦
	特別共同利用研究員	柴田 亮	大学院学生	遠藤貴雄	大学院学生	石田淳一
			特別共同利用研究員	赤尾 聡	名大・理	田原 譲
				 NASA・ゴダード宇宙飛行センター
 ASTRO-E衛星搭載用X線望遠鏡の製作・地上較正試験を昨年に引き続き行っている.今年度はASTRO-E XIS用のFM品望遠鏡のうちの3台の較正試験を,特殊実験棟の標準X線光源室で行った.この結果,XIS用X線望遠鏡が「あすか」搭載品の数倍の有効面積,結像性能を有することを確認するとともに,「あすか」の経験を活かして特に入射X線のoffset角の大きな領域で充分なデーターを取得することに成功した.

 ASTRO-E搭載X線マイクロカロリメータ検出器(XRS)の製作と較正
	教 授	小川原嘉明	教 授	井上 一	助教授	満田和久
	助 手	藤本龍一	大学院学生	宮崎利行	都立大・理	大橋隆哉
	都立大・理	山崎典子	都立大・理	石崎欣尚	理 研	河合誠之
			理 研	三原建弘	理 研	清水裕彦
			ウイスコンシン大	 NASA・ゴダード宇宙飛行センター
 XRSは世界で初めて衛星に搭載されるX線用のマイクロカロリメータアレーである.XRSは,0.5-12keVのエネルギー範囲のX線を12eVというこれまでにない高いエネルギー分解能で検出する検出器であり,日米の共同により開発が進められている.軌道上では,固体ネオン・液体ヘリウム・断熱消磁の3段の冷却システムを用いて,マイクロカロリメータアレーを60mKに冷却する.検出器の開発とならんで,この冷却システムの開発も重要であり,科学的に大きな成果を得るため軌道上で2年以上の寿命を確保することが要求されている.また,強度の強いX線源の観測を行うため,回転式のX線フィルター装置が前面におかれることになっており,その開発も並行して進められている.平成10年度は,フライトモデルの製作およびその試験と,較正試験がすすめられた.ゴダード宇宙飛行センターで行われた飛翔モデルの検出器アレーの較正試験は日本の参加メンバーも参加した.この試験の結果はほとんどの画素について12eVの分解能を満足することが実証された.

 ASTRO-E搭載X線CCDカメラ(XIS)の製作と較正
	客員教授	常深 博	助 手	堂谷忠靖	助 手	尾崎正伸
	阪大・理	北本俊二	阪大・理	林田 清	阪大・理	宮田恵美
	京大・理	小山勝二	京大・理	鶴  剛	京大・理	粟木久光
				     マサチューセッツ工科大学
 ASTRO-E搭載の焦点面検出器であるXISの開発をマサチューセッツ工科大学と共同で行った.XISは,X線用のCCDを用いた撮像分光検出器で,「あすか」搭載のSISをもとに性能を大きく向上させたX線CCDカメラである.XISは,19’×19’の視野と0.4-10keVのエネルギー範囲をカバーし,時間分解能は最高8ミリ秒,エネルギー分解能は6keVで2%を達成している.XISでは,多彩な読み出しモードが利用できるため,撮像時間を短くしたり視野の一部のみを頻繁に読み出したりすることが可能で,カニ星雲のように明るい天体や早い時間変動を示す天体等の観測に有効である.また,SISでの経験を元に,軌道上での放射線損傷を最小限におさえるよう放射線シールドに工夫がこらされている.平成10年度は,マサチューセッツ工科大学でフライト品のセンサーベースの製作が行われ,日本側担当のセンサーボンネット部と組み合わせて性能評価が行われた.この結果,エネルギー分解能,検出効率とも,ほぼ予定した性能が達成できていることが確認できた.また,ボンネット部の圧力センサー,電磁バルブ,ドア開機構も正常に動作することが確認された.さらに,衛星上でのデータ処理アルゴリズムを見直し,高エネルギー側での検出効率の向上がはかれるよう,機上ソフトの改訂を行った.

ASTRO-E搭載硬X線検出器(HXD)の製作と較正
    	助教授	村上敏夫	助教授	高橋忠幸	大学院学生	杉崎 睦
	大学院学生	小澤秀樹	大学院学生	片岡 淳	大学院学生	太田直美
	大学院学生	山岡和貴	大学院学生	谷畑千春	特別共同利用研究員	久保 信
	大学院学生	内山泰伸	東大・理	釜江常好	東大・理	深沢泰司
			東大・理	牧島一夫	東大・理	田代 信
 HXD(Hard X-ray Detector)装置はASTRO-E衛星のミッション機器のひとつとして,10-700keVの宇宙硬X線の観測を目的とした装置であり,粒子バックグランドを極限まで下げることによって,従来にない優れた感度の実現をはかったものである.HXDは井戸型フォスウィッチカウンタと呼ばれ,日本で開発された新しい検出器を組みあわせて作られている.この検出器では遮蔽部を深い井戸型に加工し,その中に検出部を埋め込む構造となっている.小さな検出部が,そのほとんどの立体角をアクティブなシールドによって囲まれるために,従来の検出器に比べバックグランドを除去する性能が圧倒的に優れている.検出部としてGSOと呼ばれる新しい無機シンチレータと大面積のシリコンPINダイオードが使われ,前者で30-700keV,後者により10-60keV程度のエネルギー範囲をカバーする.宇宙科学研究所では,東京大学,高エネルギー加速器研究機構,理化学研究所,大阪大学核物理センターなどと協力して,HXD装置の設計,開発を進めている.平成10年度は,フライト品の組み上げと試験を行った.

 テルル化カドミウム半導体を用いた新しい硬X線ガンマ線検出器の開発
					助教授	高橋忠幸
 10keVを超えるエネルギー領域は,衛星軌道上のバックグランドが,天体からの信号にくらべて高く感度をあげるのが難しい,イメージを撮るために必要な光学系を得ることが難しい,光学系と対をなし硬X線やガンマ線に対する検出効率が高い位置分解型検出器に決め手がない,などの理由から,研究が立ちおくれていた.われわれは,「数keVから数100keVにかけてのエネルギー範囲で,エネルギー分解能に極めてすぐれ,かつ数分角の位置分解能を有する検出器」を実現することを目標にテルル化カドミウム(CdTe)を用いた検出の技術開発を行っている.われわれは高品質のCdTeウェハーを用い,適切な熱処理をした上で,(1,1,1,)配位のTe面にインジウム電極を蒸着して,ショットキー電極を形成することで,これまでにないエネルギー分解能を持つ検出器の開発に成功した(ショットキーCdTeダイオード).この方式で,2mm×2mm×0.5mm厚の素子を用い,5度程度に冷却することで,122keVで,1.1%,511keVで0.8%という高いエネルギー分解能を達成し,長期的にも安定する動作を確認した.積層型のCdTeを検出器として,12層のショットキーCdTeからなる検出器を製作し,各層からの信号を独立に読み出すことで,CdTeダイオードの優れたエネルギー分解能をいかしたまま,ガンマ線領域でも検出効率の高い検出器を実証することができた.CdTeあるいはCdZnTeは次世代のガンマ線検出器のホープとして認識されており,世界各地で積極的に開発が進められている.しかし,結晶面にストリップ,あるいはピクセル化した電極を形成することで,位置検出を行う型の検出器は,まだ確立した技術となっているとはいえない.単素子で得られているような性能を得るためには,電極を形成するプロセスとその際のCdTe結晶表面の取扱いが鍵をにぎると考えられる.われわれは,本研究所の広瀬助教授とともに詳しい電極と半導体の界面の研究を進めている.

 マイクロマシン技術を応用した新しいX線マイクロカロリメータの開発
	助教授	満田和久	助 手	藤本龍一	大学院学生	宮崎利行
	大学院学生	前神佳奈	特別共同利用研究員	有賀洋一	大学院学生	大島 泰
	早大・理工	庄子習一	早大・理工	工藤寛之	早大・理工	横山雄一
			理 研	清水裕彦	理 研	三原建弘
 ASTRO-E以降のX線天文衛星では,ASTRO-E搭載のXRSを上回る数eVのエネルギー分解能を有し,さらに撮像性能にも優れた検出器が期待される.本研究では早稲田大学庄子研究室と協力して,マイクロマシン技術を応用した新しいX線マイクロカロリメータの開発を進めている.分解能数eVを実現する方法として現在有望視されているのが,従来の半導体温度計にかえて,金属薄膜の超伝導−常伝導遷移に伴う抵抗値の急激な変化を利用した温度センサ(TES)を使用する方法である.平成10年度は,ヘリウム3の減圧という比較的容易な方法で得られる温度範囲で動作するチタン−金のbilayer薄膜を用いたTESをマイクロマシーン技術を用いて製作した.その信号を昨年度から開発を行ってきたSQUID(超伝導量子干渉素子)を用いた読み出し系により読みだし,エネルギー分解能は大変不十分なものの,X線光子の検出に成功した.今後,カロリメータのパラメータを最適化するとともにSQUID読み出し系の読みだし速度を改善し分解能の向上をはかる予定である.

 SFU搭載宇宙赤外線望遠鏡による赤外線天体サーベイ
	教 授	奥田治之	教 授	松本敏雄	教 授	村上 浩
	客員教授	芝井 広	助教授	中川貴雄	助教授	松原英雄
	COE研究員	田中昌宏	外国人研究員(COE)	M. M. Freund	外国人特別研究員	M. Lim
	大学院学生	松浦美香子	東大・理	尾中 敬	東大・理	田辺俊彦
	名大・理	川田光伸	名大・理	平尾孝憲	筑波大・工	村上正秀
	通信総研	広本宣久	カリフォルニア工科大学	A. E. Lange	NASAエイムズ研究所	T. L. Roelling
 軌道赤外線望遠鏡IRTSは宇宙実験・観測フリーフライヤ(SFU)に搭載された液体ヘリウム冷却望遠鏡である.SFUは平成7年3月18日に打ち上げられ,IRTSは3月30日から26日間に及ぶ赤外線サーベイ観測に成功した.これにより,1)宇宙初期の星,銀河の形成に関わる赤外線宇宙背景放射,2)銀河系内の星,ガスの分布や物理状態を示す赤外線放射,3)宇宙塵の組成,成因研究に役立つ宇宙塵放射,等について大量の高品位データが得られた.データ解析は,平成10年度も継続して行われた.

 IRTS搭載遠赤外線分光器(FILM)による星間物質の研究
	教 授	奥田治之	客員教授	芝井 広	助教授	中川貴雄
	助教授	松原英雄	大学院学生	巻内慎一郎	通信総研	広本宣久
					通信総研	奥村健市
 IRTSには,炭素イオン,中性酸素原子が放射する遠赤外スペクトル線の強度分布を測定するための分光器(FILM)が搭載されていた.これは宇宙研と通信総研の共同で開発されたもので,アルミ合金を用いた特殊な回析格子や,独自に開発した高感度の圧縮型Ge:Ga検出器が用いられている.FILMはIRTSの観測期間を通じて正常に動作し,星間ガスの主要な冷却源である上記のスペクトル線を,銀河面はもちろん,高銀緯領域からも検出することに成功した.このデータを用いて,平成10年度には観測を行った全領域からの炭素イオンスペクトル線及び星間塵の放出する連続波の研究を行った.

気球搭載望遠鏡BICEによる赤外線[C II]スペクトル線の広域マッピング観測
	教 授	奥田治之	客員教授	芝井 広	助教授	中川貴雄
	教 授	矢島信之	技 官	成田正直	特別研究員	望月賢治
	大学院学生	巻内慎一郎	大学院学生	東矢高尚	東大総文	土井靖生
	早大・理	油井由香利	通信総研	広本宣久	国立天文台	西村徹郎
 平成3年度より,中性星間ガスの冷却に最も重要な役割を果たす遠赤外[C II]スペクトル線の広域マッピング観測を継続して行ってきた.観測には,1)低背景放射率光学系の採用による高感度化,2)波長スキャン方式の採用による拡散成分観測効率の向上,などの特長を持つ観測器BICE(Ballon-borne Infrared Carbon Explorer)を専用に開発して用いた.平成10年度は,これまでに得られたデータの解析を継続して論文発表するとともに,それを解釈するため,星間ガスの物理状態を表すモデルの構築等を行った.またISOによる追観測を行った.


 赤外線モニター観測装置による赤外線天体の観測
	教 授	奥田治之	教 授	村上 浩	客員教授	芝井 広
	助教授	中川貴雄	助教授	松原英雄	技 官	成田正直
	国立天文台	小林行泰	名大・理	長田哲也	国立天文台	野口邦男
					京大・理	舞原俊憲
 赤外線モニター観測装置(口径1.3m反射望遠鏡)を用いて,以下のような観測研究を昨年度に引き続いて行った.1)MAGNUM予備観測,2)AGN測光観測.

 IRTS搭載近赤外線分光器(NIRS)による拡散赤外線の観測
	教 授	松本敏雄	教 授	村上 浩	名大・理	川田光伸
	大学院学生	松浦美香子	名古屋市科学館	野口 学	外国人特別研究員	M. Lim
			COE研究員	田中昌宏	外国人研究員(COE)	M. M. Freund
 IRTS搭載近赤外線分光器NIRSは,宇宙初期の銀河系の形成とその後の進化に関する情報を与える近赤外宇宙背景放射,太陽系内の塵による黄道光,星間空間の巨大有機分子による近赤外放射光,数万個の赤外線星等の検出に成功した.これらのデータを用いて10年度には,星間空間の有機物分子の放射の分布,晩期型星の外層大気,背景放射強度に関する研究を行った.

 宇宙用冷凍機の基礎開発
	教 授	奥田治之	教 授	村上 浩	教 授	松本敏雄
	筑波大・工	村上正秀	客員教授	芝井 広	助教授	中川貴雄
	助教授	松原英雄	技 官	成田正直	日大・工	松原 洋
			名大・理	川田光伸	東大・理	尾中 敬
 スペースでの赤外線による天体観測では,観測装置からの赤外線放射を低減し,検出器の感度を向上させるため,望遠鏡を含めた全システムを液体ヘリウムで冷却する必要がある.しかし,長期間の観測のための大量のヘリウムを搭載することは,衛星重量・体積を増やし,また装置を複雑にする.宇宙用機械式冷凍機を開発することによりこの制約から逃れることは,将来の赤外線天文学にとって必ず必要となる.
 本年度は,このための基礎開発として,JT+スターリングサイクル冷凍機の開発及びスターリング冷凍機単体での寿命についての実験的研究を行った.

 新型気球搭載赤外線望遠鏡の開発
	教 授	奥田治之	客員教授	芝井 広	助教授	中川貴雄
	教 授	矢島信之	助教授	山上隆正	技 官	成田正直
	名大・理	川田光伸	通信総研	山本宣久	東大総文	土井靖生
			大学院学生	巻内慎一郎	大学院学生	岡村吉彦
 銀河系星間物質の物理化学状態を系統的に解明するには,遠赤外あるいはそれより長波長の分光観測が最も直接的な研究手段である.そこで気球搭載遠赤外分光装置を開発し,炭素・酸素・窒素などの基本的な元素スペクトルを線を観測することにより,特に暖かい星間物質の物理状態を解明する.平成10年度には,口径50cmの新型望遠鏡および検出器が完成し,これらを用いて三陸大気球観測所から放球実験を行った.しかし観測器の一部に不具合を生じ観測データを得ることはできなかった.平成11年度以降も継続して行う予定である.

 ASTRO-Fの開発
	教 授	奥田治之	教 授	松本敏雄	教 授	村上 浩
	教 授	小林康徳	客員教授	芝井 広	助教授	中川貴雄
	助教授	紀伊恒男	助教授	松原英雄	助教授	橋本正之
	助 手	金田英宏	助 手	和田武彦	技 官	成田正直
	COE研究員	度曾英教	東大・理	尾中 敬	東大総文	上野宗孝
	東大総文	土井靖生	名大・理	川田光伸	名大・理	渡部豊喜
	名大・理	平尾孝憲	早大・理	油井由香利	東海大・工	若木守明
	都立科学技術大学	河野嗣男	筑波大	村上正秀	国立天文台	松尾 宏
					名古屋市科学館	野田 学
 第21号科学衛星ASTRO-Fは従来にない感度と角分解能で,赤外線領域での天体サーベイを行うことを目的とする衛星で,平成15年夏期の打ち上げを目指している.口径70センチの望遠鏡を液体ヘリウムで冷却し,赤外線カメラ(ERC: Infrared Camera),遠赤外サーベイヤー(FIS: Far-infrared Surveyor)の二つの観測装置を搭載している.ASTRO-Fでは機械式冷凍機(2段スターリング)を世界で始めて搭載し,従来の軌道赤外線望遠鏡よりも小量の液体ホリウムで長期の観測時間(1年以上)を実現した.
 平成10年度は,PM製作第二年度であり,衛星全体のシステム設計,鍵となるサブシステム(姿勢系,RCS,望遠鏡,クライオスタット等)のPM製作を行った.

 ASTRO-F搭載赤外線カメラ(IRC: Infrared Camera)の開発
	教 授	松本敏雄	教 授	村上 浩	客員教授	芝井 広
	助教授	松原英雄	助 手	和田武彦	COE研究員	度曾英教
	大学院学生	藤田真之	東大・理	尾中 敬	東大・教養	上野宗孝
					東海大・工	若木守明
 ASTRO-Fに搭載される赤外線カメラは,近赤外から中間赤外をカバーする3チャンネルよりなる.近赤外領域では512×412素子のInSbアレイ検出器,中間赤外では256×256素子のSi:Asアレイ検出器を用い,従来にない広視野かつ高角分解能によってサーベイ観測を行うものである.平成10年度は,光学系および構造系の詳細設計とプロトモデルの製作,およびアレイ検出器の動作試験を行った.これによりIRCの基本仕様が確定した.

 ASTRO-F搭載遠赤外サーベイヤー(FIS: Far-infrared Surveyor)の開発
	教 授	奥田治之	教 授	松本敏雄	教 授	村上 浩
	客員教授	芝井 広	助教授	中川貴雄	助教授	紀伊恒男
	助教授	松原英雄	助 手	金田英宏	大学院学生	岡村吉彦
	名大・理	川田光伸	名大・理	渡部豊喜	名大・理	平尾孝憲
	国立天文台	松尾 宏	早大・理	油井由香利	名古屋市科学館	野田 学
	東大総文	土井靖生	通信総研	広本宣久	通信総研	藤原幹生
 ASTRO-Fに搭載されるFIS(Far-infrared Surveyor)は遠赤外領域での全天サーベイを目的としている.従来にない高感度,高角分解能を実現するために,Ge:Gaアレイ検出器,極低温で動作する低雑音エレクトニクス,各種光学系の開発が行われた.またFISには指向観測時に遠赤外観測を行うためのフーリエ分光器を搭載する予定であるが,このための駆動機構,光学設計などが平行して進められ,FISの基本設計が確定した.

 ASTRO-F搭載軽量望遠鏡の開発
	教 授	奥田治之	教 授	松本敏雄	教 授	村上 浩
	客員教授	芝井 広	助教授	中川貴雄	名大・理	川田光伸
	助 手	金田英宏	東大・理	尾中 敬	都立科学技術大学	河野嗣男
 ASTRO-Fには,SiC素材の軽量かつ高性能な,口径710mmの赤外線望遠鏡が搭載される.望遠鏡はそれ自身からの赤外線輻射を抑えるため,6K以下に冷やされるが,このような極低温での鏡面の熱変形量をいかに小さく抑えられるかが開発のポイントとなる.今年度は小口径SiC望遠鏡(径160mm)を試作し,冷却試験を繰り返し行った結果,6Kでの鏡面精度がrmsで0.03μm,常温からの熱変形量は0.02μm以下という,高性能な望遠鏡の製造に成功した.また,大型冷却試験装置を実験室に設置し,来年度以降,口径710mm望遠鏡の冷却,面検試験を行うための実験環境の整備を進めた.

 ISO(赤外線宇宙天文台)による原始銀河の探索
	教 授	奥田治之	教 授	松本敏雄	助教授	松原英雄
	COE研究員	佐藤康則	外国人特別研究員	C. P. Pearson	東北大・理	谷口義明
	東大・理	川良公明	東大・理	祖父江義明	岐阜大・工	若松謙一
	Univ. Hawaii	D. B. Sanders	Univ. Hawaii	L. L. Cowie	Univ. Hawaii	R. D. Joseph
 ESAが打ち上げた赤外線宇宙天文台ISOに搭載された赤外線カメラ(ISOCAM)および赤外線測光器(ISOPHOT)を用いて,原始銀河の探索を行った.観測は,銀河系内物質による吸収・放射の影響を極力避けるため,星間ガスの極めて少ないLockman Hole(CAM, PHOT)およびSSAか13(CAMのみ)と呼ばれる領域について行った.平成10年度は,サーベイで得られた画像データの輝度ゆらぎ解析等,さらに詳細な解析と,検出された天体の地上望遠鏡による追観測を行い,興味深い結果を得た.

 ロケットによる系外銀河の赤外線撮像観測
	教 授	松本敏雄	教 授	村上 浩	助教授	中川貴雄
	助教授	松原英雄	助 手	和田武彦	特別共同利用研究員	上水和典
	名大・理	川田光伸	名大・理	渡部豊喜	JPL	J. J. Bock
					カルフォルニア工科大学	A. E. Lange
 観測ロケットに冷却望遠鏡および赤外線撮像素子を搭載し,系外銀河ハローを波長4.5ミクロンで撮像する.これにより銀河に存在する暗黒物質が小質量星もしくは褐色矮星であるかどうかの確認を行う.この研究はカルフォルニア工科大学およびNASAとの協力によって行われており,ホワイトサンズのロケット基地から打ち上げを行っている.平成10年度には系外銀河NGO5907の撮像に成功し,ハロー中の暗黒物質について興味ある結果が得られた.

 次期X線天文衛星搭載を目指した硬X線望遠鏡の開発
	客員助教授	国枝秀世	名大・理	山下廣順	名大・理	田原 譲
				     ゴダード宇宙飛行センター
 我々は宇宙科学研究所,NASAゴダード宇宙飛行センターと共にASTRO-E衛星搭載用多重薄板X線望遠鏡を準備し,その特性の地上校正試験を進めている.ASTRO-E, AXAF, XMM以後の21世紀のX線天文学では10-40keVの硬X線観測が重要な方向と考えられている.本研究ではこれに向けて,多層膜スーパーミーラーを用いた硬X線望遠鏡の開発を行っている.試作望遠鏡の集光実験の成功を元に,現在は2000年夏にゴダード研究所と共同で行う気球実験(In FOCmSプロジェクト)搭載硬X線望遠鏡の多層膜の最適設計をし,2000枚に及ぶ基板,多層膜成膜の大量生産の準備を開始している.

b.太陽系プラズマ研究系

 GEOTAIL衛星の運用
	所 長	西田篤弘	教 授	上杉邦憲	教 授	中谷一郎
	教 授	向井利典	教 授	鶴田浩一郎	助教授	早川 基
	助教授	川口淳一郎	助教授	横山幸嗣	助教授	橋本正之
	助教授	星野真弘	東大・理	中村正人	助教授	斎藤義文
	助 手	中村 匡	通総研	小原隆博	客員教授	松本 紘
					客員助教授	町田 忍
 日米共同で開発を進めてきたGEOTAIL衛星は1992年7月24日に米ケープ・カナヴェラルからデルタU型ロケットによって打ち上げられた.GEOTAIL衛星の観測目的は,太陽風から磁気圏尾部へのエネルギー流入や,尾部に貯えられたエネルギーの爆発的な解放のメカニズムを研究することである.搭載機器は磁場計測器(日),電場計測器(日),プラズマ計測器(日,米),高エネルギー粒子計測器(日,米),プラズマ波動計測器(日)である.1994年11月まで衛星の遠地点は夜側にあり,月軌道より遠方の遠尾部の観測を行った後,遠地点を50Reに下げ,さらに1995年2月には30Reまで下ろしてサブストーム関連現象研究の体制を整えた.近地球軌道に入ってからは,長時間日陰が発生しているが,その対処のための特別OPを用いて問題なくきりぬけている.他のISTP衛星(米国のWIND,POLARの両衛星及びロシアのINTERBALL-TAIL衛星)との共同観測をIACGキャンペ−ンを軸として精力的に行っている.

 磁気圏尾部のプラズマ流
	所 長	西田篤弘	教 授	向井利典	助教授	斎藤義文
	名大・理	前沢 洌	客員助教授	町田 忍	名大・STE研	國分 征
 磁気圏のプラズマと磁力線は大きなスケールで流動している.この運動の形態が惑星間空間磁場の南北極性に依存することがGEOTAIL衛星の観測によって確認された.惑星間空間磁場が南向きの時には磁気圏の昼間側と尾部の間を大規模な対流が循環しており,磁気圏の昼間側境界面と尾部の磁気中性面でおきる磁気リコネクションが流れを制御している.これに対して,惑星間空間磁場が北向きの時の流れは,尾部のいたるところで反地球向きである.この場合は昼間側磁気圏境界面の高緯度領域で地球磁場が惑星間空間磁場とリコネクションによってつながり,太陽風と共に運び去られているようである.いずれの場合も尾部の磁気中性面を挟んで高温プラズマがプラズマシートを形成している.惑星間空間磁場が南向きの時には磁気中性面でのリコネクションがプラズマを加熱しているものと思われるが,北向きの際に高緯度境界面でのリコネクションによってプラズマシートが形成されうるものかどうかが今後の研究課題である.

 「のぞみ」運用計画立案システムの開発
	助教授	早川 基	助 手	松岡彩子	   「のぞみ」運用チーム
 火星の上層大気と太陽風との相互作用等の未解明の現象を明らかにするために,1998年7月に日本初の火星探査衛星「のぞみ」が打ち上げられた.「のぞみ」には14の科学観測機器が搭載されておりおり,その運用は臼田を主局とする地上からのコマンド送信,OPにより行われる.また火星周回軌道に入った場合の地球との電波通信の遅延が最大40分かかることから,衛星には高度な自動化・自立化のシステムが採用されているが,衛星の正常な運用のためにはなおOPの使用が欠かせない.衛星の安全を保ちつつ科学機器を最大限有効に運用するための計画立案システム(ISACS-PLN)の開発・改善を行い,打ち上げ当初より実運用にも供し,実績をあげている.

 「のぞみ」搭載磁力計データの評価と解析
			助 手	松岡彩子	     「のぞみ」MGF班
 1998年7月に打ち上げられた「のぞみ」には,火星における太陽風と上層大気の相互作用を解明する上で重要な磁場データを取得する目的で3軸フラックスゲート磁力計が搭載されている.「のぞみ」の打ち上げ後より断続的に磁力計による磁場観測を行い,良好なデータを取得している.「のぞみ」は火星軌道投入までの5年余り,地球軌道と火星軌道の間の惑星間空間を観測するが,この間は基本的に連続して磁場データを取得する予定である.このデータをもとに磁力計の各軸のアライメントを算出し,磁場データを絶対系へ変換するための基礎パラメータを得る.また,「のぞみ」磁力計は弱磁場計測を目的としており,探査機本体による磁場干渉に対しては打ち上げ前に様々な対策を行っているが,特に伸展マストを収納している状態ではある程度の磁場干渉は避けることができない.この磁場干渉の影響を正確に算出し,宇宙空間の磁場成分のみを抽出する手法を確立する.

 宇宙太陽発電所用マイクロ波無線送電に関するプラズマ非線形応答の研究
					客員教授	松本 紘
 人類を未来のエネルギー危機から救う手段の一つとして,宇宙太陽発電が有望である.これは,宇宙空間に巨大な太陽電池板を築きマイクロ波によって,そこで発電されたエネルギーを地上に伝送しようとするものである.本研究は主として,送受電アンテナの設計やマイクロ波と電離層の相互作用に関する問題を計算機モデリング及びシミュレーションやロケット実験によって解析する.また宇宙空間プラズマを通過するエネルギー伝送用のマイクロ波ビームの送受電システムの開発をする.

 科学衛星による宇宙空間探査とデータ解析
	客員教授	松本 紘	所 長	西田篤弘	教 授	鶴田浩一郎
					教 授	向井利典
 GEOTAIL衛星に搭載された「プラズマ波動観測装置」の主任研究員(PI)として,わが国や米国IOWA大学の共同研究者を取りまとめる一方,衛星から伝送される宇宙プラズマ波動のデータ解析を担当している.波動データと他の機器の情報を組み合わせ,磁気圏尾部のミクロ物理の研究を行う.また,火星探査衛星PLANET-Bのプラズマ波動受信機の開発及びそれによる火星プラズマ圏のミクロプロセスの研究を行う.

 計算機実験と理論解析
					客員教授	松本 紘
 スーパーコンピューターを用い,大規模な宇宙プラズマ現象の計算機実験を行う.具体的なテーマとしては,宇宙空間プラズマ中におけるカオスの研究,磁気圏尾部の広帯域静電ノイズを構成している非線形孤立静電波の研究などを行う.

 「のぞみ」衛星搭載低エネルギーイオン計測器による星間空間ヘリウムの観測
	助教授	早川 基	教 授	向井利典	助教授	斎藤義文
	東大・理	寺沢敏夫	東大・理	中村正人	東大・理	野田寛大
 我々の太陽系には周辺の星間空間から中性の星間ガス(主として水素とヘリウム)が流れ込んできている.この内の水素ガスは太陽光の輻射圧の為に太陽の近傍まで入って来る事が出来ないがヘリウムガスはこれに打ち勝ち内側まで入ってくる.このヘリウムガスが太陽風中のプロトンと電荷交換を行って出来るヘリウムイオンを観測する事で,星間ガス中のヘリウムの速度・密度などの情報を得る事が出来る.この目的の為に我々は「のぞみ」衛星搭載の低エネルギーイオン計測器を用いてこの星間空間ヘリウムガス起源のピックアップイオンの観測を行っている.

 GEOTAIL衛星搭載電子ブーメラン法による電場計測
	助教授	早川 基	教 授	鶴田浩一郎	東大・理	中村正人
					京大・工	松井 洋
 GEOTAIL衛星には我々が開発した電子ブーメラン法による電場計測器が搭載されている.この方法は現在のところ宇宙空間内の大部分の場所で最も精度良く電場を測定できると考えられている. GEOTAIL衛星が近地点付近(〜9RE)にいる時に電子ブーメラン法による電場計測器を運用する事により,地球近傍における電場の低周波変動成分に関しての研究を行っている.


 飛翔体搭載用中性ガス質量分析機の開発
	教 授	鶴田浩一郎	助教授	早川 基	大学院学生	藤川暢子
 地球及び惑星の上層大気を研究する上で,中性ガスの質量,密度,平均速度,温度等を測定する技術が必要であるが,現在のところ満足のいく計測装置がない.特に,酸素を主体とする金星,地球,火星の上層の大気の測定には,装置の壁面に吸着した酸素との2次元的な反応物質である酸素分子,酸化窒素の分離が難関となる.我々は,過去のプラズマ計測技術の拡張として,飛行時間測定,位置検出技術を併用することによってこの難関を切り抜けるアイデアを得た.実験室試験用モデルの試作を行い試験を続けている.

 PLANET-B衛星の開発
	教 授	鶴田浩一郎	教 授	中谷一郎	教 授	向井利典
			助教授	早川 基	    PLANET-B開発チーム
 火星には十分大きな固有磁場が存在しない為に,火星の上層大気は太陽風に直接さらされている.このため,太陽風による大気のはぎとりが起きているものと考えられる.強い固有磁場を持つ地球で起きている,磁気圏を介しての太陽風との相互作用と対を成す基本的な相互作用の形態である.無磁場惑星大気と太陽風の相互作用は比較惑星学的観点からも,惑星大気の進化の観点からも重要な研究課題である.火星に周回衛星を送り,火星上層大気の基本的な物理量の測定をすることを目的に,PLANET-B衛星の開発を行った.PLANET-Bは1998年7月に打ち上げられ「のぞみ」と命名された.2回の地球スウィングバイを経て1999年10月火星に到着する予定であったが2回目のスウィングバイ時の不具合で火星到着は2004年1月となった.この間,太陽系空間の観測を続け,2004年以降に火星の観測を開始する.

 「あけぼの」による極域現象の研究
	教 授	鶴田浩一郎	所 長	西田篤弘	教 授	向井利典
	助教授	早川 基	通総研	小原隆博	東大・理	中村正人
			助教授	斎藤義文	助 手	松岡彩子
 平成2年2月打ち上げ以来,「あけぼの」は順調に飛行を続けている.我々は,電場計測器,プラズマ粒子計測器を搭載し観測を実行すると同時に衛星の運用,観測データの処理に関するマネージメントを担当している.現在研究が進められている主な研究課題に以下のものがある.
・極冠域の対流電場の太陽風磁場依存性に関する研究
・午後側サブオーロラ帯の高速流の研究
・オーロラ帯上空で見られる磁場に平行な電場による粒子加速の研究
・降下イオンと大規模対流の関係に関する研究
・オーロラ粒子加速域と磁気圏構造に関する研究
 平成4年度にはGEOTAIL衛星が打ち上げられ「あけぼの」との同時観測も可能となった.GEOTAIL衛星は磁気圏尾部の現象の発生源近くで観測し,一方「あけぼの」は極域現象として磁気圏の下端での観測を行うことによって磁気圏の理解を一層進めることが出来る.これに関連して観測データを有機的に利用する目的で比較的小規模にまとめた科学データベース(SDB)の製作を進めている.

 GEOTAIL衛星によるMagnetosheath中の電磁流体波動の研究
	助 手	松岡彩子	      ロンドン大学インペリアルカレッジ	 D. J. Southwood
					教 授	向井利典
 Magnetosheath(磁気圏さや)における,イオンのジャイロ運動の周期より長い周期を持つ波は,太陽風と磁気圏の相互作用を考える上で重要な役割を持っている.過去の研究により,この領域の波動についてはAlfv始駭波とSlow Mode波の2つのモ−ドの存在が確認されていたが,波のモードを推定する手掛かりとして磁場データと密度データしか無かったので,実際にはモードが決定できない場合がほとんどであった.本研究ではGEOTAIL衛星により観測された磁場データと密度データに加え,モーメントデータも用いてWhal始関係と呼ばれるAlfv始波だけに特有の関係の有無を調べ,Alfv始波が少なくとも40%以上の確率で広い周波数域にわたって存在することを示した.また,Alfv始波の観測される頻度は磁気圏さや中の位置に大きくは依存しないが,この波によって運ばれるエネルギーの方向は常に反太陽方向であり,従って波の発生源は磁気圏さやの上流域であり,波は減衰しないまま下流まで伝播していることがわかった.更に,波の振幅は磁気圏境界面に平行な方向に最大であること,プラズマ温度の異方性により厳密にはWhal始関係とはずれが生じていることを明らかにした.

 GEOTAIL衛星と「あけぼの」の間での電場のマッピング
	助 手	松岡彩子	      ロンドン大学インペリアルカレッジ	    D. J. Southwood
			教 授	向井利典	助教授	早川 基
 地球から遠い(〜20万km)磁気圏尾部でGEOTAIL衛星により観測されたプラズマの速度と,地球に近い(数千km)領域で「あけぼの」により観測されたプラズマの速度が,電磁流体力学理論で予見される関係を満たしているか,検証した.同じ磁力線上にある離れた2点で観測されるプラズマの速度は,「磁場凍結」と呼ばれる概念を用いれば,ある式で関係づけられることが分かっている.GEOTAIL衛星と「あけぼの」が同じ磁力線上にある時の実際のデータに,時間的に定常な磁気圏を仮定した上でこの「磁場凍結」の概念をあてはめてみたところ,両者はおおよそ一致をするものの,大きく異なる場合も珍しくなかった.よって観測結果を説明するには,磁気圏中の磁場が時間的に急激に変化していることを仮定しないと説明がつかないことがわかった.

 GEOTAIL衛星のダブルプローブ電場計測器データの評価
	教 授	鶴田浩一郎	助 手	松岡彩子	教 授	向井利典
	助教授	早川 基	助教授	斎藤義文	客員助教授	町田 忍
 ダブルプローブ法は,飛翔体から伸展した1対のアンテナのそれぞれの先端における電位の差を測ることにより電場を計測する手法である.現在運用中の衛星では,GEOTAIL衛星及び「あけぼの」においてこの方法を用いた電場計測を行っている.「あけぼの」の観測領域のように数十個/ccのプラズマ密度を持つ空間においては,プローブの周囲にできるシース(電子雲)のサイズがアンテナ長に比べ十分に小さいため,比較的簡単な手法によって測定値を校正することが出来る.一方GEOTAIL衛星の観測領域である磁気圏遠尾部や磁気圏を取り囲む太陽風領域等の0.1〜10個/cc程度のプラズマ密度を持つ空間では,実際の電場からの計測値のずれはシースを形成する電子の振る舞いにより大きく左右される.GEOTAIL衛星に搭載されたダブルプローブのデータを,同じくGEOTAIL衛星に搭載されている磁場計測器・粒子計測器のデータから計算される−V×B電場と比較することにより,シース中の電子が計測に与える影響について研究を行っている.

 GEOTAIL 衛星による地球磁気圏近尾部磁気衝撃波の研究
	助教授	斎藤義文	教 授	向井利典	客員助教授	町田 忍
			東大・理	寺沢敏夫	所 長	西田篤弘
 地球磁気圏尾部において磁気リコネクションが起き,X-typeの磁気中性線が存在する場合,X-typeの磁気中性線を囲むプラズマシートとローブの境界はslow-mode shockとなることが理論的に予測されていたが,これまでの磁気圏尾部探査衛星GEOTAILの観測によって地球磁気圏遠尾部のプラズマシートとローブの境界がslow shock になっている場合のあることが観測的にも確認された.GEOTAIL衛星は運用初期の地球磁気圏遠尾部を観測する軌道から,地球磁気圏近尾部を観測する軌道に入りこれまでに約4年間の地球磁気圏近尾部のデータが得られている.この期間のデータを解析することによって地球磁気圏近尾部のプラズマシートとローブの境界もslow-mode shock となる場合のあることがわかったが,それと同時に地球磁気圏近尾部の非常に地球に近い場所のプラズマシートとローブ境界はslow-mode shockとは同定できないことも明らかになった.
 「のぞみ」搭載PSA−ISA(イオンエネルギー分析器)による太陽風の研究
	助教授	斎藤義文	助教授	早川 基	教 授	向井利典
			客員助教授	町田 忍	東大・理	寺沢敏夫
 平成10年7月に打ち上げられた「のぞみ」には,火星周辺イオン,太陽風イオンなどのエネルギー分析を行うイオンエネルギー分析器(PSA-ISA)が搭載されている.観測器の初期チェックを行った後,地球−火星の惑星間空間における太陽風の観測を開始した.地球−火星間での太陽風の観測は,CME(Coronal Mass Ejection) の観測を含めていくつかの観測テーマが考えられる.これまでのところ,ジオテイル衛星搭載低エネルギーイオンエネルギー分析器(LEP-EAi) との太陽風の同時観測を行った他,月スウィングバイ時には太陽風イオンと同時に,太陽風イオンが月表面から反射されたと考えられるイオンの観測結果も得られている.

 SELENE衛星搭載視野角掃引型電子・イオンエネルギー分析器の開発
	助教授	斎藤義文	助教授	早川 基	教 授	向井利典
	助 手	浅村和史	大学院学生	横田勝一郎	客員助教授	町田 忍
					立教大・理	平原聖文
 宇宙空間におけるプラズマの観測は,地球の電離層に始まり地球周辺の空間そして太陽系の他惑星周辺へとその領域を広げつつある.これらの様々な宇宙空間の多くの領域は熱的に非平衡,非定常なプラズマで満たされており,そのプラズマの自由エネルギーが宇宙空間における電磁的環境の変動を生み出している.人工飛翔体を用いてプラズマの三次元分布を高い時間分解能,高い角度分解能で直接観測することはこれらのプラズマの起源,移動,変化を理解して宇宙空間の電磁的環境,基礎的なプラズマ物理の諸過程を解明する上で非常に重要である.従来,プラズマエネルギー分析器は数秒の周期でスピンを行うスピン型の衛星に搭載されてきた.しかし今後惑星探査を進めていくにあたり三軸制御の非スピン型衛星にプラズマエネルギー分析器を搭載する必要が生じるものと考えられる.この場合,できる限り少ない重量で三次元の観測視野を確保するには,観測器自体が広い(例えば半球面:2π)視野を持つ必要がある.本研究は平成15年度打ち上げ予定のSELENE衛星に搭載する,観測視野方向を電気的に掃引することによって2πの視野を確保するプラズマエネルギー分析器の開発を行うものである.

 SELENE衛星搭載LEF-TOF型質量分析器の開発
	助教授	斎藤義文	助教授	早川 基	教 授	向井利典
	助 手	浅村和史	大学院学生	横田勝一郎	客員助教授	町田 忍
					立教大・理	平原聖文
 近年,地上からの光学観測によって月や水星の大気にナトリウム,カリウムなどの元素がかなりの量で含まれていることが明らかとなってきた.これらの大気は天体表面を起源とするものと考えられているがその定量的な分布や時間変動を明らかにし,成因を特定するためには人工飛翔体を用いた天体周辺空間におけるプラズマのエネルギー質量分析の結果を待たざるを得ない.このような地球外天体周辺におけるイオンのエネルギー質量分析には,高質量数のイオンの質量を十分な精度で分解可能であるような質量分析器の開発が必須である.LEF(Linear Electric Field)−TOF型イオン質量分析器は従来用いられてきたTOF型の質量分析器やその他の質量分析器に比べてはるかに高い質量分解能(m/△m~50)を実現することが可能である.本研究は平成15年度打ち上げ予定のSELENE衛星に搭載するLEF−TOF型イオン質量分析器の開発を行うものである.

 SELENE衛星搭載用極端紫外光望遠鏡の開発
	助 手	吉川一朗	東大・理	中村正人	立教大・理	平原聖文
 我々は,月探査周回衛星SELENEに極端紫外光望遠鏡UPI(Upper Atmosphere and Plasma Imager)を搭載し,地球のプラズマ圏の撮像を試みる予定である.地球プラズマ圏からの散乱光は非常に微弱なため,どの程度まで検出器固有のノイズを軽減できるかが観測の成否を決めると言える.我々は,米国ガリレオ社から低ノイズ型MCPを購入し,ノイズの分布,パルスハイト分布とそれらの経年変化,温度依存性などを詳細に調査し,従来型MCPとの比較を現在行っている.

 地球プラズマ圏の撮像に関する研究
	助 手	吉川一朗	名大・理	山下廣順	東大・理	中村正人
 「のぞみ」が地球を周回している間,衛星に搭載した極端紫外光望遠鏡を用い,地球プラズマ圏の撮像を行った.この観測は,プラズマ圏に存在するHe+が共鳴散乱する太陽光を検出するリモートセンシング法であるが,実際に観測に成功したのは今回が初めてである.このような観測手段の可能性は,これまで長年世界各国で議論はされてきたが技術的な困難から実現には至らなかった.今回の成功により我々は,今後のプラズマ圏撮像計画に必要な光学系の技術を習得しただけでなく,科学的に沢山の知見を得た.例えば,プラズマが密に詰まった領域の広がりは今まで我々が持っていた“Closed field line”の概念で説明がつくことを確認したが,密度が比較的希薄な領域の広がりは磁気圏内のかなり広い領域(10Re)程度まで広がっていることを明らかにした.

 火星大気中に存在するHeの数値計算
	助 手	吉川一朗	名大・理	山下廣順	東大・理	中村正人
 火星大気中のHeの全量は火星の内部活動度の歴史を反映していると考えられる.現在,火山地形の研究から火星にはごく最近にも火山活動があったとする説の正否が問われているが,大気中に存在するHeの全量が解ればこの問題を解決する糸口が見つかるはずである.我々は,過去の衛星観測から得られた火星内部に含まれる放射性元素のデータから,火星大気中に存在するHeの全量に関する数値計算を行っている.Heの全量測定は,「のぞみ」に搭載された極端紫外光望遠鏡によって行われる予定であり,そのデータの予測を予め行っておくことが目的である.

 惑星間空間He I(58.4nm),He U(30.4nm)の測定
	助 手	吉川一朗	名大・理	山下廣順	東大・理	中村正人
 「のぞみ」では火星への遷移軌道中に,惑星間空間に存在するHe+とHeからの散乱光を測定している.He+は恒星間空間から流れ込んできたHeが太陽光によって電離したものと太陽風中のHe++が恒星空間のHと荷電交換を行ってできたものの混合と考えられる.過去の観測によれば太陽風中のHe++には大きな変動が見られるので,惑星間空間からの光の強度を知ることは,上記の予測される2つの過程がどの程度の割合で起こっているかの検証となる.同時に,この観測は火星や地球で観測を行う際の背景光の見積もりをする上でも意義がある.

 GEOTAIL衛星による磁気圏プラズマの観測
	教 授	向井利典	客員助教授	町田 忍	助教授	斎藤義文
	所 長	西田篤弘	助教授	星野真弘	通総研	小原隆博
			立教大・理	平原聖文	東大・理	寺沢敏夫
 GEOTAIL衛星に搭載されている低エネルギー粒子観測装置(LEP)は,初期観測で素晴らしい結果を見せた直後に電子回路の一部がラッチアップするという不慮の事故のために観測不能の状態が続いていたが,平成5年9月1日に行われた特殊オペレーションによって回復し,9月中旬から観測を再開した.その後,磁気圏尾部及びその境界面,磁気圏前面の境界層,衝撃波,磁気シース領域,上流の太陽風におけるプラズマ観測から多くの新しい現象が発見され,同衛星に搭載されている他の観測装置をはじめ,他衛星/地上観測との同時観測による共同研究が行われている.所内教官が中心になって行った研究概要は他項にも述べられているが,その他に特記すべき研究項目を挙げると,例えばプラズマシート境界層近傍のプラズマ波動現象,昼間側の低緯度境界層,磁気圏境界面における磁力線再結合過程,上流の湾型衝撃波,等の研究が本プラズマ観測データを用いて行われている.

 磁気圏サブストーム時の磁気圏尾部における粒子加速の研究
	教 授	向井利典	客員助教授	町田 忍	東大・理	寺沢敏夫
	助教授	斎藤義文	所 長	西田篤弘	助教授	星野真弘
	名大・理	前沢 洌	立教大・理	平原聖文	名大・STE研	國分 征
 磁気圏サブストームの発生の際,磁気圏尾部においてプラズモイドと呼ばれる高温プラズマ流が作られることは既にISEE-3衛星の観測等でも観測されているが,プラズマ粒子の3次元速度関数の詳細がGEOTAIL衛星に搭載されている低エネルギー粒子観測装置(LEP)によって観測されている.その結果,プラズモイドの構造,生成/発展,運動について新しい事実が観測され,特に磁力線再結合の兆候であるX型磁気中性線の直接的証拠と思われる観測結果を発見した.その結果と計算機シミュレーションとの対比から磁気リコクションの物理過程に関する研究が大きく進展した.

 「あけぼの」(EXOS-D)によるオーロラ粒子観測
	教 授	向井利典	客員助教授	町田 忍	通総研	小原隆博
	助教授	斎藤義文	神戸大	賀谷信幸	通総研	佐川永一
	通総研	三宅 亘	立教大・理	平原聖文	極地研	江尻全機
			極地研	山岸久雄	極地研	宮岡 宏
 平成元年2月22日に打ち上げられた「あけぼの」には,オーロラ粒子の加速機構の解明を主たる目的とした低エネルギー粒子観測器(LEP)が搭載されている.LEPの主要機能は,電子(10eV〜16keV)及びシオン(13eV/e〜20keV/e)のエネルギー・ピッチ角分布を測定し,イオンについてはその質量分析を行うことである.また,波動,粒子相互作用の研究の為,粒子フラックスのHF及びVLF帯における変動スペクトルの計測も行う.現在まで,観測器の機能は全て順調で磁気圏物理に関する幾つかの新しい知見が得られているが,なかでもカスプの粒子降下現象に関する物理機構,電離層起源のイオン加速機構,極冠域の粒子高価と磁気圏構造,沿磁力線電流の坦体荷電粒子の同定について大変興味ある結果が得られている.

 磁気圏尾部電流の研究
	教 授	向井利典	助教授	斎藤義文	大学院学生	浅野芳洋
 磁気圏尾部において,朝方から夕方側に尾部を横切る電流が磁気中性面に流れていることは磁場観測の結果から明らかであるが,GEOTAIL衛星による電子とイオンの速度差から求めることを試みている.ローブ磁場の観測結果はシート面全部にわたる全電流を示しているのに対し,後者は局所的な電流であるので,その比から電流層の厚みを評価することも可能である.この研究の目的は,磁気圏サブストームの発生時に尾部の電流層が局所的に薄くなり,電流密度が異常に高くなり,不安定が発生するという理論的な推定を観測的に実証することである.しかし,電子のデータには様々な要因の不自然なデータが混入しており,まず,その評価と適性な補正を施すことが必須である.これをすべての場合に完全に行うことは難しく,まだ予備的ではあるが,上記の理論的推定に適合する解析結果が得られた.

 水星探査の検討
	教 授	向井利典	教 授	斎藤宏文	助教授	山川 宏
	教 授	小林康徳	助教授	早川 基	 他,水星探査ワーキンググループ
 水星に関する我々の知識は約25年前に行われたマリナー10号によるフライバイ観測とわずかな地上観測に基づく断片的なものがあるにすぎないが,そのいずれもがこの惑星の特異性を垣間見せている.そのため,これまで水星周回探査機の検討・提案が欧米を中心に行われてきたが,軌道投入方法や熱対策などの技術的問題のために未だ実現していない.1997年に発足した「水星探査ワーキンググループ」では,2005年8月打ち上げを目標として,その科学的な問題の掘り下げと観測装置の検討から探査機のシステム検討,熱設計,軌道設計などを精力的に行い,その結果を「水星探査機検討報告書」にまとめた.
 高速中性粒子撮像観測装置の基礎開発
	教 授	向井利典	助教授	斎藤義文	大学院学生	風間洋一
			特別共同利用研究員	浅村和史	客員助教授	町田 忍
 高速中性粒子は,地球磁気圏の放射線帯や近尾部プラズマシートのイオンが geocoronaの水素原子と荷電反応して生成され,電磁場の影響を受けずに弾道飛行するので,リモートセンシングにより磁気圏の大域的構造を瞬時に知ることができるものと期待されている.しかし,その予想されるフラックスは極微量で,これまでの粒子観測技術の延長だけではきわめて難しい.平成7年度は,まず,計算機シミュレーションを用いてどの程度の中性粒子フラックスが予想されるかを調べることから始めて,鍵を握る要素技術である荷電粒子除去特性(静電偏向板と小型磁石を併用)と超薄膜カーボンの粒子透過特性について基礎実験を行った.観測装置の全体的構成についても種々検討を行い,計算機シミュレーションを用いて最適形状寸法を決定した.平成9年度では,実際に試作・実験を経て,平成10年2月5日に打ち上げられたSS-520-1号機に搭載し,10kev程度のエネルギーの中性水素原子の観測に成功した.この観測結果はGeophysical Research Lettersに掲載され,現在,計算機シミュレーションを用いて理論的な検討を行っている.

 磁気圏遠尾部ローブ領域におけるプラズマ対流の研究
	大学院学生	松野陽一	教 授	向井利典	助教授	斎藤義文
	所 長	西田篤弘	客員助教授	町田 忍	名大・STE研	國分 征
 GEOTAIL衛星のプラズマと磁場の観測を用いて,磁気圏遠尾部ローブ領域におけるプラズマ対流の研究を行い,以下のことを新たに明らかにした.
 1)ローブ領域で数密度と磁場に平行な速度との間に極めてよい相関が一般的に存在することを見出した.この相関は,対流電場ドリフトによる速度フィルターに基づくモデルを用いて説明することができた.
 2)対流をあらわす磁場に垂直な速度υ⊥のZ成分は,IMF Bz < 0のときには磁気圏境界面から磁気中性面に向かう流れになっているが,IMF Bz > 0のときには0に近い小さな運動である.υ⊥のY成分については,南北両ローブで流れの向きが逆になっており,IMF Byの極性によって向きはそれぞれ逆転する.また,磁気中性面はY軸に対して傾いており,傾く向きはIMF Byの極性によって逆転する.
 3)サブストームの際に尾部方向に放出されるプラズモイドの前後では対流が他と異なる.その特徴は,プラズモイドの前面では対流の速さが減少する,プラズモイド通過直後には磁気中性線の存在を示すと考えられる速い流れが存在する,その後も20分程度にわたって活発な対流運動が続く,というものである.

 サブスト−ム時のCross-Tail CurrentとCurrent Sheetの厚さの変化の研究
	大学院学生	浅野芳洋	教 授	向井利典	助教授	斎藤義文
			東工大・理	長井嗣信	名大・STE研	國分 征
 GEOTAIL衛星のイオンおよびエレクトロンの観測器を用い,サブストーム時の磁気圏尾部中性面付近を流れるCross-Tail Current およびこの電流層の厚さの解析を行った.その結果以下のことが明らかになった.
 1)Growth phaseにおいては徐々に電流密度が増加する.また,逆に電流層は徐々に薄くなり,イオンのジャイロ半径程度の厚さにまでなる.
 2)プラズマシート内における電流密度は一様ではなく,中性面付近で増大している.
 3)特に電流密度が増加しているような場合の電流は,主にエレクトロンが担っている.

 「のぞみ」 搭載電子計測器PSA/ESAによる太陽風電子の観測
	客員助教授	町田 忍	助教授	斎藤義文	助教授	早川 基
			教 授	向井利典	京大風掾	二穴喜文
 火星探査機「のぞみ」に搭載された低エネルギー電子計測器(PSA/ESA)は,打ち上げ後の高圧電源投入・動作試験を無事に終了した.火星に向かう惑星間空間巡航中の現在,太陽風の電子観測を定期的に実行している.初期的な解析によって,太陽風電子の3次元速度分布関数が,良く知られている様に,低温のコア成分と,高温のハロー成分からなることを確認した.太陽の活動度と,これらの成分の変動との定量的な相関関係など,今後さらに解析を進めてゆく予定である.また,月スウィングバイ時に,月面の方向からやってくる電子成分を検出したが,これは,月の表面の磁場強度が増大することに起因するミラー効果によって,月表面付近で反射された太陽風電子であると思われる.その詳細にわたる特徴の解析は,将来の,月ミッション計画に大きく貢献するものと思われる.

 サブストーム時の磁気圏尾部構造変化の研究
	客員助教授	町田 忍	所 長	西田篤弘	教 授	向井利典
	助教授	斎藤義文	教 授	鶴田浩一郎	助教授	早川 基
			名大・STE研	國分 征	京大・理	宮下幸長
 サブストーム(磁気圏嵐)時に地球磁気圏尾部は,大規模な構造変化を起こすが,本研究では,Superposed Epoch Analysisと呼ばれる手法を用いて,その変化の特徴を解析した.この研究では,地球に比較的近い領域(地球半径の10倍から45倍の部分)について解析を行った.磁場,プラズマ流速,電場,プラズマおよび磁場の圧力の変化を調べた結果,地上のPi-2脈動開始より,およそ2〜3分前に,地球の半径の20倍ほどの夜側磁気圏に磁気中性線の形成されることが確認された.また,磁気再結合過程がサブストームの駆動機構として本質的な役割を果たすことが明らかにされた.

 磁気圏尾部に形成される磁気中性線付近の構造の解析
	客員助教授	町田 忍	所 長	西田篤弘	教 授	向井利典
	助教授	斎藤義文	教 授	鶴田浩一郎	助教授	早川 基
	助 手	松岡彩子	名大・STE研	國分 征	京大・理	上野玄太
 地球磁気圏尾部中でみられる地球向きのプラズマ流と北向き磁場の同時極性反転データをGEOTAIL衛星の全観測データの中から選び出して,その特徴について解析を行った.その様な条件を課した理由は,まさにその間に,磁気再結合構造の中心部である磁気中性線の周辺を衛星が通過していると考えることができるからである.大量のイベントを抽出することができたが,それを,磁場の北向き成分および地球向きの成分(Bz,Bx)を太陽地球磁気座標軸(X,Z)の代わりに用いて整理することによって,磁気再結合の構造として,広く知られるパターンが,プラズマの速度や温度などに認めることができた.今後さらに,電場の構造や電磁場の揺らぎなどに対して解析を進め,特に,磁場の融合が起こると考えられている磁気中性線(磁場拡散領域)の詳細な構造を明らかにしてゆきたい.

C.惑星研究系

 「ようこう」による太陽コロナ活動現象の研究
	教 授	小杉健郎	教 授	小川原嘉明	客員教授	常田佐久
 「ようこう」はフレア爆発等の太陽コロナの活動現象の解明を目的として,1991年8月30日に鹿児島宇宙空間観測所より打ち上げられた.硬X線望遠鏡,軟X線望遠鏡(日米共同開発),広帯域分光器,ブラッグ結晶分光器(日英米共同開発)の4つの観測機器を搭載し,打ち上げ7年半を経た現在も観測を順調に継続している.太陽観測の分野では,1995年12月にはSOHO衛星(ESAとNASAの共同ミッション),1998年4月にはTRACE衛星(NASAのSMEX衛星のひとつ)が打ち上げられており,「ようこう」はこれらの衛星や地上の光学望遠鏡・電波望遠鏡との共同観測を精力的に行っている.研究活動はいよいよ最盛期を迎えており,国内外の太陽物理学研究者を組織して,1998年度には以下のような研究活動を展開した.
  フレア爆発に伴うプラズモイド放出現象の軟X線撮像による磁気リコネクション仮説の検証,
  フレア電子からの放射である硬X線とマイクロ波電波の撮像結果を比較してのフレア領域の磁場構造の推定とフレア爆発機構,粒子加速機構の解明,
  これらの研究の基礎としての硬X線望遠鏡及び軟X線望遠鏡の撮像特性のキャリブレーションの改良.
 本研究の一部は,科研費・基盤研究(A)「太陽フレアにおけるエネルギー解放・粒子加速機構と磁気リコネクション」(代表者:小杉健郎,課題番号:08304021)によるものである.また,「ようこう」によるフレア研究のいっそうの展開を図るため,国立天文台野辺山太陽電波観測所と共同で,硬X線望遠鏡の撮像結果を集大成した“The Yohkoh HXT Image Catalogue: October 1991-August 1998”を出版した.

 次期太陽観測衛星に向けての基礎的開発研究
	教 授	小杉健郎	客員教授	常田佐久	国立天文台	渡邊鉄哉
			           他「次期太陽観測衛星ワーキンググループ」
 第22号科学衛星として2004年度の打ち上げ実現を目指して,「次期太陽観測衛星(SOLAR-B)」の衛星システムの概略検討,搭載望遠鏡の概念設計を進めている.この衛星は,超高温コロナの形成,太陽磁場・コロナ活動の起源,天体プラズマの素過程の解明を主眼として,太陽大気における磁気活動現象を総合的に研究することを狙いとしている.そのため,0.5秒角の分解能で光球面のベクトル磁場を測定する可視光・磁場望遠鏡,コロナの構造とその変動を約1秒角で観測する軟X線望遠鏡,コロナ域のプラズマ診断・速度場診断を行う極紫外線撮像分光装置の3種の観測機器を搭載し,コロナと光球とを結びつけて観測する.3つの観測機器はいずれも,日米または日英米の国際協力であり,宇宙研及び国立天文台を主力とする日本側と米・英側とで合同チームを組織し,共同設計・分担製作の方針で開発される予定である.既にアメリカではNASAが,またイギリスではPPARC(素粒子天体物理学研究評議会)がSOLAR-B衛星への参加を決定し,予算措置を講じて,参加研究者チームの選抜を終えている.3月にはこれらの米・英チームも参加して,「SOLAR-B搭載科学機器キックオフ国際会議」を宇宙研にて開催した.搭載科学機器,各種バス機器に関しても担当メーカの選定を終え,衛星システムの概略検討が順調に進められている.

 高エネルギー太陽分光撮像衛星(HESSI)計画への寄与
	教 授	小杉健郎	国立天文台	坂尾太郎	国立天文台	佐藤 淳
 HESSI衛星は,太陽フレアを観測する観測装置High Energy Solar Spectroscopic Imagerを搭載する小型衛星(SMEX)であり,米国NASAが西暦2000年の太陽活動極大期に打ち上げるべく準備を進めている.HESSIは,「ひのとり」,「ようこう」の硬X線望遠鏡で我々が用いた「すだれ」コリメータ技術を用いて太陽フレアからX線〜γ線を分光撮像しようとする装置である.小杉が共同研究者に名を連ね,「すだれ」コリメータの設計と較正,画像合成法などで経験を伝授するとともに,「ようこう」硬X線望遠鏡の最新の科学成果に基づくアドバイスを行っている.打ち上げ後は,「ようこう」との共同研究を発展させる予定である.

 気球搭載用フレア硬X線スペクトル計の開発
	教 授	小杉健郎	国立天文台	坂尾太郎	国立天文台	小林 研
 次期太陽活動極大期間中での高々度気球搭載を目指して,CaTe半導体検出器を用いた太陽フレア硬X線スペクトル観測装置の開発を開始した.本装置は,数秒という短いタイムスケールで変動する太陽フレアからの硬X線放射を,優れたスペクトル分解能で観測することを狙いとする.CdTe半導体検出器は冷却が不要なため,軽量かつ安価な観測装置として実現できる潜在的可能性を有するが,限られた観測時間の間にたくさんのフレアを高時間・スペクトル分解能で検出するためには,検出器の大型化が課題となっている.また,より高いエネルギー域のX線まで検出するためには,厚い検出器を実現する必要がある.本研究は,これらの課題に挑戦するものであり,試験用の検出器を購入し,特性評価を続けている.

 MUSES-C搭載用蛍光X線スペクトロメータの開発
	教 授	加藤 學	助 手	岡田達明	特別研究員	山下靖幸
	特別共同利用研究員	白井 慶	大学院学生	山本幸生	客員教授	常深 博
	大阪大・理	北本俊二	教 授	藤村彰夫	教 授	水谷 仁
 小惑星や月など大気のない惑星の表層物質の主要構成元素組成を定量的に調べるには,周回衛星や着陸機からの蛍光X線分光観測を行うのが最も効率がよい.太陽X線照射によって,惑星表面からは常に表層元素組成を反映するX線が放射されており,それを観測する.MUSES-Cでは,蛍光X線分光観測を小惑星のランデブーフェーズに行い,未知の天体である小惑星の主要元素組成をグローバルに調べる.それと他の観測機器で調べる表層の鉱物の組成や,サンプルリターンによる局所的だが精緻な情報と合わせて考察することで,小惑星の起源や進化を探る重要な手がかりとなる.本機器の特徴はX線CCDを検出器に用いることと,太陽X線による惑星表面での蛍光X線の励起放射を機上で校正することにある.X線CCDの使用によって,NEARなど他の惑星探査で用いられる比例計数管に比べてエネルギー分解能が向上する.またガス圧に耐える必要がないため薄い遮光膜が使用でき,1keV以下の低エネルギーまで観測域が拡大する.現在,PM試験に向けての開発を進めている.

 SELENE搭載用蛍光X線分光計の開発
	教 授	加藤 學	助 手	岡田達明	特別研究員	山下靖幸
	特別共同利用研究員	白井 慶	大学院学生	山本幸生	客員教授	常深 博
	大阪大・理	北本俊二	教 授	藤村彰夫	教 授	水谷 仁
 月周回衛星SELENEに搭載して,月面の主要元素組成のマッピング観測を,空間分解能20km以下で極域を除くほぼ全面に対して行う計画である.搭載機器はMUSES-C用蛍光X線スペクトロメータと基本性能を同じくする.しかし,対月面相対速度が1.5km/sと大きいため,短い積分時間で十分なS/Nを得るシステムが必要である.そこで,太陽X線強度モニタにシリコンPINダイオードを追加し,時間分解能を向上させる.また,有効受光面積を約100cm2と大型にすることで計数率を上げ,短時間の観測時間で高いS/Nを確保する.本機器はPFMの設計フェーズに入る所であり,機械的・熱的な詳細設計を行っている.

 アルファ・プロトン・X線スペクトロメータの基礎開発
	教 授	加藤 學	助 手	岡田達明	助 手	田中 智
	教 授	藤村彰夫	教 授	水谷 仁	東北大・理	近藤 忠
 将来のランダーやローバーを用いた固体惑星表面の元素組成探査を行う有力な手段として,アルファ線照射によるアルファ線の後方散乱スペクトルの計測,(α,P)反応よって生じたプロトン放射スペクトル,及び蛍光X線スペクトルを測定する方法がある.この方式のものが,「マーズパスファインダ」の探査車「ソジャーナ」に搭載され,火星表面の岩石や土壌の分析を行った.われわれは将来の日本が行うと期待される惑星表面探査のための基礎開発であり,機器の開発と同時に表面物質状態による影響など,解析のためのデータベースの構築まで視野にいれて進めている.

 CZTを用いた小型ガンマ線分光計の基礎開発
			助 手	岡田達明	教 授	加藤 學
 CZTは常温稼働のガンマ線分光計として将来の惑星探査への応用が期待されるセンサである.しかし現状では安定供給されるのは1mm程度の厚みのものまでであり,代表的な放射性元素(U, Th, K)の測定すら困難である.われわれは薄いCZTセンサを多層に重ねることで,有効検出能を向上させて帯域を約3MeVまで延ばすことと,バックグラウンドとなる荷電粒子の影響を除去させることを目標として基礎開発に着手した.将来は多層構造の隙間を充填材で埋めて耐衝撃性を増し,ペネトレータに搭載して軟着陸の困難な惑星表面や地球上の火山等の観測に活用することを考えている.

 科学ロケットS-310-28号機搭載用蛍光X線分光計の開発
	教 授	加藤 學	助 手	岡田達明	特別研究員	山下靖幸
			特別共同利用研究員	白井 慶	大学院学生	山本幸生
 惑星表面の主要元素組成は,惑星探査の最も基本的な観測対象項目である.それは太陽X線の照射によって励起発光する蛍光X線のスペクトルを観測することで得られる.われわれは,MUSES-CとSELENEで小惑星および月に対して蛍光X線観測を行うが,その試作および実証試験をS-310-28号機ロケット実験において行った.主な開発項目は最先端の検出器であるX線CCDとその駆動・処理回路,遮光用の超薄膜(5μ厚)のベリリウム窓,冷却特性,及び一連の作業・試験の手順の確認であった.いずれも今後の惑星搭載機器の開発にとって貴重なデータが得られた.

 科学ロケットS-310-28号機による太陽X線の大気による蛍光・散乱の観測と,標準試料を用いた蛍光X線の機上校正法の研究
	助 手	岡田達明	特別共同利用研究員	白井 慶	大学院学生	山本幸生
			特別研究員	山下靖幸	教 授	加藤 學
 S-310-28号機に搭載した蛍光X線分光計は,2個のセンサがそれぞれ地球大気方向と太陽の照射を受ける位置に搭載した玄武岩組成の平板プレートの方向の視野をもつ.前者は高度約100〜110kmの地球大気成分による太陽X線の散乱や,大気中の構成元素の蛍光X線を検出する.地球大気の場合,上手く行けばアルゴンの蛍光X線が検出できるが,一般に惑星大気中の窒素,ネオンやアルゴンなど分光観測で調べにくい成分の存在度をリモートセンシングで調べる手法のひとつとして期待される.また,標準試料を用いる手法は通常の室内実験での元素定量分析で行う方法である.太陽X線の照射によって励起発光したX線のその場での計測の手段を確立することは,今後の惑星探査において重要である.

 惑星の表面及び大気からのX線放射の研究
	助 手	岡田達明	大学院学生	山本幸生	名大・理	鎌田祐一
	広大・理	寺田健太郎	国立天文台	渡部潤一	東大・理	佐々木晶
					GSFC	竹島敏明
 惑星表面からのX線照射の実例として,月と彗星をターゲットにした観測・解析を行っている.月は「あすか」の観測データを用いた.月面はレゴリスに覆われ,またクレータによる凹凸があるが,X線の強度・スペクトル形状は,月が平坦な球面と仮定した場合に比べて2〜3分の1程度の値を示していることが分かった.また,「あすか」によるヘールボップ彗星の観測を試みた.S/Nが悪く,解析は極めて難航しているが,今後も同様の機会があれば試みてゆく.

 惑星表面の粒子サイズ効果による蛍光X線の強度,スペクトルに対する影響の研究
			助 手	岡田達明	教 授	水谷 仁
 惑星表面からのX線の放射強度とスペクトル形状は,励起源となる太陽X線と表面物質の組成が既知であれば,近似的に計算で求めることができる.しかし,実際には表面レゴリスの粒度によって影響を受ける.その効果を定量的に調べる実験的研究を行い,データベースを構築している.また,粒度や入射角・射出角に対する依存性を示す実験式に対する理論的考察も行っている.

 惑星表層の地形および物質による太陽光反射率の変化
	神戸大・理	中村昭子	高知大・理	本田理恵	助 手	飯島祐一
	大学院学生	横田康弘	助 手	岡田達明	教 授	水谷 仁
 クレメンタインやガリレオによる月画像データを用いた太陽光反射強度分布と,表面の状態や表層地形との関連を調べている.また,散乱強度には太陽と表面と探査機の間の位相角による依存性についても画像データの解析から調査している.これは,LUNAR-AやMUSES-Cにおけるカメラ系の光量調整などの情報としても有益である.

 月面小型クレータの形態,密度と月の表層進化との関連
	助 手	岡田達明	九大・理	本田親寿	九大・理	並木則行
 月面の小型クレータの形態から,表層下の地質の層状構造を調べることができる.それを宇宙研の惑星画像解析センター所蔵の惑星画像データを用いて調査している.また,地下構造の特徴は小型クレータのサイズ分布に反映されることも知られる.小型クレータは非常に多数あるため,それを計算機上で自動抽出する方法を開発している.一方,小型クレータの頻度分布はローカルな地域の年代を表すと考えられ,それを基に表層進化の過程を調べる試みを行っている.

 惑星表層下構造の電波観測に関する地質学的研究
	京大・理	山路 敦	東北大・理	小野高幸	東大・理	佐々木晶
	名大・理	山口 靖	宇宙開発事業団	春山純一	助 手	岡田達明
 惑星表層下の構造を調べる手段として,電波のエコー観測が考えられる.これは惑星表層が乾燥したレゴレリスやメガレゴリス層に覆われているため電気伝導度が極めて低く,電波の透過率が高い性質を利用するものである.アポロ17号でものこの手法が試験的に行われ,月の数カ所について地下構造を調べることに成功している.日本では,セレーネでこの電波観測を行う.その観測対象となる地質学的特徴と観測可能性についての検討を行っている.また,「のぞみ」では表層からのエコー強度を調べることができる.地上からの電波エコー強度が何故かほとんどゼロであるスティルスと呼ばれる地域の特徴,火星にかつて存在したかもしれない氷による地形,地下水の観測の可能性などについて検討を行っている.

 テザー衛星(ひもつき衛星)による大気観測ミッションの検討
	教 授	小山孝一郎	教 授	小野田淳次郎	教 授	名取通弘
	助教授	佐々木進	米国・テキサス大	R. Heelis	米国・ミシガン大	B. Gilchrist
 特に高度200-120kmの領域を複数個の小型衛星によって立体的に探査できると期待されるTethered Subsatellite Systemは,特に熱圏の力学の研究に大きな飛躍をもたらすものと期待されている.平成10年度にはM-Vを使った100kmテザーシステムの安定性を遠地点,近地点をパラメータとして検討した.

 金星熱圏における中性風の観測のための測定器の開発
			教 授	小山孝一郎	共同研究学生	下山 学
 将来の金星熱圏の力学の研究のために必須な中性風の情報を得るための測定器の開発のためにその理論的な検討を開始した.

 月探査計画における電波科学
	教 授	小山孝一郎	助教授	山本善一	助 手	今村 剛
					大学院学生	野口克行
 月探査計画の中で,月電離層(光電子層)の検出を計画,技術的な検討を行い,その検出の可能性を探っている.

 赤道帯エレクトロジェットに関する研究とロケット実験計画
	教 授	小山孝一郎	東海大・工	遠山文雄	東海大・情報	高橋隆男
	九州大・理	湯元清文	久留米高専	坂 翁介	インド物理研究所	H. S. Sinha
				  ビクラムサラバイ宇宙センター	R. Sridharan
 赤道帯の研究は極域の研究に比べ,極端に遅れている.ここでは取り敢えず,1)電流層の理論と観測の食い違いおよび電流層の熱エネルギー収支,2)西向きのCounter electrojetの発生機構,についてインド,ツンバおよびスリヘリコータにて実験を行うべく,インド物理研究所と意見の交換を重ね,実現に向けて鋭意努力中である.

 火星大気および太陽風プラズマ研究用電波科学
	教 授	小山孝一郎	助教授	山本善一	教 授	鶴田浩一郎
	教 授	廣澤春任	助教授	横山幸嗣	助 手	今村 剛
	通総研	近藤哲朗	名古屋大	小島正宜	ジェット推進研究所	P. Rosen
	スタンフォード大	L. Tyler	大学院学生	野口克行	外国人研究員(COE)	A. Nabatov
 探査機からのS,X帯電波を利用して,火星電離大気,中性大気,太陽風を調べる電波科学実験を1998年の探査機発射までに地上系を構築し,かつ電波科学のデータ処理に必要なソフトを再構築した.

 金星電離層に関する研究
	教 授	小山孝一郎	北大・理	渡部重十	通総研	丸橋克英
	独マクスプランク宇宙空間研	K. Schlegel	米国・ミシガン大	A. F. Nagy	韓国・国立宇宙航空研	J. Kim
			茨城大	渡辺 堯	特別共同利用研究員	柿並義宏
 日本の火星探査機PLANET-Bによる火星研究に備え,米国の火星探査機パイオニアビーナスにより得られた金星電離層のデータ,特にホールを熱エネルギー収支の見地から詳細に見直した.

 観測ロケットによる振動温度測定と測定器の高性能化
	教 授	小山孝一郎	横浜国大・教	鈴木勝久	武蔵工大	堤井信力
	武蔵工大	小野 茂	東大・理	岩上直幹	大学院学生	栗原純一
 窒素振動温度測定器は窒素振動温度,回転温度および窒素分子密度を同時に測定でき,今後の熱圏下部のエネルギー収支,力学の研究に有力であると考えられている.現在,測定器の小型化,高性能化に取組んでいる.このために電子銃電流の増加,イメージセンサーのS/N増加,光学系のレンズ径の2倍化を検討している.

 上層大気風観測用チャフ放出機構の検討
	教 授	小山孝一郎	助教授	阿部琢美	技 官	橋元保雄
					通総研	村山泰啓
 S-310型ロケットを用いて他の地球物理量と一緒に上層風の測定を行うために,平成11年冬ロケット実験にて検証すべく,チャフ放出機構の検討を開始した.

 Es層中の熱エネルギー収支
			教 授	小山孝一郎	大学院学生	吉村玲子
 観測ロケットによって周囲より約100°K高いEs層中の電子温度が得られた.この異常に高い電子温度は再度観測により確かめる必要があるが,現在この値について理論的な検討を行っている.

 音響光学素子を用いた大気微量成分観測用測定器の開発
			教 授	小山孝一郎	共同研究学生	久保田学
 小型気球を用いた対流圏,成層圏高度でのNO2等の微量成分観測のための吸光法による超小型の分光計を開発中である.

 下部電離D領域のシミュレーションと正負イオン質量分析計の開発
			教 授	小山孝一郎	共同研究学生	徳山好宣
 地球環境の中で最も研究の遅れている高度領域60-90kmでのイオン化学反応の研究のために,特にこれまでほとんど研究されなかった負イオンの観測を行うための基礎実験を続行中である.これは将来の回収型低速ロケットによる観測を目指したものである.

 「あけぼの」による磁気圏の熱エネルギー収支と電子温度モデル
	教 授	小山孝一郎	助教授	阿部琢美	ブルガリア地球物理研	I. Kutiev
	韓国・科学技術院	K. W. Min	英国シェフィールド大	G. Bailey	英国シェフィールド大	N. Balan
					特別共同利用研究員	山本 保
 「あげぼの」により高度8,000kmまでにの電子温度プロファイルが得られ,現在,その地磁気緯度変化,地方時依存性が調べられた.この結果,L≒1.2までのいわゆるinner plasma sahereの熱構造が世界で初めて系統的に明らかにされた.この貴重なデータをもとに理論的な検討を進め,コンピュータシミュレーションとの比較が行われた.これらの研究を基に内部磁気圏の電子温度モデルを作る作業がすすめられている.プロファイルの太陽活動度に関する系統的な研究を開始した.

 「あけぼの」による極域電離圏における熱的電子の加熱に関する研究
			助教授	阿部琢美	教 授	小山孝一郎
 極域電離圏においては高高度からの降下粒子やジュール加熱に起因して熱的プラズマの温度が変化することが知られている.「あけぼの」による観測データをもちいて,これらの現象と電子温度の変化量との比較が行われている.

 「あけぼの」によるプラズマ圏電子温度の磁気嵐に対する応答の研究
			助教授	阿部琢美	教 授	小山孝一郎
 「あけぼの」によって測定されたプラズマ圏の電子温度においては,磁気嵐時に極めてダイナミックな変動が観測される.こうした短時間の温度変動は外的要因に関連したプラズマ圏加熱を意味しており,そのエネルギー源やエネルギーの供給過程についての研究が行われている.

 極域電離圏からのプラズマ流出に関する研究
	助教授	阿部琢美	カルガリー大学	A. Yau	北大・理	渡部重十
					通総研	佐川永一
 1960年代後半に初めて提唱された極域電離圏からのプラズマ流出(ポーラーウインド)は,「あけぼの」によって本格的に観測されるようになった.その結果,初期の理論で予想されていた軽(H+,He+)イオンの他,O+イオンも重要なプラズマ流出の構成要素となっていること,昼側での流出量が夜側に比べ顕著に大きいこと,などが示された.現在はイオンの加速過程について更なる議論,検討を行っている.

 極域電離圏での「あけぼの」とレーダーの同時観測
	助教授	阿部琢美	教 授	小山孝一郎	カルガリー大学	D. Knudsen
					カルガリー大学	A. Yau
 極域電離圏ではプラズマ温度密度構造に激しい時間的空間的変化が存在する.こうした領域では衛星による1点観測だけでなく,他の観測手法を組み合わせて同時観測を行うことが重要である.以前行われた「あけぼの」とグリーンランドのサンダーストームにあるレーダーを用いた同時観測データを用いて,極域電離圏の温度構造,イオン流出現象などについて検討を行っている.

 惑星電離圏からの大気プラズマ流出に関する研究
	助教授	阿部琢美	教 授	小山孝一郎	助 手	今村 剛
 火星・金星の電離圏からは大量の大気およびプラズマが流出していることが過去に行われた探査機による観測で報告されている.これらの現象と,地球電離圏からのプラズマ流出との類似点,相違点を取り上げ,比較惑星学の立場から惑星大気の進化に対する大気・プラズマの散逸現象が与える影響について研究を行っている.

 変形コルトヴェーグ・ドフリース ソリトンの共鳴衝突
			助教授	中村良治	外国人客員研究員	Heremba Bailung
 二つの平面波ソリトンが斜めに衝突すると,ソリトンの高さによって定まるある角度で,新しいソリトンが現れることが理論的に予言されている.その共鳴衝突を,プラズマ中を伝播するイオン波の変形コルトヴェーグ・ドフリースソリトンを用いて実験的に観測した.

 微粒子プラズマの波動の伝搬
	助教授	中村良治	外国人客員研究員	Heremba Bailung	共同研究学生	藤森 健
 微粒子(ダスト)プラズマは,星間ダスト,彗星の尾や惑星の環に関係して理論的活発に研究されている.また,最近室内実験も行われるようになった.我々は,新しく考案製作した微粒子プラズマ装置を用いて,ダストプラズマ中の衝撃波の伝搬実験を行った.微粒子が存在しない場合には,前面に振動を伴った衝撃波であるが,微粒子を混入してゆくにつれ,振動が消えて,ある微粒子密度で単調な衝撃波となった.この結果は,KdV-Burgers方式で説明される.

 プラズマ中微粒子の電荷測定
			助教授	中村良治	共同研究学生	小松祐貴
 星間ダスト,彗星プラズマの尾や月の表面近くに浮遊しているダストは,紫外線や宇宙線によって帯電している.その帯電量はダストプラズマの重要な物理量である.しかし,それについて理論的な予測はされているが,ほとんど計測はなされていない.本研究では微粒子(ポリマー球)をプラズマ中に落として帯電させ,その電荷を電荷感性検出器を用いて測定している.

 中間圏ダスト検出器の開発
					助教授	中村良治
 地球の電離層の中間圏(高度80-90km)には,流星の燃焼に起因する大きさ数nmのダストが存在する.しかし,その定量的な測定はなされていないので,ロケット搭載用観測機の開発を行っている.

 小天体衝突で放出される破片の速度分布に関する実験
			大学院学生	小野瀬直美	助教授	藤原 顕
 太陽系内の惑星,衛星は微惑星が衝突しあい次第に合体しながら成長していったものと考えられている.微惑星が衝突を受けたときに大量に放出される破片のなかで脱出速度を越えるものは飛散してしまい,脱出速度以下のものはもとの天体に降り積もる,すなわち,破片の速度分布は惑星の成長速度を支配する重要な量である.そこで岩石や石膏のターゲットに高速度固体粒子を打ち込んで破壊させ放出される破片群の速度分布をカメラによる撮影などの方法によって調べている.これらの情報は小天体上にレゴリスが存在するかどうかを考えられるのに役立てられる.


 メテオロイド及びスペースデブリの超高速衝突に関する基礎実験
	NASA/JSC	矢野 創	助教授	藤原 顕	航技研	M.J. Neish
	共同研究学生	森重和正	特別共同利用研究員	北澤幸人	特別研究員	門野敏彦
 宇宙空間に曝露された各種材料の表面上に残されたクレーターから入射粒子に関する物質情報を引き出す基礎データを得るために,実験室で衝突シミュレーション実験を行っている.数十ミクロンサイズの微粒子を二段式軽ガス銃で撃てるようにするために新型サボを作成し,SFU,はるか,MFDなどの宇宙機の材料へのダメージを調べている.

 低密度物質による高速度固体粒子の捕獲過程の研究
	助教授	藤原 顕	特別研究員	門野敏彦	NASA/JSC	矢野 創
					特別共同利用研究員	北澤幸人
 宇宙空間で高速度で飛び込んでくる固体微粒子を出来るかぎり変質させないで捕獲する技術を開発している.各種の低密度物質(発泡スチロール,エアロジェルなど)に高速度固体粒子を打ちこんで,入射粒子の残存状態や,粒子が停止するまでの貫入距離が入射速度や捕獲材の密度とともにどのように変わるかを調べている.これらの結果は彗星コマダストサンプルリターンや惑星間塵やスペースデブリの捕獲に応用される.

 近地球型小惑星の軌道データの収集と探査候補天体の捜索
	助 手	安部正真	助 手	山川 宏	大学院学生	吉田信介
 年間50個以上発見されている近地球型小惑星の軌道情報の入手及び整理をすばやく行い,エネルギー的に探査機の到達しやすい小惑星の早期発見を行っている.

 近地球型小惑星の地上観測
	助 手	安部正真	国立天文台	渡部潤一	東邦学園短大	高木靖彦
			大学院学生	石橋之宏	大学院学生	長谷川直
 近地球型小惑星はその軌道の特徴から,地球に衝突する可能性を潜在的に持っていると同時にエネルギー的に探査機の到達しやすい天体であることから地上観測によってその物理データ(自転,表面物質・状態に関する情報)を得ることが重要である.今年度は探査候補天体の中の一つである1989 MLの観測を行った.

 地球−月系の力学進化
	助 手	安部正真	国立天文台	大江昌嗣	教 授	水谷 仁
 地球−月間に働く潮汐作用によって地球の自転は遅くなり,月は地球から遠ざかっていることが知られている.これまでの我々の研究によってこれらの力学的な進化の速さの変化には地球の海洋・大陸分布の変化が大きく効いていることがわかっている.我々はさらに地球史における海洋・大陸分布の変化の情報を用いて研究を進めている.現在は地球−月系の力学進化のうち月の軌道傾斜角と離心率の進化に注目して研究を行っている.

 小惑星サンプルリターン計画用サンプラーの開発
	助教授	藤原 顕	NASA/JSC	矢野 創	助 手	安部正真
	神戸大	中村昭子	大学院学生	長谷川直  サンプラー検討グループ
 将来の小惑星探査では,小惑星表面で短時間の内に表面試料(サンプル)を採取する手法を確立する必要がある.その中の一案として,小惑星表面に向けて質量体を射出し,衝突によって飛散した破片を捕獲採取する手法が考えられ,MUSES-Cミッションでの実用にむけて開発を進めている.所内では特に質量体の必要重量,速度及び突入角度などを決定するための地上及び微小重力実験を行っている.


 小惑星探査における重力計測
	国立天文台	大江昌嗣	国立天文台	花田英夫	国立天文台	荒木博志
	客員教授	向井 正	助教授	藤原 顕	助 手	安部正真
 小惑星の質量及び密度が正確に求められた例は今までないことから,将来の小惑星探査においてその質量及び密度を求めることは非常に重要である.これらを求めるには重力の測定が必要である.我々はそのような目的から探査機搭載型,あるいは小惑星接地型の重力計の開発,探査機の自由落下による重力計測の検討を進めている.

 小惑星探査機搭載用赤外線検出器の開発
	助教授	藤原 顕	助 手	安部正真	大学院学生	長谷川直
					大学院学生	石橋之宏
 小惑星探査機搭載用の赤外分光器は地球周回衛星搭載用の分光器に比べて軽量であることが要求される.しかし,探査器自身が対象天体に接近するため一般の天文観測に比べて感度を必要としない.そのような点を考慮して電子冷却程度で使用可能な宇宙用の赤外線検出器の開発を行っている.

 小天体上のクレーターの形態学的研究
			大学院学生	小野瀬直美	助教授	藤原 顕
 小天体上のクレーターの形状は大惑星上に見られるクレーターと異なっている.衝突実験をとおして,これらの成因をさぐっている.

 地球回収型人工衛星へ超高速衝突する惑星間塵の物理的・化学的分析
	NASA/JSC	矢野 創	大学院学生	森重和正	助教授	藤原 顕
	航技研	木部勢至朗	T&Mエンジニアリング	S.P.Deshpande	航技研	M.J.Neish
 1996年1月にスペースシャトルで回収された日本初の再利用型人工衛星SFUの表面にメテオロイドやスペースデブリによって形成された衝突痕を調査し,地球近傍の宇宙空間における微粒子環境を評価している.衝突フラックスの算出,クレーター形状から導かれる衝突物の運動量の見積り,各材料の衝突残留物の化学分析による粒子の起源の同定等を行う.これらの結果は彗星や小惑星等メテオロイドの起源を探ると共に,宇宙ステーション等将来の宇宙機器の安全設計にも生かされる.データベースはWWW上で世界に公開される.

 衝突電離型ダスト質量分析器の開発
	東京水産大学	大橋英雄	東京大学	浜辺好美	獨協医科大学	河村 享
	東京大学	佐々木晶	独協医科大学	野上謙一	NASA/JSC	矢野 創
	助教授	藤原 顕	大学院学生	長谷川直	東京大学	小林紘一
					東京大学	柴田裕実
 近い将来の月惑星探査ミッションに搭載を検討している,次世代宇宙塵検出器の概念設計と基礎技術開発を行っている.探査機へのダストの超高速衝突によって発生したイオンを使って飛行時間型質量分析を行い,衝突粒子各々の組成や元素比を測定する.これによって,彗星,小惑星,月,ベータメテオロイド,星間塵など,これまで唱えられてきた様々な宇宙塵の起源とその比率をその場観測で決定する.当研究所では特に低速度領域(<5km/s)の衝突較正実験を行う.

 微粒子静電加速器の開発
	大学院学生	長谷川直	助教授	藤原 顕	NASA/JSC	矢野 創
	理化学研究所	西村民男	獨協医科大学	野上謙一	獨協医科大学	河村 亨
	東京水産大	大橋英雄	東京大学	佐々木晶	東京大学	濱邊好美
	東京大学	岩井岳夫	東京大学	小林紘一	東京大学	柴田裕実
 その場宇宙塵計測器の開発において,地上で模擬宇宙塵を高速度に加速して機器に実際に衝突・検出させる較正が不可欠である.宇宙塵には様々な大きさのものが存在しているが,その場宇宙塵計測器のターゲットは0.1〜10ミクロン程度のものである.この大きさの模擬宇宙塵を1つずつ射出する方法として,静電型加速器と呼ばれる方法で加速するのが一般的である.そこで,東京大学原子力研究総合センターと協力して,3.75MVヴァン・デ・グラーフ型静電加速器を固体微粒子加速用に改良を行った.これにより高速度領域(>5km/s)の較正実験が可能となった.

 月面の反射率の検討
	大学院学生	横田康弘	特別研究員	岡田達明	神戸大	中村昭子
					教 授	水谷 仁
 LICのゲインの最終決定のため,月面の反射率の位相角依存性を過去の理論モデルとクレメンタインデータで確認した.また,ピクセルスケールでの月面の凹凸を,クレメンタイン画像を用いて調べた.

 MUSES-Cミッションターゲットの地上観測
	助 手	安部正真	東邦学園短大	高木靖彦	大学院学生	石橋之宏
					大学院学生	長谷川直
 2002年打ち上げ予定のMUSES-Cミッションの探査ターゲット小惑星であるネレウスおよびそのバックアップ天体である1989MLに関するデータを収集するために地上観測を行っている.今年度は東京大学木曽観測所の1.05mのシュミット望遠鏡を用いて1989 MLの自転周期および形状に関する情報を取得することができた.またすばるを用いた観測計画も進めている.

 小天体ミッションの探索
			助教授	吉川 真	助 手	安部正真
 2000年以降の打ち上げで,1つの探査機で非常に多くの小天体に一度に探査できる軌道(超多回数フライバイ軌道)の探索を行った.具体的には10年間のミッション期間で80個程度の小惑星をフライバイするような軌道は多数存在することがわかった.

 MUSES-Cミッションターゲット熱モデルの構築
	助 手	安部正真	助教授	藤原 顕	大学院学生	長谷川直
 2002年打ち上げ予定のMUSES-Cミッションの探査ターゲット小惑星であるネレウスおよびそのバックアップ天体である1989MLの表面温度を見積もるために小惑星熱モデルの構築を行い,温度分布予測を行った.今後地上観測などで小惑星からの熱輻射の情報が得られ次第このモデルを改良しさらに正確な温度予測を行う予定である.

 月ペネトレータの開発
	教 授	藤村彰夫	教 授	水谷 仁	名大・理	山田功夫
	助 手	早川雅彦	助 手	田中 智	月探査ワーキンググループ
 この計画は世界に先駆けて月に複数台のペネトレータを送り込み,これによって無人科学観測ステーションを月面上に設置し,内部を地震波と熱流量により探査することを目的としている.これにより月内部構造を明らかにし,月の起源・進化を解きあかす第一歩の重要な情報が得られるものと期待される.

 月探査用高感度地震計の開発研究
	教 授	藤村彰夫	教 授	水谷 仁	名大・理	山田功夫
			助 手	早川雅彦	助 手	田中 智
 ペネトレータによって月面に設置される超高感度・小型・軽量・耐衝撃地震計センサーを前年度に引き続いて開発している.この地震計のプロトタイプは小型の電磁式海底地震計であったが,開発の進んだ現在ではレアメタル磁石の採用や,新しい磁気回路,コイルボビン形状,巻線の太さや巻数など諸々の改良を加えている.これらはペネトレータ貫入実験で耐衝撃性などが試験され,良好な結果を収めつつある.

 月探査用熱伝導率計の開発研究
	助 手	田中 智	教 授	水谷 仁	教 授	藤村彰夫
					助 手	早川雅彦
 月面は熱伝導が極めて悪いレゴリスで覆われている.このレゴリス中の熱流量を知るためにはレゴリス中の温度分布と熱伝導率が必要である.我々はペネトレータによって月面に設置される高性能・小型・軽量・耐衝撃熱伝導率計センサーについて開発研究を進めている.ペネトレータ内部発熱に伴うレゴリスの温度場の乱れを数値シミュレーションによって推定し,実際のレゴリス温度分布を精度良く測定するための研究も行っている.

 惑星形成過程の数値シミュレーション
			教 授	水谷 仁	助 手	早川雅彦
 直径10km程度の微惑星から最終的な惑星が形成されるまでのプロセスを定量的に調べるために数値シミュレーションを行っている.これは最近我々のグループで明らかにした衝突に伴う微惑星の破壊のスケーリング則を取り入れたものであり,破壊過程を定量的に考慮した惑星形成過程シミュレーションとしては世界初のものである.これから地球の形成時間として1億年が得られている.さらに微惑星の多体の相互作用についての最近の研究結果を取り入れて,巨大惑星,小惑星の形成の過程にも応用できるように改良を進めている.

 地球コアの形成過程
	教 授	水谷 仁	北大・理	山本哲生	教 授	藤村彰夫
					助 手	早川雅彦
 地球のコアは地球形成時に作られる鉄に富んだ層が中心部にある比較的低温の密度の低い珪酸塩層と入れ替わることによって, 形成されたと考えられる.これは一種のレイリー・テイラー不安定であるが,これの有限振幅,非定常解については数値シミュレーションに頼るしかない.さまざまな境界条件,初期条件についてのコア形成過程をシミュレートし,地球初期史のもっとも重要な事件についての様相を明らかにすることを試みている.

 惑星内部構造の研究
	教 授	藤村彰夫	助 手	田中 智	助 手	早川雅彦
					教 授	水谷 仁
 地域以外の天体で地震学的な情報が得られている月について,サイズ,質量,慣性能率密度分布,地震波速度分布,温度分布から岩石学的内部構造を推定した.今後は月の地震学的データの見直しを含め,モデルの精密化を進めると共に他の惑星や衛星についても研究を進める予定である.

 月の秤動,潮汐,重力場の高精度観測のためのVLBI用電波源の開発
	教 授	水谷 仁	教 授	藤村彰夫	国立天文台	大江昌嗣
			国立天文台	河野宣之	国立天文台	花田英夫
 月面上に小型,軽量,耐衝撃性のあるVLBI電波源を設置するための実験試作を進めている.


地球・月系のダイナミクス
	教 授	水谷 仁	助 手	安部正真	国立天文台	大江正嗣
					国立天文台	田村良明
 月が地球に及ぼす潮汐作用のために地球の自転は遅くなり,月の公転角運動量は増え続けている.また潮汐作用は地球の海と大陸分布に依存していることは明らかである.そこで過去の大陸分布を考慮した潮汐作用による地球・月系のダイナミクスを再検討している.これまでの結果により大陸移動は明らかに地球・月系の運動に大きな影響を及ぼしており,それを考慮することによりはじめて古生物学的なデーターを説明できることがわかった.月誕生直後の月の地球からの位置を明確にするには地球の大陸・海洋分布の知識を動員する必要があると思われる.

 月震データベースの研究
	教 授	水谷 仁	教 授	藤村彰夫	助 手	早川雅彦
					助 手	田中 智
 アポロ地震計ネットワークでえられた月震データは合計で約125GB程度の膨大なものであるために,その検索,解析には大変めんどうな手続きを必要としている.本研究ではこのアポロ月震データを効率的,高速に解析するために,データベース化を行いさらにその検索,解析に必要なソフトウェアの開発を行っている.

 月熱流量解析の研究
	助 手	田中 智	RA	吉田信介	元気象研	宝来帰一
	教 授	水谷 仁	教 授	藤村彰夫	助 手	早川雅彦
 月面にペネトレータを設置して熱流量計測を実施する場合の諸問題を,実験的,解析的,理論的に研究している.ペネトレータの各構成部毎について熱真空条件での熱物性の計測,熱数学モデルの構築と数値解析,ペネトレータ全熱物性の熱真空データ取得と数値解析は終了している.今後,これらを統合したペネトレータ全機熱数学モデルと月面環境を反映したモデル構築と数値解析を実施する.

 PLANET-Bによる火星プラズマ探査の研究
	客員教授	大家 寛	東北大・理	小野高幸	東北大・理	飯島雅英
					東北大・理	熊本篤志
 平成10年7月4日に打ち上げに成功し「のぞみ」と命名されたPLANET-B衛星には,プラズマサウンダーおよびプラズマ波動観測装置が搭載されている.この観測器は火星の電離層をグローバルに計測するとともに太陽風と火星プラズマ域の相互作用にもとづくプラズマ波動の観測を行う.平成10年度は打ち上げに至る衛星システム機能試験,熱真空試験,振動試験などを行って,衛星搭載時にも,観測装置が充分な機能を発揮することを確認する作業が行われた.打ち上げ後には初期電源投入試験などを無事経過し,アンテナを伸展後の観測実施に備えている.

 月周回衛星によるレーダーサウンダーの開発に関する基礎研究
			客員教授	大家 寛	東北大・理	小野高幸
 宇宙科学研究所が宇宙開発事業団と共同で平成15年度打ち上げを目標に,月探査周回衛星(SELENE)計画の実施に入っている.このSELENE衛星は約1年の月周回軌道における観測から月の起源や月周辺の電磁・プラズマ環境の観測を主目的としたミッションであるが,本研究では月レーザサウンダー観測装置を搭載して月地下構造をHFレーダ手法により探査するための機器開発を行っている.平成10年度においては基礎研究としてのサウンダーエコーの計算機シミュレーションを実施し,観測データより合成開口手法を用いることで,山岳地域における複雑な表面反射波を取り除く手法の開発を進めた.搭載機器の回路設計を終わり,そのFeasibility checkと実際運用に必要な基礎データを取得する目的で,S-310-28ロケットに同じ原理の観測装置を搭載して実験を行い,データを取得した.
 月集積時の元素分別
			客員助教授	阿部 豊	客員助教授	橋元明彦
					合衆国航空宇宙局研究員	K. J. Zahnle
 ジャイアントインパクトによって形成された原始月円盤から月が集積する時間は極めて短いことがIda et al.(1997)によって示された.短期間で月の集積が起こる場合の月の熱状態を検討し,大規模な蒸発と揮発性物質の散逸が起こることを示した.これは観測されている月組成と基本的には整合的である.

 長波長月地形の成因
			客員助教授	阿部 豊	共同研究学生	小島勝行
 月を冷却し続けている粘弾性球として近似して,長波長(球関数の次数2-4)地形の変形緩和過程を検討した.その結果,これらの地形は形成初期には地殻下面の凹凸とは逆相関にあって,しかも地殻下面の凹凸よりも表面の凹凸の方が大きかったことが示唆された.このことから,長波長地形の成因について制約条件が与えられた.

 火星集積時の水の挙動
			客員助教授	阿部 豊	共同研究学生	西川健二
 暴走的に短時間で集積している火星表面上での水の挙動について検討した.天体衝突による加熱が間欠的なものであることや,水蒸気大気の温室効果を考慮した結果,火星が100万年程度の時間で集積する場合には,衝突が間欠的である効果を取り入れても火星は大気の保温効果で融解することが示された.もっと集積に時間がかかる場合には集積中の火星表面が融け続けていることはないが,それでも集積中に何度かは表面が完全に融解層で覆われ,放出された水蒸気の蒸発が起こる.この結果材料物質に含まれていた水は集積過程で表面に出てくることが期待される.

 全陸惑星の水循環
	客員助教授	阿部 豊	東大・気候システム	沼口 敦	共同研究学生	小林義英
 火星表面には樹枝状河川地形が知られている.その成因として,降水と地下水の活動によるサッピングの2つの可能性が示唆されているが,いずれにせよ地形を作る程度長い期間にわたって地表付近に水循環が必要である.ここでは全く海を持たない惑星の水循環がどの様になるかを検討した.海を持たない惑星では,大気を通して水が高緯度に運ばれてしまう一方で,海を通した還流がないために,低緯度が乾燥化してしまうことが示された.この結果は火星の樹枝状河川地形の分布とその成因の解明を行う上で重要な意味を持っている.

 太陽系始原天体の起源と進化
	客員教授	向井 正	神戸大・自然	中村昭子	神戸大・自然	石元裕史
	神戸大・総合情報処理センター	中村良介	共同研究学生	山本 聡	共同研究学生	古荘玲子
	共同研究学生	酒井辰也	共同研究学生	亀井秋秀	共同研究学生	石黒正晃
	共同研究学生	大垣内るみ	共同研究学生	岩崎杉紀	共同研究学生	稲田 愛
	共同研究学生	奥野和弘	共同研究学生	古我知素文	共同研究学生	平田和久
	共同研究学生	中山裕之	共同研究学生	藤井康正	共同研究学生	澄川慎司
			共同研究学生	宮田一孝	共同研究学生	川股正和
 研究グループを,いくつかのチームに分け,相互に関連を持ちつつ研究を行なっている.
 探査・室内実験
  このグループでは,宇宙科学研究所の惑星探査計画と連携しつつ,各種の基礎過程の研究・開発を行っている.サブグループとして,(i)「のぞみ」のMICのサイエンスおよび機上における機器キャリブレーションを行うチーム,(ii)LUNAR-A計画のLICサイエンスに係る基礎研究を行うチーム,(iii)MUSES-Cでは,LIDARによって小惑星の形状や,その表面凹凸分布を調べるための基礎研究チーム.
  これらのミション検討と並行して,(iv)地上での光散乱模擬実験によるリファレンスデータの集積として,粗い表面によるレーザー光反射の室内実験を継続している.他方では,(v)測定結果の解析と連携しつつ,より広い対象における不規則形状体による光散乱の理論研究を進めている.
 太陽系小天体の観測
  冷却CCDカメラによる黄道光観測を継続して行っている.昨年度はハワイ・マウナケア山頂での黄道光/後日照の観測から,地上観測では始めて惑星間ダストバンドの検出に成功したが,本年度も引き続きハワイにおける観測を実施した.また,国立天文台の堂平観測所の偏光測光装置を用いて,小惑星52Europa, 1036Ganymedの偏光と測光の時間変動を同時観測した.また,獅子座流星群に付随するダスト・トレイルの地上観測も実施した.
 塵進化の理論・シミュレーション研究
  このチームでは,(i)惑星間飛翔体によって得られる塵探査データの解析から,塵の空間分布の検討や,塵の力学進化の数値シミュレーションの妥当性を検討している.その一環として,宇宙科学研究所の「のぞみ」搭載カメラ(MIC)とダストカウンター(MDC)で得られる塵の散乱光及び衝突塵の測定データの解析から,Phobos/ Deimos衛星軌道に沿ったダストリングの検出可能性を予想している.また,UlyssesやGalileo探査機によって得られている星間塵の,太陽系への侵入についてのモデルシミュレーションや,惑星間空間での塵の衝突進化の検討を行った.更に,冥王星以遠の小天体(エッジワース・カイパーベルト天体)からのダスト供給や,トロヤ群の小惑星からの塵放出についても考察した.
  (ii)微小粒子の衝突付着成長に,衝突破壊機構を導入し,生成される集合塵のサイズ分布の時間変化の解析を行っいる.一方,低温度領域における氷粒子クラスターの力学進化を研究している.モレキュラーダイナミックス(MD法)を用いた数値シミュレーションに基づいて,氷塵クラスターの衝突破壊や,プロトン入射による氷クラスターの構造変化について,MD法を用いて明らかにした.

 LUNAR-A計測・運用ソフトウェア開発
					客員助教授	村上英記
 月探査計画(LUNAR-A)において月震計測に必要なソフトウェアの開発ならびに運用支援系のソフトウェアの開発を担当.

d.共通基礎研究系

 電子・分子衝突の理論的研究
	教 授	市川行和	客員助教授	季村峯生	大学院学生	竹川道也
			宮崎大・工	下位 稔	技 官	田之頭昭徳
 電子と分子の衝突過程は原子分子物理学における基本的課題であるのみでなく,実験室や宇宙の低温プラズマにおける素過程として応用上も重要である.今年度は特に以下の研究を行った.
 二酸化炭素(CO2)の振動励起
  変角振動の励起を調べた.この振動モードでは,振動の励起状態と基底状態とで分子の対称性が異なる.このことを正しく考慮して新しい理論の枠組みを構築した.得られた励起断面積と実験値との詳しい比較を行った.
 HCl分子の回転励起
  HClは回転励起断面積が実験で求まっている数少ない分子の一つである.瞬間近似を用いて求めた回転励起断面積は実験を良く再現した.なお,双極子相互作用による発散の効果を回避する新しい手法を開発しそれを用いて計算を行った.


 電子衝突と陽電子衝突の比較
	教 授	市川行和	客員助教授	季村峯生	大学院学生	竹川道也
 条件を同じにして電子衝突と陽電子衝突を比較することは,衝突過程を理解するうえで極めて興味深い.例としてCO2の振動励起について理論・実験両面からの研究を行った.電子と陽電子の衝突による励起のされ方の違いが,振動モードによって大きく異なることが見い出された.また,現在までになされた陽電子と多原子分子との衝突実験の結果を整理し,電子衝突との比較という視点から詳細に検討し総説としてまとめた.

 電子と原子イオンの衝突過程の理論的研究
			教 授	市川行和	宮崎大・工	中崎 忍
 R行列法を用いた詳細な計算を硫黄のヘリウム型イオンの励起について行い,励起係数を求めた.これは高温プラズマの診断に有用なデータとなるものである.また現在我が国でも実験が進められている電子とイオンの弾性散乱について理論的に信頼の置ける断面積を求める可能性について検討した.

 原子衝突断面積データの収集・評価とデータベース作成
			教 授	市川行和	技 官	田之頭昭徳
 電子および光子と原子・原子イオンとの衝突過程に関する断面積データを広く収集し,評価して信頼のおけるデータベースを作成することを行った.得られた結果を出版する準備が現在進められている.さらにこの続きとして分子を標的にすることが計画され,作業が開始された.また,作成されたデータベースを将来インターネットを通じて公開する可能性が検討されている.

 三体結合反応・解離反応過程の理論的研究
					助 手	崎本一博
 燃焼や衝撃波といった高温あるいは非平衡ガス中では高振動状態にある分子の反応や解離反応が重要である.一方,解離反応の逆過程である三体結合反応は,最近アルカリ原子のボーズアインシュタイン凝縮などでも知られているように,低温で重要な過程である.しかし,これらの反応過程を量子力学的に厳密に解くことは容易なことではない.そこで,新しい計算手法を開発し,反応動力学を解明すべく研究を続けている.今回は分子の回転運動を正しく考慮した計算方法を考えた.また,完全に量子力学的な扱いをすることは難しいので,半古典論を取り入れた方法を考えた.

 低速多価イオン・分子衝突における多電子移行
			助 手	市村 淳	都立高専	山口知子
 低速の多価イオンが気体の原子や分子と衝突すると,一般に,多数の電子が入射イオンに乗り移る.標的が分子のときは,衝突の直後にクーロン爆発が起こるので,その生成イオンの運動量ベクトルを測定すれば,衝突の瞬間における分子軸の向きを定めることができる.標的が等核二原子分子のとき,3中心のオーバーバリア模型を構築することにより,多電子移行過程の分子配向依存性を調べた.

 水素様イオンにおける核分極効果
			大学院学生	山中信弘	助 手	市村 淳
 近年,多価イオンの分光測定技術が著しく発展し,原子準位に対するラムシフトが非常に精密に測定されようとしている.ラムシフトは,主に,原子内での量子電気力学(QED)に起因する効果であるが,原子核が点ではなく内部構造を持つことも関与する.後者の一つとして,電子の運動に伴う原子核の分極(仮想内部励起)の効果があり得る.その効果を,仮想2光子交換の過程として定式化し,エネルギーの補正を評価した.従来無視されていた横波の寄与が,縦波に匹敵する寄与を持つ事を示した.

 電子オーロラ生成に関与する物理過程の研究
			東理大・基礎工	恩田邦藏	教 授	市川行和
 電子オーロラの観測結果を解析するためにこれまでモンテカルロ法の大型計算機プログラムを開発してきた.このプログラムでは,電子と大気の主成分N2, O, O2との衝突とそれにより引き起こされるN2, O, O2の量子状態の励起と電離レートなどが算出できる.得られた数値計算結果の統計精度を見極める目的で,追跡する電子数を1000,5000,10000と増加し,大気はN2, O, O2からなると仮定して,南極昭和基地上空の大気モデルを採用し,N2, O, O2の量子状態の励起と電離の発生数を比較した.
 追跡する電子数が1000の場合に得られた結果は,電子数を5000,10000と増加させて得られた結果と1%以内で一致している.従って,本研究で利用しているモンテカルロ法の大型計算機プログラムでは,追跡する電子数が1000以上であれば,モンテカルロ法の統計精度は十分であり,得られる数値計算結果は統計的に十分信頼できる.

 原子と2原子分子の衝突による組替え/解離過程の研究
					東理大・基礎工	恩田邦藏
 相互作用ポテンシャルが十分な精度で得られているH+H2衝突系で,HをDやTで置き換えた衝突系では,H3の相互作用ポテンシャル曲面,即ち,電子状態のエネルギーは同位体によって変わらないが,分子の質量中心の位置がずれる.原子の組替え反応を含む原子と分子の衝突を記述するには,質量でスケールした座標が都合が良い.この座標を採用しているために,相互作用ポテンシャル曲面の形状が3原子の質量を変えると変形する.このような事情のために,原子衝突による分子の振動遷移,原子の組替えと分子の解離過程の確率の全エネルギー依存性は,同位体毎に異なっている.得られた結果を同位体効果として物理学的に統一的に理解できるよう研究を進めている.

 若い星のまわりの円盤の進化に関する研究
	助教授	北村良実	共同研究学生	横川創造	国立天文台	百瀬宗武
					国立天文台	川辺良平
 太陽と同程度の質量の星は,分子雲内部に存在する分子雲コアが重力収縮することにより形成されると考えられている.コアの中心部で誕生したばかりの原始星の周囲には,コアから落下してきた物質によって半径数十AU程度のコンパクトな原始惑星系円盤が形成され始めている.コア物質の大部分が双極分子流によって吹き飛ばされる頃になると,中心星はTタウリ期へと入る.この段階で,円盤は半径が数百AU程度にまで成長している.さらに中心星がTタウリ期の後半から主系列へと進化する段階では,この円盤内で太陽系起源論が予言しているような惑星系形成が起こると考えられている.このように原始惑星系円盤内での惑星系形成を理解するためには,星形成過程全体の中で円盤の進化を捉える必要がある.
 我々は特に惑星系形成の初期条件を明らかにする目的で,現在,太陽クラスの若い星のまわりの円盤について,野辺山ミリ波干渉計を用いたイメージングサーベイを行い,円盤の物理的性質を統計的に調べている.
 @ 原始星周囲の円盤
 中心星が原始星期の段階では,分子雲コアから物質が降り注ぎ,原始星の周囲には半径数十AU程度のコンパクトな原始惑星系円盤が形成されつつある.我々はおうし座分子雲に位置する代表的な原始星L1551 IRS5周囲の円盤について,野辺山ミリ波干渉計を用いて,最高角分解能1秒角でのイメージングを行った.その結果,円盤の面密度分布は太陽系起源論が予言しているような急勾配ではなく,フラットに近いという事実が明らかになった.これは,円盤形成期には周囲から一様に物質が落下してくるためと解釈できる.さらに,最近L1551原始星は二重星であることが判明したが,二重星からの重力トルクが原因と考えられる歪みが円盤に存在することも我々の観測から明らかになった.今後は観測サンプルを増やし,円盤形成過程を明らかにしていく計画である.
 A Tタウリ型星周囲の円盤
 中心星がTタウリ期に入ると,原始惑星系円盤の形成は終了し,降着期を経て,円盤内で惑星系形成が始まる.我々を含むグループは,本年度,Tタウリ期の円盤の物理的性質の普遍性・多様性を明らかにする目的で,野辺山ミリ波干渉計の長期共同利用観測により,四つの円盤の1秒角分解能によるイメージングに成功した.現在,撮像した円盤について,モデル計算も行い,解析を進めているところである.一次解析の結果は,サンプル数に限りがあるものの,円盤の多様性を示唆している.最近,太陽系外で中心星のごく近傍を公転している木星型惑星(Hot Jupiter)の発見が続いているが,これらの惑星系は太陽系とかけ離れている.我々が発見した円盤の多様性はこれら惑星系の多様性の直接の原因である可能性が高い.来年度以降は円盤のサンプル数を増やし,円盤の多様性を統計的に実証していく計画である.
 B オリオン座のシルエット円盤
 ハッブル宇宙望遠鏡は,オリオン大星雲の背景光にシルエットとして浮かび上がった原始惑星系円盤を発見した.これは太陽系のような惑星系は,おうし座のような比較的静かな領域だけでなく,オリオン座のような活発な領域でも形成され得ることを意味している.現在,我々は,まだ明らかにされていないシルエット円盤の物理量を決めるべく,野辺山の45m電波望遠鏡とミリ波干渉計により観測を行っている.
 C 主系列星周囲のデブリ円盤
 円盤内での惑星形成が終了した主系列星期においても,光・赤外・サブミリ波観測はダスト円盤の存在を明らかにした.とくに興味深いのは,その円盤の拡がりが太陽系で予想されているカイパーベルトと同程度である点である.カイパーベルトは,惑星に成長できなかった残存微惑星(主に彗星)から成っていると推定されている.同様に,主系列星周囲のダスト円盤も,微惑星同士の衝突によって生成されるダストからなるデブリ円盤の可能性が高い.既に,原始惑星系円盤と惑星系形成の結果である惑星は実際に検出されているが,その間をつなぐ微惑星は理論上の産物にしか過ぎなかった.しかし,デブリ円盤の研究は微惑星の実在性に光をあてるものとして注目されている.我々も,野辺山の45m望遠鏡とミリ波干渉計を連結した世界最高感度のミリ波干渉計,レインボー干渉計を用いて,来年度,デブリ円盤を撮像し,微惑星実在の証拠を探していく計画である.

 分子雲の内部構造に関する研究
	助教授	北村良実	国立天文台	砂田和良	CfA	斎藤正雄
 星は分子雲内部で形成されると考えられている.分子雲内部で特に密度が大きい領域,分子雲コアの自己重力が何らかのきっかけで内部圧力に打ち勝つようになり,コアは重力収縮し,星・円盤系になると考えられている.従って,星形成の直接の母体である分子雲コアだけでなく,コアが形成される分子雲の内部構造を研究することが,星形成,特に星の初期質量関数を決める上で本質的である.分子雲内部の空間構造は観測によれば階層構造をなし,その中で一番小さなスケールが星を生み出す分子雲コアであると言われている.一方,速度構造も星形成に多大な影響を与える.観測から,どの分子雲にも非熱的な運動,おそらく乱流が存在すると考えられている.実際,乱流が自己重力に打ち勝っていないと,あまりにも星形成率が高くなりすぎてしまうのである.だとすれば,乱流の減衰スケールが星を生み出す分子雲コアのスケールを決めている可能性が高い.結局,分子雲内部における星形成過程を理解するためには,分子雲全体から星形成スケールに至る幅広い空間レンジにおいて,どのような密度・速度構造が見られるのかを理解しなければならないのである.
 我々は以上の考えに基づき,現実の分子雲はどのような内部構造を持っているのかを,分子雲全体から分子雲コアに至る幅広いレンジにわたる一様なサンプリングによる高品質マッピング観測によって研究している.このような良質なデータは分子雲の内部構造の研究にとって本質的であり,現状では世界的に見ても5×5マルチビームを搭載した野辺山45m望遠鏡(BEARS)でしか取得できない.我々は既に,太陽クラスの低質量星形成領域であるおうし座分子雲,中小質量星形成領域であるへびつかい座分子雲,大中小質量星形成領域であるオリオン座分子雲の高密度領域のマッピングを終了した.現在,それらの膨大なマッピングデータを解析中であるが,それと同時に高品質・大容量マッピングデータを効率よく解析できるデータ解析システム(BMAS)をIDLベースで開発中である.来年度は,分子雲形成初期の履歴を保持していると考えられる分子雲周辺部の低密度領域を中心にマッピング観測を行っていく計画である.

 コンドルールの起源に関する研究
	助教授	北村良実	教 授	水谷 仁	北大・理	山本哲生
					神戸大・理	小笹隆司
 始原的な隕石であるコンドライトには直径数mmの丸い粒,コンドルールが含まれている.コンドルールは高温から急速に冷却されて形成されたと考えられているが,原始太陽系星雲内での惑星形成過程のどの段階に位置づけられるかは明らかになっていない.
 我々は,約45億年前に頻発した微惑星同士の衝突の際,微惑星の一部が瞬間的に気化し,それが冷却される過程で形成された可能性が高いと考えている.現在,微惑星の衝突によってできる高温ガス塊が膨張とともに冷却されていく過程および,ガス塊内部で起きる核生成からコンドルールの形成までを数値計算によって調べている.この研究では,従来ほとんど行われてこなかった,数値流体力学コードに核生成とその成長を組み込んだ一般的なコードをも開発する計画であり,そのコードが完成すれば,これまで数多く提唱されてきた他のコンドルール形成モデルが検証できる.

 サブミリ波検出器の基礎開発
	教 授	村上 浩	助教授	中川貴雄	東海大	若木守明
	東海大	矢川太裕	日本分光	阿部 治	国立天文台	松尾 宏
 サブミリ波帯は,宇宙塵の放射線や原子,分子の輝線の観測等に重要な波長帯であるが,検出器開発が遅れている.我々は,GaAs半導体を用い,波長200〜300ミクロンに感度を持つ光伝導型検出器の開発を行っている.高感度の検出器を得るためには,超高純度のGaAs結晶を製造できる技術が必要であるため,液相成長装置を組み立て,高純度結晶の試作を行った.10年度は,9年度に得られた純度をさらに高めるため,液相成長装置の改良を行った.

 軽量望遠鏡開発のための基礎実験
	教 授	村上 浩	助教授	紀伊恒男	教 授	名取通弘
					助教授	樋口 健
 将来の宇宙天文台では,大口径の望遠鏡を宇宙に運ぶ必要がある.この場合,望遠鏡重量には大変厳しい制限が課せられるため,地上の望遠鏡とは異なる新しい構造を考えねばならない.9年度には,このような軽量望遠鏡の構造案を調査するとともに,高分子膜を反射面として用いる方法の開発に向けて,形状制御に用いるピエゾフィルムの特性等の測定を開始した.

 遠赤外アレイ検出器の基礎開発
	客員教授	芝井 広	助教授	中川貴雄	助教授	紀伊恒男
	助 手	金田英宏	通総研	広本宣久	東大総文	土井靖生
 飛翔体搭載用の遠赤外アレイ検出器の基礎開発を行った.遠赤外波長帯では高性能の単素子検出器の開発に成功し観測に用いてきたが,検出器の多素子化によって観測効率の大幅な向上や,撮像観測の実現が可能となる.前年度までにGe:Ga2次元素子の概念を実証するための基礎的な実験,及び詳細設計を行い,期待される性能は十分なものであり実際の製作も可能であることがわかった.昨年度は4×8素子のアレイを組み立てて極低温に冷却し,感度,雑音,効率,視野,クロストークなど様々な試験を行い所期の性能を達成していることを確認した.本年度はこの素子を気球観測用クライオスタットに取り付け,実際の気球観測に用いた.また,衛星搭載時に宇宙環境での放射線の影響を低減するために,素子のサイズを1mm角から0.5mm角に縮小するための基礎実験をはじめた.来年度は実機の製作・試験を行う予定である.


 超低温トランジスタの基礎開発
	客員教授	芝井 広	教 授	松本敏雄	教 授	村上 浩
	助教授	中川貴雄	名大・理	川田光伸	名大・理	平尾孝憲
			名大・理	渡部豊喜	名古屋市立科学館	野田 学
 赤外線,X線をはじめとする飛翔体観測機器に用いられるセンサーは,感度を向上させることが本質的に重要である.従来から赤外線センサーは極低温冷却によって超高感度のセンサーを実現してきたが,最近は他の波長,例えばX線や電波でもセンサー冷却が必須の技術になりつつある.このようにセンサーを冷却する場合に問題となるのが,センサー信号を増幅するためのプリアンプである.プリアンプはセンサー自身に位置的に近い方が良いが,極低温で動作する電子回路はほとんど開発されていない.ちなみに通常のシリコン半導体素子は極低温では完全にフリーズアウトして動作しない.
 我々はシリコンのMOSFETが絶対零度近くの極低温下でも原理上は動作することに着目し,様々な種類のMOSFETを極低温下で性能測定した.その結果,ゲート面積が適度に大きいMOSFETは極低温下でも正常に動作しかつ低雑音であることを確認した.昨年度は試作回路の製造を行った.これを今年度本格的に試験し,所期の性能を達成できることを確認した.また,第二次試作に向けての予備的な試験を行った.来年度は第二次試作を行う計画である.

 電子・イオン−原子・分子衝突素過程の理論
					客員助教授	季村峯生
 a)低エネルギーにおけるイオン−原子・分子衝突による電荷移行過程及び電子励起過程について分子表示法に基づいた理論的研究,
 b)電子・陽電子−多原子分子散乱による弾性散乱及び振動励起過程についての比較的研究
 c)原子−固体表面衝突による表面フォノンの生成及び消滅過程の研究,そして衝突によるエネルギー散逸過程の理論的研究

 tRNAアイデンティティーの進化
	客員教授	長谷川典巳	岐阜大・工	朝原治一	東工大・生命理工	行木信一
 地球外生命の遺伝情報体が地球型生命と類似の核酸であるならば,機能発現分子との間を媒介する分子が存在するはずである.地球型生命体は転移RNAをこの分子として用いている.従って,この転移RNAのどの部分がこの機能に関わっているかを解明できれば,核酸で遺伝情報を発現する原始生命の理解への手がかりが得られ,遺伝暗号の起源について推理することが可能になるであろう.我々はこの考えに立って,大腸菌の系で20種類のアミノ酸に対応するtRNAアイデンティティーを総ざらいした.これらの研究成果をもとに,古細菌のtRNAについてのアイデンティティーを進化科学的な立場で研究を進めている.

 ロイシル化されるRNAのin vitro選別
			客員教授	長谷川典巳	岐阜大・工	朝原治一
 遺伝情報であるDNAの塩基配列がタンパク質のアミノ酸配列に正確に翻訳されるためには,tRNAが対応するアミノアシルtRNA合成酵素によって正しく認識されなくてはならない.我々は大腸菌のロイシンtRNAについてその認識部位の同定を行ってきた.この成果を全く別の研究法で確認するために,ランダムな配列を持つRNAプールから,転写−活性分離−逆転写−PCR増幅を繰り返し,ロイシル化活性を持つRNAを選別し,構造解析を行うと,すでに明らかにしたロイシンtRNAの構造に収斂された.


 CCAを含むtRNAの末端構造の機能
			客員教授	長谷川典巳	理 研	田村浩二
 遺伝暗号とアミノ酸を結びつける分子であるtRNAは,例外なくその3’末端にCCA配列を持っているが,その機能は不明である.我々は大腸菌の約10種におよぶアミノ酸種tRNAについて,遺伝子工学的に変異を導入し,また,本来一本鎖であるCCA配列に塩基対を形成させるような変異体を作成して,アミノアシル化に及ぼす活性の影響を調べ,この普遍的なCCAの持つ機能を解析している.

 高温星雲ガスの固体粒子生存
					客員助教授	橋元明彦
 星雲ガスと固体粒子の反応の素過程では,存在度的には少ないが反応性の遥かに高い単原子気体・ラジカルによってコントロールされている可能性が高い.その為,先見的に星雲ガスを仮定するのではなく,星雲ガスの主成分としてのH, O, C, &Sから構成される(単原子・ラジカルを含めた)全ての気体種を平衡濃度で含む「本来の星雲ガス」を実験室で実現し,これと種々の固体粒子との反応速度,反応機構,化学同位体効果を明らかにする研究手法が有効である.本年度は星雲ガスを実験室で再現するための装置開発を目標に,H2, CO2, CO, H2, Sを段階的に任意の比率で混合し,平衡ガスを作るシステム(流量制御器,反応管などから構成される)の製作を行った.

e.システム研究系

 小惑星探査計画(MUSES-C)
	教 授	上杉邦憲	助教授	川口淳一郎	助教授	藤原 顕
			助教授	斎藤宏文		MUSES-C 研究班
 平成14年7月にM-V-5号機による打上げを目標として,第20号科学衛星(MUSES-C)を開発中である.MUSES-Cは将来の太陽系サンプル・リターン・ミッションに必須の技術の開発と実証を目的とした工学実験機で,電気推進を用いて約1年3ヶ月の飛行の後,小惑星1989MLと邂逅,サンプル採取を行い,平成18年6月に地球に帰還,カプセルの大気圏再突入と回収を行う.平成10年度は,その試作・試験3年次計画の第3年次として,ミッション解析の結果,探査機の設計を確定し,試作機(PM)を製作するとともに各重要要素技術の開発を行った.

 GEOTAILの軌道設計及び運用計画
	教 授	上杉邦憲	教 授	向井利典	助教授	川口淳一郎
	助教授	加藤隆二	助教授	石井信明	助 手	山川 宏
			技 官	市川 勉	技 官	斉藤 宏
 高精度の多体運動モデル,或いは近似法を用いて,GEOTAIL衛星の軌道設計,日陰率の最小化,軌道・姿勢修正の最適化等の研究を行うと共に,それらの結果を実際の運用に適用している.平成10年度においては,春秋において頻繁に発生する日陰の最長継続時間を極力短くして,熱・電力からの制限の許容限度内におさめるための軌道計画を立案,実際の運用に成功裡に適用した.

 衛星用軌道姿勢制御エンジンに関する研究
	教 授	上杉邦憲	教 授	高野雅弘	助 手	澤井秀次郎
			技 官	安田誠一	技 官	志田真樹
 衛星及び惑星間探査機において軌道・姿勢制御を行うヒドラジンを燃料とした一液式制御エンジンシステム(RCS)およびヒドラジン/四酸化二窒素を用いた二液式RCSの開発を行っている.平成10年度において一液式RCSに関しては,LUNAR-A,PLANET-Bの姿勢制御用を開発,ASTRO-Eの軌道・姿勢制御用の開発を行っている.二液式RCSについては,LUNAR-A,PLANET-Bの軌道変更用に500N級を開発すると共に,MUSES-C及びASTRO-Fの軌道・姿勢制御用として,小推力(22N)の推進系開発を行っている.
 M-V用SJの開発研究
	教 授	上杉邦憲	教 授	高野雅弘	助 手	澤井秀次郎
			技 官	安田誠一	技 官	志田真樹
 M-V型ロケット第3段に搭載される姿勢制御用ヒドラジン・サイドジェット(SJ)装置の開発研究を行っている.平成10年度はM-V-1, 3号機の打上げにおいて成功裡に用いられたSJの性能向上及びコストダウン等,将来に向けての改良案についても検討を始めている.

 ワイヤーカッターの研究
	教 授	上杉邦憲	助教授	川口淳一郎	助教授	石井信明
	助 手	澤井秀次郎	技 官	林 紀幸	技 官	東 照久
			助 手	大西 晃	技 官	吉田裕二
 WC-25E型ワイヤー・カッターの耐用年数を延長するための経年変化試験を引き続き行った.また,小惑星探査計画におけるサンプル回収用火工品としての転用を図り,ワイヤー・カッターをベースとしたものが実際のサンプル回収用としての仕様を満たすことを実証の後,さらに,惑星間ミッションにおける耐長期宇宙空間保存性に関する検討と実験を行っている.さらに通電用コネクター部の改良について検討を開始した.

 小惑星探査計画のミッション解析
	教 授	松尾弘毅	教 授	上杉邦憲	助教授	川口淳一郎
	助教授	石井信明	助 手	山川 宏	助 手	澤井秀次郎
 小惑星探査計画(MUSES-C)に関し,軌道設計,探査機システムの検討など,ミッション解析を行った.衛星の推進系として,電気推進系と小推力2液推進系を併用したシステムの概念検討を行った.

 衛星スピン時にタンク内部が衛星姿勢に与える影響の実験的検証
			助教授	川口淳一郎	助 手	澤井秀次郎
 昨年度に引き続き,液体推薬がある衛星のスピン時の挙動を実験的に検証した.本年度は,特にスピン場におけるタンク内流体の挙動を定量的に測定した.その結果,スピン場における流体の挙動は,非スピン場における挙動と異なることがわかった.例えば,低スピン場では,非スピン場より,むしろ固有振動数が低くなる現象が観測された.

 M-V型ロケット能動的ニューテーション制御
	教 授	二宮敬虔	助教授	川口淳一郎	助教授	橋本樹明
 M-V型ロケット上段のニューテーション制御について,検討を行った.

 画像を用いた宇宙機と未知天体への着陸航法
	教 授	松尾弘毅	助教授	川口淳一郎	助 手	澤井秀次郎
 画像を用いた自律航法の確立のため,画像から未知天体と宇宙機の相対運動を推定する方法を,航法フィルターや誘導則を含めて,検討した.誘導則としては,予め接近方向を規定し,最接近時には,宇宙機の位置と接近方向が一定になるような誘導則を提案した.

 回収システムの研究
	教 授	雛田元紀	教 授	松尾弘毅	教 授	中島 俊
	助教授	石井信明	助 手	平木講儒	技 官	鎌田幸男
	技 官	前田行雄	技 官	平山昇司	技 官	下村和隆
 S-520型ロケットの回収システムの研究開発を行っている.
 平成10年度はバックアップシステムの検討を行い,S-310-28号機を用いて再突入時の加速度及び静圧を測定した.S-520回収型次号機に反映する方針である.

 LUNAR-Aシステムの研究
	教 授	中島 俊	教 授	水谷 仁	教 授	二宮敬虔
	教 授	藤村彰夫	助教授	川口淳一郎	助教授	斎藤宏文
	助教授	石井信明	助教授	橋本樹明	助教授	森田泰弘
	助 手	山川 宏	助 手	水野貴秀	助 手	徳留真一郎
 M-V-2号機で打上げ予定のLUNAR-Aシステムの設計を継続している.平成10年度はペネトレータの認定試験及び母船/ペネストレータの総合試験を実施した.

 LUNAR-A姿勢解析
	教 授	中島 俊	助教授	川口淳一郎	助教授	橋本樹明
			助教授	森田泰弘	助 手	山川 宏
 月周回軌道からラムライン制御によりペネトレータを月面に貫入させるダイナミックスに関して検討を継続している.設計・製作・試験の進捗に伴い,月面貫入時の迎角に影響を及ぼす各種要素の誤差の見積り精度が向上している.

 希薄気体力学の研究
			教 授	雛田元紀	技 官	徳永好志
 低密度風洞を用いて超高層飛行及び超高層観測に関連する気体力学の問題を研究している.特に希薄気体中における飛翔体(科学衛星,バルート等)の動的空力特性について研究を行っている.

 観測ロケット実験の安全性に関する研究
	教 授	雛田元紀	教 授	中島 俊	助教授	森田泰弘
 観測ロケットの落下危険区域の設定法,飛翔経路に及ぼす風の影響修正法,飛翔分散の推定,飛翔に伴う落下危険率,人命損傷率などの算定を行うとともに飛翔安全を官制するシステムの充実に努めている.

 飛行安全監視計算機システムの開発
			教 授	中島 俊	助教授	森田泰弘
 M-V-3号機打上げ後,M-V-4号機から小笠原追跡センターからの情報が入手できることになり,表示方法等につき検討を進めている.

 観測ロケットの空気力学
	教 授	雛田元紀	助 手	塚本茂樹	技 官	平山昇司
 宇宙観測ロケットの飛翔特性,特に安全性に関する空気力学の問題を研究し,これを実際のロケット設計に応用している.

 大型ロケットの安全計画
	教 授	雛田元紀	教 授	松尾弘毅	教 授	中島 俊
					助教授	森田泰弘
 安全基準の見直しを宇宙開発事業団と協調して進めている.

 伸展プローブ/アンテナの研究
			教 授	雛田元紀	助教授	森田泰弘
 PLANET-Bに搭載されている電場/磁場観測用ワイヤアンテナの伸展に伴う衛星ダイナミックスおよびワイヤアンテナの振動に関して解析し,伸展が衛星システムに与える影響等に関して評価した.

 グライディングパラシュートの研究
	教 授	雛田元紀	教 授	矢島信之	教 授	中島 俊
	助教授	山上隆正	助教授	石井信明	助教授	森田泰弘
			助 手	平木講儒	助 手	太田茂雄
 将来の回収システム及び惑星大気への緩降下システムへの適用を想定してグライディングパラシュートを用いた回収システムの研究を継続している.

 一定高度浮遊気球の研究
	教 授	雛田元紀	教 授	中島 俊	助 手	井筒直樹
	助 手	太田茂雄	助 手	加勇田清勇	技 官	並木道義
	技 官	平山昇司	技 官	本田秀之	技 官	中野二四三
 惑星大気中の一定高度の空間を浮遊して科学観測を行う気球システムの研究を継続している.想定している温度環境で相変化を起す溶媒を調査し,その適用性についての検討を継続している.

 金星気球の研究
	教 授	雛田元紀	教 授	矢島信之	教 授	栗林一彦
	教 授	田島道夫	教 授	八田博志	教 授	中島 俊
 高温・高圧の金星大気中を浮遊させる事を目的として気球システムの検討を行っている.気球の材料として金属(チタン)及び複合材料の適用を考え計量・耐圧性気球の試作・試験を継続している.

 超音速パラシュートの研究
	教 授	雛田元紀	教 授	中島 俊	助教授	稲谷芳文
	助教授	石井信明	助 手	平木講儒	助 手	山川 宏
 将来の惑星プローブの減速システムへの適用を考えてパラシュートの研究を進めている.平成8年度に実施した気球からの落下実験に続き,再突入カプセルのダイナミックスに関る実験の一環として,十字傘を用いて気球からの落下実験を実施した.

 ペネトレータ姿勢制御方式の研究
	教 授	中島 俊	助教授	川口淳一郎	助教授	石井信明
	助教授	橋本樹明	助教授	森田泰弘	助 手	山川 宏
 月周回の低軌道で母船から分離されたペネトレータの姿勢を90度変更させるためにコールドガスジェットを利用したラムライン制御が行われる.
 平成8年度に実施したS-520-18号機による実験結果を反映させ,SS-520-1号機により再度姿勢制御実験を実施した.

 ペネトレータ貫入特性の研究
	教 授	中島 俊	教 授	水谷 仁	教 授	藤村彰夫
	助教授	石井信明	助教授	樋口 健	助 手	早川雅彦
					助 手	田中 智
 フライトモデル型ペネトレータの砂中への貫入特性及びペネトレータに搭載された電子機器の耐衝撃性を確認するため,アメリカ合衆国エネルギー省サンディア国立研究所の施設を借用して認定試験を実施した.

 超音速パラシュートの空気力学
	教 授	雛田元紀	助教授	稲谷芳文	助 手	平木講儒
 再突入飛翔体や惑星突入プローブでは気体の空力特性の制約からその減速の最終段階で用いるパラシュートを超音速状態で開傘させる必要がある場合がある.このような超音速飛行状態での開傘は,未だ定量的に把握されていない現象も多く,今後の研究が待たれるところであるが,風洞試験によって開傘の特性及び開傘時の空力特性などについて実験的研究を行っている.特に開傘後の振動現象などの安定性の問題はパラシュートの破壊につながる重要な問題であり,この現象の解明に主眼をおいて各種供試体による開傘実験ならびに圧力計測などを継続して実施している.

 超音速パラシュートの風洞実験
	教 授	雛田元紀	教 授	中島 俊	助教授	稲谷芳文
			助教授	石井信明	助 手	平木講儒
 惑星大気への探査機の投入や地球周回軌道からの大気圏突入を行う場合,パラシュートを超音速領域で展開する技術が不可欠となるが,安定に開傘し,開傘時の衝撃を低減するための条件は通常のパラシュートの場合と大きく異なる.その空力環境を把握する手段の一つとして風洞試験が挙げられるが,様々な制限からデータの有用な評価法は未だ確立されていない.この確立を目指し,観測ロケットによる実飛行試験結果と比較するため,風洞試験を継続している.

 再突入カプセルの遷音速動安定の研究
	教 授	雛田元紀	教 授	中島 俊	助教授	稲谷芳文
			助教授	石井信明	助 手	平木講儒
 大気再突入を行うカプセル型飛翔体は遷音速領域において動的に不安定な挙動を示すことが知られている.MUSES-Cのカプセル形状ついての風洞試験および気球からの投下試験結果をまとめ,遷音速域での動的特性を説明する事ができた.

 M-Vロケット各段姿勢制御アルゴリズムの設計
	教 授	中谷一郎	助教授	川口淳一郎	助教授	森田泰弘
 M-Vロケット各段姿勢制御ロジックの研究・開発を継続的に行っている.制御器は,直接観測量(姿勢角/姿勢角レート)を入力とし,アクチュエータに対する制御電圧を出力とするもので,動的出力フィードバックの形式をとっている.平成10年度は,1号機の設計をベースに制御パラメータの調整を行い,3号機の打ち上げに臨んだ.フライト結果は良好であった.
 M-V第1段ステージは空力的に不安定であるために,従来に比べて安定性は格段に確保しにくいと言える.さらに,機体剛性や空力特性,あるいは,制御アクチュエータの帯域等に代表されるように,プラントのシステムパラメータには相当の不確定性が存在する.従って,対応する制御器においては,目標値追従性能とともに良好なロバスト安定性を実現しなければならない.本研究では,制御論理の根幹としてH∞制御理論に基づき,混合感度問題の枠組みの中で所定の制御仕様を満足する安定化制御器を設計した.ただし,実際の設計では,プラントの力学的特性やその次元の大きさ(26次元)から,全ての設計をH∞制御理論により行うことは効率的ではない.そこで,制御特性の本質を抽出する目的で,H∞制御理論により設計された制御器について古典論的理解を試み,かつ,その結果を反映して,古典的手法の援用により周波数特性の改善と低次元化を行った.
 第2段及び第3段についても同様な手法でロバスト制御器の設計を行った.
 M-V型ロケットTVC装置の研究開発
	教 授	高野雅弘	助教授	川口淳一郎	助教授	森田泰弘
					技 官	安田誠一
 M-V型ロケットの姿勢制御装置(TVC装置)について研究・開発を行っている.平成10年度には3号機の実験が実施されたが,各段TVC装置について良好な性能を確認する事ができた.
 1段ステージのピッチ/ヨー姿勢は,ホットガス・タービン駆動の油圧式可動ノズル(M-14MNTVC)装置によって制御するが,その基本仕様は1号機と同様である.
 2段ピッチ/ヨー制御は比例弁搭載のLITVC装置により行う.3号機では,比例弁の気密性を改善した.
 M-V型ロケットでは,3段ステージに初めて3軸姿勢制御方式(電動式MNTVC装置とSJ装置)が導入されているが,推力飛行中に用いられるM-34MNTVC装置については,その制御性能が衛星の軌道投入精度に大きな影響をもつために,厳しい設計要求がなされている.3号機では,再ロック機構とロジックの高信頼性化を図った1号機の仕様を継承した.
 その他,1段ロール制御用のSMRC装置,2段ロール及び3軸制御用のSMRC,SMSJ装置については,1号機の飛翔結果を反映して設計変更を行った.

 M-V第2段可動ノズル(M-25MNTVC)システムの開発
	教 授	高野雅弘	助教授	川口淳一郎	助教授	森田泰弘
			技 官	安田誠一	技 官	志田真樹
 M-V型ロケットの高性能・低コスト化の一環として,第2段M-25モータ用可動ノズルシステムを開発中である.現在のM-Vロケット第2段ステージの推力変更装置は液体噴射方式(LITVC)である .この方式は,高性能が要求される第2段ステージ制御用に宇宙研で開発されたものであり,関連する技術は,制御性能の進歩・改良を通して,発展的に継承されてきた.しかしながら,ロケット打ち上げに関わる費用の削減が至上の命題となり,一方で,小型高性能の電動モータが低価格で生産されるようになったことから,もはや,液体噴射方式の役目は終ったとの結論に至り,よって,第2段制御を可動ノズル方式に移行しようとするものである.
 ノズルを駆動するためのアクチュエータとしては,電動式モータを用いる.そのサイズは,SRB-Aのロール制御用に開発されたものとほぼ同等であるが,M-Vではより高精度が要求されるピッチ/ヨー制御に用いられることから,性能的には既に宇宙研で開発されたM-34用の電動アクチュエータにより近いものとなっている.
 平成10年度は,詳細設計を行った.

 M-V第2段,第3段用熱電池の開発
	教 授	高野雅弘	助教授	森田泰弘	技 官	安田誠一
 M-V低価格化のために,可動ノズル駆動用電動アクチュエータへの電力供給源として熱電池の開発を行っている.現在は,電動アクチュエータへの電力供給は酸化銀電池により行っているが,これを熱電池に変更することにより格段の低価格化を達成できる.
平成10年は,システム設計(性能,熱,及び,構造)を実施した.

 柔軟宇宙構造物のダイナミクスについての研究
					助教授	森田泰弘
 将来展開されるスペースインフラストラクチャにおいては,宇宙ステーションをはじめ大型多体のフレキシブルシステムが運用されることになるが,このような大規模システムの運動の予測や設計される制御アルゴリズムの有効性を検証するために,その運動をできる限り詳細に定式化することが不可欠である.ここでは,軌道上の多体フレキシブルシステムに対し,効率的な運動の定式化について研究している.

 宇宙機の制御についての研究
			助教授	川口淳一郎	助教授	森田泰弘
 柔軟宇宙構造物の姿勢,及び,振動制御について,現代制御論,及び,ポスト現代制御論の観点から研究を行っている.

 柔軟ワイヤの能動的振動制御
			教 授	雛田元紀	助教授	森田泰弘
 ワイヤアンテナを搭載するスピン衛星などでは,衛星全体が柔軟システムとして振舞い,振動モードと姿勢運動が強く連成しているのが動力学的特徴である.このようなシステムでは振動制御器を持ち,振動モードを能動的に制御できることが望ましい.ここでは,以上の観点から,ワイヤのアクティブダンピングについて基礎研究を行っている.

 ワイヤアンテナの開発
			教 授	雛田元紀	助教授	森田泰弘
 スピン衛星に搭載するワイヤアンテナシステムについては,EXOS-D及びGEOTAIL両衛星の開発を通して一応の技術は習得されたと言えるが,PLANET-Bにおいては,遠隔操作,異常時の自律的対応,長期間放置後の真空潤滑,あるいは,厳しい重量制限の中でのシステム設計等,新たな課題を解決していかなければならない.平成10年度は飛翔実験を行った.

 PLANET-Bワイヤアンテナ用自律的伸展管理ソフトウエアの開発
	教 授	雛田元紀	助教授	森田泰弘	技 官	志田真樹
 PLANET-B搭載のワイヤアンテナ・システムについては,その伸展が火星到達後に行われるために,伸展異常時に地上からの支援を期待することはできない.ここでは,伸展異常を自律的に検出し,かつ,適切な処置を行う自律伸展管理システムについて研究している.平成10年度は,搭載アルゴリズムについてFM製作・試験を行い,飛翔試験に臨んだ.

 ペネトレータ・モジュール用G/Jシステムの開発
	助教授	森田泰弘	技 官	安田誠一	技 官	志田真樹
 ベネトレータ・モジュール月面貫入直前の最終フェーズでは,コールドガス・ジェット(G/J)を用いた姿勢制御が予定されているが,G/J駆動電磁弁の応答時間遅れの計画値からのばらつきは月面貫入時に直接迎角として伝搬するために,その応答特性については高度の安定性が要請されている.その一方で,システムの軽量化について厳しい要求がなされている.平成10年度には,最終性能確認試験を行った.

 電磁弁応答特性補償電気回路(J-PULSE)の開発
	助教授	川口淳一郎	助教授	森田泰弘	助教授	橋本樹明
					助 手	山川 宏
 ペネトレータ・モジュール姿勢マヌーバ用ガスジェット装置の駆動には電磁弁が搭載されるが,この応答特性には高度の安定性が要求されている.ここでは,スラスタ圧力の立ち上がり時間をモニタすることにより応答特性を補償する電気回路(J-PULSE)を開発している.平成10年度には,最終性能確認試験を行った.

 SS-520ロケット用姿勢制御システムの開発
	助教授	川口淳一郎	助教授	森田泰弘	助教授	橋本樹明
			技 官	廣川英治	技 官	志田真樹
 SS-520ロケットの第2段ステージ用姿勢制御システムについて研究している.制御アルゴリズムとしては,月ペネトレータ開発を通して実績のあるラムライン制御則を用いているが,マヌーバ方向誤差が第2段飛翔経路の分散を招くことから,制御精度としては月ペネトレータ並みの厳しいものが要求されている.システム設計においては,第1段ステージの軌道・姿勢分散に基づく上段ステージの誘導についても検討を行った.平成10年度は,前年度に行われた飛翔試験の結果の詳細解析を実施した.

 高速再突入実験機(DASH)用G/Jシステムの開発
	助教授	森田泰弘	技 官	安田誠一	技 官	志田真樹
 高速再突入実験機(DASH)用G/Jシステムの研究開発をすすめている.平成10年度は,マヌーバ能力と性能に対する要求を考慮して制御推力,及び,タンク容量についてサイジングを行った.

 宇宙機の姿勢解析プログラムの開発
	助教授	川口淳一郎	助教授	森田泰弘	技 官	廣川英治
 モータ燃焼,あるいは,姿勢制御動作を伴う宇宙機のダイナミクス解析プログラムを整備した.これは,ペネトレータ・モジュール用固体減速モータ(DOM),及び,M-Vキックモータ(KM-V1)については,スラストプロファイルの設計に利用された.また,ペネトレータ・モジュールのラムライン制御時については,姿勢解析に応用されている.

 高速再突入実験機(DASH)の姿勢決定と制御についての研究
	助教授	川口淳一郎	助教授	森田泰弘	技 官	廣川英治
					技 官	志田真樹
 小型衛星の姿勢制御システムについて研究している.その応用として,月ペネトレータ開発で実績のあるラムライン制御システムを,高速再突入実験機(DASH)に応用した.平成10年度は,システム解析を行い,姿勢制御誤差が軌道計画に及ぼす影響について評価した.また,太陽センサと地球センサを組み合わせた姿勢決定システムを構築し,軌道上の位置や太陽角が姿勢決定精度に与える影響について解析を行った.

 宇宙環境の科学的利用およびその工学
					教 授	山下雅道
 宇宙で得られる微小重力や広大な真空環境の科学的な利用について研究している.特に,生物の進化と多様性のなかにみられる生物の形態や機能への重力の支配とその機構を研究対象とし,重力や機械的な環境を感受する器官・細胞の機能の解明をはかっている.宇宙機への実験搭載・運用について取り組んできており,宇宙システムの環境制御や微小重力下での実験技術を検討している.

 生物実験用擬似無重力,過重力印加装置の開発
			教 授	山下雅道	助教授	黒谷明美
 重力と生物の生理現象などとの関係を地上で実験的に研究する装置として,次の3つの装置を開発している.
A 自由落下体
  落下搭を用いて実験するシステムで,落下中の重力値等を測定しこれらと実験画像の送信が可能なものである.2秒程度の微小重力持続時間が得られる簡便な落下実験を行っている.
B クライノスタット
  応答時間の遅い植物の実験用に,二つの回転軸を持つクライノスタットを開発している.ランダムに回転速度,方向を変えて時間的平均として擬似的な無重力環境を得るものである.
C 遠心力印加装置
  低い回転速度で2-20Gが得られ,かつ試料内部で均一な重力値が長期間連続で印加できるよう,腕長を2mとした大型の遠心装置である. 搭載する実験装置に電力やコマンドデータの送受ができるようになっている.
  さらに,これらに搭載する生物実験装置の開発も行い,種々の実験をしている.

 生物と重力に関する研究
	教 授	山下雅道	東大・教養	奥野 誠	東大・教養	跡見順子
					客員助教授	最上善広
 地上とは異なる重力環境に生物が曝された時の生理・生態の変化について研究している.生物の重力受容機構や生理現象への重力の影響を,短秒時の自由落下実験で見られる過渡的な現象や過重力実験により明らかにしようとしている.原生動物の遊泳や線虫の行動,受精卵の発生などへの重力の影響を調べている.
 またカエルや前庭反射行動などについての種間差から,生態系の中で占めるそれぞれの種の位置や生物の進化と重力のかかわりについて研究している.

 強い表面張力下での流れ
					助教授	桑原邦郎
 無重力下等の表面張力が,一番重要な力となる時における流体運動を数値的に調べた. 天井についた液滴の落下,表面張力によって壁を伝って流れていく問題,液滴が無重力下で表面張力によって球に変形していく過程を調べた.

 遠隔可視化向け科学計算技術の計画
					助教授	桑原邦郎
 ネットワーク接続された複数の高性能計算機間で,流体シミュレーションに代表される科学技術計算と計算結果の可視化を分散実行する遠隔可視化システムの構築を容易に実現するため,シミュレーションテクニックと,それに付随するリアルタイム・インタラクティブ可視化技術について研究を行った.

 エンジン内燃焼・二相流解析
					助教授	桑原邦郎
 燃焼科学の分野において,発展しつつある燃焼を含む圧縮性ナビエ・ストーク方程式をエンジン内流れに適用する複雑な内部形状の変化を考慮し,種々の流れの解析を行った.

 微小重力実験用落下カプセル
	助 手	井筒直樹	技 官	並木道義	助教授	稲富裕光
					教 授	矢島信之
 大気中を落下する微小重力実験用落下カプセルの風洞試験を行い,大気球を用いた微小重力実験を行う際に実現可能な微小重力の質とその変動範囲,またそのために要求される搭載機器の制限などを求めた.

 気球の飛翔シミュレーション
			助 手	井筒直樹	教 授	矢島信之
 気球の放球から,上昇過程,飛翔,高度変更,回収等に関して,グリッド解析高層気象データを中心とした気象情報と連動したオンラインで動作する系統的な解析予測手段を確立するための研究を行っている.本年度は,各種のグリッド解析データの精度や情報量を調べるために,過去のグリッド解析気象データを用いたシミュレーションを過去の気球の飛翔データにもとづいて実行し,比較検討を行った.

 希薄高空における推進器の研究
			教 授	矢島信之	助 手	井筒直樹
 高度20km〜35kmの大気中で効率よく動作する推進器およびその気球実験への応用を研究している.本年度は,推進力に電動モーターによるローターを使用する場合の推力の推定を行うために,変圧風洞中で基本的な翼型を持つローター推進器模型をACモーターにより回転させ,その効率等を測定する実験に着手した.

 長時間フライトシステムの研究
	教 授	矢島信之	教 授	廣澤春任	助教授	山上隆正
	助 手	太田茂雄	助 手	井筒直樹	神戸大学	山中大学
	技 官	並木道義	技 官	松坂幸彦	技 官	本田秀之
 気球を広く大洋上に飛翔させて長時間フライトを実現し,長い観測時間を確保しようとする研究である.本年度は,昨年度考案した新しい気球設計法を適用した,5m3, 100m3, 3,000m3のモデル気球を製作し,室内展張実験により,その高い耐圧特性を確認した.この結果,新しい設計法により大型のスーパープレッシャー気球が可能となるとの結論を得た.

 大重量の安定放球法の研究
	教 授	矢島信之	助教授	山上隆正	助 手	太田茂雄
	助 手	井筒直樹	技 官	並木道義	技 官	松坂幸彦
					技 官	本田秀之
 大型,大浮力の気球を少ない放球ショックで安全かつ確実に放球するための新たな放球方式の開発を進めている.本年度は,昨年度,南極昭和基地での気球実験に適用した,パラシュートを小型のパックに収納して放球する方式の動作解析を進め,システム最適化を検討した.

 ポーラパトロール気球(PPB)の開発
	教 授	矢島信之	教 授	廣澤春任	助教授	山上隆正
	助 手	太田茂雄	助 手	井筒直樹	技 官	並木道義
	技 官	松坂幸彦	技 官	本田秀之	神戸大学	山中大学
 国立極地研究所に協力して,南極気球システムの開発及びその科学観測への活用に関する研究を進めている.本年度は,同所気水圏研究部門と共同で,南極昭和基地から重量15kgのグラブサンプリング装置をエバールフィルムを用いたB1型気球で放球し,2点の成層圏の高度別大気採取を2回実施した.なお,放球には新設計の小型気球放球装置が用いられ,良い結果を得た.

 気球搭載装置の方向制御の研究
	教 授	矢島信之	助 手	太田茂雄	技 官	並木道義
			技 官	本田秀之	機械技研	黒河治久
 気球望遠鏡の方向制御機能の向上を目的として研究を進めている.多機能ディジタル制御システムを開発することとし,本年度はパソコン上でマルチタクスOSおよび複数のタクスを動作させ,自動制御に必要とされる基本的な機能の確認を行った.

 大気採取装置の研究
	教 授	矢島信之	助 手	井筒直樹	技 官	本田秀之
 液体ヘリウムを用いずに大量の成層圏大気を採取する装置の基礎開発を行っている.これは,高圧のネオンガスを用いたクーラー方式であり,本年度は室内実験用の装置を試作し,冷却能力に関する基礎的なデータを取得し,実用化への見通しを得ることができた.
 惑星気球の研究
	教 授	矢島信之	助教授	佐藤英一	助教授	山上隆正
	助 手	井筒直樹	助 手	後藤 健	助 手	太田茂雄
 地球以外の大気のある惑星で気球を飛翔させる研究である.本年度は,二重カプセル方式による低高度金星探査気球について,内側の気球本体部の製作方法を研究し,小型モデルの試作を行った.

 高高度気球の研究
	助教授	山上隆正	助 手	太田茂雄	助 手	齋藤芳隆
	技 官	松坂幸彦	技 官	並木道義	技 官	烏海道彦
					技 官	横田力男
 本研究は,超薄型ポリエチレンフィルムを用いることで気球本体を軽量化し,これまで気球では到達しえなかった60kmにも到達する気球の開発を目標としている.このためには,気球の膜に用いるポリエチレンフィルムを極限まで薄くすることが不可欠である.改良の結果,3.4μm厚のフィルムを製作し,これを用いた気球を製作することができた.今後,このフィルムを接着する技術を改良するなど,品質の向上を目指す.

 気球降下高度モニター用テレメータの研究
	技 官	松坂幸彦	助教授	山上隆正	助 手	太田茂雄
					技 官	烏海道彦
 大気球実験において観測器の回収と同様,海上に落下した気球本体の回収も地球環境の点で極めて重要なことである.本年度は気球の降下速度や高度を知る方法として,気圧計のデータのPCM伝送化および軽量・小型化したテレメータの開発に成功し,気球に搭載し飛翔試験を行った.この結果,今後の実用化を目指す.

 超薄型気球放球装置の研究
	助教授	山上隆正	助 手	太田茂雄	助 手	齋藤芳隆
	技 官	松坂幸彦	技 官	並木道義	技 官	鳥海道彦
 膜厚5.8mmのポリエチレン・フィルムで製作されている超薄型気球を気球本体に損傷を与えず,安定に放球するための放球装置の研究を行っている.これまでは,エアバックを用いた放球装置を開発・製造し,総浮力100kgの容積120,000m3の超薄型気球の放球に成功している.本年度は,更に大型の超薄型気球を安定に放球できるシステムの研究を行い,より確実に容積500,000m3の気球まで放球できるように研究を進めた.

 新素材気球の研究
	助教授	山上隆正	助 手	太田茂雄	助 手	齋藤芳隆
	技 官	松坂幸彦	技 官	並木道義	技 官	烏海道彦
			技 官	横田力男	山形工科アカデミー	西村 純
 気球フィルムの材料として,従来用いられてきたポリエチレンフィルムとは異なる特性を持つ新素材を探索しており,新素材の機械的特性および光学的特性評価を行っている.本年度は,赤外線吸収特性にすぐれるエバールフィルムを用いた気球を製作し,初めて水平浮遊をさせることに成功し,日没による気球温度の降下量を評価した.

 GPSアルゴスの研究
	技 官	烏海道彦	助教授	山上隆正	助 手	太田茂雄
	助 手	齋藤芳隆	技 官	松坂幸彦	技 官	並木道義
					研究支援推進員	岡崎春三郎
 海上に降下した観測器を確実・迅速に回収する方法の研究の一環として,本年度は自立型防水処置したGPS受信機で位置および高度データを収集し,そのデータをアルゴス送信機で送信するシステムを製作し三陸町吉浜湾に浮かべて性能試験を行った.その結果は大変良好で,今後更に改良を加え実用化を目指す.
 高エネルギー一次電子の観測
	神奈川大・工	烏居祥二	助教授	山上隆正	助 手	齋藤芳隆
	神奈川大・工	田村忠久	神奈川大・工	吉田賢二	青学大・理工	小林 正
	立教大・理	村上浩之	芝浦工大・システム工	笠原克昌	東大・宇宙線研	湯田利典
					山形工科アカデミー	西村 純
 宇宙には,天然の加速器が存在しており,高エネルギーの宇宙線が飛び交っている.我々は,その起源,メカニズム,伝搬状態を明らかにするため,電子線に着目した観測を行っている.数100GeVのエネルギー領域は,従来エマルジョンチェンバーの独壇上であったが,宇宙ステーションなどでの長期観測には向かないという欠点があった.我々はシンチレーションファイバーと鉛を交互に積み上げた電磁シャワートラッカーを構築し,軽量,大面積のカウンター系観測器を開発してきた.本年度も5月に気球実験を行い,20時間の観測に成功した.今後,統計を増やすと共に,より高いエネルギーでの粒子弁別の方法を探ってゆく.

 回転駆動型パルサーの粒子加速現象の研究
	助 手	齋藤芳隆	助教授	山上隆正	東大・理	釜江常好
			理 研	河合誠之	山形大・理	柴田晋平
 回転駆動型パルサーでは,何らかのメカニズムにより非常に効率よく回転エネルギーが粒子の運動エネルギーへと変換されており,これらの粒子により,パルサーの周辺では多彩な高エネルギー現象が引きおこされている.我々は,「あすか」,ROSAT, RXTEといったX線天文衛星を用いて,これらの現象を観測し,その原因を探求すると共に,その粒子加速機構の手がかりを得ようとしている.本年度は,最も高速で自転しているパルサーPSR 1937+51からパルス放射を発見した.昨年に発見した球状星団M28中にある3ミリ秒のパルサーPSR 1821−24と同様に幅のせまいパルス放射をしていることがわかった.PSR 1821-24については,RXTEでの観測も行ない,そのX線パルスの位相を調べた,また,M28に関しては昨年ROSATを用いて発見した暗いX線天体の集団の解析も進めており,時間変動していることから点源の集まりであることがわかってきている.

 高エネルギー大気ガンマ線の研究
	助教授	山上隆正	助 手	齋藤芳隆	芝浦工大・システム工	笠原克昌
	神奈川大・工	烏居祥二	神奈川大・工	田村忠久	神奈川大・工	吉田賢二
	立教大・理	村上浩之	東大・宇宙線研	湯田利典	青学大・理工	小林 正
					山形工科アカデミー	西村 純
 スーパーカミオカンデにおいて大気ニュートリノ異常が検証され,ニュートリノ振動の証拠となっている.しかし,これはニュートリノフラックスの実測値を予測値と比較するのではなく,世代の異なるニュートリノのフラックスの比を比較することによって得られたものである.絶対値の直接比較には,大気中のシャワーの発達を精密測定し,予測の精度をあけることが必要である.我々は気球搭載用電子線観測器BETSを改良し,電子線に加えてガンマ線に対しても感度を持たせることに成功した.本年度は,東京大学宇宙線研究所乗鞍観測所において,高度3000mにおけるデータを取得した.このデータ解析を進めるとともに,気球実験によって,より高い高度におけるガンマ線,電子線の観測を行う予定である.

 気球による宇宙反粒子の探査観測
	教 授	矢島信之	助教授	山上隆正	山形工科アカデミー	西村 純
	東大・理	折戸周治	高エネ研	山本 明	神戸大・理	野崎光昭
 宇宙起源と進化に関する新しい知見を得,宇宙論研究を行うために,超伝導磁石と宇宙線観測技術とを有効に結合して開発された高性能超伝導スペクトルメータ検出器により,宇宙起源の反陽子,反ヘリウム等の宇宙反粒子の探査・観測を行っている.本年度は,カナダのリンレークで第6回目の気球実験を行い22時間の観測に成功した.この実験で,470個の宇宙反陽子の観測に成功している.
 小惑星探査計画のミッション解析
	教 授	松尾弘毅	教 授	上杉邦憲	助教授	川口淳一郎
	助教授	石井信明	助 手	山川 宏	助 手	澤井秀次郎
 小惑星探査計画(MUSES-C)に関し,軌道設計,探査機システムの検討など,ミッション解析を行った.衛星の推進系として,電気推進系と小推力2液推進系を併用したシステムの概念検討を行った.

 画像を用いた宇宙機と未知天体の相対運動の推定
	教 授	松尾弘毅	助教授	川口淳一郎	助 手	澤井秀次郎
 画像を用いた自律航法の確立のため,画像から未知天体と宇宙機の相対運動を推定する方法を検討した.周波数領域で画像を比較するアルゴリズムを提案し,これによって画像平面内の宇宙機の動きが推定できることを,ハードウェア・シミュレータによって取得された画像を用いて示した.

 低推力を用いた小天体ミッションにおける終端誘導に関する研究
	教 授	松尾弘毅	助教授	川口淳一郎	助教授	石井信明
					助 手	山川 宏
 低推力を用いた小惑星/彗星ミッションにおける目標天体近傍での終端誘導について検討を行った.軌道制御誤差および軌道決定誤差を考慮すると,目標天体に近づいて,終端までの飛行時間が短くなるにつれ,低推力だけでは誘導しきれず,高推力の化学推進を併用する必要性が生じることが予想される.本研究では,従来の,インパルスΔVのみを想定して最適な修正時刻を決定するスペーシング則を,低推力軌道に拡張することで,化学推進の必要性を示すとともに,最悪状況下での総インパルス増速量を最小にする具体的な終端誘導則を導いた.

 垂直着陸を想定した再突入機の低空域誘導
	教 授	松尾弘毅	助教授	稲谷芳文	助教授	石井信明
			助 手	平木講儒	助 手	山川 宏
 垂直着陸を行う宇宙往還機の帰還時,特に高度1km程度以下の低空域における誘導について検討した.着陸に至るまでの具体的な誘導則を検討し,いろいろな風プロファイルを想定したうえでシミュレーションによってその妥当性を確認した.

 微小重力天体まわりの宇宙機の軌道について
	教 授	松尾弘毅	助教授	川口淳一郎	助教授	石井信明
					助 手	山川 宏
 小惑星や彗星のような複雑な形状を持つ小天体を周回するミッションを想定し,天体を3軸不等楕円体と近似したうえで,数周程度先までの短期的な天体まわりの軌道変化の特性を解析的および数値的に把握した.この短期的な予測に基づいて,軌道保持を目的として,軌道修正回数および修正量が最小となるような軌道修正則を提案した.

 惑星大気突入用小型耐熱カプセルの検討
	教 授	雛田元紀	助教授	稲谷芳文	助教授	石井信明
	助 手	平木講儒	助 手	山田哲哉	技 官	平山昇二
 将来の惑星大気突入ミッションやサンプルリターンなどの再突入/回収ミッションでは,苛酷な熱空力環境に耐えることのできる小型カプセルの設計,開発が必要となる.このため,耐熱材料単体の開発に加えて,これを構造要素として考えた上で,実際のカプセル製作に反映させなければならない.
 金星気球,火星ペネトレータ,小惑星サンプルリターンなどを例に,必要最小限のシステム構成を考え,機械的,電気的インターフェースと問題点などについて検討している.また,観測ロケットに小型カプセルを搭載し,耐熱材料特性などを実験的に検証することも計画している.

 小型カプセル用パラシュートの開発
	教 授	雛田元紀	教 授	矢島信之	助教授	山上隆正
	助教授	稲谷芳文	助教授	石井信明	助 手	井筒直樹
	助 手	平木講儒	助 手	山田哲哉	技 官	喜久里豊
 惑星探査用小型カプセルやサンプルリターンカプセルには減速のためのパラシュートが必要になるが,比較的形状に柔軟性のあるパラシュートを周辺に配置することで,カプセル中央部に搭載機器や観測装置のための搭載スペースを確保することができ,カプセル内部の空間を有効活用するとともにカプセルをより小型化することができる.地上でのパラシュート放出試験,落下試験,風洞試験等を高速ビデオなどを使って計測し,トーラス(ドーナツ)状に収納されたパラシュートを確実に展帳するために必要なパラシュート放出エネルギや放出速度など,パラシュートや放出機構の設計に反映させた.さらに,気球からの落下カプセルを使った実験によってシステム全体の機能確認をした.

 簡易型スピン分離機構の開発
	助教授	稲谷芳文	助教授	樋口 健	助教授	石井信明
			助 手	奥泉信克	技 官	喜久里豊
 上段ロケットのセカンドペイロードや惑星探査プローブの分離時には,通常,姿勢安定のためのスピンが必要とされることが多い.分離される側が小型であればあるほど最も簡便なスピン安定を採用する場合が多く,分離のための機構もより軽量で簡易的なものが要求される.そこで,1つのスプリングで回転速度と並進速度を同時に与えることができる分離機構を検討している.簡単な地上試験モデルを試作し,分離状態を高速ビデオ等で計測することで外乱発生要因を分離,これを抑制するとともに,回転と並進を独立に制御する場合の設計自由度等を検討している.

 3次元飛翔姿勢計測システムの検討
	助教授	石井信明	技 官	富澤利夫	技 官	長谷川克也
			技 官	餅原義孝	技 官	太刀川純孝
 飛翔中のロケットの姿勢情報(テレメータデータ)や軌道情報(レーダデータ)をもとにロケットの運動を3次元的にリアルタイム表示するシステムを検討しており,これによって,多岐にわたる計測データをより集約された形で表示することが可能となる.

 深宇宙探査ミッションの解析
	教 授	松尾弘毅	教 授	上杉邦憲	助教授	川口淳一郎
	助教授	石井信明	助 手	山川 宏	助 手	安部正真
 惑星および小天体(小惑星,彗星)探査対象に対して,基礎的なフィージビリティを模索するために21世紀初頭の代表的な探査機会についてそのサーベイを行った.その中には小惑星サンプルリターン,メインベルト小惑星ランデブー,多数回小惑星フライバイ,彗星コマサンプルリターン,彗星核サンプルリターンミッションが含まれる.

 GEOTAIL衛星の軌道計画
	教 授	松尾弘毅	教 授	上杉邦憲	助教授	川口淳一郎
	助教授	石井信明	技 官	周東三和子	技 官	前田行雄
					助 手	山川 宏
 国際プロジェクトISTPのGEOTAIL衛星の軌道計画では,そのミッションである磁気圏尾部観測を遂行すべく,2重月スウィングバイ軌道という方策が採られている.本研究では,「ひてん」でも用いられた軌道計画プログラムによって,GEOTAIL衛星の全ミションにわたる軌道計画の解析,設計を行っており,月移行軌道及び,月スウィングバイ軌道は既に成功裡に達成されている.現在は月軌道の内側で地球を周回する軌道(Near-Tail軌道)上にある.

 火星探査機「のぞみ」の軌道計画に関する研究
	教 授	松尾弘毅	教 授	上杉邦憲	助教授	川口淳一郎
	助教授	石井信明	助 手	山川 宏	共同研究学生	田所英哉
 1998年度に打ち上げられたPLANET-B衛星の軌道計画を行っている.月遷移軌道に投入された衛星は,当初,2回目の月スウィングバイと1回のパワード地球スウィングバイを行って,1999年10月に火星周回軌道に投入される予定であった.しかし,1998年12月の地球脱出マヌーバを行った際に燃料を使い過ぎたために,2回の地球スウィングバイを利用して火星到着を2004年1月とする案に変更した.2回の地球スウィングバイによって2003年6月の地球発火星行きの絶好のウインドウにつなげられている.

 LUNAR-A衛星の軌道計画に関する研究
	教 授	松尾弘毅	教 授	中島 俊	助教授	川口淳一郎
			助教授	石井信明	助 手	山川 宏
 LUNAR-A衛星の,地球−月遷移フェーズから,月周回軌道投入,ペネトレータ投下,母船によるデータリレーに至る一連の軌道計画を行った.地球から月に移行する軌道では,月周回軌道投入時の燃料節減を目的としてballistic capture軌道という方策を採る.月周回軌道投入後,ペネトレータは2本投下する予定であり,月高度25kmにおいて軌道離脱モータによって減速した後,自由落下させる方法を用いる.また,母船は高度約300kmの円軌道を周回しながらペネトレータからのデータを受信/送信する.

 MUSES-C衛星の軌道計画に関する研究
	教 授	上杉憲邦	助教授	川口淳一郎	助教授	石井信明
					助 手	山川 宏
 低推力電気推進(イオンエンジン)を主推進期間として用いて小惑星にランデブーし,そのサンプルを採集後,地球に帰還するというミッションであり,電気推進系のハードウエアシステムも考慮したうえでペイロードが最大となるように探査機の軌道計画の最適化を行った.

 電気推進による水星オービタのミッション解析
	教 授	向井利典	教 授	小林康徳	助教授	齋藤宏文
					助 手	山川 宏
 電気推進の使用を想定した水星ランデブーミッションの検討を行った.打ち上げ後に金星スウィングバイを経て2.3年という短い飛行時間で水星に到着する.以降,2水星年(約半年),磁器圏観測,表面撮像等のサイエンスを行うことを想定している.

 化学推進による水星オービタのミッション解析
	教 授	向井利典	教 授	小林康徳	助教授	齋藤宏文
					助 手	山川 宏
 化学推進の使用を想定した水星ランデブーミッションの検討を行った.打ち上げ後に金星と水星の多数回のスウィングバイを経て水星に到着する惑星間軌道,最終的な水星周回観測軌道への投入方法,周回中の軌道推移を観測の観点から検討し,探査機設計のための知見を与えた.

 M-Vロケット用の高層風予測システムの確立
			助教授	石井信明	助 手	山川 宏
 M-Vではオペレーション上の製薬から打上げ時の高層風を予測して,約1日前に姿勢プログラムを設計する必要がある.そこで,高度16km以下は気象庁数値予報課の予報データを,高度16kmから50kmまではイギリスの気象局の観測データを時間的空間的に補間して鹿児島における高層風を予報するシステムを構築した.

 M-Vロケットにおける風プロファイルを考慮した姿勢プログラムの最適化
					助 手	山川 宏
 M-Vロケットの第1,2段の上昇軌道は,空力荷重制約の観点よりノミナルな風モデルを想定したときの迎え角ゼロのパスを標準としている.本研究では,打上げ当日の風の変化に対して,姿勢プログラムを変更することで迎角を一定の値以下に保ったまま,第2段燃焼終了時のロケットの終端条件を合わせる可能性について検討した.迎え角の積分値を評価関数,姿勢プログラムを制御変数とした非線形計画問題を解くことにより,典型的なウインドシアに対しては前記目的を実現できることを確認し,実際のM-Vロケット3号機のフライトに適用し,方法が妥当であることが確認された.

 M-Vロケットの誘導理論の研究
	助教授	川口淳一郎	助教授	石井信明	技 官	前田行雄
					助 手	山川 宏
 M-Vロケット各号機の各段に対応した誘導理論を,ロケット姿勢制御系の制御誤差,推進性能の誤差,投入後の衛星に課せられる軌道制御量等を考慮して検討した.また,精測レーダのアンテナ角,レンジデータから軌道推定する際のカルマンフィルタについても,生データのノイズ特性を考慮して検討した.

 観測ロケットの風補正
	助教授	石井信明	技 官	前田行雄	助 手	山川 宏
 観測ロケットの目的に応じた風補正の方法について検討を行った.従来の風補正の主目的は落下点位置分散の低減であり,ある秒時での速度方向がノミナルと一致するように,ランチャー角の方位角/上下角を設定している(感度係数放).また感度係数にはよらずに直接,3次元6自由度シミュレーションプログラムを収束計算させる方法も確認した.(収束計算法).

 小型垂直離着陸式ロケット実験機の航法誘導制御系の研究
	助教授	稲谷芳文	助教授	森田泰弘	助 手	成尾芳博
	助 手	山川 宏	技 官	志田真樹	技 官	橋本保成
 将来型の宇宙輸送システム研究の一環として,液体水素を燃料とする小型ロケットエンジンを用いた繰り返し飛行を行う小型の実験機を作って,効率的な再使用性やロケットエンジンによる地上への帰還のための飛行方法の研究を行っいる.本研究では,そのIMUおよび高度計を用いた航法,最適制御に基づいた誘導則,エンジン推力制御とRCSによる姿勢制御系の検討を行っている.

 疑似微小重力発生装置の開発と粒子分散の研究
					客員教授	澤岡 昭
 回転式擬似微小重力発生装置に高温発生部を付加し,これを使用してアルミ合金中に炭化ホウ素粒子を均一に分散させる実験を行った.また本装置の回転速度を増すことによって,中心から周辺部に向かって粒子の傾斜分散が実現することを確認した.本実験によって,限られた組み合わせの複合材料においてであるが,宇宙における微小重力を利用しなくても本装置によって,地上においてでも微小重力下と類似の粒子分散実験を行うことができることをデモンストレーションした.

 宇宙空間での生体寿命
					客員助教授	最上善広
 宇宙滞在による生物時間の変動を調べる目的で,培養細胞におけるクローン世代の長さ(クローン寿命)を測定する実験を提案し,そのための閉鎖系での培養方法等の検討を行ってきた.細胞クローン寿命を測定するためのモデルケースとして,クローン世代の開始を人為的に制御できる纎毛虫(Paramecium, Tetrahymena等)を用い,JEMでの運用を想定した実験系を考案し,具体的な実験装置の開発を行った.
 クローン寿命を反映するパラメーターとして,オートガミー未熟期に注目し,その器官を測定し,細胞分裂世代との比較を行うための実験装置を考案し,その試作と運用を行った.

 生物対流パターン形成における生物学的要因の解析
					客員助教授	最上善広
 纎毛虫などの水中の微生物の多くが重力走性を示し,常に水面下に集合しようとする.細胞の密度が高くなると,水面下での細胞の集合が過密化し,細胞が塊状となって落下し始める.上下2方向の流れによる,このような現象は生物対流として知られている.生物対流の結果,細胞集団内に密度の違いが生じる.初めはランダムに起こった不均一性がしだいに組織化され,細胞密度の違いを反映した一定の幾何学パターンが形成されてくる.
 このような現象は,原生生物のような本来独立して活動している個々の細胞が作り出す,共同現象の結果である.個々の細胞の間には,本来,極弱い協調性(相互作用)があるだけであるが,それが,重力という外力によって増幅され,空間的に組織化された結果,パターンが出現する.形成される空間パターンは,構成要素(細胞)の特性が直接反映されたものである.従って,要素間での特性の違いが極小さいものであっても,重力による増幅(増強)作用により,形成される空間パターンには大きな違いが生じることが予想される.
 前年度までの経過(行動突然変異や機械刺激受容機構の阻害剤の添加によるパターン形成の変化)をよりくわしく解析するために,空間パターンの形成経過その記録画像から時空間プロットを得るための簡単な画像処理方法を考案し,パターン形成の動的特徴の抽出を試みた.

f.宇宙輸送研究系

 科学衛星打ち上げ用ロケットの構造と機能
	教 授	小野田淳次郎	助教授	峯杉賢治	技 官	橋元保雄
	技 官	喜久里豊	技 官	内田右武	技 官	富澤利夫
	技 官	下瀬 滋	技 官	池田光之	都立科学技術大学	渡辺直行
 衛星打ち上げ用ロケット,観測ロケットなどの構造要素として,モーターケース,各段間接手,ノーズフェアリング,尾翼,尾翼筒およびサブブースタ切り離し機構などについて,研究開発を行っている.
 M-V型ロケットについては,高圧燃焼型のCFRP製第2段モータケースM-25のエンジニアリングモデルの耐圧試験,静荷重試験で取得されたデータの解析・検討を行い,その結果を地燃用モータケースの設計に反映した.この2段モータケースの改良に伴って,変更される1/2段接手については,構造様式の検討と基本的な設計を実施した.ASTRO-E用の衛星接手に関しては,強度・剛性試験,分離試験を実施し,設計の妥当性を確認すると共に,分離擾乱の計測を行った.
 2段式の観測ロケットSS-520については,ノーズコーンの熱変形の検討,マルマンバンド張力の経時変化試験,及び展開アンテナの設計検討及び試験を行った.
 科学衛星の構造・機構
	教 授	小野田淳次郎	助教授	峯杉賢治	都立科学技術大学	渡辺直行
					助教授	樋口 健
 科学衛星の構造および太陽電池パドル等の展開機構の開発研究を行っている.
 ASTRO-Eについては,太陽電池パドルの展開試験結果より新しい展開機構の評価を行い,フライトモデルの設計に反映させた.また,モーメンタムホイールの擾乱による衛星各部の振動計測を行い,運用中の累積疲労損傷の評価を行った.ASTRO-Fに関しては,太陽電池パドルの基本設計を行った.DASHに関しては,構体の設計,衛星分離機構の開発を行った.

 飛翔体の機体計測に関する研究
			技 官	富澤利夫	技 官	長谷川克也
 飛翔体開発計画の一環として,その飛翔時の機体各部の状態および挙動を計測するためのシステムの開発,取得データの解析および処理方法の研究を行っている.
 今年度はM-V-3号機の飛翔データの解析処理を行った.また,M-V-5号機に向けて計測系のディジタル化の検討を開始した.

 飛翔体の構造動力学
	教 授	小野田淳次郎	助教授	峯杉賢治	技 官	橋元保雄
	技 官	下瀬 滋	都立科学技術大学	渡辺直行	大学院学生	高野 敦
 科学衛星打ち上げ用ロケットについて機体の動特性の評価を行い,制御系の設計等に資するとともに,ランチングオフ,風および制御等に伴う機体の運動と荷重について研究を行っている.
 今年度は,M-V-3号機の飛翔結果から得られた機体の動特性と,1号機の飛翔結果に基づいて更新された事前の数学モデルの動特性の比較を行った.また,5号機から採用されるCFRP製M-25モータケースの着火時に発生する縦衝撃について,数学モデルを作成し検討を行った.

 環境試験方式の開発研究
	教 授	小野田淳次郎	助教授	峯杉賢治	技 官	平田安弘
			技 官	富澤利夫	技 官	吉田邦子
 搭載機器の計装と関連して振動・衝撃・スピン・動釣合等の機械環境試験法に関する研究および試験条件の策定について研究を行っている.特に動電型振動試験装置による振動・衝撃試験において,小型計算機を用いた制御およびデータ取得の方式について研究を行っている.
 今年度は,観測ロケットS-310-28号機の試験を行った.

 M型ロケット発射装置の動特性の計測
	教 授	小野田淳次郎	助教授	峯杉賢治	技 官	橋元保雄
	技 官	富澤利夫	技 官	池田光之	技 官	下瀬 滋
 M型ロケット発射装置の発射時の諸特性を計測している.今年度は,M-V型用に改造された発射装置でのM-V-3号機の発射時の振動を計測し,M-V型ロケットや発射装置の数学モデルの妥当性の確認を行った.

 FWモータケースの設計方法に関する研究
	教 授	小野田淳次郎	助教授	峯杉賢治	教 授	八田博志
	助 手	後藤 健	客員助教授	青木隆平	都立科学技術大学	渡辺直行
 CFRP製FW(フィラメント・ワインディング)でつくられるモータケースは,軽量・高強度なため,重量的に有利であり,かつ,量産により製造コストが安くなる利点も有する.ただし,モータケースの大型化及び燃焼の高圧化に伴い,FWモータケース特有の問題が生じる.本研究では,その問題に対処する設計手法について検討を行っている.
 今年度は,ボス口元の新しい巻き付け方,平行部の積層構成と破壊強度に関する検討を行った.

 柔軟宇宙飛翔体の構造と制御
			教 授	小野田淳次郎	大学院学生	内田英樹
 柔軟宇宙飛翔体では構造と制御系は密に関係するので設計に当たっては両者を含む系について同時最適化を行う必要が生じる.その手法については理論的研究を行っている.

 柔軟構造物の振動制御の研究
	教 授	小野田淳次郎	助教授	峯杉賢治	技 官	富澤利夫
	技 官	平田安弘	技 官	下瀬 滋	大学院学生	呉 賢雄
	大学院学生	竹中達史	大学院学生	沼尻至朗	特別共同利用研究員	大久保洋志
					特別共同利用研究員	清水さやか
 構造物の剛性やダンパの減衰力を制御することにより,構造物の振動を減衰させるという新しい準能動的振動制御法,クーロン摩擦や粘着層による減衰効果を利用する受動的制振法,そして能動的制振について,トラス構造等を中心として理論的および実験的研究を行っている.
 今年度は,機能材料であるER流体を用いたアクチュエータによる準能動的制振,振動によってアクチュエータに発生する電力を制振に利用する回生制振,及び,圧電アクチュエータの非線形性の補償方法の研究を行った.また,粘着層を持つポリイミド膜による受動的制振効果のメカニズムについて,数学モデルによる動的挙動の近似を中心に研究を行っている.

 カプセル型飛行体の動的安定性に関する実験的研究
	教 授	安部隆士	大学院学生	中島康夫	特別共同利用研究員	松川 豊
 カプセル型の飛行体では,遷音速域において動的な不安定性を示すことが知られている.この研究では,そのメカニズムを明らかにすることを目的として,主に,ウェーク領域の影響について実験的,数値解析的研究を進めている.本年度の研究では,ウェーク領域におかれた物体が動的不安定性に大きな影響を持つことが判明しており,次年度以降,影響のメカニズムを明らかにすることを通して,動的不安定性そのもののメカニズムを明らかにしていく.

 希薄ジェットのノズル周辺物体との干渉に関する研究
			教 授	安部隆士	大学院学生	廣谷智成
 宇宙機がその姿勢制御のために用いるジェットは,周辺物体に大きな影響をもたらす場合があり,その影響を予知することが重要となっている.この研究は,このために数値解析コードを開発することを目的とする.このような流れでは,ジェットのノズル付近に生じる密度の高い領域から,十分膨張して後密度が極端に小さい希薄領域に至るまで,大きな密度変化をする領域を取り扱う必要があり,従来の計算手法によれば,計算効率が悪いため,効率よく計算を可能ならしめる必要がある.このため新たな計算手法の開発が行われ,大幅な計算効率の改善が行われた.また,計算結果の検証のため,電子銃を用いた可視化実験を行う予定である.

 衝撃波と渦との干渉に関する研究
	教 授	安部隆士	助 手	船D勝之	大学院学生	松浦一哲
 ジェットノイズ等の空力音の発生では,衝撃波と渦の干渉がその基本メカニズムとなっている.この研究では,衝撃波と渦が干渉する際に放出される音波について,理論解析を進めると同時に実験的な検討を進めた.実験的には,干渉縞による可視化手法を開発し,さらに数値解析の手法により実験で観察された現象を再現出来ることを確認している.また,ここで生じる非定常な現象の観察に適した可視化法を見出し,その実用性を検証した.

 M-V型ロケットでのFITHに伴う空力現象の検討
	教 授	安部隆士	助 手	船D勝之	大学院学生	小田兼太郎
 M-V型ロケットで採用されるFITHでは,ロケットノズル流と下段ロケットとの干渉の効果が懸念されている.この研究では,実験的,解析的手法を用いて,現象の把握とその予測を行うことを目的とする.実験では,この干渉により,非定常なノズル流れの振動を見出している.一方,数値的な解析により,この現象がノズル壁での流れの剥離現象に関連することを見出している.

 USERSを用いた輻射計測実験
	教 授	安部隆士	教 授	雛田元紀	助 手	藤田和央
 大気に再突入する飛行体では,飛行体の受ける空力的な加熱を把握することが重要であり,そのため,飛行体全面に生じる衝撃波により生成される高温大気の状態を正確に把握する必要があるが,そのような高温大気を地上で生成することは困難であり,実飛行環境で,そのような高温大気からの輻射光の分光分析を行うことは,新たな知見をもたらすと考えられる.この研究では,無人宇宙実験機構(USEF)が現在開発を進めているUSERS衛星を用いて,そのような輻射分光測定をすることを目指して準備を進めている.

 MUSES-Cの大気再突入カプセル飛行環境予測
	教 授	安部隆士	助 手	藤田和央	大学院学生	大津広敬
					東大・工	鈴木宏二郎
 MUSES-Cでは,大気に再突入するカプセルが用いられる.このカプセル飛行体が経験する飛行環境の予測を目指して,検討を進めた.VSL方程式による淀み点での飛行環境を,特に耐熱材との干渉に関して検討し,耐熱材の酸化,蒸発による劣化についての検討を進めた.さらにVSL方程式の解法に関する研究,耐熱材の劣化についての新たなモデルに関する研究,化学反応モデルについての研究を進めた.
 また,衝撃波背後の高温気体からの輻射の予測についての検討を進め,予測するための計算コードを開発し,輻射場と流れとの干渉についての研究を進めた.さらに,カプセル飛行体回り全体における飛行環境の予測をめざしたシミュレーションコードの開発を進めた.

 超高速衝撃波発生装置の開発と超高速衝撃波特性に関する研究
	教 授	安部隆士	助 手	船D勝之	助 手	藤田和央
					技 官	佐藤俊逸
 MUSES-Cの再突入カプセルの突入速度は,13km/secに達し,その際に生じる衝撃波背後の熱化学的状態を実験的に把握する必要がある.このため,このような強い衝撃波を発生させるためにフリーピストン型の衝撃波管を開発し,その基本的特性を把握するとともに,13km/secを上回る速度の衝撃波の発生を確認した.今後は,このような衝撃波背後の流体諸量の把握を行い,再突入飛行環境予測に応用する.

 LBE法に関する理論的研究
					教 授	安部隆士
 Lattice Bolzmann Equation法は,Lattice Gas法の改良版として注目されている流体シミュレーション法である.通常の方法に比較して,特に高効率のシミュレーション法として注目されているものである.LBEは,適当な極限においてNavier Stokes方程式を再現するという要請から構成されているが,構成法は複雑であり,LBE法の拡張のネックとなっていた.この研究では,構成法として,別の概念を用いることで容易にLBE法を導出できることを示し,LBE法の拡張の可能性を示した.また,圧縮性流れ,混合流れについての拡張を検討している.

 DSMC専用計算機の開発
	教 授	安部隆士	助 手	船D勝之	大学院学生	歌野原陽一
 希薄流れのシミュレーション技法として標準的なものであるDSMC法の高速化による大規模計算の要望が高まっている.このため,高速化における主なネックとなる計算ルーチンを専用のハードウェアでこなすことにより,計算全体を高速化する可能性を検討した.さらに,このような専用のハードウェアの開発を行い,このような計算システムを実証した.
 このような手法は,流れの数値解析一般に適用可能であり,今後,他の計算スキームについての拡張を行う予定である.

 高速再突入実験(DASH)の設計・検討
	教 授	安部隆士	助教授	稲谷芳文	助教授	川口淳一郎
	助教授	森田泰弘	助教授	石井信明	助 手	山川 宏
					助 手	山田哲哉
 惑星ミッションで応用が見込まれるサンプリルターンにおいては,双曲線軌道から直接地球大気に再突入する飛行体の開発が必須のものとなっている.そのような機体の開発は,飛行環境の予測,耐熱構造の開発から始まり,最終的には,機体システムとしての機能の実証が必要である.本年度は,高速再突入実験(DASH)の設計を進め,機体構成を決定すると同時に地上回収のための準備を進めた.

 再突入カプセルの遷音速における動的不安定性に関する数値解析
			教 授	藤井孝藏	助 手	寺本 進
 MUSES-Cプロジェクトのカプセルに関連して,その遷音速域において生ずる振動現象の解析を目的として形状を変えたパラメトリックな数値シミュレーションを実施した.後流域におけるたて渦の存在が振動原因のキーとなっていること,前面形状が動的な安定の鍵であることなどが明らかになった.さらに得られたデータに対して,後処理を行うことでそのメカニズムの理解を進めている.

 数値シミュレーション技術を用いた空力解析システムの設計に関する研究
			教 授	藤井孝藏	COE研究員	宮路幸二
 宇宙工学におけるさまざまな空力問題への数値シミュレーション技術の応用を促進するために解析システムの設計と製作を行った.試作は完成し,ロケットやカプセルなど限られた形状に対してのみという限定はあるものの,WEBを利用してどこの計算機からでもシミュレーションが手軽にできるシステムが出来上がった.システムの整備が今後の課題である.

 飛翔体空力数値シミュレーションの信頼性に関する研究
	教 授	藤井孝藏	特別共同利用研究員	井浦秀一	青学大・理工	林 光一
 M-Vロケットのストリンガー,接続フランジやSMRCなどが全機の空力係数にあたえる影響評価を行った.本年度は,マッハ数を変えたシミュレーションを行い広い範囲での数値シミュレーションの信頼性を検討した.現在,再突入型の形状をいくつか設定し,それらに対する数値シミュレーションの信頼性を明確にする研究を進めている.


 非構造格子を利用した3次元衝撃波干渉形態に関する研究
			教 授	藤井孝藏	COE研究員	宮路幸二
 解適合格子の特徴を活かして,衝撃波の反射,回折における3次元の効果を調べる数値計算を行った.特に弓状衝撃波に入射する斜め衝撃波3次元問題に着目し,その干渉パターンを明らかにした.衝撃波干渉形態についていくつかのケースを追加し,2次元の干渉と3次元の干渉の違いを検討し,そのメカニズムを明らかにした.

 超音速の乱流剪断層に関する実験的研究
			教 授	藤井孝藏	助 手	寺本 進
 速度差のある並行気流において生ずる乱流剪断層の混合特性を見る目的で小型風洞において実験を行った.ピトー圧と可視化画像を解析した結果,発達率について過去の実験を再現することができた.今後,実験の信頼性を高めるとともに非定常圧力計測を行う予定である.

 斜め平板に衝突する超音速ジェットに関する実験的研究
			教 授	藤井孝藏	助 手	寺本 進
 斜め平板に衝突する超音速ジェットの干渉形態を知る目的で,小型風洞での実験を開始した.計測系の設定,基礎実験を行った.気流にまだ不備があるため,次年度以降測定部を改修して更なる研究を行う予定である.

 音響,騒音へのシミュレーション技術の確立に関する研究
	教 授	藤井孝藏	特別共同利用研究員	鎮守 浩	東京音大	村中洋子
 音響や騒音,弱い衝撃波などの伝播の問題を扱う手法を開発している.ソニックブームや音響振動などへの利用を考えている.これらと並行して,基礎研究としてエッジトーンの解析を行った.ジェットからエッジまでの距離を変化させ,その特性を調べるとともに,音響的な小さな擾乱をどこまで数値シミュレーションが捉えられるかの検証を行っている.

 プラグノズルの空力特性に関する研究
	教 授	藤井孝藏	特別共同利用研究員	伊藤 隆	青学大・理工	林 光一
 プラグノズル流れの数値シミュレーションを行っている.プラグノズルの高度補償性と底面切り落としの影響評価を中心に研究を行った.本年は外部気流の効果とノズル形状の影響を中心に解析を行った.その結果,高い圧力比状態では外部気流の影響は小さいこと,ノズルを改良することで5%程度の推力向上が得られることがわかった.

 流体の数値計算法に関する研究
	教 授	藤井孝藏	助 手	寺本 進	大学院学生	深見健人
			特別共同利用研究員	中川智敏	受託研究員	内山直樹
 解の解像度を高めるために計算格子を移動させる手法を開発している.また渦などの移流を,より高解像度で捉える手法を並行して開発している.同時に,複雑物体に対するシミュレーションの効率化を図るために直交格子の利用法を検討している.これらは,物体や現象が時間とともに移動する空力問題に対する計算手法の改善につながるものである.

 飛翔体ボートテール部における抵抗軽減化に関する研究
			教 授	藤井孝藏	大学院学生	今井和宏
 飛翔体ボートテール部の形状を工夫することで抵抗軽減化を図ることを目的として,シミュレーションプログラムの開発を行っている.ノズルより排出される気流を考慮に入れ,流れ場がどのようになっているのかの解析を進めている.
 飛翔体分離の数値シミュレーションに関する研究
			教 授	藤井孝藏	大学院学生	守屋公一郎
 多段宇宙輸送機や多段ロケットなどの分離の際に生ずる空気力をより正確に評価することを目標にシミュレーションプログラムの開発を行っている.研究を開始したばかりであるが,将来的には運動との干渉を含めたシミュレーション技術につなげていきたい.

 飛翔体構造材料の強度と靭性に関する研究
			教 授	栗林一彦	農工大・工	安野拓也
 マルエージ鋼,チタン合金等の飛翔体構造材料の強度と靭性の改善を目標とした研究,特に加工熱処理による強靱化,及びロケットの高性能化に対処すべき高強度材の開発に関する研究を行っている.

 レーザー加熱型電磁浮遊炉による半導体の無容器プロセッシング
	教 授	栗林一彦	助 手	高村 禪	大学院学生	青山智胤
 無容器材料プロセッシングは,混入不純物の低減のみならず,容器使用時には得られない大過冷環境が利用可能という,材料学的に非常に興味深い新しい分野である.本研究はその中でも特に結晶成長学的に重要であるが技術的に困難であった半導体に注目し,その不純物に敏感なメルト物性値の測定,大過冷現象の解明,大過冷液体からの核生成・結晶成長過程の解明,それらを利用した,非平衡物質,新物質の開発を目指している.

 超音波浮遊炉を用いたセラミックスの無容器プロセッシング
	教 授	栗林一彦	助 手	高村 禪	大学院学生	長汐晃輔
 大過冷凝固の研究対象として非常に興味深いのは,凝固時のエントロピー変化が大きな半導体やセラミックスであるが,これらは電気伝導度が低く,電磁浮遊が困難であったためこれまで研究されていなかった.本研究ではガスジェットと超音波によるポジショニングを併用した,超音波浮遊炉を用い,非伝導体であるセラミックスの無容器プロセッシングに挑戦するものである.現在は,包晶凝固系である酸化物超電導体の過冷却を利用した高速結晶成長を例に研究を進めている.

 金属基複合材料における高温変形機構の研究
	助教授	佐藤英一	大学院学生	川端健詞	教 授	栗林一彦
 高温における構造材料の強化法として分散強化があり,分散強化合金(DSA)と金属基複合材料(MMC)が開発されてきた.これらは異なった変形挙動を示し,その変形挙動の違いは分散物の大きさの違いに起因するものと考えられるが,二種の材料は個別の材料として扱われている.同じ強化法を用いながら別個の材料として扱われてきた原因として,マトリクスと分散物だけの影響を考えたようなモデル材料による研究が行われていなかったことが挙げられる.そこで本研究では分散強化材料について理想的なモデル材料を用いDSAとMMCの異なった変形挙動について説明できる理論体系を構築する.

 内部応力超塑性に関する研究
	助教授	佐藤英一	大学院学生	北薗幸一	教 授	栗林一彦
 超塑性とは,材料がある条件下で非常に大きな引張伸びを示す現象であり,難加工性の先端材料に対しても塑性加工が適用可能となって,貴重な材料資源や加工コストの節約が図られている.このうち,内部応力超塑性という現象とは,相変態をもつ金属や金属基複合材料に熱サイクルを付加すると,変態ひずみや熱ひずみにより材料内部に大きな内部応力が発生し,巨大な引張伸びの得られる超塑性変形が出現するという現象である.この内部応力超塑性について,その変形機構を理論的に解析し,それを実験的に検証するという研究を行っている.また,単結晶耐熱合金(Super Alloy)の超塑性加工に応用する試みを行っている.
 セラミックス超塑性の研究
			助教授	佐藤英一	教 授	栗林一彦
 通常塑性変形を全く示さないセラミックスも結晶粒を微細化すると高温で微細粒超塑性と呼ばれる大変形を示すようになる.正方晶ジルコニア多結晶体(TZP)は超塑性セラミックスとして代表的なものであるが,その超塑性変形挙動はAlやSi等の微量の添加物により大きく変化する.高純度TZPおよびAl添加TZPについて,高温変形試験と高分解能透過型電子顕微鏡観察を行い,添加物が超塑性変形に及ぼす影響について研究している.

 高強度Al-Li合金のレーザー溶接継手に関する研究
	助教授	佐藤英一	教 授	栗林一彦	特別共同利用研究員	長島健吾
					千葉工大	河野紀雄
 宇宙輸送システムの構造軽量化のため,Ai-Li系合金の溶接構造を適用するための基礎研究を行っている.特に,AA2195合金(Al-4Cu-1Li-0.3Mg-0.3Ag-0.1Zr)に対して,YAGレーザー溶接を施し,溶接後に種々の熱処理を施して溶接継手効率を向上させる試みを行っている.

g.宇宙推進研究系

 エア・ターボ・ラムジェットエンジン(ATRエンジン)の研究
	教 授	棚次亘弘	教 授	八田博志	助 手	成尾芳博
	助 手	佐藤哲也	助 手	後藤 健	助 手	加勇田清勇
	助 手	澤井秀次郎	技 官	岡部選司	技 官	霜田正隆
	技 官	瀬尾基治	技 官	杉山吉昭	技 官	佐藤進司
	技 官	徳永好志	技 官	富澤利夫	技 官	三宅多美子
	技 官	本郷素行	技 官	平田安弘	大学院学生	原田賢哉
			大学院学生	小林弘明	大学院学生	小島孝之
 水平離着陸方式の完全再使用型2段式スペースプレーンの1段目推進機関の候補として,エア・ターボ・ラムジェット(ATR)エンジンの開発研究を行っている.ATRエンジンは空気吸込み式で,地上静止状態からマッハ数6までの領域を単一のエンジンで推進する.燃料に液体水素を用いており酸化剤を運ぶ必要がないため,従来のロケット推進機関と比較して5〜10倍程度の比推力が期待でき,その分をペイロードや輸送機の安全性,信頼性に振り向けることが可能となる.今年度行った研究を以下に示す.第1に,プリクーラ(空気予冷却器)の開発研究である.プリクーラはファンの前方に装着され,高速飛行時の空力加熱に対する熱防護および推力,比推力の向上を図る要素である.今年度は飛翔型モデルとして軽量かつ高性能なType-Vモデルを設計製作し,ATREXエンジンに組み込み燃焼実験を行った.第2に,超音速風洞や小型風洞を利用した要素およびシステムの性能取得試験である.エアインテーク,ラム燃焼器,ノズルを組み合わせたシステム試験によってエンジンの制御方法を確立した.遷・超音速風洞による軸対称型エアインテークおよびプラグノズルの抵抗評価とその低減対策に関する研究を行った.またプリクーラの着霜に関しては,小型風洞を製作し試験を行い,着霜防止策を提案した.第3にATREXエンジンにおいてキーテクノロジーとなる炭素/炭素複合材料(ACC材)を用いたチップタービンの開発である.チップタービンは高温でかつ周速度を高める必要があるため,比強度の高いACC材を適用することが期待されている.テストピースレベルではチップタービンに必要な強度を十分に満足することを確認し,リング状の高強度材の回転試験の準備を進めている.また,ACC材を用いた熱交換器,プラグノズルの概念設計を行った.

 ATREXエンジンを用いた二段式スペースプレーンの研究
	教 授	棚次亘弘	教 授	八田博志	助 手	佐藤哲也
			助 手	後藤 健	技 官	岡部選司
 ATREXエンジン(エア・ターボ・ラムジェットエンジン)を用いた水平離着陸方式の完全再使用型2段式スペースプレーンの研究を行った.21世紀の大規模な宇宙活動に向けて信頼性,環境保全性の高い宇宙輸送システムが求められている.この要求を満たすには飛躍的な機体の軽量化と推進性能の向上が不可欠である.特に推進系に関しては従来のロケットの性能は限界に近い状態まで改善されており,飛躍的な性能の向上は期待できない.そこでスペースプレーンのフライバックブースターとして空気吸込式エンジンであるATREXエンジンの導入を提案し,実現のための技術課題を検討している.研究内容としては,上下段の推進系を含めたシステムの最適化,炭素/炭素複合材料等の導入検討,サブシステムの開発,エンジン実証実験機およびTSTOシステム実験機の基本設計を行った.

 将来型宇宙輸送システムの研究
	助教授	稲谷芳文	助教授	石井信明	助教授	森田泰弘
	助教授	樋口 健	助 手	成尾芳博	助 手	山川 宏
			助 手	徳留真一郎	助 手	後藤 健
 完全再使用が可能な将来型の宇宙輸送システムの研究を行っている.この種の飛翔体ではこれまでのロケットと異なり高性能の推進システム,超軽量耐熱材料/構造,大気圏内の高速飛行技術,地上への帰還のための飛行技術ならびに航空機的な再使用運用による低コスト化のためのシステム構築法などの種々の研究課題が残されている.さまざまな形態の機体システムが候補として挙げられるが,これらの間のシステム的な特質の評価を行うと同時に,観測ロケットの規模で完全な再使用運用と将来のシステム構築に必要となる工学技術課題の実証を行うためのシステムの検討を行った.

 再使用ロケット実験機による飛行実験
	助教授	稲谷芳文	助教授	石井信明	助教授	森田泰弘
	助教授	樋口 健	助教授	山上隆正	助 手	成尾芳博
	助 手	山川 宏	助 手	徳留真一郎	助 手	太田茂雄
	技 官	佐藤進司	技 官	橋本保成	技 官	安田誠一
	技 官	富澤利夫	技 官	志田真樹	技 官	餅原義孝
	技 官	太刀川純孝	技 官	吉田邦子	技 官	徳永好志
	技 官	三浦秀夫	技 官	下村和隆	技 官	松坂幸彦
 将来の宇宙輸送システムで求められるロケットの再使用性と,ロケットエンジンによる離着陸に関する技術課題の抽出と実証を目指して,実験機計画を立案し飛行実験を実施している.今年度は,再使用ロケット実験機を試作し離着陸実験と繰り返し運用を行った.実験機は液体水素を燃料とするロケットエンジンを用い,最大20秒程度の飛行時間で離陸と着陸を行う機能を有する.離着陸のためのエンジンの推力制御性能や,機体の航法誘導制御性能,ならびに着陸時の機体の挙動や着陸用脚の構造強度などを確認する諸試験に続いて能代ロケット実験場において離着陸実験が行われ,ほぼ所期の目的を達することができた.実験においてはロケットエンジンによる離着陸と繰り返し運用についての機体システムおよび地上支援系の諸機能の確認を行うと同時に,短時間での繰り返し飛行運用を行い,ロケットエンジンを用いた再使用型の輸送システムの構築法に関する多くの知見を得た.

 垂直離着陸型単段式ロケットの推進系の研究
	助教授	稲谷芳文	助 手	成尾芳博	助 手	徳留真一郎
			技 官	橋本保成	研究生	石井忠司
 再使用型宇宙輸送システムとしての垂直離着陸型ロケットの推進系に関する研究を行っている.航空機的な運用が可能なロケット飛翔体で必要とされる飛行中断後の安全な帰還能力(アボート運用)を考慮した推進システムの検討,及びターンアラウンドタイムの短縮を念頭に置いた推進/エネルギーシステムの統合の可能性について検討を行った.また,単段式ロケット(SSTO)を実現するために必要とされる高度補償型ノズルについて,エアロスパイクノズルを垂直離着陸型ロケットSSTOに装着することを仮定し,打上げフェーズの飛翔性能解析と推進系の基本条件に関する研究および帰還フェーズの誘導解析を行い,システムを構築する上での種々の知見を得た.

 垂直着陸型ロケットの飛行力学および誘導制御の研究
	助教授	稲谷芳文	助教授	石井信明	助教授	森田泰弘
			助 手	山川 宏	技 官	本郷直行
 垂直着陸を行う再使用ロケット飛翔体を想定し打ち上げから帰還までの飛行に必要な空力性能,制御性能や最適な誘導法などについて考察している.ロケットエンジンを用いた飛行制御の可能性について考察し,小型の液水ロケットエンジンによる推力制御の動的応答試験結果に基づき,実機型エンジンの推力制御能力についての指針を得るとともに,このエンジン推力による姿勢制御の可能性について検討した.またこれらの飛行を実現するために必要となる飛翔体の空気力学的特性の検討のために風洞試験を行い,機体の安定性および空力操舵性などについてのデータの蓄積を図った.さらにこれらのシステム的な検討に加えて,実験機を用いた飛行実験のために,最小燃料消費で垂直着陸を行うための誘導測や着陸時の誘導方式と機体の運動および構造強度の関係についても検討し,実験機の設計および離着陸実験の誘導測に反映させた.

 カプセル飛翔体の熱空気力学
	助教授	稲谷芳文	助教授	石井信明	助 手	山田哲哉
	助 手	平木講儒	助 手	小川博之	東京農工大・工	新井紀夫
			特別共同利用研究員	新田哲也	共同研究学生	橘内宣隆
 惑星大気への突入や地球へのサンプルリターンの際に必要となるカプセル型再突入飛翔体について,高速から低速にわたる飛行特性,耐熱特性,緩降下システムなどに関して空気力学的な課題を抽出しカプセルの設計に必要となる基礎データの蓄積を図っている.この種のカプセル飛翔体ではシステムを可能な限り簡単化するため弾道飛行による再突入飛行を行わせるが,耐熱システムの選択と飛行経路および空力形状などについてミッションに応じて最適な選択を行うことが必要である.これらの熱空気力学的特性についての理解を深め実際の設計に反映させることを課題として研究を行っている.本年度は大量のアブレーション生成物が機体表面の境界層遷移を促進する効果と空力加熱の遮断効果の関係について実験的に検証することを試みた.またカプセルの飛行力学的特性の上で重要な動的空力特性についても実験的研究を行い,カプセル背面の流れ場の安定性との関連において現象の理解を深めた.

 耐熱材料試験用加熱装置の研究
	助教授	稲谷芳文	助 手	山田哲哉	技 官	鈴木直洋
	特別共同利用研究員	新田哲也	特別共同利用研究員	吉田 豪	共同研究学生	橘内宣隆
 再突入飛翔体の耐熱材料評価試験陽としてアーク加熱器の試作研究を行っている.惑星大気突入や地球外からのサンプルリターンなど高動圧高加熱率の飛行環境を模擬するため,セグメント型のヒータを製作しヒータ特性や加熱試験環境などの基礎データを取得すると同時に耐熱性評価用供試体の製作および表面や内部温度の計測手法等について実験技術の向上を目指した研究を行った.その他,ヒータの熱的な効率の計測や気流エンタルピの計測,電極(特に陽極)の損耗特性やノズルスロートの損耗特性あるいは電極表面の酸化の程度による気流状態の再現性の検討などをはじめヒータ作動上の種々の課題および問題点を抽出するとともに,今後さらに広範囲な気流条件や加熱条件での耐熱材料の試験が行える様にするための基礎データの取得を実施した.


 レーザを用いた高エンタルピ気流の計測手法の研究
	助教授	稲谷芳文	助 手	山田哲哉	技 官	鈴木直洋
	東京農工大・工	新井紀夫	特別共同利用研究員	吉田 豪	共同研究学生	橘内宣隆
 高温気流中の現象および極超音速気流に関する諸現象を把握するためには,種々の化学反応を含めた平衡および非平衡流れの解析を行い多温度モデル,化学反応モデルの相違や分子,イオンおよび電子間の種々のエネルギ交換のモデルの相違などによる気流の状態量への影響などを調べることが重要である.一方実験的にこれらの流れに関する諸量を計測する方法は近年のレーザ診断技術の進歩に伴ってこれまで計測できなかった対象を捕らえることが可能となってきている.ここでは高出力エキシマレーザを利用したレーザ誘起蛍光法(LIF)により高エンタルピ気流の種々の状態量を実験的に定量化することを目指し,気流速度の定量化および2次元分布の取得による可視化,また高エンタルピ気流のノズル膨張仮定で発生する流れの熱的,科学的非平衡性を定量化するため,同種の方法によりNO分子の振動および回転温度を独立に計測し,この種の流れに対して適応すべき振動緩和のモデルについて考察を加えている.

 惑星探査飛翔体用アブレータの研究
	助教授	稲谷芳文	助 手	山田哲哉	技 官	鈴木直洋
 大気圏突入飛翔体や惑星突入プローブ用の耐熱材として用いられるアブレータを開発することを目指して,材料の試作およびアーク加熱器による評価試験などを行なっている.惑星突入プローブでは加熱率および飛行動圧の意味で通常の地球周りの軌道からの再突入に較べより厳しい環境に曝される.この種の高熱負荷の環境では,主としてフェノール樹脂と炭素繊維によるアブレータ型の耐熱材が用いられるが,その加熱中の表面や内部での反応機構をよく理解し十分な熱的,機械的強度を保障することが必要となる.アーク加熱器により最大熱入力20KW/m2,移動動圧約1気圧までの条件で試験を行い,樹脂や繊維の構成および配置の違いによる優劣および損耗特性などについて基礎データを取得している.また表面損耗を支配する加熱表面の現象について考察し実験的に現象の把握と定量化を行うと同時にアブレーション反応および内部熱分解反応などを含めたモデル化と熱的な応答のシミュレーションを行っている.

 M-V型ロケット推進系の研究開発
	教 授	松尾弘毅	教 授	高野雅弘	助教授	齊藤猛男
			助 手	堀 恵一	助 手	徳留真一郎
 本年度は,引き続き第2段M-24モータのアップグレード版であるM-25モータの諸開発課題に取り組むとともに,M-V-5号機に使用されるキックモータKM-V2の開発も開始した.

 固体モータの残留内圧/推力減衰特性予測に関する研究
	教 授	高野雅弘	助 手	堀 恵一	助 手	徳留真一郎
					技 官	志田真樹
 固体モータの残留内圧/推力減衰特性については,M-V-1号機上段モータの飛翔結果やLPM-DOMモータ開発試験の結果から多くの情報が得られ,従来のM-3S II型ロケットの飛翔実績から得られた経験的予測手法の見直しが迫られている.本年度は,すでに進行中の数値解析ルーチン開発に必要な基礎情報を洗練するため,引き続き一連の研究課題に取り組んだ.主な課題としては, 推進薬の低圧燃焼限界近傍における燃焼挙動の解明, ケース・インシュレーションの熱分解特性および損耗特性の調査が上げられる.特に本年度は,低圧燃焼限界近傍の推進薬燃焼特性を調査するための試験手法について検討を行った.
 本研究は,イタリア国立材料および高エネルギープロセス技術研究所(TeMPE-C.N.R.)との共同研究協約の一環として進められている.

 固体モータの着火内圧上昇率抑制手法に関する研究
	教 授	高野雅弘	助 手	徳留真一郎	技 官	小林清和
					技 官	安田誠一
 上段用固体モータについては,機体軸と推力軸とのミスアラインメントに起因する着火直後の姿勢擾乱を抑制するため,初期推力上昇率の緩和が求められている.従来は,初期グレイン内孔形状を工夫することによって初期着火面積を縮小化する方法が検討されていたが,設計自由度が小さい上に推進性能を劣化させる欠点があった.そこで,推進性能を損なうことなく当該要求を満足する手法として,初期燃焼面の一部領域を薄いインヒビタで覆うことにより着火面積を制限して内圧上昇率を緩和する手法を考案した.本年度は,インヒビタによる被覆面積の割合と着火内圧上昇率の関係,インヒビタの焼失速度および推進性能に及ぼす影響について昨年度までに蓄積した基礎データを基により大型のM-25SIM-2モータへ適用し,期待通りの設計データを得ることができた.

 コンポジット固体推進薬の侵食燃焼特性に関する研究
	教 授	高野雅弘	東海大学	判澤正久	北海道大学	永田春樹
	助 手	徳留真一郎	技 官	小林清和	特別共同利用研究員	長谷川宏
 昨年度に引き続き,高Al充填比率コンポジット推進薬の侵食燃焼特性に関する組織的研究を進めた.本年度は,特にモータ寸法と燃焼圧力が侵食燃焼特性に及ぼす依存性を調査する目的でスラブ対向モータDSM(Duble-Slab Motor)を用いた実験を行い,モータ内孔の主流と燃焼面から発生するガス流の質量流束の比が臨界値を規定するという半経験的推論を概ね裏付ける結果を得た.また理論的研究では,侵食燃焼における寸法効果について研究を続けている.
 本研究は,イタリア国立材料及び高エネルギープロセス技術研究所(TeMPE-C.N.R.)との共同研究協約の一環として進められている.

 ロケット及び探査機搭載型タイマ点火系の近代化研究
	教 授	高野雅弘	助 手	加勇田清勇	助 手	徳留真一郎
			技 官	荒木哲夫	技 官	中部博雄
 昨年度に引き続き,ロケット及び探査機搭載タイマ点火系の近代化と簡素化を推進するための研究開発を行った.

 新形式探査機用軌道変換用化学推進システムの研究
	教 授	高野雅弘	助教授	齊藤猛男	助 手	堀 恵一
					助 手	徳留真一郎
 近未来におけるM-V型ロケットによる新宇宙探査計画を,効率よく支援するための探査軌道変換用化学推進システムの候補調査及び考案研究とそれらのトレードスタディを引き続き行った.本年度は,高エネルギー固体推進薬の製造方法について具体的な技術検討を開始した.

 AP系固体推進薬の低公害化の研究;マグナリウムによるC
除去
	助教授	齊藤猛男	助 手	堀 恵一	大学院学生	羽生宏人
			技 官	霜田正隆	技 官	山谷壽夫
AP系固体推進薬の性能を低下させないでAP中のC
元素を無害な物質として排出させる研究を行なっている.現在A
/Mg=1/1である組成のマグナリウム(アルミニウムとマグネシウムの合金)を推進薬中に添加し,C
元素をMgC
2として効率良く排出させる事を試みている.1気圧の空気中の燃焼に対し密閉チャンバーを用いることにより,C
含有燃焼生成物の回収率を90%以上に改善することが出来,マグナリウムの添加によりアルミニウムの添加時よりHC
の排出量が1/3に減少することが確認された.
 AP系固体推進薬の低公害化の研究;硝酸塩によるC
除去
	助教授	齊藤猛男	助 手	堀 恵一	大学院学生	羽生宏人
	特別共同利用研究員	野副克彦	技 官	霜田正隆	技 官	山谷壽夫
 AP系固体推進薬のAP中のC
元素を無害な物質として排出させる方法として,NaNO3, KNO3等の硝酸塩を加え,NaC
,KC
として固定化させる研究を行っている.現在種々な組成の硝酸塩混入推進薬を作製し,硝酸塩の燃焼速度への影響を見ている.

 マグナリウム合金によるAN(硝酸アンモニウム)の活性化の研究
	助教授	齊藤猛男	助 手	堀 恵一	特別共同利用研究員	村田博一
			技 官	霜田正隆	技 官	山谷壽夫
 クリーンな酸化剤であるANは,色々な点で現用の酸化剤であるAP(過塩素酸アンモニウム)に劣っている.そこでANをマグナリウム合金で活性化し,燃焼性・着火性においてAPと同等以上の性能を発揮できるよう試みている.マグナリウムと硝安組成物の熱分解において,Mg/A
=1/1のマグナリウムは,ANの熱分解温度を約40℃低温化させることが出来,更に,マグナリウム10%と20%の組成物は,ANの熱分解の活性化エネルギーを低下させることが分かった.熱分解停止試料のSEM写真の比較より,マグナリウムはアルミニウムよりANとの反応性が良いことが観察された.

 BAMO/THF高エネルギーバインダを用いた低公害推進薬の研究
	助教授	齊藤猛男	助 手	堀 恵一	大学院学生	杉森活彦
			技 官	霜田正隆	技 官	山谷壽夫
 アジド基を二つ持つ高エネルギ物質BAMO(3,3’-bis-azidomethyl-oxetane)は,常温で固体であるため推進薬のバインダとして利用できない.そこでBAMOをTHF(テトラヒドロフラン)と共重合させ,常温で液状であるBAMO/THF(6/4)共重合物質をバインダとして用い,酸化剤ANとの組み合わせによる低公害推進薬への応用性を研究している.BAMO-THF/AN系推進薬の燃焼性能は,GAP/AN系推進薬と同程度であった.

 固体推進薬上の火炎伝播に関する研究;AP/HTPBコンポジット推進薬の火炎伝播
	助教授	齊藤猛男	助 手	堀 恵一	大学院学生	古川 聖
			技 官	霜田正隆	技 官	山谷壽夫
 ロケットモータ内での推進薬の着火からロケットモータの作動圧達成までの遷移過程である火炎伝播現象は,ロケットモータの燃焼において重要な過程である.火炎伝播の基礎研究として,AP/HTPB=80/20の推進薬中のAPの粒径の火炎伝播速度への影響について調べた.線燃焼速度は,APの粒径が小さくなれば大きくなるが,火炎伝播速度は,線燃焼速度と1/1には対応しないことが分かった.火炎伝播中の写真より,火炎の形状や火炎先端の推進薬の形状から,線燃焼速度と火炎伝播速度を考慮した伝播火炎のモデル化を行っている.

 固体推進薬上の火炎伝播に関する研究;モデル実験
	助教授	齊藤猛男	助 手	堀 恵一	共同研究学生	高橋雄喜
			技 官	霜田正隆	技 官	山谷壽夫
 粒子径の大きいAP酸化剤とバインダーからなる推進薬に不燃物であるガラスビーズを添加し,AP粒子が少ない火炎伝播限界付近での推進薬燃焼表面上におけるAP間の火炎伝播の状況を写真撮影により観察し,固体推進薬の火炎伝播のモデル化を試みている.


 CO2レーザによるガス発生基剤の着火性能
					助教授	齊藤猛男
 エアバッグ用ガス発生基剤としては,従来アジ化ナトリウムが使用されてきたが,その毒性と危険性のため,それに替わる新規ガス発生基剤の開発が求められている.すでにガス発生基剤として用いられている五員環に窒素原子を四つ含むテトラゾール類,またテトラゾールの類似物質として注目され始めた五員環に窒素原子を三つ含むトリアゾール類,ニトロ化合物,及びその他エネルギー物質中からいくつかを選択し,酸化剤としての硝酸ストロンチュウムとの混合組成物の着火性能に関するスクリーニング試験を行い,次期新規ガス発生基剤の選定を試みた.また,それらの組成物の着火性能とDSCでの発熱分解開始温度(TDSC)との相関性について調べた.

 HTPB/AP系推進薬の燃焼性へのニトロ可塑剤効果
	助教授	齊藤猛男	共同研究学生	高下 豊	技 官	山谷壽夫
 主として,バインダーの物性面での改良に用いられる可塑剤のうち,高エネルギー可塑剤であるニトロ可塑剤をAP/HTPB系推進薬に添加し,その燃焼促進効果を図っている.ニトロ可塑剤の添加量が増加するに伴い燃焼速度は増加した.

 マイクロ波共振加熱型イオンエンジンの研究
	教 授	栗木恭一	助 手	國中 均	助 手	船木一幸
					研究生	西山和孝
 無電極でプラズマを生成する特徴を生かしたマイクロ波放電式イオンエンイジンは,従来技術において重大であった電極損耗に関わる寿命限界を克服することができる.プラズマ発光,プラズマ密度,温度,マイクロ波電界の分布を計測し,推進機性能向上のための指針を得た.

 マイクロ波放電式中和器の研究
	教 授	栗木恭一	助 手	國中 均	技 官	清水幸夫
					研究生	西山和孝
 マイクロ波放電によるイオンエンイジン用中和器の性能および耐久性改善を目指し研究を行った.1,000時間の耐久試験を複数回実施しその性能変化を測定した.さらに外部に放射される不要電磁界の強度測定を行った.

 イオンエンジンシステム
	助教授	都木恭一郎	助 手	國中 均	助 手	船木一幸
			技 官	清水幸夫	研究生	西山和孝
 400W級マイクロ波放電式イオンエンジンシステムの開発を行っている.耐久試験にて積算15,000時間の作動を達成し,尚引き続き試験を続行している.

 電気推進排気プルームと通信波の干渉の研究
	教 授	栗木恭一	助 手	國中 均	助 手	船木一幸
					特別共同利用研究員	小野寺範義
 電気推進が噴射するプラズマが衛星の通信波に影響を与える可能性がある.数値解析及び実験的手法によりプラズマ密度に依存するマイクロ波の減衰,位相変化について研究を行った.

 MPDアークジェット流れ場の研究
	教 授	栗木恭一	助教授	都木恭一郎	助 手	船木一幸
					技 官	清水幸夫
 2次元型MPDアークジェットのプラズマ内部流の診断及びCFDによる2次元非平衡数値解析を行い,短陰極を持つ推進機形状の特性を明らかにした.

 低電力直流アークジェットの研究
	教 授	栗木恭一	助教授	都木恭一郎	助 手	船木一幸
					技 官	清水幸夫
 実運用を目指した300W級低電力直流アークジェット推進機の研究を行っている.これまでのモデルをより小型化したSAGAMIシリーズ推進機を使用して,その放電特性を試験した.アーク放電の負荷変動に耐え得る直流電源の製作後の動作確認,推進剤供給装置の製作,パソコンによる自動連続運転の見通しを得た.

 直流アークジェット流れ場の研究
	教 授	栗木恭一	助教授	都木恭一郎	技 官	清水幸夫
					共同研究学生	佐原宏典
 内部観察用低電力直流アークジェットを使用して,プラズマ発光から,プラズマ相の同定および温度の計測を実施し,また,レーザー吸収分光法による流速測定を行った.それによる放電アークコラムの挙動と内部プラズマ相の相関を得るに至った.

 MPDスラスタシステム
	教 授	栗木恭一	助教授	都木恭一郎	技 官	清水幸夫
 1kW級MPDスラスタシステムの開発を行っている.今年度は軌道上にてSFU1号機に搭載したEPEX(電気推進実験)の宇宙試験結果を解析した.

 ATREX用C/C複合材料製タービンディスクの開発
	教 授	八田博志	助 手	後藤 健	教 授	棚次亘弘
 ATREXエンジン用の炭素/炭素(C/C)複合材料製タービンの開発をIHIと共同で行っている.同部材には,1500℃以上の超高温と高速回転による高応力が負荷されるため,高耐熱性・軽量・高強度を特徴とするC/C複合材料の適用が有力視されている.本年度は,C/C複合材料製タービンディスクの概念設計を行うとともに,設計の基礎資料となる高速回転時の遠心力による円板の破壊基準の設定方法に関する検討を主として行った.

 炭素/炭素(C/C)複合材料の力学特性に関する研究
			助 手	後藤 健	教 授	八田博志
 ATREXやロケットエンジン等,高温構造材料としてC/C複合材料の適用が期待されている.本研究では,積層型C/C複合材料を対象に,構造設計を行う際に必要になる強度基準を明らかにすることを目的として,各種荷重条件下での力学的挙動について検討している.本年度は,円孔または切り欠き状の応力集中部を有する材料の静的な引張試験を行い,これら因子の静的強度への影響について検討した.また,複雑な応力が負荷される構造では三次元的に強化したC/C複合材料の適用が必要になることから,三次元強化C/C複合材料の引張,圧縮,曲げ,せん断試験も実施した.

 耐酸化性付与のための炭素/炭素(C/C)複合材料の改質に関する研究
			教 授	八田博志	助 手	後藤 健
 C/C複合材料は耐熱性が高いことが最大の特徴であるが,一方酸素が存在する高温環境下では,容易に酸化されCOとなって揮散するという大きな弱点を持っている.本研究では,高温酸化雰囲気中でも使用可能なようにC/C複合材料を改質することを目的としており,このために以下の二種類の方法を検討し,耐酸化性付与C/C複合材料の耐酸化性の評価実験をもとにそれらの耐酸化性付与技術の有効温度域を明らかにした.C/C複合材料の耐酸化性のセラミックス(SIC)をコーティングする方法.C/C複合材料のマトリックス炭素中に添加剤を混入し,この添加剤の酸化反応による生成物(高温酸化雰囲気中で生成される)によってC/C複合材料上に保護(自己修復性)被膜を生成する方法.

 炭素/炭素(C/C)複合材料の耐環境性評価に関する研究
			教 授	八田博志	助 手	後藤 健
 C/C複合材料及びC/C複合材料に耐酸化性のセラミックス(SiC)をコーティングしたもの及びC/C複合材料のマトリックス炭素中に添加剤を混入した多相材料系に対し,高温酸化による劣化特性の評価及び劣化の機構を検討している.30分程度短時間の暴露に限定されるがSiCコーティングによって1700℃までの酸化保護が可能であり,またC/C複合材料のマトリックス中にB4CとSiCの微粒子を分散させることによって1200-1500℃程度の高温酸化が防げることを確認した.

 電気推進ミッション解析
			客員教授	荒川義博	共同研究学生	中野正勝
 電気推進は,化学推進に比べて極めて高い比推力を発生し,大幅な推進剤の低減が可能であるという利点を有する.その反面,一般に低推力であるため,長時間の推力発生が必要となり,場合によっては航行時間の増大を招くなどの欠点を持っている.従って,今後様々に展開する宇宙活動や宇宙ミッションに対応した推進機関として,電気推進の有効性,必要性を明らかにし,今後の電気推進機の設計や開発に生かすことが重要である.本研究では,電気推進の有効性,必要性を明確にするため,電気推進ミッションの最適化軌道解析を行っている.

 レーザー加熱推進に関する実験的基礎研究
					客員教授	荒川義博
 レーザー加熱推進は,遠隔からのレーザー光により推進剤を加熱し,超音速ノズルにより空力加速させる推進機であり,一般的な電気推進機と異なってエネルギー源を飛翔体に搭載しないため,ペイロード比を画期的に高める可能性のある推進機である.しかしながら,この種の推進機に関する実験的な研究の報告は極めて少なく,推進機設計に必要な基本情報が得られていないというのが現状である.本研究では,連続作動型の2KW炭酸ガスレーザー推進機を用いて,推力の他,レーザープラズマの分光,熱流束等の各種計測を行い,推進性能の予測,及びエネルギー伝達過程の解明を目的として研究を進めている.

 イオンエンジンの寿命評価の解析
					客員教授	荒川義博
 イオンエンジンでは高エネルギーのイオンビームを多孔状の電極から排出して推力を発生するという機構から,電極の損耗を受けやすく,これがイオンエンジンの寿命を決定している.本研究では,荷電交換反応を含む三次元イオンビーム軌道解析コードを開発して,電極の損耗分布の推定と形状の最適化を行っている.また,解析コードの有効性を検証するために,実験データとの比較も行っている.

 ホールスラスタのプラズマ不安定性
					客員教授	荒川義博
 宇宙推進機としてのホールスラスタは,高い推進効率と高推力密度を併せ持つ電気推進機として,実用化を目指して開発が進められている.しかしながら,電離不安定性に起因した振動電流が存在するモードがみられ,ホールスラスタの耐久性に支障を及ぼしている.本研究では,この振動電流を低減するために,分光計測を中心とした実験とプラズマ流の二次元解析の両面から研究を進めている.
 イクスパンションチューブによる超軌道速度再突入流れの模擬
					客員助教授	佐宗章弘
 インスパンションチューブを用いた超軌道速度大気圏再突入の流体力学的模擬実験に関して,その試験状態の発生法について詳しく調べた.さらに,レーザーホログラフィー干渉計法による重粒子/電子密度空間分布の同時計測に成功した.

 ラム加速器に関する研究(含レーザー駆動ラム加速器)
					客員助教授	佐宗章弘
 重量物高速射出装置「ラム加速機」の作動に成功し,実験室にて18gのものを2.1km/sまで加速できた(同種の装置の中では最も寸法が小さく,加速が難しい).また,レーザーをエネルギー源としたラム加速器について,理論/実験研究を進めている.

 アークジェットの作動モードに関する研究
					客員助教授	佐宗章弘
 アークジェットの作動モードに関して,流体力学的視点から基礎研究を進めている.

 臨界電離速度の実験
					客員助教授	佐宗章弘
 イクスパンションチューブは,試験気体を極度な高温にせずに超高速まで加速できる特徴を有している.本装置を用いて,臨界電離速度を測定する実験を進めている.

h.宇宙探査工学研究系

 宇宙構造物の構造と制御に関する統括的研究
	教 授	名取通弘	助教授	樋口 健	東工大・総合理工	古谷 寛
 宇宙構造物の構造と制御について,宇宙構造物システムという観点から総合的な研究を行っている.適応構造物のような構造概念の研究から,個々の構造要素研究までを含めて,従来より提案されている宇宙システムの分類や,それらの特徴的性質の把握を試みている.それらの成果はスペースVLBI用展開アンテナや,SFUによる構造実験(2D実験),科学観測のための伸展マストなどの開発に生かされつつあり,さらにSPSなどの大型宇宙構造物建造への応用などが試みられている.

 展開型宇宙構造物に関する研究
	教 授	名取通弘	助教授	樋口 健	共同研究員	目黒 在
					共同研究員	田畑真毅
 リジッド太陽電池パドル構造や,SFU本体システムの折り畳み式フレキシブル太陽電池アレイあるいはSFU2D/HV実験の2次元展開太陽電池アレイのような展開型アレイ構造,MUSES-Bのメッシュ展開アンテナ構造,モジュール型展開アンテナ構造などの,展開型宇宙構造サブシステムについて,それらの概念や機構運動,構造精度などを研究している.

 知的適応トラス構造物の自律分散制御に関する研究
	教 授	名取通弘	助教授	樋口 健	同志社大・理工	三木光範
					大学院学生	石村康生
 様々なミッション要求や宇宙環境の変化に対応可能な知的適応構造物の研究を行っている.そこで幾何学的な形状を変化させたり,物理的な性質を変化させることのできる,様々な制御可能性を持つ構造物の概念を研究している.自律分散制御に基づき,大規模可変形状トラスのドッキング制御シミュレーションを行っている.

 宇宙構造物の建造に関する研究
	教 授	名取通弘	助教授	樋口 健	共同研究員	難波治之
	大学院学生	稲垣直寛	大学院学生	秋田 剛	大学院学生	仲 賢二
 宇宙飛行士や様々なロボティックス,テザー,あるいは適応構造要素による,スペースコロニーや太陽発電衛星などの大型宇宙構造物の建造方法の研究をしている.建造途中における柔軟構造物のダイナミックスとその制御や,連続材を使用したヘリカルラティス構造による超大型宇宙システムの建造概念,重力傾斜トルクを考慮した柔軟構造物の展開挙動解析,張力安定トラスの宇宙構造物への利用なども取り扱っている.

 伸展マストの機構と力学特性に関する研究
			教 授	名取通弘	助教授	樋口 健
 宇宙構造物の基本要素として必須の伸展タイプのマスト構造を研究した.弾性縦通材によるコイラブル・マストの概念や力学特性を検討して,その基本的な設計パラメータを明らかにした.それらは科学衛星「あけぼの」搭載のシンプレックス・マストや,GEOTAIL搭載のヒンジレス・マストとして実現され,またSFU搭載のフレキシブル太陽電池パドルのアクチュエータ及び支持構造となった.関節型の高剛性マストの開発研究も行って,SFU 2D/HV実験用アレイやMUSES-B展開アンテナのアクチュエータ及び支持構造として実用化した.それらの成果はさらにCOMETSやADEOSにも用いられることとなった.

 膜面やワイヤの力学に関する研究
	教 授	名取通弘	助教授	樋口 健	共同研究員	目黒 在
					外国人研究員(COE)	Fu-Ling Guan
 衛星のアンテナやテザーシステムへの応用の基本となる膜面やワイヤの力学を3次元エラスティカの立場から研究している.折りたたまれた膜面やワイヤの真空微少重力中での展開挙動の大変形問題を理論と実験の両面から明らかにした.接触や摩擦の影響を含めた有限要素法による解析手法も提示して,この種のさまざまな問題へのアプローチを可能にした.

 スピン展開型大型構造物の構造精度と動特性に関する研究
	教 授	名取通弘	助教授	樋口 健	大学院学生	中篠恭一
 遠心力を利用して柔軟大型アンテナを展開し構造精度を得る構造システムの概念検討を行い,落下式無重力施設によるモデル実験を経て,構造精度と展開挙動のシミュレーションを行っている.

 柔軟展開構造物の形状解析に関する研究
	教 授	名取通弘	助教授	樋口 健	東大・工	阿部雅人
			日大・生産工	邉 吾一	特別共同利用研究員	田中大貴
 軌道上で柔軟展開構造物を収納する際には,展開以上に柔軟性の影響が出てくるため,例えばSFUフレキシブル太陽電池パドル膜面の逆折れ現象のように,地上では予測困難な現象があることがわかった.
 無重力落下塔を使ってこの逆折れ現象を再現させることができ,現象のメカニズムを把握するとともに,不具合回避の方策も解析的に示すものである.


 宇宙環境下での構造システムの応答と制御に関する研究
	教 授	名取通弘	助教授	樋口 健	大学院学生	ルカ・タバッキ
 構造の柔軟さと太陽輻射圧,重力傾度トルク,大気抗力,あるいは電磁気力などの宇宙環境外力あるいは熱入力による連成効果を検討している.スピン型のソーラーセイルスペースクラフトについて,太陽輻射圧と柔軟構造要素との構造不安定応答現象を明らかにした.伸展マストを利用した重力傾度衛星の姿勢安定も明らかにした.また,SFU太陽電池パドルの日陰日照による構造振動応答を明らかにした.

 自然界の構造や人工物の形態に関する研究
	教 授	名取通弘	助教授	樋口 健	大学院学生	岸本直子
 成長過程を含む自然界の構造形態はさまざまな広域的最適化の結果であると思われる.人工物の形態も同様にある種の最適化により導かれる.形態と最適化要求の関係を明らかにするため,宇宙構造物の形態の特徴を整理するとともに,花の形態変化や繭の形成などに関する研究を行った.また,フラクタルの自己相似性を利用した形状制御や宇宙構造物構築方法についても研究している.

 テザーシステムのダイナミクスに関する研究
	教 授	名取通弘	助教授	樋口 健	大学院学生	武市 昇
 テザーにより結ばれた構造物システムの宇宙における動的な応答と制御について研究している.テザーの挙動を地上で観察するための実験装置を試作した.斜面を回転テーブル上で回転させることにより,軌道上のテザーシステムの挙動を模擬しようとするものである.

 知的材料を用いた宇宙構造物の建造・形状制御・振動制御に関する研究
	教 授	名取通弘	助教授	樋口 健	大学院学生	富所輝観夫
 形状記憶合金をアクチュエータに利用した宇宙構造物のモデル実験により自動建造可能性について研究を行っている.また,圧電材料による形状・振動制御への応用を研究している.

 宇宙膨張硬化構造の研究
	助教授	樋口 健	教 授	名取通弘	教 授	八田博志
			技 官	横田力男	大学院学生	伊川 修
 熱硬化材あるいは紫外線硬化材により宇宙で硬化するインフレータブル要素や,発泡剤の自己膨張性と自己硬化性を用いたインフレータブル構造要素によるアンテナ反射鏡構造やビーム構造を研究している.また,インフレータブル膜面とケーブルネットワークとの複合による構造精度と収納効率の両方が高い新しい展開型構造の研究も行っている.また,インフレータブル構造要素は医療器具としての生体内ステントにも応用可能である.

 月ペネトレータの耐貫入衝撃構造の開発
			助教授	樋口 健	客員助教授	鈴木宏二郎
 月ペネトレータが月面に衝突貫入する際の衝撃力および衝撃加速度を求めるために,供試体貫入試験結果に基づき貫入ダイナミックスを想定し,これを用いて月ペネトレータ構体および月ペネトレータ内部搭載機器の機械的環境を設定し,月ペネトレータ開発に供している.

 月面構造物構築に対するレゴリス地盤の工学的性質とねじり振動杭打ち工法に関する研究
			助教授	樋口 健	教 授	名取通弘
 月面構造物構築のためには構造物の基礎としてのレゴリスの性質を知る必要があり,工学的見地から地盤性状を研究している.また,月面構造物構築の最初に必要とされる杭打ち作業のために,振動輸送の原理を利用した杭埋設方法を提案し,実験により有用性を確かめている.
 再使用型ロケットの複合材極低温タンクの開発
	助教授	樋口 健	教 授	小野田淳次郎	助 手	成尾芳博
	教 授	八田博志	助 手	後藤 健	助教授	稲谷芳文
 完全再使用型観測ロケットや低コスト衛星打ち上げロケットのような将来の宇宙輸送システムに要望されている軽量大型極低温タンクを炭素繊維強化プラスチック(CFRP)複合材料で製作するための研究として,サブスケールモデルのタンクを設計・試作している.試作タンクの耐圧試験,および,液体窒素・液体ヘリウム・液体水素の充填を通じて,極低温での強度,水素透過性,再使用可能性,大型化可能性,ロケット構造体との適合性,および試験方法などを検討している.

 ヒステリシス系の非線形振動に関する研究
			助 手	奥泉信克	東工大・情報理工	木村康治
 構造物に過度の荷重を伴う振動が励起された場合,構造要素の降伏やガタ,摩擦等によりヒステリシス復元力特性を示す場合がある.また,復元力のヒステリシス性を防振に利用することが可能である.そのため,調和外部励振や調和パラメトリック励振を受けるヒステリシス系について,理論解析および数値シミュレーションを行い,ヒステリシャス系の非線形振動特性について検討している.

 M-V用慣性航法装置の研究
	教 授	中谷一郎	助教授	川口淳一郎	助教授	久保田孝
			技 官	佐藤忠直	技 官	斉藤 宏
 M-Vに用いる慣性航法装置の各種試験及び解析を行っている.今年度は,ファイバ・オプティカル・ジャイロ,加速度計,プロセッサからなる慣性航法装置について,3号機フライトデータに基づき解析を行った.

 ロケットの姿勢制御法の研究
	教 授	松尾弘毅	教 授	中谷一郎	助教授	川口淳一郎
	助教授	森田泰弘	助教授	久保田孝	技 官	佐藤忠直
					技 官	斉藤 宏
 M-Vの姿勢制御系について,制御パラメータ,制御シーケンス,制御則等のミッションに応じた変更,搭載ハードウェアの小型・軽量・低消費電力化,マイクロコンピュータを応用した地上支援装置の設計法,制御系の検討を進めた.

 ランデブ・ドッキング及びバーシング技術の研究
	教 授	二宮敬虔	教 授	中谷一郎	助教授	川口淳一郎
	助教授	橋本樹明	助教授	久保田孝	技 官	斉藤 宏
 ランデブ・ドッキングや衛星回収を行う際に,レーザレーダから得られる情報から目標衛星の運動推定を行う方法について研究を行っている.本年度は,距離データに基づく誘導制御法の研究を行った.また9自由度ロボットシミュレータによる実験を進めた.

 宇宙用マニピュレータの研究
	教 授	二宮敬虔	教 授	中谷一郎	助教授	川口淳一郎
					助教授	久保田孝
 人工衛星に搭載されたマニピュレータを用いて,ターゲット衛星を捕捉する研究を行っている.画像処理などに起因するむだ時間に対処するため,予測機構を付加した制御系を構成した.宇宙ロボットシミュレータを用いてマニピュレータの位置・姿勢制御の実験的検討を進めた.
 科学衛星のプロジェクトのデータベース化
	教 授	中谷一郎	助教授	斎藤宏文	技 官	河田靖子
 宇宙研の科学衛星計画について,各々のプロジェクトを横断的に眺めるデータベースの構築及び整理を予備的に開始している.過去・現在の衛星のシステム構成・サブシステム毎の重量・主要性能・プロジェクト開始から打ち上げまでの重量遷移をデータベース化している.衛星の高機能化と効率的なプロジェクト管理のための資料としていきたい.

 パノラマ画像に基づく惑星ローバの自己位置同定手法の研究
	教 授	中谷一郎	助教授	久保田孝	大学院生	吉光徹雄
					大学院生	江尻理帆
 月・火星ローバなど惑星表面を移動する探査機は,自己の位置や向きを同定するための機能を備える必要がある.パノラマ画像を用いて,自己の絶対位置を推定する手法を検討した.また,実験による有効性の検討を進めている.

 多脚型惑星探査ロボットの知的制御に関する研究
	教 授	中谷一郎	助教授	久保田孝	大学院学生	加藤 宙
 月・惑星上を移動しながら科学探査をするロボットの研究を進めている.クレータなど不整地においても探査可能な歩行ロボットのハードウェア設計及び制御系を検討した.グラフィックスシミュレーションにより有効性の検討を行っている.

 コニカルレーザセンサを用いた不整地における航法の研究
	教 授	中谷一郎	助教授	久保田孝	大学院学生	加藤 宙
 月・惑星表面をコニカルセンサを用いて地形図の生成および航法誘導に必要な位置情報を推定する手法について検討を行っている.

 ファジィ推論を用いた惑星探査ロボットの行動計画に関する研究
			教 授	中谷一郎	助教授	久保田孝
 惑星探査ロボットの行動計画の研究を進めている.未知天体表面を柔軟に移動するためには環境認識が重要であるが,得られるセンサ情報にはあいまいさがある.そこでファジィ推論を行うことにより環境に適応する行動計画手法を検討した.また実験的検討を進めた.

 マイクロ技術を応用したスキャン型レーザレンジセンサの研究
	教 授	二宮敬虔	教 授	中谷一郎	助教授	齋藤宏文
	助教授	橋本樹明	助教授	久保田孝	技 官	斎藤 宏
	大学院学生	中嶋健司	客員教授	原島文雄	東大生研	藤田博之
					東大生研	橋本秀紀
 最新のマイクロエレクトロニクス技術を用いて,超小型・軽量・低消費電力のセンサの研究開発を進めている.レーザレンジセンサのマイクロスキャンニング機構について実験的検討を進めた.

 小惑星探査における自律航法の研究
	教 授	二宮敬虔	教 授	中谷一郎	助教授	川口淳一郎
	助教授	橋本樹明	助教授	久保田孝	大学院生	今村祐介
 小惑星までの距離を1台のカメラで計測するため,Active Sensingを応用した小惑星ランデブのための光学航法の検討を行った.また,VAS(Visual Active Sensing)を用いた最適な軌道設計の検討を行った.
 小惑星探査用グラフィカルシステムの研究
	教 授	二宮敬虔	教 授	中谷一郎	助教授	川口淳一郎
			助教授	橋本樹明	助教授	久保田孝
 小惑星探査ミッションを行う仮想システムの構築を行う.小惑星および探査機の運動モデルを模擬するアステロイドシミュレータを構築し,画像航法などの評価を進めている.

 画像マッチングに基づく3次元認識に関する研究
			教 授	中谷一郎	助教授	久保田孝
 カメラ1台でも複数の画像を取得し対応をとることで環境認識を行うことができる.ここでは,ロバストな対応点抽出手法を検討し,理論的および実験的に有効性を検討した.さらに小惑星のグローバルマッピングへの適用の検討を行っている.

 未知天体表面への自律着陸誘導手法に関する研究
	教 授	中谷一郎	助教授	川口淳一郎	助教授	橋本樹明
	助教授	久保田孝	助 手	澤井秀次郎	大学院学生	今村祐介
 小惑星などの未知天体に画像情報とレンジセンサ情報を用いて着陸する手法の検討を行った.また,併進運動模擬システムを用いて実験的検討を進めている.

 未知天体の運動推定及び構造認識に関する研究
	教 授	二宮敬虔	教 授	中谷一郎	助教授	川口淳一郎
	助教授	橋本樹明	助教授	久保田孝	大学院学生	三須俊彦
 小惑星など未知天体のグローバルマッピングの研究を進めている.未知天体と探査機との間に相対運動がある場合に,画像情報とライダによる距離情報を融合することにより,運動および構造を認識する手法を解析的に検討した.

 複数小型探査機の協調による小惑星探査の研究
	教 授	二宮敬虔	教 授	中谷一郎	助教授	齋藤宏文
			助教授	橋本樹明	助教授	久保田孝
 複数の小型衛星の協調により,未知天体のマッピングを容易に行う手法について検討した.画像データとローカルな探査機同士の通信により,小型探査機の航法・誘導を行い,効率的な探査手法を検討した.

 分散人工知能を有する高機能探査機の研究
			教 授	中谷一郎	助教授	久保田孝
 知能の分散化を行うことによって,処理速度の高速化,耐故障性の強化を行うことができる.高度なミッションを遂行するために,分散人工知能を有する探査機の設計を行っている.

 テレプレゼンス遠隔制御による月・惑星探査に関する研究
	教 授	中谷一郎	助教授	久保田孝	大学院学生	吉光徹雄
			大学院学生	加藤 宙	共同研究学生	大塚美春
 月・惑星表面を科学探査するロボットの地上による誘導制御の研究を進めている.人工現実感を導入し,画像情報に基づく誘導手法の検討を行った.また,時間遅れを組み込んだ実験を行った.


 微小重力環境における探査ローバの自律行動制御の研究
	教 授	中谷一郎	助教授	久保田孝	大学院学生	伏木陽子
					大学院学生	吉光徹雄
 小惑星のような微小重力環境において,限られたリソースで過酷な環境と広範囲探査というミッション要求の中で,自律的に行動決定を行う手法について検討を行った.

 小惑星探査のためのホッピングローバの研究
	教 授	中谷一郎	助教授	川口淳一郎	助教授	久保田孝
	大学院学生	吉光徹雄	大学院学生	加藤 宙	大学院学生	伏木陽子
			明治大学	黒田洋司	中央大学	國井康晴
 小惑星のような微小重力下で従来のような車輪型ローバを用いると,小惑星表面の凹凸により,ローバと小惑星との間で常に接触を保つことができず,確実な移動を保証できない.そこで,ホッピング機能を備えたミニローバの検討を行っている.トルカを用いた回転型ローバの新しい移動メカニズムを提案し,実験的検討を進めている.

 レーザ距離センサを用いた自律着陸手法に関する研究
	教 授	二宮敬虔	教 授	中谷一郎	助教授	橋本樹明
	助教授	久保田孝	研究生	永松弘行	大学院学生	今村祐介
 小惑星など未知天体への安全確実な着陸手法の検討を行っている.凸凹した小惑星表面に安全に着陸するため,複数のレーザ距離センサを用いて,高度と相対的な姿勢を推定する手法について検討を行った.

 探査機の自律着陸における画像情報に基づく相対運動推定手法に関する研究
	教 授	二宮敬虔	助教授	橋本樹明	助教授	久保田孝
					大学院学生	今村祐介
 小惑星など未知天体へ安全かつ確実に着陸するためには,低高度において相対速度をキャンセルすることが必要である.そこで搭載カメラによる画像情報をもとに相対的な速度を推定する手法について検討を行った.

 高精度月面着陸手法の研究
	教 授	中谷一郎	助教授	久保田孝	教 授	二宮敬虔
					助教授	橋本樹明
 月面探査のために高精度の着陸手法について検討を行っている.濃淡画像を用いてクレータなどの地形を認識する手法について検討を行っている.

 月探査ローバのビジュアルナビゲーションの研究
	教 授	中谷一郎	助教授	久保田孝	大学院学生	江尻理帆
 カメラ画像を処理して障害物の認識を行い,移動可能な経路生成アルゴリズムについて検討を行っている.認識結果に基づいて移動戦略や観測戦略を行う人工知能に関して研究を進めている.

 月・惑星探査ローバにおける知的テレサイエンス手法の研究
	助教授	久保田孝	教 授	中谷一郎	大学院学生	吉光徹雄
					共同研究学生	大塚美春
 月・惑星を科学探査するロボットにマニピュレータを搭載し,砂や岩のサンプルの収集を行うことを検討している.自律制御およびテレオペレーション制御の両面から検討を行っている.今年度は,3自由度を有するマニピュレータを試作し,その制御手法の検討を行った.
 ミニローバによる協調探査ミッションの研究
	助教授	久保田孝	教 授	中谷一郎	明治大学	黒田洋司
	中央大学	國井康晴	大学院学生	吉光徹雄	大学院学生	加藤 宙
					大学院学生	江尻理帆
 数KGのミニチュアローバが複数台協調することによって,1台では困難なミッションを遂行する.ミニチュアローバのもつべき機能と協調アルゴリズムについて検討を進めている.

 遺伝的アルゴリズムを用いたホッピングローバの最適行動の研究
	助教授	久保田孝	中央大学	國井康晴	大学院学生	吉光徹雄
			中央大学	花又健一	大学院学生	加藤 宙
 ホッピングローバの移動距離を最大にする入力トルクの最適な履歴パタヘンを遺伝的アルゴリズムを用いて生成し,シミュレーションによりその有効性を検証した.

 小型軽量マイクロローバの研究
	助教授	久保田孝	明治大学	黒田洋司	中央大学	國井康晴
	教 授	中谷一郎	大学院学生	吉光徹雄	大学院学生	加藤 宙
					大学院学生	江尻理帆
 月や惑星の広範囲な探査を目的に,小型軽量で走破性の優れた移動探査ロボットの研究を進めている.5個の車輪で構成される新しい走行システムを開発し,重量約5kgの探査ローバを実現することができた.

 人工衛星用光学的姿勢センサの研究
	教 授	二宮敬虔	教 授	小川原嘉明	助教授	齋藤宏文
	助教授	紀伊恒夫	助 手	水野貴秀	助 手	藤本龍一
					技 官	廣川英治
 スタースキャナ:「のぞみ」用軽量化スタースキャナーは,軌道上で設計通りの性能を実現していることを確認した.現在,LUNAR-A用スタースキャナの打ち上げ前試験を行っている.またさらに軽量型のスタースキャナの開発を行っている.
 スタートラッカ:2次元CCDを検出器としてマイクロプロセッサで動作を制御する固体式スタートラッカを開発している.1〜5秒角精度を持つ「はるか」用のセンサは,軌道上で設計どおりの性能が得られており,高精度姿勢制御に使用されている.現在,ASTRO-E用スタートラッカのフライトモデルは完成し,機能・性能試験を行っている.ASTRO-F用のスタートラッカの設計も開始している.0.05deg精度の広視野スタートラッカとしては,MUSES-C用の小型軽量のものの設計を進めている.
 非スピン型高精度太陽センサ:1次元CCDを検出素子とする2つの方式の高精度太陽センサを研究・開発している.精度0.025度のものは「あけぼの」,「ようこう」,「あすか」に搭載され正常に動作しているが,ASTRO-E用に向けてさらに小型のセンサを開発し,現在,打ち上げ前の地上試験をしている.「ようこう」用の精度12秒の狭視野センサも確実に動作しており超高精度姿勢決定に用いられている.ASTRO-F用には,更に高精度を目指しつつ視野角を2degまで広げたタイプを開発している.「はるか」用の粗太陽センサも軌道上で正常動作が確認されており,姿勢制御系の異常判断に使用されている.
 スピン型ディジタル太陽センサ:科学衛星のみならず観測ロケットへの応用も考慮した,ディジタル太陽センサの開発を継続している.従来ロケットに搭載してきたディジタルセンサ(分解角1度)よりもさらに高精度±0.05度以下のセンサーを開発し,S-520観測ロケット実験,気球実験によりその耐環境性,性能が確認された.またLUNAR-Aペネトレータ姿勢制御用の軽量化型(分解能0.5deg)を開発し,本年度はペネトレータモジュールとの噛み合わせ試験等を行った.
 地球センサほか:焦電素子を検出器とするスピン衛星用の地平線検出器は「たんせい2号」以後の飛翔に供され,軌道上において予想通りの動作をし,姿勢決定に有効に用いられている.また姿勢異常判断用センサとして,「はるか」用の簡易なサンプレゼンスセンサを製作し,予定通りの性能が達成できていることを軌道上でも確認した.ASTRO-F用地球センサについては,仕様の検討を行っている.

 人工衛星用慣性センサ及びその応用の研究
			教 授	二宮敬虔	助教授	橋本樹明
 人工衛星用慣性姿勢基準装置(FRIGおよびFOG利用)につき開発的研究をしている.「ようこう」,「あすか」,「はるか」に搭載されたFRIGの軌道上での性能を評価し,今後の開発に役立てている.また,TDGを用いた慣性基準装置はSFUに搭載され,軌道上で正常に動作した後,地上に回収されている.FOGについては「はるか」に搭載され,軌道上性能評価を行っている.
 また,ASTRO-Fの場合のように軌道レート入力が存在するもとで高性能動作を要求される場合や,次期太陽観測衛星等の超高安定度姿勢制御が要求される衛星用に向けて,ジャイロ(FRIG, TDGの両方式について)の限界性能評価を引き続き行っている.

 磁気軸受ホイールとその衛星姿勢制御への応用の研究
	教 授	二宮敬虔	助教授	橋本樹明	外国人研究員	解 永春
					大学院学生	澤田英行
 磁気軸受ホイール(特に全自由度能動制御型)を,人工衛星の姿勢制御においてアクチュエータ及びレートセンサとして使用するための,理論的及び実験的な研究を行っている.ホイールのジンバル角制御に2自由度制御系,H∞制御理論,スライディングモード制御,適応制御等のロバスト制御則を適用することにより,パラメータ変動に強い制御系を構成することを検討し,計算機シミュレーションによってその有効性を確認した.
 今年度は,ホイールの発生する擾乱振動を軸受制御の工夫により低減する方法について引き続き研究を進めており,特にホイールの回転数の変動に対してはロバストな制御系の設計を行っている.

 人工衛星の姿勢決定法の研究
	教 授	二宮敬虔	教 授	中谷一郎	助教授	紀伊恒夫
	助教授	橋本樹明	助 手	堂谷忠靖	技 官	廣川英治
 太陽センサとスタースキャナを用いたスピン衛星の姿勢決定法およびミスアライメント等バイアス推定法については,「さきがけ」「すいせい」のために開発し,「あけぼの」「ひてん」用に拡張・改良したものを,GEOTAILのための姿勢決定に適用し,有効な成果を得ている.
 慣性基準センサ,スタートラッカおよび太陽センサのデータをもとにリセット型カルマンフィルタを適用して,3軸姿勢及び関連するパラメータを高精度に推定していく方式を開発してきた.「ようこう」,「あすか」,「はるか」の姿勢制御にも有効に活かされミッションの遂行に貢献しており,今後ASTRO-E等の天文観測衛星の姿勢制御に効果的に応用されることになる.
 「のぞみ」およびLUNAR-Aの姿勢計測決定方式につき検討を行った.とくに「のぞみ」では,地球からのリンクが外れた場合の自律星同定機能を備えており,地上試験にてその機能の確認を行った.
 スタートラッカによる星撮像データとスターマップをマッチングさせる星同定法についての研究を行っている.機上星同定を目指して,誤認識率の低下および計算時間の短縮をするアルゴリズムを開発し,「あすか」の機上データを用いて有効性の評価を行った.また地上での星同定作業の軽減のため,全自動星同定システムを開発し,「あすか」,「はるか」の運用に役立てている.またASTRO-Eについては,粗姿勢情報がある場合の高速星同定アルゴリズムを搭載用に開発し,地上試験にてその有効性の確認を行った.

 人工衛星の姿勢制御方式の研究
	教 授	二宮敬虔	助教授	橋本樹明	大学院学生	澤田英行
 天文観測を目的とした科学衛星の高精度三軸姿勢指向制御方式に関し以下のような研究を行っている.
 ASTRO-Fの姿勢制御系について,特にスキャンモードの姿勢制御方式の研究を行っている.
 超高精度姿勢安定のための制御系について,衛星に働く全トルクを最小化する考えに基づいて,最適なアクチュエータ駆動則の研究を行っている.

 飛翔体姿勢制御系動作試験法の研究
	教 授	二宮敬虔	教 授	中谷一郎	助教授	齋藤宏文
	助教授	川口淳一郎	助教授	橋本樹明	技 官	廣川英治
			技 官	斎藤 宏	大学院学生	澤田英行
 飛翔体や科学衛星の搭載姿勢制御装置について,特にその搭載センサ,ハードウェアとソフトウェアの実際的な動作試験法を研究し実施している.宇宙空間での運動を模擬したシミュレーションとして,3軸モーションテーブルを用いた動的閉ループ試験およびセンサ電気回路部のみを使用した静的閉ループ試験を行っている.
 また,姿勢制御アクチュエータ等の発生する擾乱の影響を測定するための試験系として,トルクメータを用いたシステムの検討を行い,実際のモーメンタムホイールの発生する擾乱について測定を行った.

 月・惑星撮像カメラ兼光学航法装置の研究
	教 授	二宮敬虔	教 授	水谷 仁	客員教授	向井 正
	助教授	橋本樹明	神戸大・理	中村昭子	東大・理	中村正人
					高知大・理	本田理恵
 「のぞみ」,LUNAR-A用の可視光撮像カメラのフライトモデルの機能性能試験およびそのデータ評価を行った.「のぞみ」搭載カメラ(MIC)については,地球周回軌道上から地球,月,木星の撮像を行い,科学歪み,アライメント,感度,波長特性等の較正を行った.LUNAR-A用については,地上試験を継続している.
 定常観測用の地上運用支援ソフトウェアについても製作を始めている.

 画像航法の研究
	教 授	二宮敬虔	助教授	川口淳一郎	助教授	加藤隆二
	助教授	橋本樹明	助教授	吉川 真	技 官	市川 勉
 LUNAR-Aに搭載予定の月撮像カメラを用いた画像航法について研究している.探査機による月面の撮像画像と,既にわかっている月面の地図とをパターンマッチングすることにより,探査機の軌道・姿勢情報を含むパラメータ値が求められる.このような画像データと従来の電波航法データ・姿勢センサデータを併せてカルマンフィルタで推定を行えば,精度の高い軌道・姿勢推定が可能である.カルマンフィルタを用いた軌道推定シミュレーションを行い,画像航法によって軌道決定精度が向上する可能性があることがわかった.さらに精度上げるため,より優れた画像マッチングの方法の検討などを行っている.
 同様な航法を,「のぞみ」の火星周回時にも適用できないか,検討を行っている.

 深宇宙探査機による自律撮像方式の研究
	教 授	二宮敬虔	助教授	川口淳一郎	助教授	橋本樹明
 「のぞみ」の搭載カメラによってPhobos, Deimosを撮像する際に必要となる,オンボード自律撮像方式について研究を行った.これまでの計算機シミュレーション,ハードウェア閉ループ試験に加えて,今年度は,地球周回軌道上から月を追尾する実験を試み,アルゴリズムが正常に動作することを確認した.

 自然地形の特徴点を利用したランデブー・着陸法の研究
	教 授	二宮敬虔	教 授	中谷一郎	助教授	橋本樹明
	助教授	久保田孝	大学院学生	三須俊彦	大学院学生	今村祐介
 小惑星等の未知天体にランデブー,着陸する際には,自然地形の撮像画像をもとに探査機の相対位置を計測し,目標点まで誘導する必要がある.従来この種の処理は高度な自然地形認識が必要と考えられてきたが,画像のフィルタリングによる自動特徴点抽出を用いることにより,高速に相対位置が計測できることがわかった.現在,この特徴点抽出アルゴリズムと探査機制御則を組み合わせて,探査機の小惑星表面への誘導シミュレーションを行っている.

 M-V上段アクティブ・ニューテーション制御の研究
	教 授	二宮敬虔	助教授	川口淳一郎	助教授	橋本樹明
 M-V上段のアクティブ・ニューテーション制御の制御則の検討,およびニューテーション検出に使用するガスレートセンサの開発を行っている.「のぞみ」の打ち上げに際しては,ガスレートセンサの動作およびアクティブ・ニューテーション制御のロジックは正常に動作し,M-V-3号機の打ち上げ成功に貢献した.
 「のぞみ」のフライトデータを評価し,LUNAR-Aの打ち上げにおいてアクティブニューテーション制御に使用しても問題ないことを確認した.

 画像を用いた自然地形の認識に関する研究
	教 授	二宮敬虔	助教授	橋本樹明	大学院学生	三須俊彦
 天体への着陸,天体表面の移動を行うためには,当該地域の地形の認識,すなわち山であるか谷であるか平地であるか等の認識が必要になる.従来はこのような認識を行う場合,まず天体の3次元地図を作製し,地形を評価関数にかけて分類,認識を行っていたが,膨大な計算量が必要であった.本研究では,あらかじめ分類に必要な地形カテゴリーを限定することによって,一枚の陰影画像から高速に地形分類,認識を行うことを行っている.

 太陽表面追尾用コリレーショントラッカの開発
	教 授	二宮敬虔	助教授	橋本樹明	国立天文台	一本 潔
					大学院学生	高岡呂尚
 太陽表面の黒点等の特定の領域を撮像しつづけるためには,それを追尾することが必要であるが,人工衛星の姿勢制御系の帯域は低いので,高周波の振動外乱等が想定される場合は,光学望遠鏡の副鏡ミラー制御によって像安定を図る必要がある.このために,高速(数10Hz程度)で画像の変位を検出する焦点面画像センサを開発している.特に今年度は,計算機シミュレーションによって,最適な方式の検討,達成可能な像安定精度の検討を行い,さらに副鏡ミラー制御系も含めた制御系全体の動作シミュレーションを行うことにより,システム全体の有効性を確認した.

 衛星データ処理・ネットワークの研究
	助教授	山田隆弘	教 授	高野 忠	助教授	横山幸嗣
	助 手	大西 晃	技 官	周東晃四郎	技 官	加藤輝雄
					技 官	斎藤 宏
 科学衛星の高度化および多様化に対応するために,計算機・LAN・データ通信回線を組み合わせた伝送ネットワークの構成方法,データベース等について検討を進める.日米間のX.25高速デジタル回線を用いて,DSNで受信した科学衛星データの伝送を支援した.ワークステーションを用いた分散型のネットワーク,将来のデータベースシステムのための蓄積媒体・アーキテクチャの検討を行っている.

 「はるか」搭載展開アンテナの軌道上特性
	教 授	高野 忠	教 授	名取通弘	助教授	樋口 健
	助 手	市川 満	助 手	小林秀行	助 手	大西 晃
	大学院学生	片岡雅法	客員助教授	川口則幸	能開大・工	花山英治
	教 授	廣沢春任		    VSOPアンテナ検討会メンバー
 「はるか」搭載の大型展開アンテナについて,気象衛星「ひまわり」の電波を受信することによりアンテナの遠方界放射パターンを測定するシステムの開発を行った.
 両衛星の軌道計算に加え,太陽角および迎角の条件を考慮して受信可能日を抽出するプログラムを開発した.その中から一日を選んで実際に「ひまわり」電波を受信し,遠方界放射パターンの測定を行った.
 その結果,開発した測定システムおよび抽出プログラムが,正しく機能することを確認した.得られたデータを解析し,広角の遠方界放射パターンを,40dB以上のレンジで求めることができた.

 飛翔体アンテナに関する研究
	助 手	市川 満	技 官	鎌田幸男	教 授	高野 忠
			特別共同利用研究員	郡司康一	東京理科大・工	赤池正巳
 ロケットや人工衛星に搭載する各種アンテナの形式や給電方法を,理論的及び実験的に研究している.新しい搭載用アンテナとして,2重円形マイクロストリップアンテナの研究を行っている.種々の設計パラメータを変えつつ,アンテナ特性を測定した.

 宇宙ごみ探知用バイスタテックレーダシステムの研究
	教 授	高野 忠	助 手	市川 満	東邦大・理	佐藤洋一
					共同研究学生	勝本和義
 宇宙ごみ(スペースデブリ)を探索することを目的に,種々の特長を有するバイスタティック形(送信と受信で別なアンテナを用いる)レーダの検討を進めている.内之浦局の送信電波と臼田局の受信電波の互相関処理について,処理時間を拡大して行い,受信信号と標的の姿勢・速度との関係を明らかにする.

 衛星無線回線の品質の研究
	助 手	井上浩三郎	教 授	高野 忠	東京電機大	星野 洋
					共同研究学生	牧謙一郎
 大型衛星「はるか」と地上局間の通信回線について,宇宙研のデータベースを基に,回線品質の劣化と各要因との相関性について,検討している.特に,大型衛星に特有な現象と思われる「多重波干渉」について着目し,実測データの解析,及び多重波干渉モデルの計算を行い,比較・検討している.

 宇宙機間光通信及び光レーダの研究
			教 授	高野 忠	大学院学生	森本直行
 科学衛星とデータ中継衛星間での光無線通信と,宇宙ゴミ検出を目的とした光レーダシステムの,各研究を行っている.光源となる大出力半導体レーザについては,波動方程式と拡散方程式を連立させて導波路解析を行い,拡散方程式の解析手法についても検討を行った.今後,パラメータ依存性について明らかにする.また,通信回線解析を行い,IM-DD方式の限界を示した.

 光アンテナおよび光ビーム伝搬の研究
	教 授	高野 忠	東京理科大・工	赤池正巳	特別共同利用研究員	永嶋宏行
					特別共同利用研究員	生貝康行
 人工衛星に搭載する事を目的として,光アンテナの研究をしている.マイクロ波用アンテナに応用されている鏡面修正技術を光アンテナに施す事によって,開口面上位相分布を変化させる事なく,振幅分布のみを任意の形状に変化させる事ができる.これによりアンテナ利得の向上が見込まれる.アンテナ近傍界位相分布をマッハツェンダー干渉計を用いて,遠方パターンをフーリエ変換レンズを用いて,各々測定している.これらの結果と数値解析モデルとの比較検討も行う.
 光ビームを種々の材料で反射させ,その変化を測定した.鏡面の特性からはずれるに従い,ビーム形状が崩れ,反射角もスネル法則からずれてくる.

 アンテナ間結合特性の研究
	教 授	高野 忠	技 官	鎌田幸男	能開大・工	花山英治
					特別共同利用研究員	菅原 章
 複数のアンテナを近接して配置した場合,相互結合特性を制御したりあるいは積極的に利用する方法について検討を行っている.アレー素子間に無給電の結合素子を配置することで,物理的な隙間を電気的に埋め,開口能率を高められる可能性がある.2つの矩形ホーンアンテナ間に半波長ダイポールを配置し,遠方界測定を行った.

 反射鏡エッジでの回折に関する基礎研究
	教 授	高野 忠	特別共同利用研究員	王 松林	電気通信大・電通	矢部初男
 半平面金属板に対して,エッジの回折による電流の乱れが散乱界に与える影響について検討した.ダイポールアンテナに対して,先端部を細かく分割して計算する方法を実現し,より効率的な計算ができた.2次元円筒におけるグリーン関数特異点の処理法を検討し,より正確な解が得られた.

 デブリ衝突によるマイクロ波放射の検出実験
	教 授	高野 忠	教 授	安部隆士	助教授	藤原 顕
	NASA/JSC	矢野 創
 デブリなどの高速物体がメッシュ板に衝突する際,電磁波が放出される現象が見出された.実験は2〜20GHzを直接検波することにより行われた.今年度は,測定回路の改善につい検討した.

 宇宙ごみ(スペースデブリ)と流星塵の環境に関する研究
	教 授	高野 忠	助教授	吉川 真	助教授	藤原 顕
	NASA/JSC	矢野 創	大学院学生	石橋之宏	大学院学生	道上達広
					技 官	榮樂正光
 1998年11月に来襲したしし座流星群について,軌道上衛星の担当者と共に,衛星としての対応法を明らかにし,処置をとった.これらの衛星への処置は,国内の他宇宙機関とも共同歩調をとった.
 しし座流星群の姿を明らかにし,衛星運用に役立てるため,小研究会を3回開き,全国の流星研究家との共同観測体制を作った.宇宙研内でもシュミットカメラ等を用いて,観測を行った.
 また世界初の宇宙ごみ観測専用施設(宇宙開発事業団)の検討に協力した.

 深宇宙探査用通信システムの研究
	教 授	高野 忠	助教授	横山幸嗣	助教授	山田隆弘
	助教授	山本善一	助 手	市川 満	助 手	井上浩三郎
					技 官	鎌田幸男
 科学衛星のテレメトリ回線は,長距離あるいは大量データを伝送する場合リソースへの制約が厳しくなり,時には回線として成立しない場合もある.また衛星の位置・速度計測用(RARR)の回線に対して,測定精度向上の要求がある.これらに対し,通信方式,搭載機器および地上設備の検討・改良を通して,対処していく.
 今年度は,PLANET-Bが火星周回時およびMUSES-Cが小惑星会合時に,データをX帯で臼田局に伝送するための方法,SELENE計画の中で月周回衛星からリレー衛星を経る中継技術について検討を行った.

 レーダによる月氷の探査可能性の検討
	教 授	高野 忠	教 授	水谷 仁	助教授	佐々木進
	国立天文台	河野宣之	北海道教育大	西尾文彦	宇宙開発事業団	岩田隆浩
				    他 月氷探索研究会メンバー
 バイスタティックレーダシステムにより,月局地域にあると言われる氷を探索するため,方法と可能性について検討した.すなわち,SELENEの月周回衛星から月の極地域に電波を照射し,リレー衛星でその散乱波を受信して,臼田局に伝送する.システムの有効性とクレメンタインに対する優位性を示したが,氷検出の不確実さとSELENEのリソース制限のため,搭載は控えることにした.

 誤り訂正符号の研究
					助教授	山田隆弘
 ディジタル伝送路で発生する誤りを冗長データを利用して自動的に訂正するための符号について以下の研究を行っている.
 多次元符号の研究:ランダム誤りとバースト誤りの両方を効率よく訂正できる符号として連接符号や積符号などの二次元符号が注目を集めている.本研究では,二次元の積符号を拡張した多次元積符号について,一般的な性質,能率のよい符号の構成法,復号方法などに関する研究を行っている.また,最近宇宙通信用の符号として注目されているリード・ソロモン符号を2次元符号として扱うための方法についても検討を行っている.
 不均一誤り保護符号の研究:普通の誤り訂正符号では,すべての情報が一様に訂正されるのであるが,データ系列の中で重要な部分とそれほど重要でない部分とが混在している場合には,それぞれの情報の重要度に応じて訂正される方が都合がよい.本研究では,リード・マラー符号を変形することによりそのような符号が簡単に構成できることを明らかにした.また,そのような符号を通信伝送の制御用データの訂正に用いるための手法についても検討を行っている.

 将来型宇宙システム用情報伝送システムの研究
					助教授	山田隆弘
 人工衛星の他に着陸機や宇宙ロボット等で構成される将来の宇宙システムにおいて必要となる情報伝送システムに関して次のような研究を行っている.
 システムモデルの研究:情報伝送を行うためには,情報を送る側と受ける側とで適切な伝送規約を使用する必要がある.将来型宇宙システムでは,用途や処理のレベルによってさまざまな伝送規約が必要となるが,個々の伝送規約を作成する前に,それぞれの伝送規約がどのような条件でどのような目的に使用されるべきものであるのかを統一的に記述するための体系的なシステムモデルを作成する必要がある.本研究では,将来型宇宙システムで使用される伝送規約体系のシステムモデルの構築を行っている.
 搭載機器遠隔運用方式の研究:テレオペレーションやテレサイエンスなど宇宙機に搭載されている機器を地上から遠隔運用するシステムのための情報伝送方式について研究を行っている.特に,搭載機器と操作者との間の最上位の伝送規約と宇宙機内部の中位の伝送規約の構成法について検討している.
 宇宙運用用地上システムの研究:宇宙機や搭載機器の運用を支援するための地上の情報システムについて研究を行っている.特に,宇宙機と交信するための送受信局と宇宙機や搭載機器を運用するセンターとの間で使用される伝送規約について検討している.また,地上の運用システムの構成法についても検討を行っている.

 宇宙ロボットによる物体捕捉のための計測と遠隔制御に関する研究
					客員教授	宮崎文夫
 宇宙活動の様々な質及び量的拡大と転換を可能にする新しいインフラストラクチャとして「宇宙ロボット」をとりあげ,その基本的な作業である物体捕捉を実行するための計測や遠隔制御について,以下のような研究を行っている.
  宇宙空間に浮遊する未知剛体の運動の様子を撮影した画像の時系列のみから,その運動の動力学的特性を推定し将来の運動状態を予測する方法や,適切な捕捉制御を行う方法について検討する.
  宇宙ステーションや衛星への燃料補給や機器交換などのサービスを行う宇宙ロボットを遠隔操作する場合,通信時間遅れや反力による姿勢変動が大きな問題となる.これらに加えてオペレータを含めた地上系の特性がシステムに及ぼす影響を考慮し,安定に動作する遠隔操作システムについて検討する.
 また,複数の衛星をテザーで繋ぎ重力傾斜を利用して作業を行うテザー衛星システムの制御に関する研究を行っている.

 知的機械システムにおける知覚と行動の統合に関する研究
					客員教授	宮崎文夫
 環境の動的特性に左右されるタスクを遂行するには,知覚と行動の密な融合が不可欠である.この融合を「技能」ととらえ,その実体を明らかにする研究を行っている.特に,タスクの実行に必要な環境情報のみをそのタスクと自らの処理能力および過去の経験に応じて取捨選択処理・獲得するための方法論や,適切な知覚や行動を経験的に獲得していく学習メカニズムなどを中心に研究を進めている.

 アブレータ内部熱解析との連成による再突入カプセル空力加熱環境解析
	客員助教授	鈴木宏二郎	教 授	安部隆士	助 手	藤田和央
 MUSES-Cのサンプルリターンカプセルでは,超軌道速度再突入の非常に厳しい空力加熱からペイロードを守るためアブレーション熱防御システムが用いられる.その性能を評価するためには,再突入軌道に沿ってアブレータ材の温度や損耗の履歴を予測しなければならない.この研究は,化学非平衡衝撃層空力加熱解析(VSL解析)と炭化を含むアブレータ内部熱解析(CMA解析)を連成させ,自己完結性の高い数値シミュレーションを行うことを目的としている.本解析結果との比較により,経験則に基く工学的推算法はアブレータ温度・損耗度のどちらに関しても過大にならない程度で安全側の推算を与え,設計ツールとして有用であることが確認された.

 砂密度分布を考慮した月ペネトレータ貫入ダイナミクス解析モデルの研究
	客員助教授	鈴木宏二郎	大学院学生	白石浩章	教 授	水谷 仁
 月ペネトレータの貫入特性は,衝突地点における砂密度の不均一性に大きく影響されることが予想される.この研究は,地中での砂密度分布構造を考慮したペネトレータ貫入ダイナミクス解析モデルの構築を目的としている.ここでは,局所的に1次元砂圧縮問題を適用することにより,砂密度効果を反映した動的力モデルを提案した.シミュレーション結果は,貫入試験結果と比較されG履歴など定性・定量的に良い一致を見せ,砂密度分布が貫入ダイナミクスに大きな影響を及ぼすことが明らかになった.さらに,貫入時のG履歴から地中の砂密度構造を逆に推定できる可能性も示唆された.

 障害物を通過する衝撃波の伝播特性に関する研究
					客員助教授	鈴木宏二郎
 地上で爆発が起こった際に,生じた衝撃波の伝播特性は森林,建物など障害物の存在により影響を受けるものと予想される.この研究は,衝撃波管の測定部に種々のパターンの円柱列を置くことにより衝撃波がどのような影響を受けるかを実験的に明らかにしようとするものである.その結果,障害物を通過することで衝撃波は減衰する一方,上流側に反射衝撃波が生じること,しかし,障害物による流路閉塞率が30%を越えても衝撃波圧力の減衰は10%に達しないこと,障害物後流側ではカルマン渦に起因する周期的な圧力変動が観測されること,などが明らかになった.

 垂直離着陸ロケットのノズル噴流と地面との空力干渉に関する研究
					客員助教授	鈴木宏二郎
 垂直離着陸型の再使用ロケットでは,着陸時にノズル噴流が地面と干渉で思わぬ空気力が機体に働き,その安全性に影響を与えることが考えられる.この研究では,実験および数値シミュレーションによって機体周りの流れ場および機体に働く正味推力特性を明らかにすることを目的としている.その結果,機体底面圧力分布は地面からの距離によって大きく2つのパターンに分けられるなどが明らかになった.さらに,機体が傾いた時や底面に複数のノズルがある場合の特性についても研究を進めている.

 リフティングボディーの遷・超音速大迎角空力特性に関する研究
					客員助教授	鈴木宏二郎
 リフティングボディ形状をもつ垂直打上げ水平着陸型の再使用ロケットでは,揚力を確保するため再突入飛行時に大迎角をとる必要がある.この研究では,鈍頭極厚デルタ形状のリフティングボディについて遷・超音速における大迎角空力特性を実験及び数値シミュレーションによって明らかにすることが目的である.実験は高速気流総合実験設備(風洞)を用いて行われ,頭部を上に曲げベント形状にすることで縦の空力バランスや利用可能揚抗比が改善されること,特定の迎角/マッハ数で背面剥離渦の干渉による非定常空気力が発生すること,などが明らかになった.

ダストを含む超音速流中における鈍頭物体衝撃層に関する研究
					客員助教授	鈴木宏二郎
 火星など大気中にダストが含まれている場合,超音速飛行する鈍頭型探査プローブ周りの流れは,それによって影響を受けることが考えられる.この研究では,ダストの影響について数値シミュレーションおよび実験を行いその基本特性について明らかにすることを目的としている.数値解析は,流れ場の解析とダスト粒子の運動方程式を連成させることで行い,ダストにより衝撃層内の気体が圧縮され圧力や温度が上昇する可能性があること,その効果は粒子の大きさや表面での反射条件に依存すること,などが示された.実験は高速気流総合実験設備(風洞)を用いて行われ,ダストを模型表面から射出し高速ビデオで記録することで,その運動特性を明らかにした.

i.衛星応用工学研究系

 衛星用太陽電池の研究
	教 授	田島道夫	助教授	廣瀬和之	助 手 	高橋慶治
			助 手	藁品正敏	技 官	河端征彦
 衛星搭載用の太陽電池には,高い変換効率,軽量性,耐宇宙環境性,そして高信頼性が要求される.特に高効率性は軽量化にもつながり,最近のミッションの高度化に伴い強く望まれている.本研究では,各ミッションの要求にあわせて,最適のセル構造,セル構成を選定している.LUNAR-A, PLANET-Bにおいては,逆ピラミッド型形状の無反射表面と,裏面全面拡散型の裏面電界(BSF)構造を有する高効率シリコン単結晶セルを使用することとした.またASTRO-Eにおいては,セルサイズを従来の2×4cmから4×6cmに大型化し,上記に加えてプレーナー型構造を取ることによりさらに高効率化を図っている.これらのセルは,宇宙環境下における太陽光下(AM0)において変換効率が17〜18%と世界最高のものである.
 また同時に,より一層の高効率化を実現するため,太陽電池の精密診断技術の開発を行っている.主にフォトルミネッセンス(PL)測定により,各種の母材シリコンウエハー中の微量残留不純物,微小欠陥等について評価し,太陽電池セルの出力特性を支配する重要なパラメータのひとつである少数キャリヤのライフタイムとの関連や,セルの出力特性との関連について検討している.
 今年度は前年度に引き続き,宇宙用太陽電池の放射線劣化メカニズムを解明するため,添加不純物がB, Al, Gaの3種についてそれぞれ低濃度(抵抗率10Ωcm),高濃度(抵抗率1-2Ωcm)の2種の合計6種の試料に対し,1MeVの電子線および10MeVの陽子線を照射し,PL測定を行った.その結果,電子線照射試料,陽子線照射試料の双方で共通に,A1不純物とGa不純物は似通った性質を示し,B不純物はそれらと異なった性質を示す,B不純物は高濃度の方が劣化しやすいが,A1, Ga不純物では低濃度の方が劣化しやすい,低濃度ではA1, Ga不純物の方がB不純物より劣化しやすいが,高濃度では逆にB不純物の方が劣化しやすい,以上が明らかとなった.
 また,B添加p型10ΩcmのCZ-Siウエハーに対し,1MeVの電子線を照射した場合および10MeVの陽子線を照射した場合に発生する照射誘起欠陥の熱処理効果を100〜400℃の熱処理温度範囲で低温PL測定によって解析した.その結果,以下が明らかとなった.
  今回の照射条件では,電子線照射,陽子照射のいずれの場合においても,ドーズ量によって発生する欠陥の種類が異なることはなかった.また,電子線照射,陽子線照射のいずれの場合も,各熱処理過程での欠陥の生成・消滅は同様であった.
  電子線照射,陽子線照射の両方の場合とも,主要な欠陥起因の発光はC-lineで,その起源はCi-Oiである.これはDLTSのEv+0.36eV準位に対応する.
  電子線照射と陽子線照射を比較すると,陽子線照射の場合の方がより多くの欠陥が発生し,200〜400℃熱処理において,それらの欠陥反応が活発となる.

 SOIウエハーの評価の研究
			教 授	田島道夫	助 手	藁品正敏
 シリコン基板上に絶縁層を介し極薄のシリコン層が接合する構造のSOI(silicon-on-insulator)ウエハーは,従来は耐熱・耐放射線等耐環境性デバイスおよび高耐圧デバイスなど特殊用途の基板として用いられていたが,最近では,次世代の低電力・高速の汎用CMOSLSIの基板として最有力候補と考えられるようになった.本研究では,シリコン層の厚さが0.1-0.2μm程度の薄膜SOI(silicon-on-insulator)のウエハー中の欠陥,不純物,および界面の評価を行うことを目的とし,同ウエハーの紫外線励起により発生する凝縮ルミネッセンスを利用した評価手法を開発している.
 この手法により水素イオン注入剥離(Smart-CutTM)法によるSOI(UNIBONDTMウエハー)を評価した結果,同ウエハーからは,top Si層,基板の両方に0.8eV付近にピークを持つ深い準位の発光帯が観測された.この発光帯は,酸素析出物に起因する発光と類似のスペクトル形状であること,基板では酸素の成長稿に対応した同心円状の強度分布が得られることより酸素析出物に起因すると考えられ,さらに,top Si層,基板の両方の透過電顕観察によって,析出物および析出物−転位複合体が検出されたことにより酸素析出物が存在することが裏付けられた.これはSmart-CutTMプロセスにおいて,水素イオン注入後に剥離(400-600℃)と結合力強化(1100℃)の2段階熱処理が行われたため,基板中の固溶酸素が核形成し,続いて析出した結果と考えられる.以上の実験結果は,UNIBONDTMウエハー中の欠陥の低減法を示唆するものである.

 SiC結晶の光学的評価の研究
			教 授	田島道夫	助 手	藁品正敏
 将来の宇宙開発に必須な技術となる高温エレクトロニクスを進展させるうえで,その中心的素材のSiCウエハーの高品質化は極めて重要である.本研究では,デバイス作製用の種々のSiCウエハーに対し,室温PLマッピング法を適用し,非破壊・非接触にてウエハー面内の特性の不均一を評価することに,世界に先駆けて成功した.市販のp型6HSiCウエハーでは,A1アクセプタによる発光以外に帰属不明の深い準位の発光帯(1.05, 1.35, 1.95eV)が現れた.これらの発光のウエハー面内における強度分布は不均一であり,ウエハーによって,環状,片流れ等,異なったパターンを示すこと,エピウエハーでは,外周部にU字型の強度が弱い部分が存在することが明らかとなった.これらは,試料内の温度勾配,原料ガスフローの不均一等の結晶育成条件を反映していると考えられる.ここで得られた知見は,SiCウエハーの高品質化,ひいてはSiCデバイスの高性能化・高信頼性化に大きく貢献すると考えられる.

 擬似太陽電池電源の開発
	教 授	田島道夫	助 手	高橋慶治	技 官	河端征彦
 従来,科学衛星の飛翔前試験の一環として行われている電源系総合試験においては,ソーラシミュレータから光を照射し,太陽電池パドル(もしくは,パネル)の発生電力により衛星を動作させ,電源系の動作確認や搭載機器のチェックを行ってきた.
 衛星の大きさは,今後M-V型でさらに大型化し,それに伴い太陽電池パドルも大面積となっている.したがって,従来の光を照射する試験方法の適用が難しくなるため,平成2年度から太陽電池パドル出力に相当する特性を持った擬似太陽電池電源の研究開発を開始し,擬似ソーラアレイ電源架の基本ユニットを製作した.各種試験及び上記基本ユニットの改善検討を行った後,同ユニットを直列・並列に接続し,250Wの電力が供給可能な擬似太陽電池電源を平成5年に製作した.平成6年度にはMUSES-B以降PLANET-B迄の電源系試験に適用するため,250W分の増設を行い,合計500Wの能力を持つ擬似太陽電池電源の製作を行った.

 衛星搭載用二次電池の研究
	教 授	田島道夫	助教授	廣瀬和之	助 手	高橋慶治
					技 官	河端征彦
 衛星搭載用二次電池には,長寿命性,高信頼性,そして軽量性が要求される.従来,科学衛星にはNi-Cd電池が用いられ,各ミッションにおいて長期にわたる安定な動作が確認されている.本研究においては,最近のミッションの高度化に伴う電池の軽量化の要求に応えるため,これまでの安定性を損なうことなく軽量化を実現するよう検討を進めている.
 まず,Ni-Cd電池については,正負極板の軽量化,正負作用物質の高密度化,電槽の薄板化等により,従来品に比べてエネルギー効率比較で約20%強の軽量化を達成し,ASTRO-E用30AhのPM電池を製作した.しかし,LUNAR-A, PLANET-Bにおいては,軽量化要求が非常に厳しく,より一層の軽量化が必要となったため,最近民生用として普及し始めている水素吸蔵合金を負極に用いるNi-MH電池の宇宙用電池の開発に着手した.Ni-MH電池には,エネルギー効率が高い(約30%の軽量化),Ni-Cd電池とほぼ同様の特性を有しており従来システムの変更は少ない,Ni-Cd電池の負極の変更のみであるため,これまでの技術の蓄積が活用できる,等の利点がある.
 これまでに,公称容量15AhのFMのNi-MHセルを製作し,約10,000サイクルの充放電を経て寿命試験を継続中である.また,太陽系惑星へ巡航中の最適トリクル充電条件について,検討を行っている.
 最近は一段と厳しい軽量化要請が課せられたMUSES-Cのため,正極にLiCoO2負極に人造黒鉛を用いたLiイオン電池の開発を始めており,第1ステップとして80Wh/kg程度のエネルギー密度を目指している.

 月ペネトレータ用リチウム電池の開発研究
	教 授	田島道夫	教 授	水谷 仁	助教授	齋藤宏文
			助教授	樋口 健	教 授	藤村彰夫
 LUNAR-Aペネトレータの電源には,1年間にわたる電源供給の寿命性,データ送信時の強放電動作性,−20〜
−40℃での低温動作性,そして月面貫入時の10,000Gに及ぶ耐衝撃性のすべてが良好であることが要求される.本研究では,上記要求を満たす電池として塩化チオニール/リチウム電池を選定し,その弱/強放電特性,温度特性,耐衝撃性等の試験を実施し,それをもとに同電池の改良を行いFM品を作成した.今年度はポッティング後の異常電圧低下現象対策のためのイニシャライズ条件の検討および貫入実験前後の放電特性試験を行った.
 高温エレクトロニクス
	教 授	田島道夫	助教授	廣瀬和之	助 手	藁品正敏
					技 官	狛 雅子
 宇宙研における将来計画である月・惑星ミッションの実現にあたっては,衛星の熱設計に対してこれまでになく苛酷な条件が課せられる.この問題を克服するためには,高温で動作するデバイスの開発が急務である.高温動作時の性能はSiC,GaN,ダイアモンド等が圧倒的に勝れているが,300℃までならSi系デバイスが,技術の成熟度とコストという観点で,他を先行しているのが現状である.信頼性とコストを世界規模で要求される自動車産業では,絶縁膜基板を用いた新しいSi技術,SOI技術の開発が進められている.本年度は,この近未来の高温エレクトロニクスの候補であるSIOについて調査を進め,またこれにスポットをあてた第9回高温エレクトロニクス研究会を開催した.

 宇宙用半導体デバイス界面の耐放射性・耐熱性の研究
			教 授	田島道夫	助教授	廣瀬和之
 将来ミッションとして計画している「高機能探査衛星を利用した惑星探査」を成功させる上で,衛星搭載用として高機能性・小型軽量性に加え耐放射性・耐熱性に優れた高信頼性半導体デバイスの開発が必至である.本研究においては,このような民生デバイスの開発とは一線を画す極限デバイス開発のための基盤研究として,デバイス動作の要である半導体界面に対する精緻な制御・評価技術を確立し,衛星搭載用デバイスの問題点を把握,最適構造の検討および極限プロセスの開発を計っていく計画である.
 今年度は,具体的に以下の三点を明らかにした.
 A アルミニウム/シリコン界面はシリコンLSIの電極を構成する典型的な界面であり,LSIの高温動作を可能とするためには,この電極の熱的安定性を高めることが必須である.我々は,シリコン表面のダングリングボンドを水素で終端することで,560℃まで加熱してもシリコン基板上でアルミニウムが凝集しなくなることを世界で初めて見いだした.このことは,LSIプロセスに適用可能な水素原子の利用によって,LSIの耐熱性を向上できること示唆している.
 B チタンシリサイドはシリコンLSIの配線材料として注目されている.しかしながら,シリコンとチタンからチタンシリサイドが形成される界面反応機構は詳細には明らかになっておらず,微細化するLSIにおいてこの反応が充分には進行せず抵抗の増大を招くという問題が顕在化してきている.これまでに我々は,チタンがシリコン上に堆積した時の結晶配向性がこの反応の進行に大きく関与することを初めて明らかにしてきたが,今年度はその配向性をさらに詳細に電子顕微鏡を使って解析した.
 C SiO2/Si界面はMOSデバイスの信頼性を決定する重要な界面である.特にSiO2中の欠陥は,デバイスの微細化とともに深刻な問題となっており,その起源の解明が急がれている.我々は,高分解能の光電子分光法を利用することで,これまで評価のできなかった薄いSiO2膜中の欠陥の生成過程を測定できることを,初めて実証した.これによって,MOSデバイスの電子線照射による劣化過程を追えるようになり,耐性の強いSiO2膜(MOS酸化膜)の開発への指針が得られる可能性がでてきた.

 太陽発電衛星の研究
	教 授	長友信人	教 授	高野 忠	助教授	佐々木進
	助 手	成尾芳博	客員教授	松本 紘	学習院・法	田中靖政
	慶應大	吉川完治	神戸大・工	賀谷信幸	静岡大・工	山極芳樹
	帝京平成大	松岡秀雄	東大・工	小宮山宏	東大・工	山田興一
	東京工科大	後川昭雄	東北大・工	澤谷邦男	都立科技大	茂原正道
	法政大	P.コリンズ	北大・工	伊藤精彦	北大・工	小川恭孝
					北大・工	工藤 勲
 平成9年度に発足した太陽発電衛星研究会では太陽発電衛星を地球環境問題・エネルギー問題解決のためのエネルギーシステムとして人文社会の側面も含めた広い分野の研究を行っている.本年度は研究会総会及び第1回SPSシンポジウムを開催して関連の研究を推進するとともに,ニュースレターを発行して研究情報の交流を図った.
 また,赤道周辺の開発途上国における太陽発電衛星の電力利用の一連の調査活動の一環として,本年度は科研費によりキリバス,ナウル諸島の現地調査を行った.

 太陽発電衛星SPS2000の概念設計研究:太陽発電とマイクロ波送電
	教 授	長友信人	教 授	高野 忠	助教授	佐々木進
	助 手	成尾芳博	東京工科大	後川昭雄	東海大	川崎繁男
 太陽発電衛星の主要機能である太陽光発電とマイクロ波送電の2つの電気機能を模擬する地上試験用モデルを試作している.発電部についてはソーラーカー用の多結晶太陽電池パネルと送電部とのインターフェイス回路部を太陽発電衛星モデルSPS2000を模擬した三角柱フレームにとりつけた.送電部に関しては,東海大学で宇宙輸送と軌道上展開に有利と考えられる薄型の増幅器一体型アクティブ集積アンテナを開発した.このアクティブ集積アンテナは周波数2.45GHzを使用し,1ユニットは7cm×7cmの平板形状である.このアンテナ4枚を2次元アレイ化して1ワット規模の送電システムを試作し,マイクロ波の送電特性のデータを取得した.また,これまで開発した試作モデルを教育用として製作したいという海外研究者からの要望に基づき,本太陽発電衛星モデルをベースとした教育用モデルの製作方法についても検討を行い,製作マニュアルとして使用できるレポートを作成した.なおこれらの研究は平成8年度からの科研費基盤研究(B)の助成で実施された.

 太陽発電衛星SPS2000の概念設計研究:構造設計と組立
	教 授	長友信人	助教授	佐々木進	助 手	成尾芳博
	技 官	橋本保成	都立科技大	茂原正道	客員教授	八坂哲雄
			研究生	石井忠司	特別共同利用研究員	木俣喜美子
 大型の宇宙構造物を組み立てるための装置は,無重量状態で動作するものとして設計され,地上での試験においては各種の無重量状態シミュレータが用いられることが多い.特に太陽発電衛星の構造物はその大きさにおいて前例がなく,従来のような浮力や懸垂力による重力バランスを利用したシミュレータはそれ自体大規模なものとなるので,大型構造物そのものやその組立方法に工夫をして,外力に頼らない重力バランスを利用することが考えられる.その原理を実験的に確認するため,パイプを自動的につなぐことが出来る簡単な組立装置を2台,一つは上向きに,他の一つは下向きにパイプをつないで伸展できるようにしたものを機械的に結合して伸展したパイプの重量をバランスさせ,伸展用の動力に影響を与えにくくした装置を試作した.実験は装置全体をケーブルで懸垂し,太陽電池を動力源として,長さ1mのパイプを上下にそれぞれ5本つないで伸展することが出来た.

 超低コスト宇宙輸送システムの基礎的研究
	教 授	長友信人	助教授	稲谷芳文	助 手	成尾芳博
					法政大	P.コリンズ
 太陽発電衛星を実現するには,現状より2桁ほど低い超低コストの宇宙輸送システムが必要との立場から,航空機のように運航できる宇宙輸送システムに関する研究を行っている.超低コストの宇宙輸送を実現するには運輸交通機関のようなシステムを地上と地球低軌道の間に構築する必要があり,そのためには航空機に代表される乗り物としてのロケットを研究する必要がある.本年度は,昨年度に引き続いて同程度のコストが要求されると見られる宇宙観光旅行のための宇宙機を取り上げ,開発・運用コスト,設計要求,運用に伴う諸問題等について評価・検討を行った.また,現在の輸送用航空機の設計基準として用いられている「耐空性審査要領」の調査を行い,宇宙機への適用の可否を検討した.なお,宇宙機には,垂直に離着陸する単段式ロケット(SSTO)を用いると仮定した.

 月周回衛星(SELENE)計画
	教 授	鶴田浩一郎	教 授	水谷 仁	教 授	加藤 學
	助教授	佐々木進	助教授	橋本正之	助 手	飯島祐一
 宇宙科学研究所,宇宙開発事業団,国立天文台,大学,研究機関のメンバーから構成されるセレーネプロジェクトチームにより,月周回衛星(SELENE)の観測機器開発及びミッション検討を行った.本ミッションは,月の起源と進化を解明する「月の科学」,月の環境を計測する「月での科学」,月から太陽地球系環境を観測する「月からの科学」の研究を行うとともに,将来の月探査に必要な軟着陸などの技術の開発を行うことを目的としている.探査機は高度約100Kmの準極軌道を周回する衛星と遠月点2400Kmの楕円軌道上のリレー衛星から構成され,1年間の観測ミッション終了後は,周回衛星の推進モジュール部分を分離して軟着陸の実験を行う.周回衛星は月面の遠隔探査により月面の地形,鉱物分布,元素分布,地下構造,磁場のグローバルマッピングを行う.リレー衛星は,周回衛星が月の裏側を周回する時のドップラー信号を地球へ中継し,月の裏側の重力場を計測するのに用いる.またこの間,月環境の計測や月軌道からの地球電離圏の観測等も行う.着陸後は着陸モジュールとリレー衛星に搭載される電波源の相対VLBI観測により,地球重力や秤動を精密に決定する.プロジェクトチームでは,観測機器開発チームによる搭載機器の設計検討,センサー部分の試作・試験を行うとともに,ワーキンググループを組織して衛星バスシステムとのインターフェイス調整,電磁干渉評価,追跡管制の検討,データ取得と解析方法の検討など,本計画を実行する上で必要な検討を幅広く行った.

 SFUで観測された飛翔体周辺プラズマ電磁環境の解析
					助教授	佐々木進
 SFUに搭載されたラングミュアプローブ,フローティングプローブ,インピーダンスプローブ,波動受信機,磁力計のデータを解析して,SFUの周辺のプラズマ密度,SFUの電位,SFU周辺に励起されたプラズマ波動の解析を行った.SFU本体の日照時の電位は,太陽電池パネルの起電力と周辺プラズマとの電気的なカップリングにより,周辺プラズマに対しマイナス40V以下に低下したことがフローティングプローブのデータ解析により判明した.SFUの電位低下に伴いSFUのラムとウェイク面4ヶ所に設置されたアンテナでは,数十kHz以下の周波数帯にピークを持つ低周波波動と数MHzまでのびる広帯域高周波波動が観測された.低周波波動についてはSFUの電位低下に伴い周辺の低周波変動をもつイオンがSFU本体に流れ込んだためと解釈され,高周波波動はフォトエレクトロンがSFUの負電位により加速され周辺プラズマとの相互作用により励起されたものと解釈された.

 サーマルブランケットを用いた宇宙ダスト検出のための基礎実験
	助教授	佐々木進	九州工大	趙 孟佑	湘南工科大	河野 汀
 衛星表面の大部分を覆うサーマルブランケットの金属蒸着部に電位を印加して高速の宇宙ダストがサーマルブランケットとの衝突で発生するプラズマを検出することを試みた.大面積をもつサーマルブランケットをダストディテクタに利用できれば宇宙ダストについての情報を容易にかつ大量に集めることが可能となる.本実験ではメガワット級のパルスレーザーでダスト衝撃を模擬した.照射ターゲットとしてはサーマルブランケットの部材であるポリイミド薄膜(厚さ7.5〜100μm)に金属板を装着させたものを用いた.これまでの実験では金属板に20V程度の電位を印加することにより衝撃プラズマが検出でき,サーマルブランケットの導電部に数十V程度の電圧を印加することにより,十分なダスト検出能力を持たせることが可能との予備的な結果が得られた.

 科学衛星「はるか」(MUSES-B)プロジェクト
	教 授	廣澤春任	教 授	平林 久	  「はるか」衛星グループ
 「はるか」(第16号科学衛星MUSES-B)は,大型展開アンテナ,精密姿勢制御,多周波低雑音受信,位相基準信号の伝送,精密軌道決定等の工学的研究,並びにスペースVLBIによる電波天文観測を行うことを目的とした衛星で,1997年2月12日,M-Vロケットの初号機により,鹿児島宇宙空間観測所から打ち上げられた.衛星は,大型アンテナの展開,位相基準信号の伝送,大容量データのダウンリンク,大型アンテナの指向制御,電波天体からの電波の受信等の基本的な機能に関する一連の実験を経て,打ち上げ約3ヶ月後に地上電波望遠鏡との間で干渉計として動作することに成功し,その段階で工学実験衛星としての主要目標は達成された.その1ヶ月後には国際協力のもとにスペースVLBIによる撮像実験に成功した.衛星の運用は1997年秋から漸次科学観測へと移行し,1998年度の運用は専ら科学観測を目的として行われた.観測においては,地上電波望遠鏡,トラッキング,相関処理,軌道決定などにおいて幅広い国際協力がなされた.「はるか」とともに観測した世界の地上電波望遠鏡は40局に達している.観測の内容は公募によるものとミッションチーム主導のサーベイからなり,98年度の終わりまでに,約300の天体が観測された.

 科学衛星「はるか」において測定された伝搬位相揺らぎの解析と大気構造の研究
	大学院学生	小野真裕	客員助教授	川口則幸	教 授	廣澤春任
 「はるか」の位相基準信号の伝送において測定される位相揺らぎデータ(アラン標準偏差)を分析し,大気に起因する位相揺らぎを表す新たな特徴量を定義するとともに,その特徴量が,顕著な仰角依存性を示すことを見出した.その現象は従来からの大気モデルでは説明できず,垂直構造を導入した新たな大気構造モデルを提案した.

 ウェーブレット変換を用いたレーダ画像のスペックルの低減
			大学院学生	福田盛介	教 授	廣澤春任
 合成開口レーダ(SAR)画像中のスペックルを低減するためのウェーブレット変換を用いたフィルタを提案した.これはウェーブレット分解したSAR画像の差分画像の振幅(ウェーブレット係数)を一定の割合で圧縮するもので,良好な平滑効果を示す.このフィルタの平滑効果を定量的に考察するとともに,パラメータの適応的な設定によりテクスチャ成分を保存しながらスペックルのみを低減する手法についても検討した.

 高解像度合成開口レーダ画像の統計的性質の研究
	大学院学生	福田盛介	大学院学生	諏訪 啓	教 授	廣澤春任
 高解像度な合成開口レーダ(SAR)画像の統計的性質の解析を行った.具体的には,郵政省通信総合研究所から提供を受けた多偏波/多周波なデータを用い,SAR画像におけるスペックルとテクスチャの積モデルならびにそれから導出されるK分布モデルの妥当性を検証した.その際,複数の散乱機構を考慮してこれらのモデルを拡張することにより,観測されるテクスチャ成分の偏波依存性を説明した.

 ウェーブレット変換を用いたレーダ画像土地被覆分類
			大学院学生	福田盛介	教 授	廣澤春任
 レーダ画像を用いて,地表面の土地被覆分類を行う手法を提案した.具体的には,ウェーブレット変換により得られる各空間周波数での信号のエネルギーを特徴ベクトルの要素とした教師付き分類を検討した.分類においては,過剰系ウェーブレットによる帯域分割や多偏波/多周波な画像の適応的な利用などにより精度の向上を目指し,実際のSAR画像に対する実験において良好な分類結果を提示することができた.

 大型地上アンテナの低雑音化の研究
			助 手	市川 満	教 授	廣澤春任
 ビームウェーブガイド給電方式のカセグレインアンテナの低雑音化について研究している.ビームウェーブガイド方式を取ることによるアンテナ雑音温度の増大分が副反射鏡の形状に工夫を加えることにより低減できることをこれまでに明らかにしたが,その結果を実際の大型アンテナにおいて検証するための準備,検討を行った.


 高温熱制御材料の光学的劣化に関する研究
	助 手	大西 晃	特別共同利用研究員	岩田 稔	教 授	廣澤春任
 内惑星ミッション等で必要となる高温用熱制御材料の一つとして,約500℃のガラス転移温度をもつポリイミドフィルムUPILEX-Sを取り上げ,紫外線,電子線,及び陽子線等の照射による熱放射特性の劣化を調べた.フィルムは,電子線及び陽子線照射により,反応中のラジカルによって生ずると推定される吸収係数の増加を示した.フィルムの裏面にアルミニウム蒸着を施した熱制御材料を試作し,熱放射特性の温度依存性,太陽光吸収率と垂直放射率の耐紫外線性・耐放射線性等を測定した.

 極低温における全半球放射率の測定
	助 手	大西 晃	技 官	太刀川純孝	教 授	廣澤春任
 赤外線・X線天文衛星搭載の検出器・センサー等において,極低温における熱設計が重要となっている.設計精度の向上を図るためには,金属や複合材料について,極低温域における全半球放射率の温度依存性のデータが必要である.そのために,カロリメータ法を用いた,4〜50Kの温度範囲の全半球放射率測定装置を製作,その高精度化および自動化を進めている.

 高温域における分光放射率測定に関する研究
	助 手	大西 晃	共同研究学生	亀崎洋祐	教 授	廣澤春任
 高温下に置かれた試料表面の状態変化(光学定数と膜厚の時間的変化)と垂直分光放射率の関係を明らかにすることを目的とし,真空チェンバー,0.13〜100μmの垂直分光放射率の測定装置,試料方面の変質を測定するエリプソメータ,等を組み立てた.2種類の参照黒体を作製し,SUS304,シート状グラファイト,銅等について,約500〜800℃の温度範囲の垂直分光放射率の予備的測定を行った.

 ロケットの燃焼ガスと通信との関わりに関する研究
	助教授	山本善一	大学院学生	杉田晋也	技 官	大島 勉
					教 授	廣澤春任
 M-Vロケットの打ち上げ時に観測されるテレメトリおよびレーダの電波の減衰について,その原因を明確にするとともに,予測を正確にすることを目指して,研究を始めている.これまでに得られたデータに関して,視線方向に対してロケットの機軸のなす角度,ロケットの飛翔高度等の関係を詳細に調べるとともに,マルチパスの干渉と思われる現象に着目し,幾何学的な検討等を行った.また,地上で小型ロケットを燃焼させ,伝搬測定を行う実験の事前検討を行った.

 「はるか」 Ku-バンド位相伝送方式の開発及び運用
	助教授	山本善一	教 授	廣澤春任	助教授	加藤隆二
	助 手	井上浩三郎	技 官	山田三男	技 官	市川 勉
			客員助教授	川口則幸	国立天文台	宮地竹史
 衛星「はるか」は,スペースVLBI観測を行うため,衛星上で極めて安定度の高いリファレンス信号を必要とする.地上観測局の場合,高安定リファレンス信号は水素メーザ発振器により供給できるが,同発振器は機械的な振動に弱いため,衛星に搭載して打ち上げるのは現在の技術レベルでは不可能に近い.そこで本研究では,地上局の水素メーザ発振器から作られた高安定のアップリンク信号を「はるか」に伝送し,水素メーザクラスの高安定リファレンス信号を衛星に供給するKu-バンド位相伝送方式の開発及び運用を行っている.また,本方式で取得される2-way phase計測データをVLBI相関器に入力する事でさらに高いコヒーレンシーを得る事も目指している.


 「はるか」観測信号系の軌道上較正
	助 手	小林秀行	共同研究学生	輪島清昭	教 授	平林 久
	助 手	村田泰宏	客員助教授	川口則幸	外国人特別研究員	G. Moellenbrock
			外国人特別研究員	J. Lovell	       VSOPグループ
 「はるか」衛星によりスペースVLBI観測する上で必要な観測信号系について,軌道上でのアンテナポインティング較正,システム雑音測定など,観測に必要な性能評価を行った.これにもとづいてVSOP観測の像処理が行われた.

 地上VLBI電波天文観測
	助 手	小林秀行	助 手	村田泰宏	客員助教授	川口則幸
					教 授	平林 久
 臼田64m等アンテナを利用した地上VLBI観測を,国内及び国際的な規模で始めるよう整備し,野辺山宇宙電波観測所,通信総合研究所との共同研究も進め,また国内VLBI観測網(J-net)の観測的研究に参加した.これにより,活動銀河核,H2Oメーザー源の観測が行われた.通信総合研究所とはパルサーVLBI観測等で共同研究した.

 「はるか」によるスペースVLBI観測・運用
	教 授	平林 久	助 手	小林秀行	助 手	村田泰宏
	COE研究員	朝木義晴	外国人研究員(COE)	P. Edwards	外国人特別研究員	G. Moellenbrock
	外国人特別研究員	J. Lovell	外国人特別研究員	M. Avruch      VSOPグルーブ
 衛星「はるか」を使用したスペースVLBI観測で,衛星と地上の電波望遠鏡とで開口合成を行うためには,衛星の制限条件,地上電波望遠鏡の参加,テレメトリー局の配置,観測天体の方向と観測時期など,多くのパラメーターが存在する.これらを意識しながら,「はるか」のチェックアウトを含めて軌道上運用を行った.これにより,1.6GHz,5GHzでの共同観測を続行,打ち上げ以来300をこえる,銀河中心核のデータを取得した.

 スペースVLBI国際共同観測の組織・立案・スケジューリング
	教 授	平林 久	助 手	村田泰宏	助 手	小林秀行
					外国人研究員(COE)	P. Edwards
 「はるか」を使用したスペースVLBI観測の観測提案の審査にもとづき,各種条件を加味してVSOP全体像を明確にした.これにより,VSOP観測計画を1.6GHz,5GHzで共同利用観測まですすめた.NEAOのE. Fomalont博士が,外国人客員教授離任後も,引き続き共同で作業を行った.

 VSOP FX型相関器の開発・運用
	助 手	小林秀行	助 手	村田泰宏	客員助教授	川口則幸
					VSOPグルーブ
 国立天文台グループと共同で,「はるか」を用いたスペースVLBI観測のための10局相関器のVSOP観測に対応した相関処理が行えるよう整備を続け,又,これに見合ったデータ解析コンピュータシステムやソフトウエアシステムの整備を続け,実運用を行った.異種間テープの変換,相関処理,ユーザ送付,イメージ処理が主タスクである.

 光結合型実時間電波干渉計実験(OLIVE)
	助 手	小林秀行	客員助教授	川口則幸	COE研究員	朝木義晴
			助 手	村田泰宏	教 授	平林 久
 国立天文台-NTTによる共同実験に協力する形で,国立天文台野辺山宇宙電波観測所と三鷹キャンパスさらに宇宙研臼田宇宙空間観測所と相模原キャンパスを高速(2Gbps)容量の光ファイバー網によって結合し,実時間のVLBI実験を行った.これによって臼田リンク局で受信した「はるか」のVLBIデータ(128Mbsp)及び64mアンテナで観測したVLBIデータ(128Mbspないしは256Mbps)さらに野辺山45m電波望遠鏡で観測したVLBIデータ(128Mbpsないしは256Mbps)を,すべて相模原の「はるか」運用室及び三鷹のFX相関器に伝送することができた.この実験の目的は,1. 光ファイバー網による実時間VLBI観測の実証研究 2.「はるか」によるスペースVLBI観測の実時間相関実験 3. 2Gbpsの超広帯域VLBI実験などである.引き続き,通信放送機構からの受託研究の開発費サポートを受けた.

 VSOPによる活動銀河系の研究
	教 授	平林 久	助 手	小林秀行	助 手	村田泰宏
	共同研究学生	輪島清昭	外国人研究員(COE)	P. Edwards	COE研究員	岡保利佳子
		    外国人特別研究員 G. Moellenbrock	外国人特別研究員	J. Lovell
		      外国人特別研究員	M. Avruch	外国人客員助教授	G. Langston
					            VSOPグループ
 VSOPによる活動銀河核の研究をいくつかの天体にとって各方面から精力的に行った.中心核の輝度測定(1013Kの輝度検出),ジェットの形状,ジェットの時間変化,みかけの超光速運動,二周波観測によるスペクトル情報,GPS電波源,等々である.COSPAR(名古屋)でのスペースVLBIシンポジウム等で,さまざまな発表が行われた.

 次期スペースVIBIミッションの検討
	教 授	平林 久	助 手	村田泰宏	助 手	小林秀行
			外国人客員助教授	G. Langston	       VSOPグループ
 衛星「はるか」に続くスペースVLBI次期ミッションについて,検討を行い,国際的観点からの検討会も行った.「はるか」に較べて,より高周波化,より高感度化をめざす方向にある.

 VERAシステムの検討
	客員助教授	川口則幸	助 手	小林秀行	教 授	平林 久
 国立天文台が提案,推進しているVERAプロジェクトについて,システム検討研究に参加を続けている.この三人は,国立天文台VERA推進小委員会のメンバーとしても,科学全般について貢献した.

 VSOPによるAGNサーベイの研究
	教 授	平林 久	助 手	小林秀行	助 手	村田泰宏
	共同研究学生	輪島清昭	外国人研究員(COE)	P. Edwards	外国人特別研究員	G. Moellenbrock
	外国人特別研究員	J. Lovell	外国人特別研究員	M. Avruch	外国人客員助教授	G. Langston
					            VSOPグループ
 活動銀河核(AGN)についての理解を統計的サンプルの観測によって行うため,電波スペクトルが平坦で,1Jy以上のコンパクトなVLBI電波源約300天体について,国際チームを組織して観測をはじめている.観測には「はるか」と約3台の地上電波望遠鏡を組織する.
 現在,観測天体数が100をこえた.統一的な処理法についても,検討中である.

 22GHzラインラジオメータによる水蒸気位相揺らぎ補償法の開発
	COE研究員	朝木義晴	助 手	小林秀行	助 手	市川 満
			教 授	平林 久	教 授	廣澤春任
 大気下層の水蒸気による宇宙電波の位相揺らぎを補正する方法として,大気中の水蒸気量をラジオメータによって測定し,位相を補正する「ラジオメータ法」がある.ここで,スペースVLBI衛星「はるか」と臼田ラッキング局間での2way高位相伝送システムを利用すれば,大気による位相雑音と,ラジオメータの輝度温度の揺らぎとを比較検討することが可能となる.ここでは,22.2GHzにわたって観測するラインラジオメータにより,水蒸気成分,雨滴成分を分離して,今後の電波天文学一般に寄与できる可能性を秘めた研究をスタートした.10mトラッキング局に装着する装置の設計製作を行った.

 小惑星のカオス的運動の解析
					助教授	吉川 真
 MUSES-Cの探索候補天体である小惑星ネルウスや1989 MLは,地球などの内側の惑星に接近する軌道を持っているために,その軌道進化は非常にカオス的な性質の強いものとなっている.そのために,これらの天体がどこから来たものなのか,その起源を力学的に特定することは難しい.しかし,サンプルを持ち帰って解析を行いその特性を研究するときには,これらの小惑星が過去にどのような軌道で運動していたのかが重要な情報となる.したがって,カオスではあるが,どのような軌道進化が最もありそうなのかについて,研究を行っている.

 小惑星探査のための多数回フライバイ軌道の検討
	助教授	吉川 真	助 手	山川 宏	助 手	安部正真
 現在,小惑星で軌道が確定しているものの数は1万個を越えている.それにも関わらず,探査機がそばまで訪れた小惑星はほんの数個にしか過ぎない.小惑星のように多数存在するような天体については,やはり数多く調べることが重要である.そのために,1機の探査機で多数の小惑星にフライバイできるような軌道の検討を進めている.

 地球接近天体の軌道解析の観測法の検討
			助教授	吉川 真	国立天文台	磯部去O
 発見される小惑星の数が増えるにつれて,地球に接近するような軌道を持つものも多く発見されるようになってきた.このような天体は,地球に衝突する恐れがある.したがって,このような天体を捜索する「スペースガード」という活動が,国際的にもその重要性が認められてきている.日本でも,このような小惑星とスペースデブリとを観測する専用の天文台の建設が始まっている.このような状況を受けて,地球に接近する天体の軌道解析および観測システム開発についての研究を行っている.

 金属間化合物積層材料に関する研究
					客員助教授	榎  学
 金属間化合物は軽量耐熱材料として期待されている材料である.しかしセラミックスと同様にその靭性の低さが問題となっている.そこで,脆性を克服することを目的として,非常に延性的な性質を有する金属と複合化することにより金属/金属間化合物積層材料の開発を行った.ホットプレスとNb,Alの薄板を利用してNb/Nb-アルミナイドの積層材料をin-situ作製した.4段階に熱処理サイクルと最終温度での加圧によりNb/Nb-アルミナイド層がよく結合された積層材料が得られた.アルミナイド層が成長した厚さは放物線則によって拡散律速成長した場合を仮定して計算した結果とよく一致した.

 Si-Ti-C-O繊維結合型セラミックスの高温酸化機構
					客員助教授	榎  学
 航空・宇宙分野及び高効率熱機関等の分野における構造材料として繊維強化型セラミックスが期待されている.しかし,界面層として炭素層が存在している場合には,高温酸化雰囲気中において,界面層が容易に酸化されて消失し,繊維やマトリックスの酸化によって形成された酸化物層に置換される.本研究は,材料作製時において界面の炭素層を析出させたSi-Ti-C-O繊維結合型セラミックスについて,種々温度における熱重量測定及び微細構造観察を行うことによって,高温酸化機構を解明することを目的とした.

 レーザー干渉計による非接触AE計測手法の開発
					客員助教授	榎  学
 材料内部の破壊に伴い生じる弾性波を検出するアコースティック・エミッション法(AE法)は,破壊挙動を動的にとらえる極めて有効な手法であり,様々な分野において利用されている.しかしながら,PZTセンサーを用いた従来の手法にはいくつかの問題点が存在する.レーザー干渉を用いることによりCFRPの引張り試験時におけるAEを非接触化で測定することを試み,レーザー干渉計のAEセンサーとしての利用について検討を行った.ペンシル圧折による擬似AEの測定を行い,FEMによる解析結果との比較を行った.両者には非常に良い一致が認められ,表面速度を直接測定できるというレーザー干渉計の利点を示すことができた.

 複合材料積層板の極低温下の力学的特性
					客員助教授	青木隆平
 将来型宇宙輸送システムに繊維強化複合材料(CFRP)積層板を適用する場合,その運用条件下での特性を把握しておくことが設計上不可欠である.この研究では,液体水素及び液体酸素の燃料タンクをCFRP化することを目指し,CFRPの極低温下での力学的特性を実験的に測定して常温環境下との違いを明らかにするとともに,解析的に損傷の蓄積や破壊過程などの各種挙動予測を行った.その結果マイクロクラックの蓄積が極低温下では顕著であることが明らかになった.これが液体燃料の主たる漏洩経路になる可能性が高いことから,燃料漏洩性とマイクロクラックの関係を構造力学的な側面から調べている.

 宇宙用大型膜構造の挙動解析
					客員助教授	青木隆平
 宇宙空間に大面積膜構造を構築した場合の膜を解析的に予測するためには,精度の高い膜構造モデルを開発する必要がある.また制御系を含めた挙動解析をする場合には,モデルの扱い易さも重要である.この研究では,剛体パネルとそれをつなぐバネよりなるモデルを考え,まずそのバネ定数を解析的に求めて,このモデルの妥当性を評価・検討した.この成果を基に,膜構造を利用した軽量・高収納性の太陽光発電システムの実証試験をめざし,太陽電池,膜構造体のインテグレーションのための基礎実験に取り組んでいる.

j.対外協力室

 世界の宇宙輸送技術の歴史
			教 授	的川泰宣	助 手	竹前俊昭
 欧米やロシアでは,ロケットを中心とする宇宙飛翔体技術の歴史が,一つの研究分野を形成しており,国際学会でも独自のセッションが開かれるようになっている.また中国では,ロケット発祥の地ということもあって,初期の火箭その他についての文献はあるが,近代ロケット技術をその歴史との関わりにおいて研究しようという観点からの取り組みが見られない.日本は,地理的文化的に上記の両方の技術の実情や文献に接触・理解をしやすい立場にあり,バランスのとれた研究が可能である.また各地に伝わる龍勢ロケットのような技術の源流を,タイやその他東南アジアの国々の同様のロケットと比較しながら探る課題もある.すでに概説として『宇宙へのはるかな旅』(大月書店),『ロケットの昨日・今日・明日』(裳華房)などの形で発表している.


 日本のロケット開発の歴史
			教 授	的川泰宣	助 手	竹前俊昭
 日本の戦前のロケット開発はすでに昭和ひとけたの時代から開始されているが,その努力はスムーズに戦後のロケット開発には受け継がれなかった.文献や写真その他の資料も,アメリカのスミソニアン航空宇宙博物館など世界に散らばっている状況である.また戦後サンフランシスコ体制発足後のロケット開発についても,かつて『宇宙観測三〇年史』にまとめられたものの,より詳しい資料収集と考察を行うべき時期が到来していると思われる.いくつかの成果はすでにIAF(国際宇宙航行連盟)等の学会で発表しているが,今後さらに詳細な研究を行いたいと考えている.

 宇宙と教育に関する研究
			教 授	的川泰宣	助 手	竹前俊昭
 学校教育・家庭教育の問題点が「理科離れ」との関連で数々指摘される中で,社会教育的な視点からそれらを補う必要が叫ばれている.特に児童にあっては,宇宙活動およびその成果についての憧れや夢が強く,その傾向は世界的なものと言ってよい.そのような状況を反映して,IAF(国際宇宙航行連盟)等の国際学会にも“Space Education”なるセッションが設けられ活況を呈している.日本の宇宙をテーマにした一般・児童への教育活動について,実践的・理論的アプローチをすべき時期である.日本ではまだ日の浅い分野だが,速やかに育てる必要を感じつつ着手したばかりである.

k.鹿児島宇宙空間観測所

 ロケット搭載機器の集積化に関する研究
	助教授	横山幸嗣	教 授	廣澤春任	教 授	中谷一郎
 ロケット搭載機器の信頼性の向上と小型軽量化を図るため,集積回路化技術の適用,ケース構造の見直し等による高密度実装化を進めている.今年度は,ロケット飛翔体の機能の高密度,観測の高精度化,観測における画像データの増加等に対応するためロケット搭載高速度テレメータシステムの検討を行っている.

 飛翔体テレビ伝送装置の開発
	助教授	横山幸嗣	助 手	大西 晃	技 官	加藤輝雄
					教 授	廣澤春任
 ロケットの飛翔保安等への活用のため,ロケットのエンジンの燃焼,各段の分離状況等を地上に伝達するための,ロケット搭載用テレビ伝送システムの開発を行っている.平成10年度は,M-V-3号機の第2段計器部にテレビ送信機を搭載して各段モータ燃焼,分離などの画像を伝送し,ロケットの飛翔時の動態をより詳細に解明することができた.引き続き本システムは,飛翔体の機能の高密化や観測における画像データの増加などに対して機能の拡大と向上を図って行く.

 ロケット燃焼炎による電波減衰に関する研究
	助教授	横山幸嗣	助教授	山本善一	助 手	市川 満
	技 官	河端正彦	技 官	加藤輝雄	技 官	鎌田幸男
			技 官	大島 勉	教 授	廣澤春任
 ロケット動力飛行中,噴煙を通して電波が伝播する場合,噴煙中のプラズマの影響により,ロケットの無線回線に損失を伴う問題がある.本研究では,噴煙による多重伝播特性,噴煙の不規則な変動による位相のシンチレーション等,噴煙が無線回線に及ぼす影響について伝播路の近似モデルの数値解析を行い,M-V型ロケットの飛翔中の無線回線結果との比較検討を行っている.

l.宇宙科学企画情報解析センター

 科学衛星「あすか」の運用と宇宙X線の観測
	教 授	長瀬文昭	NASA/GSFC	Paul Hilton	COE研究員	宇野伸一郎
						  「あすか」チーム
 科学衛星「あすか」は1993年2月に打ち上げられた我が国第4番目のX線天文衛星である.この衛星は4台のX線望遠鏡で構成され,焦点面検出器として2台のX線CCDカメラ及び2台の位置検出型蛍光比例計数管を備えており,0.5-10 keVのエネルギー領域に検出感度を有する.この衛星の,観測公募,観測運用計画立案,追跡運用の総括,観測データの編集,観測記録の整理,初期解析を担当し,宇宙圏研究班,「あすか」チームのメンバーと共にその実施に当っている.平成10年度現在,第
期公募観測を終了し,第
期公募観測を継続中である.

 銀河系内X線天体の研究
	教 授	長瀬文昭	COE研究員	宇野伸一郎	大学院学生	遠藤貴雄
	大学院学生	小澤秀樹	大学院学生	石田淳一	大学院学生	川崎正寛
					特別研究員	浅井和美
 「あすか」チームメンバーと協力して,X線天文衛星「あすか」の観測データの解析を行い,その搭載計器の性能評価をすると共に,X線パルサー,低質量X線連星,ブラックホール候補天体,激変星,ミリ秒連星パルサー,超新星(SN1987A, SN1993J)および超新星残骸,球状星団,星形成領域等からのX線放射の研究を行っている.

 科学衛星運用システムのAI化
	教 授	中谷一郎	教 授	向井利典	助教授	早川 基
			助教授	橋本正之	技 官	長木明成
 科学衛星の運用システムにおいて,AIの技術を取り入れ,次のような効果を得ることを目指して研究を進めている.
  危険なコマンドの自律的なチェック
  運用計画の自動的立案
  シミュレーションによる運用シーケンスの事前チェック
  エキスパートシステムによる故障診断
 現在までにGEOTAIL衛星対応システムの開発をほぼ終了し,日常の運用に適用している.また,GEOTAIL対応システムの経験から得た知見をもとに大幅に改善した火星探査機PLANET-B用システムを開発し,試験運用を開始している.

 磁気圏プラズマシートでのプラズマ加熱・加速過程の研究
	東大・理	星野真弘	助 手	篠原 育	教 授	向井利典
	大学院学生	阿部修英	大学院学生	仁尾友美	所 長	西田篤弘
 磁気リコネクション過程は,地球磁気圏をはじめ太陽コロナや様々な宇宙プラズマ現象で大切なプラズマ素過程であり,地球磁気圏においても,高温・高密度のプラズマシートの形成に重要な役割を果たす.地球磁気圏を観測するGEOTAILでは,プラズマ速度分布関数の測定性能が飛躍的に向上し,磁気圏ダイナミックスのマクロな構造変化だけでなく,粒子のジャイロ半径程度のスケールで起きる物理過程の実証的議論が出来るようになった.スーパコンピュータを用いた大規模粒子シミュレーション結果と衛星観測データを総合的に解析し,磁気圏構造変化に伴なった微視的過程の研究を行っいる.

 衝撃波での粒子加速過程の研究
	東大・理	星野真弘	COE研究員	菅野延枝	大学院学生	平出一成
 無衝突衝撃波による粒子加速の問題は,高エネルギー天体プラズマの重要課題である.惑星間衝撃波での観測をもとに,衝撃波の素過程のより詳しい理解を得る為の理論的研究を行ない,更にこれまで得られたプラズマ非線型過程の理解の下に,超新星で形成される衝撃波など天体プラズマ中での衝撃波へ応用する理論・シミュレーション研究も進めている.

 低域混成ドリフト不安定性,ドリフト・キンク不安定性による電子加熱/加速過程,及び磁場拡散機構
			助 手	篠原 育	東大・理	星野真弘
 宇宙空間において2つの異なるプラズマの接する境界領域付近では広く一般的にドリフト波が存在することが最近の人工衛星観測等によって明らかになってきた.ドリフト波とプラズマが相互作用することによって異なる領域のプラズマ間で磁場の散逸,プラズマの加熱/加速が起こることが予想されている.こうしたドリフト波にまつわるプラズマの加熱/加速過程,磁場の拡散過程の素物理過程を明らかにするために,コンピューターシミュレーションの手法を用いた理論的なアプローチ,GEOTAIL衛星の電子分布関数データや電磁波動データを用いて観測的に理論の検証や,直接測定することのできないプラズマの異常輸送パラメータの推定,等を行っている.

 サイエンス・データベースの運用および開発
	東大・理	星野真弘	助 手	三浦 昭	助 手	篠原 育
	助 手	松崎恵一	COE研究員	宇野伸一郎	教 授	向井利典
					教 授	長瀬文昭
 PLAINセンターでは,宇宙科学研究所の科学衛星の観測データを広く国内外の研究者に一般公開し,そのデータ解析研究を推進している.このサイエンスデータベースは,愛称DARTSと呼ばれており,データを公開するだけでなく,その解析研究に必要な可視化ソフトウェアーや計算機資源なども提供している.平成9年より,X線天文衛星「あすか」および太陽観測衛星「ようこう」のデータベースを公開していたが,平成10年度より磁気圏観測衛星GEOTAILのデータの公開も開始された.DARTSのデータ解析は,ホームページhttp://www.darts.isas.ac.jpよりネットワークを通して行うことができる.

 衛星運用工学データベース(EDISON)
	教 授	向井利典	助教授	橋本正之	技 官	長木明成
	教 授	長瀬文昭	東大・理	星野真弘	助 手	三浦 昭
	助 手	大西 晃	技 官	周東晃四郎	技 官	加藤輝雄
 宇宙科学研究所が打ち上げる衛星や探査機の円滑な運用を支援すること目的とした,主に工学的なデータベースの構築に着手している.日々の運用や運用後のデータ解析に有益な広範囲の情報にそれらを必要とする関係者が容易にアクセスできるシステム構築を目指している.データ内容としては電圧,電流,温度,圧力,姿勢等の衛星自身のデータを始め受信レベル等の地上局情報や,軌道情報,天候,日々の運用上の特記事項,さらに将来は放射線情報なども含めていくつもりである.PLANET-B衛星を最初のターゲットとし,順次提供範囲を広げていく計画である.またこのような総合的なデータシステムの有効な利用方法についても検討を進めていく予定である.

 ネットワークの管理・運営
	助 手	三浦 昭	技 官	長木明成	客員助教授	松方 純
					東大・理	星野真弘
 ネットワークの管理・運営は,計算機運営委員会のもとで実作業を担っている.現在のネットワーク基盤は:
・相模原地区では,超高速のATMネットワークシステムと,センター計算機システムから伸びるFDDIネットワークシステムとを基幹としている.各々,支線LANとしてファーストイーサネットと,イーサネットおよび研究用FDDIが各研究室等迄至っている.
・附属施設のLANは,専用デジタル回線もしくは公衆デジタル回線で相模原地区と接続されている.
・学術情報ネットワーク(SINET)との間は相模原地区は直接SINETノートと接続され,KSCは高速デジタル専用線を介して鹿児島大学経由で接続されており,国内外の大学・研究機関等との通信が可能となっている.
・衛星運用用LANを汎用LANと接続する際は,要求されるセキュリティレベル等に応じた防火壁が設けられる.汎用LANにはインターネットのサービス(WWWやニュース,電子メール,ネームサービス等)を提供している.

 「あけぼの」データベース構築と解析
	客員教授	藤井良一	教 授	鶴田浩一郎	教 授	向井利典
			助教授	早川 基	通信総研	小原隆博
 1989年に打ち上げられた「あけぼの」衛星は既に9年間順調に観測を行っており,その間現在あるシリウスデータベースや他研究機関により作成されたデータベースを用いて,多くの研究者により解析が進められている.さらに,効率的に,より多くの国内外の研究者の利用に供するために,全観測項目を含むサイエンスデータベースの構築を進めている.このデータベースは,原則として衛星の1スピンに対応する8秒毎のデータを集めたものと,観測の有無,衛星の状況,各観測機器のオン・オフやモードなどのステータス情報を10分毎に集めた検索データベースの2種類である.1996年度は1994年10月28日から1995年1月23日までのサイエンスデータベースを作成し,CD-ROMで関連の研究者に配布したが,本年度はさらに他の衛星やEISC ATなどの地上観測機器との同時観測の時期に重点をしぼってサイエンスデータベースの作成を開始した.

 人工衛星とEISCATレーダー観測による極域エレクトロダイナミクスの研究
	客員教授	藤井良一	教 授	鶴田浩一郎	教 授	向井利典
					助教授	早川 基
 欧州非干渉散乱(EISCAT)レーダーと「あけぼの」「GEOTAIL」等の人工衛星との同時観測データを用いて,極域エレクトロダイナミクスの研究を行った.1998年2月,1999年2月および3月にはGEOTAIL衛星とEISCATおよびSuperDARNレーダー網との同時観測を行い,昼間側カスプ周辺のプラズマとエネルギー流入機構の実験・研究が実施された.また,1998年7月と1999年1月にはカスプ及び極冠域でのイオン流出の物理機構を探るために,EISCATレーダーと「あけぼの」やロケットとの同時観測・研究が実施された.7月の実験ではイオン流出に伴い,イオン温度の異方性が高まること,また,加熱を引きおこすプラズマ波動現象に関連すると考えられる異常なレーダースペクトルが顕著に見られることが分かった.また,1999年1月の実験では米国のCAPERロケット実験とEISCATレーダー,地上光学同時観測が実施された.これらの実験をもとに,極域エレクトロダイナミクスの研究が精力的に進められている.

m.臼田宇宙空間観測所

 深宇宙追跡管制システムの研究
			助教授	加藤隆二	技 官	市川 勉
 臼田64mφのアンテナを用い「GEOTAIL」及び「のぞみ」の追跡を引き続き行っている.「のぞみ」についてはJPLでDSN局を用い追跡,軌道決定を実施し精度評価を共同で求める研究を行っている.更に,将来の惑星探査機(LUNAR-A, MUSES-C等)の追跡管制を行う新システム設計が行われており,軌道決定を行うためのレンジ(測距),レンジレート(距離変化率)の良質なデータの取得システム及び追跡データの配信を信頼性も含めこのシステム設計に反映させる検討を行い,「のぞみ」の追跡管制に関する実データによる実験的研究を遂行するとともに,将来の運用に貢献するための基礎研究を行っている.
 地球周回衛星の航法システムの研究
			助教授	加藤隆二	技 官	市川 勉
 1997年2月に打ち上げられたMUSES-B衛星(「はるか」)は,遠地点約21000km,近地点560kmの楕円軌道で地球をほぼ6.3時間の周期で周回している.この衛星では主としてSpace-VLBI観測を目的としており,現在まで様々な電波星を観測し電波観測で様々な成果をあげている.この衛星に対する電波航法として,新たにVLBI観測を目的とした臼田10mφ新アンテナによるKu-bandのレンジレートデータが取得されている.このデータは新方式(送信周波数制御)による計測で電波航法の観測データとして計測精度の特性について解析を現在実施しており,評価を含め研究するとともにJPL/NASAとの共同ミッションであり海外局の(DSN)のデータを取得し,精度等の航法に関する研究をJPLとも行っている.又,この新方式による計測で将来のミッションヘの有効性について検討している.

 VLBI観測による航法の基礎研究
			助教授	加藤隆二	技 官	市川 勉
 1997年2月に打ち上げられたMUSES-B衛星(「はるか」)は,定常観測に入りS-VLBIとしての観測が実施され,国立天文台(三鷹)の相関処理によりVLBIデータ(電波星に対する2局間での電波の到達時刻の差及びその変化率)が観測されはじめており,電波航法にこのVLBI観測データを加えることで高精度化が期待できる.そこで,この観測モデルの検討及び導入した解析・評価の基礎研究を実施し,将来のVLBIあるいは,Delta-VLBI航法への応用研究に結びつける.

 搭載GPSを用いた自律化航法の研究
			助教授	加藤隆二	技 官	市川 勉
 1997年2月に打ち上げられたMUSES-B衛星にGPS受信機及びコンピュータを搭載しており,カルマンフィルタによる自律化航法の基礎研究を実施する予定である.基本的動作は確認されており本格的な電波誘導による航法との精度評価を含めた研究を実施に向け進めている.

 ペネトレータ位置決定に関する研究
			助教授	加藤隆二	技 官	市川 勉
 打ち上げ予定の科学衛星LUNAR-Aにおいて,月周回軌道を巡航する母船より2機のペネトレータを月の表面に投入させ,様々な月の科学観測が行われる.このペネトレータは母船とUHF帯の通信を行うとともに母船にドップラ一計測装置を搭載しており,同時にドップラー観測を行いこの観測データより母船を用いてペネトレータの位置を推定するシステムの開発研究を行っている.

 将来の惑星探査航法システムの研究
			助教授	加藤隆二	技 官	市川 勉
 惑星探査のミッションとしてPLANET-B,LUNAR-A及びそれ以降のミッションを対象にすると,何れのミッションでも航法に対する精度要求が厳しくなっており,それに対応すべく高精度な軌道決定システムの研究開発を行っている.PLANET-Bでは火星周回軌道に投入されるための航法制度要求を満足させることは必須である.しかしながら将来の惑星ミッションを踏まえて前述のレンジ,レンジレートによる電波航法では精度限界があり,電波天文の分野で研究されているVLBI(Very Long Baseline Interferometor,超長基線干渉計)の応用としてデルタVLBI観測システムの検討及びこの観測データの導入,更に搭載光学センサー,電波高度計による観測データの導入を検討しており高精度なハイブリッド航法システムの基礎開発及びそれを用いた解析評価の基礎研究を行っている.LUNAR-Aでは月を低高度で周回するため月のポテンシャルの影響を受けることから軌道モデルの検討,計測されるレンジ,レンジレートに対する観測モデル及び推定システムの検討を実施し,精度に対する,評価解析を追求すべく研究を行っている.
 連続低推力による惑星探査機の航法システムの研究
			助教授	加藤隆二	技 官	市川 勉
 近い将来計画されているMUSES-Cという小惑星に到着し組成を調査し地球に帰還するミッションが計画されている.このミッションでは電波誘導による航法の際,低推力を持続させて小惑星に接近し,帰還時も同様な航法を行う.そこで,このような推力が実施されている期間,航法精度を劣化させないようかつ推進による制御量の推定を行うことになる.これを実現すべく解析を踏まえながら新航法システムの基礎開発・研究を行っている.

 Real Time 航法システムの研究
			助教授	加藤隆二	技 官	市川 勉
 将来の惑星探査機における航法即ち,軌道推定であるが,誘導等イベントを実施する際,直前の正確な軌道推定が要求される.具体的には1999年度打ち上げ予定である科学衛星LUNAR-Aでは月周回軌道に探査機を投入後,2機のペネトレータを母船から月表面に向け離脱し投入させる.この際,離脱直前の正確な軌道推定を実施する必要がある.逐次型の推定理論の基礎を中心に軌道推定に適用し,精度の良い推定システムの研究を行っている.この研究は他のミッションでも軌道制御時等で逐次な推定を行う航法としての応用研究として検討を進めている.

 測距・距離変化率計測装置シュミレータの研究開発
			助教授	加藤隆二	技 官	市川 勉
 惑星探査機における軌道決定(電波航法)で用いる局からの観測データ,即ちレンジ(測距),レンジレート(距離変化率)について電波航法の観点から特性を解析・評価するために計測システムのシュミレーションを実施するソフトウエアの研究開発を行っている.主に臼田局で取得される現状の観測データには,様々な誤差要因が考えられそれを究明することを第一目的とし,将来の計測装置の開発に向け反映できるようこのシュミレータで電波航法の解析・評価を行い,航法の高精度化を計る基礎研究を行っている.

n.宇宙基地利用研究センター

 微小重力環境におけるファセット的凝固過程に関する研究
			教 授	栗林一彦	助教授	稲富裕光
 半導体,酸化物超伝導体に代表されるファセット的結晶面を有する物質の凝固過程は,金属の場合に比べ不明な点が多く,液相中の流れが抑制された場での解析が望まれている.そこで,地上重力及び微小重力環境での融液からの凝固過程をその場観察を中心とした実験により解析,検討している.具体的には,モデル物質として透明有機物質を用い,凝固挙動と溶液中の流れ及び温度・濃度勾配との関係を干渉顕微鏡により調べている.さらに,凝固界面での核生成過程を動的光散乱法により調べている.

 半導体結晶の溶液成長過程の研究
			助教授	稲富裕光	教 授	栗林一彦
 半導体結晶の多くは可視〜近赤外線に対し透過性を持つ.この性質を利用して赤外線顕微鏡干渉計により溶液成長過程をその場観察し,成長時の結晶表面の形態変化に及ぼす成長条件及び重力の影響を調べている.

 高重力環境での材料プロセシング
			助教授	稲富裕光	教 授	栗林一彦
 材料プロセスにおいて重力が熱物質輸送現象に与える影響を実験的に調べる為に,材料実験用遠心機を用いて重力加速をパラメータとした凝固・結晶成長過程の可視化実験を行っている.

 電磁力を利用した傾斜機能性材料製造に関する研究
	教 授	栗林一彦	助教授	稲富裕光	大学院学生	高田亜紀
 衛星等に用いられている熱電発電器の効率を高めるために,熱電材料中に連続的な組成分布を持たせることが原理的に可能な液相法による傾斜化プロセスの発展が望まれている.そこで本研究は,振動・静磁場中で多元系半導体結晶の溶液成長を行い,液相内の熱物質輸送過程を能動的に制御することにより,得られる結晶の機能傾斜化を試みている.

 動物の発生・形態形成と重力とのかかわりに関する研究
	助教授	黒谷明美	目白大・人文科学	能村堆子	お茶の水女子大・理	清本正人
 動物の発生および形態形成のメカニズムに重力がどのような役割を果たしているのかについて研究を行っている.とくに,細胞内・細胞間での情報の伝達および統合などに深くかかわっていると考えられる細胞骨格の動態と重力の関係に着目した研究を行っている.

 海産動物の産卵条件の調査
			助教授	黒谷明美	お茶の水女子大・理	清本正人
 発生および形態形成研究のための海産の生物試料について,実験室での周年の採卵・採精を可能とするために,その産卵シーズンを決定する要因の調査を行っている.

 微小重力下での動物の挙動に関する研究
					助教授	黒谷明美
 両生類・魚類などのセキツイ動物や,昆虫などの無セキツイ動物などを用い,微小重力下での挙動とIG下での生活パターンとの関係を調べる研究を行っている.

o.次世代探査機研究センター

 熱流体工学の宇宙潜熱制御法への対応に関する研究
			助 手	小川博之	教 授	小林康徳
 新たな電熱素子の開発に向けて,細管(内径mmあるいはそれ以下)群内の二相流れの基礎的実験を行った.この種の細管群の良好な伝熱特性は近年注目を集めているが,現象のメカニズムは未だ十分に理解されていない.内部流れの変動,非一様伝熱特性の観察を行った.

 蒸気濃縮過程に関する研究
			助 手	小川博之	教 授	小林康徳
 宇宙空間での二相流体流れに関連して,衝撃波管による非平衡蒸気凝縮に関する実験を行い,並行してそのメカニズムの解析モデルを検討している.

 探査機等の熱設計
	助 手	大西 晃	助 手	小川博之	教 授	小林康徳
 ASTRO-E,MUSES-C,DASHなど,開発中の探査機の熱設計の評価を行うとともに,回収カプセル系統の熱設計に係っている.

 自由電子レーザの研究
	助教授	斎藤宏文	助 手	水野貴秀	技 官	大島 勉
 将来の宇宙エネルギー伝送用の自由電子レーザーの実験を行ってきている.コンパクトなディスクトロン型静電加速器(1MV,4A,20ns)を用いたスミスパーセル型自由電子レーザによるミリ波発生の実験を行っている.50GHz及び100GHzの発振実験を進めて,発振を確認している.

 月レゴリス中から電波を放出するLUNAR-A/ペネトレータ用のアンテナ
	助教授	斎藤宏文	助 手	市川 満	助 手	水野貴秀
 LUNAR-Aのペネトレータでは,月レゴリス(土壌)中から電波を放射し,母船との間のリレー通信を行う.使用周波数帯はUHF(400/450MHz)を用い,固定型のアンテナをペネトレータ尾部に配置する.月レゴリス誘電体中から電波を放射するアンテナの開発を行っている.

 宇宙プロジェクトのコンパクトなマネージメント方式に関する研究
			助教授	斎藤宏文	創価大学	黒木聖司
 いわゆるNASA方式の巨大で,文書体系に代表される宇宙プロジェクトのマネージメント方式に対する反省に立って,効率的で技術指向型のコンパクトな宇宙プロジェクトの進め方の研究を行っている.宇宙研プロジェクトのコスト調査や,アメリカ,NASA/JPLでのマネージメントスタイルの実地経験を参考に,効率的なマネージメント,コスト,信頼性,新技術・新部品の取り入れ方についての新しい方式を宇宙科学研究所に導入していく.次世代の軽量・高機能の探査機を開発するプロジェクト“STRAIGHT”と,及びピギーバック衛星“INDEX”計画と相携えて,研究を行っている.

 高機能・軽量探査機開発プロジェクト“STRAIGHT”
	教 授	廣澤春任	教 授	中谷一郎	教 授	高野 忠
	教 授	田島道夫	助教授	斎藤宏文	助教授	山本善一
	助教授	橋本正之	助教授	早川 基	助 手	井上浩三郎
	助 手	市川 満	助教授	横山幸嗣	助教授	橋本樹明
	助教授	久保田孝	助 手	水野貴秀	技 官	加藤輝雄
			助 手	三浦 昭	助 手	大西 晃
 M-Vロケットによる本格的な月・惑星探査と,高精度な天文観測を行っていく上で,探査機の高機能化と軽量化は,宇宙科学研究所の最重要課題プロジェクトSTRAIGHT (Study on Reduction of Advanced Instruments Weight)を行っている.探査機の各サブシステム技術の現状をサーベイし,高機能化軽量化のための新規技術を調査した.加えて,探査機のシステム構成に関する見直しを行い,高機能化軽量化のためにあるべき探査機のシステム構成を検討した.ディジタルトランスポンダー,高速RISCプロセッサ,軽量スタートラッカSOI(Silicon On Insulaor)技術を用いた対放射線性電子デバイスの開発,放射率可変素子の開発,リチウムイオン電池の宇宙搭載化の研究,高効率太陽パネルの開発等を行っている.

 ピギーバック衛星INDEXの検討
	教 授	中谷一郎	教 授	小林康徳	助教授	橋本正之
	助教授	斎藤宏文	助教授	久保田孝	助 手	水野貴秀
	助 手	三浦 昭	技 官	大島 勉	技 官	鎌田幸男
	技 官	長木明成	技 官	志田真樹	技 官	太刀川純孝
 ピギーバック衛星とは,重量50kg程度の小型衛星を,H2等の大型ロケットの副次的なペイロードとして打ち上げる衛星である.打ち上げコストはほとんどゼロであり,衛星開発コストは観測ロケット並の4,5億円を目標とする.工学委員会の下に,ピギーバック衛星ワーキンググループが平成9年度から組織され,2002年の打ち上げを目標に,その開発を行っている.大型化した科学衛星計画を補完する意味で,・所内における衛生工学のインハウス技術の確立,・先進的な宇宙工学技術の宇宙実証,・簡便な科学観測手段の確立,を衛星の目的とする.平成9年度の検討により,重量50kgのバイアスモーメンタム3軸姿勢制御方式の衛星の実現が可能であり,約10kgのペイロードが可能である.

 小型・軽量化流体ループによる熱制御システムの開発
	助 手	大西 晃	共同研究学生	安田智明	教 授	廣澤春任
 単相流体ループ熱制御システムの軽量化を目指すハニカム型コールドプレートについて,その伝熱特性を調べた.コールドプレート他から構成される流体ループ系,真空チャンバ,および計測・制御系等からなる実験装置を組み立て,配管構造の異なる2つのタイプのコールドプレートについて,熱量,流量,温度等をパラメータとして,伝熱特性の評価を行った.その結果は,従来のステンレス材料のコールドプレートに比べ,伝熱特性に関しては約20%と劣るが,重量比では約50%と大きな軽量化が図れることを示した.

 ペロブスカイト型Mn酸化物の熱放射特性に関する研究
	助 手	大西 晃	技 官	太刀川純孝	共同研究学生	島崎一紀
					助教授	橋本正之
 強磁性材料であるペロブスカイト構造Mn酸化物を用いて,新しい原理の放射率可変型ラジエータを作ることを目指している.ペロブスカイト型Mn酸化物La0.825Sr0.175MnO3とLa0.7Ca0.3MnO3の放射率を173〜373Kの範囲で測定し,放射率が磁性転移温度を境に急激に変化することを確認した.変化量は,約0.33〜0.37であった.材料の構成比の効き方,鏡面研磨の効果などを調べた.

 グラファイトシートの低温における熱放射特性
	助 手	大西 晃	共同研究学生	長野方星	助教授	橋本正之
 高熱伝導性のグラファイトシートを用いてラジエータを軽量化することを目指している.グラファイトシートの熱拡散率をacカロリメータ法により30〜375Kの範囲で測定し,シートの面内方向や厚み方向の熱拡散率と面内異方性を明らかにした.また,全半球放射率と太陽光吸収率を173〜373Kにおいて測定した.

 衛星搭載型蛍光X線分析計の開発
	教 授	加藤 學	特別研究員	岡田達明	特別共同利用研究員	白井 慶
	共同研究学生	山本幸生	教 授	藤村彰夫	教 授	水谷 仁
			客員教授	常深 博	大阪大・理	北本俊二
 太陽X線は惑星表面の元素を励起し,固有の二次(蛍光)X線を宇宙空間に放出している.そのX線のエネルギーと強度を測定すれば,固体惑星表面の構成元素及び,存在度が明らかになる.X線検出器として次世代のセンサー,CCDを用いた分析計の開発が進行中である.この分析計は,MUSES-C,SELENE計画の衛星に搭載され,リモートセンシングによって小惑星,月の表面の元素分布の測定に用いられる予定である.

 氷の衝突破壊過程及び氷衛星進化の研究
	教 授	加藤 學	助 手	飯島祐一	特別共同利用研究員	白井 慶
			北大・低温研	荒川政彦	特別研究員	比嘉道也
 太陽系初期,固体物質の成長期では衝突現象が支配的であった.しかし,衝突破壊現象は理論的な考察のみで研究が進められる程,現象そのものが明らかになっていない.実証的に衝突破壊過程を明らかにするため内部が透明で破壊現象の進行過程を観察できる氷を用いて衝突破壊現象の研究を行っている.


 岩石中を伝わる衝撃波の挙動について実験研究
	教 授	加藤 學	名大・理	渡邊誠一郎	名大・理	中澤 暁
 衝突による破壊の規模を決定するものは衝突の初期発生圧力,衝撃波の伝搬様式,衝撃圧の減衰である.岩石試料中に圧力ゲージを埋め込み,衝撃圧を測定し,上記のパラメータと破壊規模,様式を明らかにした.

 ノンウォーターアイスの流動特性の研究
	教 授	加藤 學	特別研究員	山下靖幸	特別共同利用研究員	藤波慎司
 外惑星系衛星の主要構成物質は,水氷とメタンや窒素の氷である.これらノンウォターアイス存在が知られているものの,不明の物性が多く,特に氷衛星表面を特徴付ける破壊や流動現象についてはほとんど解明されていない.極低温下でこれら物質の流動特性を測定した結果,極めて柔らかい,流動しやすい物質であることが判明した.氷衛星の物質構成に大きな制約を与えることができた.

 次世代赤外線天文衛星の検討
	助教授	中川貴雄	教 授	奥田治之	教 授	松本敏雄
	教 授	村上 浩	助教授	松原英雄	助 手	金田英宏
	助 手	和田武彦	客員教授	芝井 広	名大・理	川田光伸
	東大・理	尾中 敬	東大・教養	上野宗孝	国立天文台	林 正彦
					国立天文台	田村元秀
 従来の赤外線衛星では,冷媒保持のために,(1)大型の望遠鏡が搭載できない,(2)長時間積分観測ができない,などの欠点があった.そこで,これらの欠点を克服する次世代の赤外線天文衛星の可能性を検討した.この衛星には,以下のような特徴をもたせる.
 (a) 冷媒を用いず,放射と機械式冷凍機により冷却を行い,衛星を軽量化.
 (b) 太陽−地球系のL2点へ衛星を投入することにより,長時間積分を可能に.
これらの特長を活かした赤外線衛星には,従来の衛星に比べてはるかに大きな望遠鏡の搭載が可能になり,赤外線天文学のあらゆる分野において,従来とは質的に異なる画期的な観測が可能になることが期待される.
 平成10年度には,特に以下の検討を行った.
 (a) 「冷媒を用いない冷却系」の技術的可能性の検討
 (b) 衛星システムとしての検討
 (c) 目的に応じた観測機器の検討

 星生成領域の高分解能遠赤外線分光観測
	助教授	中川貴雄	教 授	奥田治之	助 手	金田英宏
	共同研究学生	森本 創	客員教授	芝井 広	インド・タタ研究所	T.N.Rengarajan
	インド・タタ研究所	R.P.Verma	インド・タタ研究所	S.K.Ghosh	インド・タタ研究所	B.Mookerjea
 星生成領域の星間ガスのエネルギー収支を明らかにするために,気球望遠鏡を用いて星生成領域を高分解能分光観測をする計画を進めている.また,この計画は,将来衛星に搭載するセンサーの基礎開発も兼ねている.この計画は,インド・タタ研究所との共同研究であり,センサー,分光器を日本側が用意し,口径1mの気球搭載望遠鏡をインド側が用意している.
 平成10年度には,全ての観測器をインド・ハイデラバードの気球放球基地に運び,組み立て調整を行った.しかし,上空風が気球飛翔に適した状態にならず,実際の観測を行うことはできなかった.平成11年度以降も,継続して観測実験を行う予定である.



p.技術部・観測部

 有機一無機耐熱材料の開発
	技 官	横田力男	航技研	小笠原俊夫	共同研究学生	池田 篤
 有機系高分子材料の使用限界温度は500℃であり,一方ケイ素系材料では1000℃を越える高温まで使用可能となるが脆い.アブレーターやロケットノズルには現在までフェノール樹脂を母材とした繊維強化複合材料が用いられているがその性能は十分ではない.そこでケイ素を含む有機系高分子とポリイミドを始めとした靭性の高い耐熱性高分子とを複合化し,成形性のよい耐熱性新材料を開発する.

 熱可塑性ポリイミド樹脂の開発
	技 官	横田力男	東邦大・理	長谷川匡俊	上海合成樹脂研究所	施 択民
 使用限界温度250℃の熱可塑性耐熱性ポリイミドが開発できれば宇宙機器の耐熱部材の熱シールドに大幅な軽量化が見込まれる.最近中国の上記研究所で開発されたポリイミドの酸無水物をモノマーに用い真に成形性のよい熱可塑性ポリイミドを種々のモノマーとの共重合により開発する.

 付加型ポリイミドの開発
	技 官	横田力男	東邦大・理	長谷川匡俊	共同研究生	山本昌吾
 300℃を超えるガラス温度をもち高温流動性の高い熱硬化性樹脂の開発を目的に非対称酸無水物を用いた新規付加型ポリイミド樹脂の合成に成功した.今年度はニートレジンと複合材料としての基礎物性を取得する.

 GN2コールドガスジェットシステムの開発
			技 官	橋本保成	技 官	志田真樹
 再使用ロケット実験機の3軸姿勢制御を行うGN2コールドガスジェットシステム(SJシステム)の開発を行った.このSJシステムは運用し易いようにユニット化して機体との組立・分離が容易にできるようになっている.

 MPDアークジェットの宇宙飛行用実験機器の整備・維持
	技 官	清水幸夫	助教授	都木恭一郎	教 授	栗木恭一
 スペース・フライヤ・ユニット(SFU)に搭載した電気推進実験(EPEX)は平成8年度に宇宙飛行実験を終え,飛行後の点検・飛行データの解析・成果報告を行った.本格的なパルス型MPDアークジェットの世界初の実験成果であることから,また,その実験装置が再び地上へ帰還し実際に装置を手に取って見ることから,平成9年度・10年度においてもその装置への見学・質問などが数知れない.したがって,これら飛行実験の供した実験装置を整備・維持し,国内外の研究者に広く電気推進機の研究活動を紹介している.

 パルス型電気推進機用真空試験装置を用いた技術開発と装置維持
	技 官	清水幸夫	助教授	都木恭一郎	教 授	栗木恭一
 パルス型電気推進機用真空試験装置は本館7階の電気推進研究部門大実験室(1723室)に設置されている.この装置は直径80cm/長さ2mのステンレス製の真空チャンバーと真空排気系から構成されている.真空排気系は,排気速度毎分7,500リッターのロータリー・ポンプ,排気速度毎分25,000リッターのメカニカル・ブースター・ポンプ,および排気速度毎秒3,700リッターの油拡散ポンプから成り,真空チャンバーの到達真空度は10−4パスカルを確保出来る.油拡散ポンプを除く真空排気系は大実験室の一角をポンプ設置専用室としており,ポンプ運転時に発生する振動・騒音から試験環境を維持できるよう工夫がなされている.この実験装置を用いてパルス型電気推進機の研究と直流型電気推進機の研究が交互に行われている.それぞれの研究項目に係る新しい計測技術や推進機自体の技術開発を行っている.装置の稼働率は高く,真空排気装置にかかる負荷も大きいことからポンプを主体とする定期的な装置維持を行っている.

 MUSES-C用イオンエンジン耐久試験装置の装置維持
	技 官	清水幸夫	助 手	國中 均	助教授	都木恭一郎
					教 授	栗木恭一
 MUSES-C用イオンエンジン耐久試験装置は,特殊実験棟1階の密閉式スタンド実験室(5114室)に設置されている.この装置は,小惑星サンプルリターン計画MUSES-C衛星の惑星間航行用主推進機であるイオンエンジンが,そのミッション要求の18,000時間(丸2年以上)の耐久性能を立証するために平成8年度から本格的に運用されている耐久試験専用真空試験装置である.この装置は内直径2m/長さ5mのステンレス製の主真空チャンバーと,内直径80cm/長さ50cm,内直径80cm/長さ80cmの2つの副真空チャンバー,および真空排気系から構成されている.主たる真空排気系は,4台のクライオ・ポンプで到達真空度は10−4パスカルを確保できる.真空排気の初期に用いられる粗真空排気系やクライオ・ポンプ用ヘリウム冷凍機は専用のポンプ室に設置されており振動・騒音から試験環境を維持する.連続して数年におよぶ耐久試験を行うことが要求されることから,装置の稼働率は極度に高く,真空排気装置にかかる負荷も大きい.法定点検や電力系の点検などの停止時を有効に利用しながら定期的な装置維持を行っている.真空装置の冷却水などの装置維持も欠かせず,研究所の冷却用水道水に含有するミネラル成分が冷却装置に多大な損害を与えることが判明し平成10年度は冷却系を閉回路になるよう設備更新を行い耐久試験の連続性を確保した.

 真空試験装置の移設に伴う装置維持
	技 官	清水幸夫	助教授	都木恭一郎	教 授	栗木恭一
 宇宙推進研究系電気推進工学部門では相模原キャンパスの将来の研究活動を見据えた理由から東京大学先端科学技術センターいわゆる駒場キャンパスに電気推進機開発・研究用の真空装置を残留させてきた.駒場キャンパスの再開発に伴い,平成9年度・10年度にこれら試験装置を特殊実験棟1階低密度風洞室(5112室)に移設・仮設置し,電気推進機の性能試験を行えるよう環境整備を行った.この真空試験装置は,直径1.6m/長さ2.8mのステンレス製の真空チャンバーと真空排気系から構成されている.真空排気系は,排気速度毎分7,500リッターのロータリー・ポンプ,排気速度毎分25,000リッターのメカニカル・ブースター・ポンプ,および排気速度毎秒3,700リッターの油拡散ポンプから成り,真空チャンバーの到達真空度は10−4パスカルを確保できる.油拡散ポンプを除く真空排気系は新たにポンプ設置専用室を真空排気装置と見なして収納し,ポンプ運転時に発生する振動・騒音から試験環境を維持できるよう工夫がなされている.この試験装置を用いてパルス型電気推進機の研究と直流型電気推進機の研究が交互に行われている.それぞれの研究項目に係る新しい計測技術や推進機自体の技術を行っている.平成10年度は電気推進機の性能測定を行い,真空排気装置を主体とする定期的な装置維持を行っている.

 直流型電気推進機の真空試験装置の整備と維持
	技 官	清水幸夫	助 手	船木一幸	助教授	都木恭一郎
					教 授	栗木恭一
 旧熱真空試験に用いられた真空装置の委譲を受け,平成10年度に直流型電気推進機の真空試験装置として使用できるよう装置の整備と維持を行った.この真空装置は特殊実験棟1階低密度風洞室(5112室)に保管されていたものを,直流型電気推進機の性能試験を行えるよう環境整備を行ったものである.この真空試験装置は,直径1.2m/長さ2mのステンレス製の真空チャンバーと真空排気系から構成されている.真空排気系は,排気速度毎分3,000リッターのロータリー・ポンプ,排気速度毎分10,000リッター(推測値)のメカニカル・ブースター・ポンプから成り,真空チャンバーの到達真空度は数パスカルを確保出来る.油拡散ポンプは保持せず,屋外のポンプ設置専用室を真空排気装置と見なして収納し,ポンプ運転時に発生する振動・騒音から試験環境を維持できるよう工夫がなされている.現状ではこの試験措置は直流型電気推進機専用に使用している.また,真空チャンバー中に冷却水導入が出来るよう工夫がされており,平成10年度は予備性能測定を行った.あわせて,真空排気装置を主体とする定期的な装置維持を行っている.

 MUSESE-C/イオンエンジンのためのキセノン推薬充填装置の開発・試験
	技 官	清水幸夫	助 手	國中 均	助教授	都木恭一郎
 MUSES-C/イオンエンジンは小惑星サンプル・リターンの主エンジンとして合計70kgのキセノン推薬の搭載が予定されている.推薬供給系全体の重量を最小にするため,推薬タンクへ充填密度1.4で充填することが求められる.一般にキセノン・ガスは充填密度0.5程度で市場に供給されるため,キセノン充填装置を調達する必要がある.日本では宇宙開発事業団が技術試験衛星にキセノンを充填するため固化充填装置を開発した.しかし,装置の維持管理に膨大な経費が必要となるため,新たに液化充填法による充填装置を開発・製造し,装置を使っての予備試験を行った.また,装置の法的手続きも行い今後の使用を控え,計画的な維持・管理を行っている.

 その他の装置の開発・維持・安全管理の補助
	技 官	清水幸夫	助教授	都木恭一郎	教 授	栗木恭一
 電気推進工学部門ではその他にも直径60cm/長さ1mのステンレス製の小型真空試験装置(排気速度毎秒2,000リッターの油拡散ポンプ,排気速度毎分300リッターの油回転ポンプを装備),パイレックス・ガラス管真空装置などを保持しており,研究活動に供与できるよう点検・維持を行っている.
 また,高電圧/大電流を取り扱うことから日常的に電気に関する安全管理の補助,研究・開発・試験で使用する薬品などの安全管理の補助,高圧ガスに関連する安全管理の補助を行っている.

 誘導型レールガンの開発
			技 官	矢守 章	助教授	佐々木進
 通常のレールガンレールの外側に電流ループを設置して,レール電流と同期して外部電流ループに電流を流す.外部電流ループによる電流の時間変化によって発生した誘導起電力を利用してレール電流の供給を行う.昨年度の基礎実験に続いて,今年度は100kJ程度の実験に必要な機器の製作を行った.

 2段式レールガンの開発
			技 官	矢守 章	助教授	佐々木進
 1段式のレールガンで出せる飛翔体速度には限界があるので,レールガンを2台接続した2段式レールガンの開発を始めた.2段式レールガンにおいては2段目のレールガン動作を確実に行わせる必要があるが,今年度は2段目レールガン動作方法の確立を目標とした実験を行い,その目標を達成させることが出来た.又,1段目と2段目の接続部分には色々工夫が要求されるがそれの設計・製作も完了した.

 エレクトロサーマル型レールガンの開発
			技 官	矢守 章	助教授	佐々木進
 2段式レールガンにおいてその1段目には出来るだけ停電源エネルギーで高速を出せるレールガンが必要とされる.エレクトロサーマル型レールガンは電磁力とガスの圧力で飛翔体を加速させるレールガンで2段式レールガンの1段目に最適なレールガンである.プラズマの熱で水を蒸発させて,発生したガス圧で飛翔体を加速させる方式のエレクトロサーマル型レールガンの開発実験を行った.


 レールガンを使用した科学実験
	技 官	矢守 章	九大・理	村江達士	山口大・理	三浦保範
	航技研	木部勢至朗	阪大・理	山中千博	助教授	佐々木進
 以下に示す科学実験を行った.
1.コロネンの衝撃実験
2.フラーレンの衝撃実験
3.スペースデブリバンパー実験
4.衝突変成新材料実験
5.衝撃圧による炭素物質の構造変化

 電子と分子の衝突断面積の計算
					技 官	田之頭昭徳
 従来の微分断面積の計算方法に対し,散乱振幅を直接計算し,実部および虚部の二乗和を求める新方式のプログラムによりCO2やHCLの計算に応用することでその有効性が確かめられた.

 電子・光子と原子・イオンとの衝突過程に関するデータベース化
					技 官	田之頭昭徳
 電子・光子とイオンを含む原子との衝突断面積について広範囲,高信頼度のデータベースを国際協力により作成する作業が進められている.
 対象となる衝突過程を3系統に分けデータベース化する準備を行った.
 1)光子と中性原子の相互作用における光イオン化,再結合など.
 2)電子と原子イオンの衝突における励起,イオン化,再結合など.
 3)電子と中性子原子の衝突における全散乱,弾性および運動量移行の断面積,励起,イオン化.

 機械環境試験の実施
					技 官	平田安弘
 科学衛星や観測ロッケトの飛翔前試験の一環として実施される噛み合わせ試験の中で,機械環境試験装置の運転操作を行い供試体の健全性を確認している.
 試験装置にはロケットが打ち上げられる際の点火・燃焼・切り離し等により発生する加速度・振動・衝撃・音響等をシュミレートするものとして,大型振動試験装置をはじめ高低周波衝撃試験装置および慣性諸量測定装置等があり,これらの装置を用いて衛星および観測機器のモデルや実機に対し諸試験を行っている.
 前年度の主な試験として,MロケットではM-V-3号機の機体搭載機器の一部について,観測ロケットではMT-135-68,69号機とS-310-28号機またその他衛星機器としてASTRO-FおよびSELENEについて行った.

 タイマ点火系機器の開発と打ち上げ管制
			技 官	中部博雄	技 官	相原賢二
 将来のM-V型タイマシステムの簡素化に向け,小型の点火電源スイッチや半導体リレー等の基礎開発試験を実施している.
 観測ロケット,M-V型ロケット機体と人工衛星搭載のタイマ機器の仕様を決定し,相模原の噛合わせ試験に於いてタイマ機器の動作試験と点検,及び他機器とのインターフェースを確認している.
 KSCでは,タイマ機器の最終動作確認と点検,打ち上げ迄の点火管制,及び飛翔時はタイマ機器からのシーケンスを監視している.また,点火タイマ管制装置等を含む地上系の保守点検を実施している.

 温度計測システムの研究
			技 官	中部博雄	技 官	相原賢二
 NTCやあきる野実験施設における固体ロケットモータの燃焼実験時に,モータケースやノズル,及び設備系の温度計測,データ解析等を実施している.

 映像記録班
	技 官	新倉克比古	技 官	杉山吉昭	技 官	前山勝則
 観測ロケット,人工衛星,大気球を利用した本所の特別事業に基礎開発時から参加して,実験時のデータや映像資料の作成を映像技術によって担当する.従って,地上燃焼試験時や打上げ実験時には映像記録班員として参加して,実験過程を詳細に記録撮影し,研究に直結した映像資料の作成にあたる.また,今後の研究開発に向けた利用者の要望に即応できるよう,それらの映像資料を保存管理する.平成10年度は,M-V-3(のぞみ)飛翔実験,MT-135-68,69号機飛翔実験,S-310-28号機飛翔実験,大気球実験(3シリーズ)などの映像資料を完成させた.ちなみに,現在保存管理している記録写真は,ネガ保存アルバム2480冊,フィルムにして約50万駒(平成10年10月現在)である.

 モータケース検査
					技 官	吉田邦子
 信頼性管理の一貫として,開発途上のロケットを除き観測機S-520,SS-520,S-310,MT-135の構造班の分野であるモータケースの耐圧試験および寸法検査の立会いを行っている.

 モータケース図面管理
					技 官	吉田邦子
 構造班の範疇である図面,ロケットモータケースの図面(昭和33年から),尾翼に関する図面およびK,L,M型ランチャの図面を管理している.

 文書記録班
	技 官	富田 悦	技 官	吉田邦子	技 官	三宅多美子
 打ち上げロケット(M-V型,S-520,SS-520,S-310,MT-135)の仮組立作業から飛翔前試験,打ち上げ実験に至る一連の作業の作業記録及び射場に於ける作業管制と地上燃焼実験施設(能代ロケット実験場,あきる野施設)で行われる各種実験の作業記録及び作業管制を行っている.
 その他,作業期間中に発生した不具合事項又は要処置事項のとりまとめ・記録及びその後の進捗管理を行っている.