.研 究 活 動

1.総 合 研 究

科学衛星及び観測ロケットによる宇宙科学研究
 我が国の宇宙観測事業は1955年東京大学生産技術研究所で始められたペンシルロケットの開発に端を発する.同事業は1964年に新設された東京大学宇宙航空研究所に引き継がれ,さらに15年後の1981年全国大学共同利用機関として発足した宇宙科学研究所がこれを引き継ぎ発展させて今日に至っている.
 ペンシルロケットは1957年から始まった国際地球観測年(IGY)では電離層の観測に応用されるまでに発展し,1970年には我が国初の人工衛星「おおすみ」の打上げに成功した.「おおすみ」打上げから現在に至る29年間に25機の衛星,探査機を打ち上げてきた.1986年には国際ハレー彗星観測計画に参加し「さきがけ」,「すいせい」をハレー彗星と会合させることに成功し,我が国の宇宙科学が米国,ソ連(当時),欧州と並んで世界の舞台で認められる契機を作った.ハレー彗星探査を機に開発されたM-3S-U型ロケットはその後の我が国の科学衛星の質を格段に向上させた.例えば,1987年の「ぎんが」,1993年の「あすか」はX線天文学の分野で,1989年の「あけぼの」は極域現象の観測で,また1991年の「ようこう」は太陽物理学の分野でそれぞれ世界をリードする成果を上げ我が国の宇宙科学の地位を確かなものにした.これらの実績を背景に,1992年には米国と共同で「ジオテイル」衛星を打ち上げ1990年打上げの工学試験衛星「ひてん」で実証した二重月スウィングバイ技術を適用して磁気圏尾部の本格的観測を実現し大きな成果を上げた.また,宇宙開発事業団,通産省と共同で開発した多目的宇宙実験用プラットフォーム(SFU)を1995年にはH-U型ロケットで打ち上げ,赤外線による天文観測,宇宙工学実験等に大きな成果を上げ1996年にはスペースシャトルにより回収することに成功した.
 一方,月・惑星の研究グループからの強い要請もあってさらに大型のロケットM-V型の開発が進められてきたが,1997年にはスペースVLBI用の大型展開アンテナを搭載した「はるか」衛星を軌道に上げ,初の宇宙VLBIの実現に成功した.翌,1998年には火星探査機「のぞみ」が打ち上げられ,これに続く「LUNAR-A」,「MUSES-C」さらには宇宙開発事業団等と共同で準備中の「SELENE」と並んで我が国の宇宙科学も月・惑星探査へと大きなステップを踏み出そうとしている.M-Vの実現は天文衛星にも更に大きな前進をもたらしつつあり,2000年初頭打上げ予定のX線天文衛星「ASTRO-E」,我が国初の本格的赤外線天文衛星「ASTRO-F」,さらには次期太陽観測衛星「SOLAR-B」と世界の先端を走る衛星群を生み出しつつある.
 観測ロケット実験は衛星や探査機計画に比して迅速に観測を実現できる長所を持っている.この長所を生かして例年数機のロケット実験が実施されているが打ち上げ場も鹿児島宇宙空間観測所のほかノルウエーのアンドーヤ実験場等も必要に応じて使用されている.1996年に実施された「SEEK」実験等に見られるように大きな科学成果を生み出している.
 我が国の宇宙科学事業は90にあまる研究機関と300人を上回る研究者の主体的な参加に基礎を置いて発展して現在に至っている.科学観測計画は全国の宇宙科学研究者からの提案を宇宙理学委員会で審議し決定する手順が取られている.宇宙理学委員会は研究所内外それぞれ半数ずつの研究者からなる委員で構成されており,計画の審議のみならず,実行経過,成果についての評価も行われている.さらに,我が国の宇宙科学が適正な方向性をもって発展するよう宇宙科学の長期計画についても同委員会で適時検討が行われている.
 現在では,我が国のほんとんどすべての衛星,観測ロケット,大気球観測計画は何らかの国際協力を含んでいる.先に述べた国際ハレー彗星観測計画をはじめ国際磁気圏観測計画,国際太陽観測計画等の大きな国際的な枠組みの一角を担う国際協力から外国の研究者との共同研究によって搭載機器を開発するものまでさまざまな形態の国際協力が進行している.先に述べた「ジオテイル」衛星では米国が打ち上げロケットと観測機の一部を提供し我が国が衛星を開発した.また,欧州が打ち上げた赤外線宇宙天文台(ISO)計画では米国(NASA)と共同で第2受信局の支援を行い観測研究に参加した.本年度打ち上げた「のぞみ」には米国をはじめとする5ヵ国からの搭載機器を受け入れている他,他の火星探査機との共同運営等の協力も進もうとしている.
 現在,宇宙科学の分野において運用または開発中の主なプロジェクトの研究活動は以下の通りである.
 運  用
 試験惑星探査機(MS-T5)
 日本初の惑星探査機「さきがけ」は,1985年1月8日M-3SII-1号機によって打ち上げられ,1986年3月11日ハレー彗星に700万kmまで接近した後も,地球近傍における惑星間空間の磁場,プラズマ波動および太陽風の観測を続けてきた.しかし1999年2月にはビーコン電波の受信も困難となり,探査機を見失う可能性もあり,さらにRCS燃料もほとんど枯渇して太陽輻射による探査機の姿勢変動を修正することも不可能になるために,1999年1月8日をもって,「さきがけ」の電波送信を停止して,14年間にわたる運用を終了した.
担当機関:46   (担当機関の引用数字はP22〜23参照)

 第12号科学衛星(EXOS-D)
 極地方の夜空を彩るオーロラは,磁気圏と電離圏とを結び付けるメカニズムの一つとして重要であると考えられてきた.オーロラの発光に寄与しているのは数キロから数十キロ電子ボルトに加速された電子であるがこの加速のメカニズムの解明を目的に計画され打ち上げられたのが第12号衛星(EXOS-D,あけぼの)である.遠地点高度10,500 km,近地点高度275 km,軌道傾斜角75度の軌道に1989年2月に投入され現在まで10年余りにわたって観測を続けている.当初の主テーマであったオーロラ粒子の加速機構の解明に加え,極域からの重イオンの宇宙空間への流出,赤道上空に局在したプラズマ波動の強化,プラズマ圏の構造,放射線帯粒子の研究等に重要な貢献をした.この衛星には磁場,電場,プラズマ計測関連の7個の計測器のほかにオーロラ撮像,放射線モニターが搭載されている.東北大学,東京大学,京都大学をはじめ多数の大学の研究者,大学院学生がプロジェクトに参加して,衛星の運用,データ処理に当っている.また,国立極地研究所は南極昭和基地の衛星受信設備を運用して貴重な南半球極域データの取得を行っている.国外ではカナダの研究グループが参加しており,搭載機器の提供のほかにカナダ国内の衛星受信局におけるデータ受信を行って北半球での受信率の向上に寄与している.最近では,ISTP計画の実現によりGEOTAIL衛星を始め多数の衛星が磁気圏の各所に配備されて来た,これらの衛星との共同観測を始め,日本も参加している北極圏のEISCATとの共同観測も精力的に進められており,今後も味衛星の重要な寄与が期待されている.
担当機関・大学:01,02,04,07,10,11,13,14,15,19,22,24,27,30,37,46,70,71,155

 第14号科学衛星(SOLAR-A)
 第14号科学衛星「ようこう」(SOLAR-A)は前回の太陽活動極大期である1991年8月30日に打ち上げられた.以来7年以上にわたり順調に観測を続けている.この衛星は太陽の高温コロナと,そこで発生するフレア等の高エネルギー現象を観測することを目的とし,合計4種類の観測装置を搭載している.軟X線望遠鏡は日米協力により製作され,0.1-3keVのエネルギー帯を角分解能約3秒角で撮像する.硬X線望遠鏡はフーリエ合成型の「すだれコリメータ」を用いたもので10-100keVのエネルギー帯を4バンドに分け約5秒角の角分解能で撮像する.このほかエネルギースペクトルを観測する装置としてブラッグ結晶分光計(日英米協力により製作)と,広帯域X線ガンマ線分光計が搭載されている.これらの観測装置によるデータは全体として総合的に解析され,高エネルギー現象の研究が進められている.軟X線望遠鏡はこれまでに既に350万枚以上の鮮明なX線像を撮像,太陽コロナの激しく変動する姿を明らかにした.また,この間1000個以上のフレアが全ての観測器により捉えられ,その形状とスペクトルの変化が詳しく解析された.その結果,太陽フレアの発生機構,高温プラズマと磁場の相互作用などに関して多くの研究成果があげられた.観測データは広く世界の研究者に提供され,多くの国際協力研究が行われている.現在太陽活動は極小期を過ぎ,2000年代の始めと予想される次の極大期に向かっている.今後も長期にわたる連続観測が期待される.
担当機関:01,02,04,05,09,11,14,26,44,49,55,65,72,75,90,91,92,93,94,95,151,152,153,156,157,158,159,160,161,162,163,164,165,166,167,168,169,170,171,172,173,174,175
 磁気圏観測衛星(GEOTAIL)
 磁気圏観測衛星ジオテイル(GEOTAIL)は,1992年7月24日に米国フロリダ州ケープカナベラルからデルタ−IIロケットで打ち上げられた日米共同プロジェクトの衛星である.その研究目的は地球磁気圏尾部の構造とダイナミックスおよび磁気圏の高温プラズマの起源と加熱・加速過程を明らかにすることであり,特有の軌道計画が実行された.即ち,94年11月までの2年余りの期間は,月との2重スウィングバイ技術などを駆使してアポジーが常に磁気圏尾部に来るように制御され,210Reまでの広範な磁気圏尾部をくまなく監査した.その後,磁気圏サブストームなどの研究のため,アポジーを30Reに下げて現在に至っている.なお,ペリジーは9−10Reで,この近地球軌道は昼間側の磁気圏境界面や前面衝撃波とその上流域などの観測にも適したものになっている.
 搭載されている観測装置としては,日米双方から合計7個,即ち,磁場計測装置,電場計測装置,2組(日米各1組)のプラズマ計測装置,2組(日米各1組)の高エネルギー粒子計測装置およびプラズマ波動観測装置がある.日本側が主任研究者の観測装置にも部分的に米国NASAから提供されたものも含まれているので,観測装置の約1/3が米国製,残りの2/3が日本製である.さらに,日本製の観測装置にはヨーロッパ(ドイツ,ESA)提供のものも一部に含まれている.日本側の観測装置は,宇宙科学研究所を中心に,東京大学,京都大学,早稲田大学,立教大学,名古屋大学,金沢大学,富山県立大学,愛媛大学等の研究者の協力のもとに開発された.衛星運用やデータ解析には観測装置開発に携わったメンバー以外も多数参加し,数々の研究成果が得られている.これまでに出版されたGEOTAIL関連の原著論文数は約300編(外国人の筆頭著者も含む)である.
 打ち上げ後6年半を経過したが,(当初からの計画に従って)衛星の運用管制は宇宙科学研究所が責任をもち,データ受信は日米双方で順調に行われている.米国JPL/DSNで受信されるデータ(搭載のデータレコーダーに記録された24時間連続データ)はNASAゴダード宇宙飛行センターで一次処理され,そのKeyParameter Dataは世界の研究者に公開されている.又,高時間分解能のプラズマ及び磁場データは宇宙研ホームページのDARTSで一般公開されている.又,IACGにおける協議を軸に,米国のウインド,ポーラーの両衛星,ロシアのインターポール衛星等とのISTP共同観測も精力的に行われている.
担当機関:02,04,08,09,10,11,13,14,15,19,22,30,33,34,37,41,44,54,56,70,82,152,163,172,176,177,178,179,180,181,182,183

 第15号科学衛星(ASTRO-D)
 第15号科学衛星「あすか」(ASTRO-D)は,1993年2月20日に打ち上げられたわが国4番目のX線天文衛星である.搭載観測装置は,宇宙科学研究所を中心に,東京大学・理化学研究所・名古屋大学・大阪大学等の国内の機関・大学,および,NASAゴダード字宙飛行センター・マサチューセッツ工科大学等の米国の機関・大学と協力して進められた.平成10年度中には,打上げ以来6年の年月を経過することになったが,大きな問題もなく順調に観測を続けている.現在,日米を中心とする世界の研究者からの観測申し込みに基づく一般公募観測が行われており,今年度には第7回目の観測申し込みを受け付けた.一般公募観測では,全観測時間の5%を観測所時間(観測装置の定期的な較正等に使われる)として保留したあと,残りの時間を日本占有時間50%/米国占有時間15%/日米共同観測25%/日欧共同観測10%の割合で各公募観測に割り当てられている.平均1日1ターゲットの割合で観測が続けられており,その日々の運用は全国の関係機関・大学の研究者の協力のもとで行われている.データの受信,欧米の研究者へのデータの配布等にはNASAの協力も得ている.今年度も,のべ300をこえる各種X線源が観測され,数々の成果が得られた.これらのデータ解析にも全国の関係機関・大学の研究者が参加している.
担当機関:02,04,08,10,14,32,35,40,47,57,73,74,152,184,185

 第16号科学衛星(MUSES-B)
 第16号科学衛星(MUSES-B)は,スペースVLBIに必要な各種工学実験をおこない,その後,世界との共同により,スペースVLBI観測をおこなうものである.MUSES-Bは平成9年2月12日打ち上げに成功.「はるか」と命名され,近地点引き上げにより観測軌道に入った後,8mアンテナの副鏡,主鏡展開を2月28日に完了し,搭載観測系のチェックの後,臼田10 mテレメトリー局との電波天文用2-wayリンクに成功した(3月20日).
 初の「はるか」と地上電波望遠鏡とのスペースVLBI観測干渉実験は5月7日に成功した.引き続き,初の撮像実験により,観測,データの相関・合成を行い,電波画像づくりに成功した.
 1.6 GHz,5GHz帯では,望遠鏡総合感度(G/T)は所期の性能を実現している.22 GHz帯は,フィードと受信器間に損失がある.このため,22 GHz帯は,試験観測とする.1.6 GHz,5GHz帯では,科学観測がほとんどを占めている.
 活動的な銀河核の形態を観測して,巨大ブラックホールが源と見られるプラズマの飛び出し,ジェットの形成と消長,偏波観測による磁場との関連,これらの時間変化による形態の変化を明らかにし,このメカニズムを解明する.すでに,300をこえる観測がおこなわれた.
担当機関:01,02,05,75,76,155,163,186,187,188,189,190,191

第18号科学衛星(PLANET-B)
 第18号衛星(PLANET-B)は1992年に開発がはじまり,1998年7月4日に地球を周回する軌道に打ち上げられ「のぞみ」と命名された.この後,同年12月に地球軌道を離脱,1999年10月に火星に到着する予定であったが,地球軌道離脱時のエンジン不調により火星軌道投入は2004年1月に延期された.火星到着後,近火点高度150 km,遠火点距離15火星半径の長楕円軌道に投入される.PLANET-Bの科学目的は火星上層大気の構造・組成・運動を調べることであるが,特に重点を置いていることは,火星大気と太陽風の相互作用とその結果として起きる火星大気の宇宙空間への散逸を調べることである.PLANET-Bは我が国の惑星探査機のさきがけとして惑星探査に必須となる様々な基礎技術を開発して実証していくという役割も持っている.機器の軽量化,探査機の自律制御,長遠距離通信等の技術開発である.
 PLANET-Bには14の機器が搭載されているが,国内の大気研究者,プラズマ研究者,固体惑星の研究者が機器の開発に当ってきた.また,このうち5個の機器は米国,カナダ,ドイツ,スウェーデン,フランスとの協力によって開発が行われた.
担当機関:01,02,04,07,10,11,13,14,15,22,24,27,29,30,33,46,56,65,70,71,152,155,194,195,196

 開  発
 第17号科学衛星(LUNAR-A)
 第17号科学衛星(LUNAR-A)は,月震計及び熱流計を搭載したペネトレータを月面に貫入させ,月震及び熱流率を計測する事により月の起源及びその後の進化に関する知見を得る事を目的に計画が進められて来た.ペネトレータに搭載される電池部以外のコンポネントに関しては,能代,神岡鉱山に於る貫入試験によりその耐衝撃性が確認されて来たが,電池部に関しては平成10年5月にアメリカ合衆国エネルギー省のサンディア国立研究所で貫入試験を実施し,コンポネント認定試験を終了した.
 本結果に基きフライトモデルと同じ構成又,同じ工程で製作されたペネトレータの認定試験が平成10年12月上記サンディア国立研究所で実施された.その結果,各コンポネントを固着しているエポキシ樹脂のポッティング材にクラックが発生し,月震計,熱流計等の観測機器を管理する計測回路部の電子機器を破損している事が発見された.
 本不具合に関しては,その後所外の専門家に参画を依頼してポッティング検討委員会が設置され,原因,対策,試験確認方法及びスケジュールが検討された.その結果,平成14年度打上げを目指して今後研究開発を進める事とした.
 なお,母船に関しては平成10年10月から総合試験を実施し,平成11年3月末に終了している.従って,ペネトレータの完成を待ち再度インタフェース試験を実施して打上に臨む事とする.
担当機関:02,04,10,66,71,88,89,192,193
第19号科学衛星(ASTRO-E)
 第19号科学衛星ASTRO-Eは,平成11年度に打上げが予定されている我が国5番目のX線天文衛星である.広い波長帯にわたってすぐれた分光性能をもつ大型高性能X線天文台となる.ASTRO-E衛星には,現在運用中のX線天文衛星「あすか」の性能をさらに向上させたX線反射望遠鏡,その焦点面におかれる高精度X線分光装置とX線CCDカメラ,これら軟X線望遠鏡と同時に各X線源からの硬X線をこれまでにない感度で観測する硬X線検出器が搭載される.X線反射望遠鏡,高精度X線分光装置は,日米協力により開発される.高精度X線分光装置はこれまでにないすぐれたX線分光能力を持ち,国際的に特に大きな期待を受けている.冷媒を用いて極低温で動作させる必要があるため,冷媒を収納する大型のデュワーを搭載する.また,望遠鏡の焦点距離をできるだけ長くとるために,「あすか」のものをさらにスケールアップした伸展式の光学ベンチが用意される.これらの大型構造物により,重量1600 kgをこえる,宇宙科学研究所としてはこれまでにない大型衛星となる.また,これまでにない大量のデータを処理をするデータ処理系,大量のデータを地上に送るための高伝送レートの通信系,初期のペリジーアップを含めた高精度の姿勢軌道制御系,大型の観測装置に対応した電源系等も新しい開発項目となっている.平成10年度には,フライトモデルの製作が進められ,一次噛合せ試験が実施された.観測装置の開発は,宇宙科学研究所を中心に,東京大学・東京都立大学・名古屋大学・京都大学蜊繿蜉w等の国内の関係機関・大学およびNASAゴダード宇宙飛行センター・マサチューセッツ工科大学等の米国の機関・大学と協力して進められている.また,ASTRO-Eの科学的成果を最大限に引き出すための日欧米の研究者による科学的作業グループの活動も進められている.
担当機関:02,04,08,10,14,40,57,73,152,184,197

第20号科学衛星(MUSES-C)
 MUSES-Cは工学実験衛星シリーズの3機目として,今後の太陽系探査において重要となる目標天体からのサンプル回収ミッションに必要な技術の修得と実証を目的としており,平成14年度の打ち上げを目標に平成8年度から開発に着手している.MUSES-Cは小惑星1989 MLを目標天体としており,
 太陽系探査機用主推進系としての電気推進系(運用時間が15,000時間を越えるイオン・エンジン・システム)
 自律航法(小惑星への接近・ランデヴー・着陸における自律的誘導制御)
 サンプリング技術(小惑星表面からの資料採取,収納,密閉)
 脱出速度以上の超高速による地球大気圏再突入技術
 等が具体的な実験目的である.更にMUSES-Cは上記工学実験に加え,CCDカメラ,X線スペクトロメータ,赤外分光計,LIDAR等による小惑星のその場観測を行う予定である.
 なお,MUSES-Cは国内各大学,研究機関との協力のみならず,米国NASAとの密接な協力によって進められている.これには,DSNによる追跡支援,JPL開発の超小型ローバーの搭載,再突入カプセルのARCにおける試験,カプセルの米国内での回収,各科学観測に関する日米協力等が含まれている.
 平成10年度は試作・試験の第3年次として,探査機の設計を確定し,試作(PM)を行うとともに各重要要素技術の開発を行った.
 観測機器に関しては,小惑星表面からのサンプル採取装置の開発を行っている.これは小惑星の表面に発射器で小弾丸を衝突させ,破片として舞い上がってくるサンプルを長い円錐状の筒(ホーン)の中を通して小容積のサンプル容器に誘導し,地球帰還カプセル内に搬送収納するものである.今年度は各部の詳細設計を行うとともに,装置が小惑星に接触する時のダイナミックシュミレーションを行った.
 また科学観測専用の機器として近赤外線分光器とX線スペクトロメーターの開発を行っている.さらにこの計画によって持ち帰られるであろうサンプルの処理,分析,およびミッション全期間を通じての汚染対策の検討を行っている.
 探査機に航法上の機器として搭載されるカメラとライダーは科学観測にも利用される.そのために必要なハードウエアオプションの開発と観測計画の策定を行っている.
担当機関:01,02,04,05,06,10,13,14,18,20,24,29,34,70,77,78,79,80,81,82,83,84,85,86,151,154,163,184,198

第21号科学衛星(ASTRO-F)
 第21号科学衛星ASTRO-Fは,平成15年度に打上げが予定されていろ我が国で初めての赤外線観測衛星である.平成7年には小型宇宙プラットフォームによって軌道赤外線望遠鏡(IRTS〉が打ち上げられ,4週間という短期間ではあったが,銀河系内外の拡散状赤外線放射の観測に成功した.この実験的な観測で得られた技術と経験を生かして,本格的な赤外線観測衛星として計画されたのがASTRO-Fである.ASTRO-Fは液体ヘリウムで冷却された口径70 cmの望遠鏡を搭載し,焦点部には,近赤外線,中間赤外線カメラと遠赤外線スキャナーを備え,広い波長域(2-200μm)にわたる赤外線サーベイ観測をすることを主目的としている.これによって,宇宙の始まりに星や銀河がどのように生まれ進化してきたか,また,銀河系の中で星がどのようにして生まれたか,さらに太陽系以外の惑星系が存在するかどうかなど,天文学研究の最重要課題の解明を目指すものである.そのため,大規模赤外線アレイを使った,近赤外,中間赤外カメラを用意し,また,遠赤外域でも,国内で開発した高感度検出器の多素子リニアアレイを利用することによって,従来の観測に比べて桁違いに高い検出能力を備えた装置になっている.また,観測天体の実体をよりよく理解するために必要な分光的な情報を得るため,簡単な分光器(近,中間赤外グリズム,遠赤外フーリエ分光器)も備えている.一方,冷却系には2段のStirling冷凍機を取り入れ,軽量でありながら,大型望遠鏡の搭載を可能にし,また,液体ヘリウムの長寿命化を実現している.これによって,総重量を約960 kgに押さえ,M-Vロケットによって太陽同期の極軌道に投入できるものになった.この衛星は,極低温冷却に加えて,最高1秒角という高角分解能をめざし,また,データ量も膨大なものになるということで,姿勢制御系,通信系,データ処理系などに技術的な飛躍が求められている.衛星,望遠鏡,観測機器の開発には宇宙科学研究所を中心にして,名古屋大学,東京大学,国立天文台,通信総合研究所等のグル一プが参加して進められている.また,遠赤外分光器の開発,観測データの解析などにおいては日米協力の可能性の検討も行われている.
担当機関:01,02,03,04,05,06,10,14,151,152

平成10年度観測ロケット・科学衛星
	ロケット	発射年月日	到達高度	    目   的	担当機関	  備   考
		時分	(km)
	M-V-3	10. 7. 4	近        350	第18号科学衛星PLANET-B		鹿児島宇宙空間観測所
		 3 : 12	遠 586,000	の打上げ
	MT-135-68	10. 9. 7	56.7	オゾンの観測	02.04.68	鹿児島宇宙空間観測所
		11 : 00		
	MT-135-69	10. 9. 8	57.6	オゾンの観測	02.04.68	鹿児島宇宙空間観測所
		11 : 00		
	S-310-28	11. 2. 2	184	RFレーダサウンダーを用	02.04	鹿児島宇宙空間観測所
		10 : 30		いた能動実験等


 科学衛星打上げ及び観測ロケットの研究
 昭和30年以来東京大学生産技術研究所で行われていた観測ロケットの研究開発と,これによる宇宙観測は,昭和39年東京大学宇宙航空研究所に移され,その後科学衛星と大気球の計画を加えた宇宙観測特別事業として各種専門委員会による研究・開発の計画立案と実施により多大の成果を挙げて来た.さらに,同事業は,昭和56年東京大学宇宙航空研究所を発展的に改組して発足した文部省直轄の宇宙科学研究所に引き継がれて,今日に至っている.これに伴い,研究施設としての鹿児島宇宙空間観測所(KSC),能代ロケット実験場(NTC),三陸大気球観測所(SBC),宇宙科学資料解析センター(SDAC)は,すべて東京大学から宇宙科学研究所に移管された.特に,本所において開発されたミューロケットは逐次改良を重ねつつ,年1機の科学衛星打上げを通じて,宇宙科学研究の支柱となっている.KSCにおけるロケットの打上げ実験は,漁業問題による昭和42年4月から約1年半にわたる休止期間以降,夏期(8,9月)及び冬期(1,2月)の2期に行われてきたが,平成9年度に打ち上げ期間の拡大が図られた.
 平成2年度からは,新世代ミューロケットM-V型の研究開発が開始された.M-V型は,M-3SIIまでの逐次改良による性能向上と異なり,1990年中期以降における科学探査の要請に答えるべく,全段新規設計になるより大規模の新機体である.M-V型は,補助ブースタを廃した純然たる3段式固体ロケットで,直径2.5m,全長31m,全備重量は139トンとM-3SII型の約2倍,その衛星打上げ能力は低地球軌道に約1.8トンに達する.M-V-1号機の飛しょう実験は,スペースVLBI実験衛星である第16号科学衛星MUSES-Bを搭載して,平成9年2月12日に成功裡に行われた.平成10年7月4日には,M-V-3号機によって火星探査機である第18号科学衛星PLANET-Bを打ち上げ,同年12月20日火星遷移軌道に投入した.なお,2号機は平成14年度打上げを目標に月ペネトレータを搭載した第17号科学衛星LUNAR-Aを,4号機は平成11年度X線天文衛星である第19号科学衛星ASTRO-Eを,5号機は平成14年度に小惑星探査機である第20号科学衛星MUSES-Cを,6号機は赤外天文衛星である第21号科学衛星ASTRO-Fを,7号機は太陽観測衛星である第22号科学衛星SOLAR-Bを打ち上げる予定である.
 一方,観測ロケットの分野においては,単段式のMT-135,S-310,S-520の3機種が活躍している.S-520には精密姿勢制御装置内蔵回収部が搭載可能で,精密な天文観測に用いられる.なお,南極基地からはS-310が,ノルウエーのアンドーヤ基地からもS-310,S-520が打ち上げられている.さらに平成9年度には高度1,000 kmへの到達能力を有する2段式観測ロケットSS-520が完成し,1号機の打ち上げに成功した.

観 測 ロ ケ ッ ト
ロケット	直 径	長 さ	重 量	段 数	観測機器	高 度
	(mm)	(m)	(kg)		(kg)	(km)
MT-135	135	3.3	68.5	1	29	60
S-310	310	7.1	700	1	70	190
S-520	520	8.0	2100	1	70/150	430/350
バイパー	114	3.5	43	1	6	110
SS-520	520	9.7	2500	2	65	1,000

科学衛星打上げ用ロケット
	直 径	長 さ	重 量	段 数	打上げ能力
	(mm)	(m)	(ton)		(kg)
M-V	2500	30.7	139.0	3	1800

 大気球による科学観測
 大気球を用いた科学観測事業は,昭和41年に東京大学宇宙航空研究所に気球工学部門が創設され,ロケット,衛星と並ぶ宇宙観測事業として活動を開始し,昭和56年の宇宙科学研究所への改組後も引き続き実施している.当初は,茨城県大洋村,福島県原の町より放球していたが,昭和46年に岩手県三陸町に恒久基地を開設し,以後ここで定常的に気球実験を進め,今日までに320機以上の大気球を放球している.同時に,アメリカ,インド,オーストラリア,インドネシア,ブラジル,ノルウェー,カナダ,ロシア等での海外気球実験を併せて推進してきた.また,鹿児島県内之浦町より中国上海・南京方向に気球を飛ばす大洋横断気球実験,及び国立極地研究所と協力し,南極昭和基地より放球し南極大陸を一周させる南極周回気球実験も行った.
 平成10年度の大気球実験は以下の表に示すように平成10年5月に第1次実験,8月から9月に第2次実験,平成11年1月に第3次実験を三陸大気球観測所で実施した.各期の放球機数はそれぞれ3機,4機,1機であった.科学観測としては,高エネルギー一次電子観測,シンチファイバーによる電子観測,成層圏大気のクライオサンプリング,成層圏オゾンの観測,銀河赤外線の観測であり,銀河赤外線の観測以外は全て成功した.気球工学の実験としては,新しいフィルム素材(エバール)を用いたゼロプレッシャー気球の飛翔性能試験を行い,初めて水平浮遊状態に入れることに成功した.また,工学実験としては,MUSES-C搭載予定の小型カプセルの回収のためのパラシュート開傘実験が行われ,このカプセル開発における重要な工学的課題の検証がなされた.
 海外での気球実験としては,昨年に引き続き,高度40km以上までの北極域オゾン濃度観測が高高度気球を用い,国立極地研究所およびドイツのアルフレッドウエーゲナー研究所と共同でノルウェーのスピッツベルゲンで8月に実施された.また,本年度で6回目となる超伝導スペクトロメーターによる宇宙線中の反物質の探査が7月にカナダのリンレークで行われた.気球は22時間飛翔し,観測器は回収された.この間観測器は完全に動作し,約470個の反陽子を検出した.今回は,検出器の改良により反陽子識別エネルギー領域が0.175〜4GeVとなり,二次起源反陽子スペクトルのピークを完全にカバーできるようになった.同時に,宇宙線のスペクトルも高精度で観測され,太陽活動による強度変化の研究に良いデータが得られた.南極昭和基地に於いては,平成11年1月に国立極地圏研究所が成層圏大気のグラブサンプリングを行ったが,この計画に協力し,成功を収めた.
担 当 機 関
01 郵政省通信総合研究所
02 宇宙科学研究所
03 東京大学大学院総合文化研究科・教養学部
04 東京大学大学院理学系研究科・理学部
05 国立天文台
06 筑波大学
07 東海大学航空宇宙学科
08 理化学研究所
09 立教大学理学部
10 名古屋大学大学院理学研究科・理学部
11 名古屋大学太陽地球環境研究所
12 岐阜大学教養学部
13 京都大学大学院工学研究科・工学部
14 京都大学大学院理学研究科・理学部
15 京都大学超高層電波研究センター
16 大阪市立大学工学部
17 大阪市立大学原子力研究所
18 大阪大学工学部
19 神戸大学工学部
20 東京大学大学院工学系研究科・工学部
21 東京大学宇宙線研究所
22 国立極地研究所
23 機械技術研究所
24 東北大学理学研究科・理学部
25 大阪市立大学理学部
26 国立天文台乗鞍コロナ観測所
27 電気通信大学
28 東京大学物性研究所
29 神戸大学理学部
30 金沢大学工学部
31 青山学院大学理工学部
32 神奈川大学工学部
33 早稲田大学理工学研究所
34 九州大学理学部
35 宮崎大学工学部
36 東京農工大学
37 玉川大学
38 高エネルギー加速器研究機構
39 宇都宮大学
40 大阪大学大学院理学研究科・理学部
41 京都産業大学
42 甲南大学理学部
43 京都教育大学
44 茨城大学
45 気象庁地磁気観測所
46 東北工業大学
47 岩手大学
48 郵政省通信総合研究所犬吠電波観測所
49 国立天文台野辺山太陽電波観測所
50 中部工業大学
51 兵庫医科大学
52 福島大学
53 新潟大学理学部
54 信州大学
55 京都大学飛騨天文台
56 愛媛大学
57 東京都立大学
58 横浜国立大学
59 中京大学
60 東京大学生産技術研究所
61 名古屋大学環境医学研究所
62 豊橋技術科学大学工学部
63 宇宙開発事業団
64 リモートセンシング技術センター
65 郵政省通信総合研究所平磯支所
66 高知大学理学部
67 東京電機大学
68 筑波技術短期大学
69 石川工業短期大学
70 富山県立大学
71 北海道大学
72 東京理科大学
73 神戸大学発達科学部
74 宮崎看護大学
75 鹿児島大学
76 通信総合研究所関東支所
77 九州大学工学部
78 東北大学工学研究科・工学部
79 東北大学流体科学研究所
80 東邦学園短期大学
81 名古屋大学大学院工学研究科・工学部
82 東京工業大学理学部
83 科学技術庁航空宇宙技術研究所
84 国立天文台水沢観測センター
85 千葉工業大学
86 岡山大学地球惑星内部研究センター
87 国学院大学
88 横浜市立大学
89 京都大学防災研究所
90 大阪学院大学
91 総合研究大学院大学
92 明星大学
93 富山大学
94 千葉大学
95 かわべ天文公園
96 郵政省通信総合研究所山川電波観測所
97 国立環境研究所



151 NASA Headquarters
152 NASA Goddard Space Flight Center
153 NASA Marshall Space Flight Center
154 NASA Ames Research Center
155 University of Calgary
156 Astronomical Institute
157 Beijing Astronomical Observatory
158 Birmingham University
159 California Institute of Technology
160 High altitude Observatory
161 Institut d'Astrophysique de Paris CNRS
162 Istituto ed Osservatorio Astronomico di Palermo
163 Jet Propulsion Laboratory
164 Lockheed Martin Solar and Astrophysics Laboratory
165 Montana State University
166 Mullard Space Science Lab.
167 National Institute for Satndard and Technology
168 Observatoire de Paris
169 Rutherford Appleton Laboratory
170 Smithsonian Astrophysical Observatory
171 Solar Physics Research Co.
172 UC Berkely
173 UC San Diego
174 University of Hawaii
175 University of Maryland
176 Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory
177 University of Iowa
178 UC Los Angeles
179 University of Colorado, the Laboratory for Atmospheric and Space Physics
180 Max-Planck-Institut
181 European Space Research and Technology Center
182 International Space Science Institute
183 Institute for Space Research of the Russian Academy of Science
184 Massachusetts Institute of Technology
185 Pennsylvania State University
186 National Radio Astronomy Observatory(US)
187 Canadian Space Agency
188 Dominion Radio Astronomy Observatory
189 Australina Telescope National Facility
190 European VLBI Network
191 Joint Institute for VLBI in Europe
192 Universitde Paris XI (Paris-sud)
193 University of Texas
194 Technische Universitat Mnchen
195 Swedish Institute of Space Physics
196 Center National dEtudes Spatiales
197 University of Wisconsin
198 University of Cicago