I.概   要

1.沿  革
 宇宙科学研究所は,東京大学宇宙航空研究所を発展的に改組して,昭和56年
4月14日付で設立された. 
 当研究所の前身である東京大学宇宙航空研究所は,昭和39年4月に「宇宙理
学・宇宙工学及び航空の学理及び その応用の総合研究」を行う目的で設置さ
れた.以来,飛翔体に関連した宇宙工学の研究開発並びに宇宙理学研究は,東
京大学宇宙航空研究所を中心とし,国・公・私立大学等多くの機関の研究者の
協力の下に,自由な発想に 基づく一貫した研究プロジェクトとして進められ,
多大の成果を収めてきた. 
 この結果,我が国の宇宙理学・宇宙工学研究は発展をつづけ,世界的な趨勢
を反映しその規模が拡大してくるとともに,大型国際協力計画への参加など国
際的な連携体制への配慮も必要となってきた.更に実利用分野にわたる国の宇
宙開発計画の拡大に対して,その自立的発展に寄与するためにも,特に宇宙工
学分野における幅広い研究の拡充が必要となってきていた. 
 この情勢を踏まえ,東京大学宇宙航空研究所においては,将来の体制のあり
方について検討が重ねられてきた.また文部省学術審議会においても,文部大
臣の諮問に応えて審議の結果,昭和50年10月に至り「宇宙科学研究の推進」に
ついて答申が行われた.その中で今後の我が国の宇宙科学研究のあり方と,こ
れを推進するための中枢となる研究所(いわゆる「中枢研究所」)の必要性が
強調された. 
 宇宙航空研究所では所外の関連研究者の意見も徴しつつ,さらに討議を進め,
宇宙理学・宇宙工学に係わる部分が発展的に「中枢研究所」に移行するのが適
当であるとの結論に達し,これを受けて東京大学評議会においても同様の趣旨
の結論が得られた.これに従い,昭和55年4月に東京大学に「宇宙科学のため
の中枢研究所」設立準備 調査委員会が発足し,中枢研究所のあるべき姿につ
いて審議を重ね,「中枢研究所」を緊急に発足させることの必要性とその目的・
組織・規模・事業計画等の基本的事項が取りまとめられた.これに基づき昭和
56年度予算に 「研究所の創設」について概算要求を行い,第94回国会におい
て「宇宙科学研究所」の設置に関する予算並びに国立学校設置法の改正がなさ
れ,昭和56年4月14日付をもって,東京大学宇宙航空研究所を発展的に改組し,
宇宙科学研究所が発足したものである. 
 なお,平成元年4月1日付をもって,位置が東京都から神奈川県に変更され
た. 

2.設置目的
 宇宙科学研究所は,「宇宙理学,宇宙工学の学理及びその応用の研究を行う
とともに,この研究に従事する国公私立大学の教員等の利用に供する.また,
国公私立大学の要請に応じ,大学院における教育に協力する.」ことが設置目
的である.この目的を遂行するために,気球,ロケット,人工衛星などの宇宙
飛翔体を用いた観測実験による宇宙理学研究の推進と,それら宇宙飛翔体の研
究開発及びその利用を通じての宇宙工学技術の発展を図るとともに,この研究
に従事する全国の国・公・私立大学その他の研究機関の研究者に利用させるこ
とを行っている文部省に属する教育研究機関である.また,大学共同利用機関
として,全国の関係分野の研究者にその利用が開かれており,国・公・私立大
学の研究者や外国人研究者を客員の教授,助教授等として迎えることができる.
さらに,大学院教育としては国・公・私立大学の要請に応じ,当該大学の大学
院における教育に参加・協力することになっており,このことを通じて,この
分野の後継者の育成にあたっている.当研究所は,国立学校設置法第9条の2
に掲げる大学共同利用機関として設置され,研究者は教授,助教授又は助手と
して大学教員の処遇を受ける. 
 宇宙科学研究所の主要な研究活動は,大気球,観測ロケット,科学衛星等宇
宙飛翔体による観測実験及びそれら宇宙飛翔体の研究開発であるが,その規模
は,年間大気球約10機,観測ロケット5機,科学衛星1個程度である.このう
ち,科学衛星は,昭和45年2月の我が国初の人工衛星「おおすみ」以来,これ
までに25個の打上げに成功し,大気球,観測ロケットによる研究とあわせ, 
宇宙科学の発展に多大の成果をもたらしている.宇宙科学研究所は,相模原に
おける施設設備のほか,研究施設として,昭和37年2月に鹿児島宇宙空間観測
所(鹿児島県内之浦町),同年10月に能代ロケット実験場(秋田県能代市),
昭和45年11月に三陸大気球観測所(岩手県三陸町),平成5年4月に宇宙科学
企画情報解析センター(相模原)〔昭和54年4月に宇宙科学資料解析センター
として開設の廃止・転換〕,昭和59年10月に臼田宇宙空間観測所(長野県臼田
町),昭和62年5月に宇宙基地利用研究センター(相模原)及び平成7年4月
に次世代探査機研究センターを開設し,実験・観測・研究などを行っている. 


3.宇宙開発体制
 我が国の宇宙開発推進体制は,「宇宙開発政策大綱」にその指針が示されて
いるように,確立された計画のもとに,個々の機関で行われている宇宙開発を
国として一体性を保ちつつ,総合的かつ効果的に実施することが図られている. 

 人工衛星の打上げは,宇宙科学研究所及び宇宙開発事業団で行われているが,
科学衛星及び同打上げ用ロケットは,開発から打上げ・運用に至る過程のすべ
てを宇宙科学研究所が責任をもって実施し,実利用分野の人工衛星については
宇宙開発事業団が中心となって開発が進められている. 
 このため,総理府に宇宙開発委員会が設置され,科学と実利用との間の総合
調整や重要な施策について審議され,「宇宙開発計画」が策定されている. 
 日本の宇宙開発関係機関及び宇宙関係政府予算は,それぞれ表1,
表2に示す通りである. 
 平成10年4月に策定された宇宙開発計画のうち,宇宙科学研究所
関係の個別の事項の概要は次のとおりであ る. 

◎科学の分野
1.開発プログラム
 人工衛星の運用
 試験惑星探査機「さきがけ」(MS-T5)
M-3SIIロケット1号機の性能を確認するとともに,惑星間軌道達成とこれに関
連した姿勢制御,超遠距離 通信等の技術を習得することを目的として,昭和
60年1月に打ち上げた試験惑星探査機「さきがけ」(MS-T5)を運用する.
(平成11年1月8日に運用を終了) 
 第12号科学衛星「あけぼの」(EXOS-D)
地球磁気圏におけるオーロラ粒子の加速機構及びオーロラ発光現象等の精密観
測を行う目的として,平成元年2月に打ち上げた第12号科学衛星「あけぼの」
(EXOS-D)を運用する. 
 第14号科学衛星「ようこう」(SOLAR-A)
太陽活動極大期における太陽フレアの高精度画像観測等を日米協力等により行
うことを目的として,平成3年8月に打ち上げた第14号科学衛星「ようこう」
(SOLAR-A)を運用する. 
 磁気圏観測衛星(GEOTAIL)
地球の夜側に存在する長大な磁気圏尾部の構造とダイナミックスに関する観測
研究を日米協力等により行うことを目的として,平成4年7月に打ち上げた磁
気圏観測衛星(GEOTAIL)を運用する. 
 第15号科学衛星「あすか」(ASTRO-D)
宇宙の最深部を対象とし,多様な天体のX線像とX線スペクトルの精密観測を行
うことを目的として,平成5年2月に打ち上げた第15号科学衛星「あすか」
(ASTRO-D)を運用する. 
 第16号科学衛星「はるか」(MUSES-B)
超長基線干渉計(VLBI)衛星として大型精密展開構造機構等の研究及び電波天
文観測を行うことを目的として,平成9年2月に打ち上げた第16号科学衛星
「はるか」(MUSES-B)を運用する.  
 人工衛星の開発 
  第18号科学衛星(PLANET-B)
 第18号科学衛星(PLANET-B)は,火星上層大気の構造と運動及び太陽風との
相互作用を研究することを目的とした衛星で,M-Vロケットにより,平成10年
度に火星周回軌道に向けて打ち上げる.(平成10年7月4日に打ち上げた.) 

  第17号科学衛星(LUNAR-A)
 第17号科学衛星(LUNAR-A)は,月内部の地殻構造及び熱的構造を解明する
ことを目的とした衛星で,M-Vロケットにより,平成10年度※に月周回軌道に
打ち上げる. 
注 ※平成11年8月4日の宇宙開発委員会において平成14年度に変更  
  第19号科学衛星(ASTRO-E)
 第19号科学衛星(ASTRO-E)は,活動銀河核や銀河団からのX線を観測し,
高エネルギー天体現象や宇宙の進化の研究を行うことを目的とした衛星で,
M-Vロケットにより,平成11年度に打ち上げることを目標に引き続き開発を進
める. 
  第20号科学衛星(MUSES-C)
 第20号科学衛星(MUSES-C)は,小惑星や彗星等の始源天体から,岩石・土
壌等のサンプルを採取し,地球に持ち帰るミッションに必要な電気推進系,惑
星間自律航法,サンプル採取,地球大気再突入及び回収等の技術の習得を目的
とした衛星で,M-Vロケットにより,平成13年度※に打ち上げることを目標に
引き続き開発を進める.               注 ※平成11年8月
4日の宇宙開発委員会において平成14年度に変更 
  第21号科学衛星(ASTRO-F)
 第21号科学衛星(ASTRO-F)は宇宙初期における原始銀河の誕生と進化,原
始星・原始感星系の形成等の解明のために,宇宙塵,低温度星等の低エネルギー
放射過程を長波長電磁波(遠赤外線)によって観測することを目的とした衛星
であり,M-Vロケットにより,平成14年度※に打ち上げることを目標に引き続
き開発を進める.                 注 ※平成11年3月10
日の宇宙開発委員会において平成15年度に変更 
 研究
 天文系科学観測については,物理学の基本法則や宇宙の生成,進化に関する
諸天体現象の研究を行うため,各種宇宙放射線の観測に必要な技術等の研究を
行う. 
 地球周辺科学観測については,太陽・地球間の諸物理現象を解明し,地球環
境の推移に関する研究を行うため,高層大気,電離層,磁気圏プラズマ等の構
造の観測やそれらに関する実験に必要な技術等の研究を行う. 
 月・惑星等の科学探査については,惑星間空間の諸物理現象や月・惑星及び
それらの大気などの生成,進化過程の研究を行うため,各種の観測技術,機器
等の研究を行う. 

◎月探査の分野
 開発研究
  月探査周回衛星(SELENE)
   月探査周回衛星(SELENE)は,将来の宇宙活動に不可欠な月の利用可能
性調査のためのデータを取得すると共に,この活動を行う上で基盤となる技術
を開発すること及び月の起源と進化を探る月の科学の発展を図ることを目的と
し,月の表面構造・組成の全球的調査,月重力場等の計測及び月面着陸技術実
証を行う周回衛星等から構成されるものであり,H-II Aロケットにより平成15
年度頃に打ち上げることを目標に開発研究を行う. 
 研究
   月面での各種の宇宙活動実施の可能性の調査を目的とした月無人探査シ
ステムの研究を行う. 
◎宇宙インフラストラクチャーの分野
輸送系
1.開発プログラム
 ロケットの開発
  M系ロケット
 M系ロケットは,全段に固体推進薬を用いるロケットとし,科学衛星の打上
げに利用するものとして開発を行ってきたものであり,宇宙科学研究所鹿児島
宇宙空間観測所の射場における打上げ可能範囲及び全段固体ロケット技術の最
適な維持発展等の観点を考慮しつつ,引き続き開発を進める. 
 すなわち,1990年代以降の科学観測ミッションの要請にこたえることを目的
とし,各段を大型化するとともに機体構成の簡素化を図った3段式のM-Vロケッ
トについて,平成10年度に第17号科学衛星(LUNAR-A)※及び第18号科学衛星
(PLANET-B)※※を,平成11年度に第19号科学衛星(ASTRO-E)を,平成13年
度に第20号科学衛星(MUSES-C)※※※を,平成14年度に第21号科学衛星
(ASTRO-F)※※※※をそれぞれ打ち上げることを目標に引き続き開発を進め
る. 
                         注 ※平成11年8月4日の宇宙開発委員会において平成14年度に変更
                          ※※平成10年7月4日に打上げ済
                         ※※※平成11年8月4日の宇宙開発委員会において平成14年度に変更
                        ※※※※平成11年3月10日の宇宙開発委員会において平成15年度に変更

4.組織及び運営
a.組織・運営
 本研究所は,9研究系並びに管理部,技術部及び観測部から構成されている
ほか企画調整主幹及び対外協力室が置かれている.また研究施設として,鹿児
島宇宙空間観測所,能代ロケット実験場,三陸大気球観測所,宇宙科学企画情
報解析センター,臼田宇宙空間観測所,宇宙基地利用研究センター及び次世代
探査機研究センターが置かれている. 
 研究系は,研究のための基本的組織であり,一つの研究系のもとには,4か
ら8の研究部門が置かれており,9研究系を合わせた研究部門数は52部門(う
ち客員部門12,外国人客員部門3を含む)で,専任部門は原則として教授1,
助教授1,助手2で構成されている.各研究系には研究主幹が置かれ,いずれ
かの部門の教授が併任している.企画調整主幹は,本研究所が行う観測及び研
究開発に係るプロジェクトの企画及び実施について総合調整するために設けら
れ,教授が併任することになっている.また,対外協力室は,国内外の関係機
関との学術的技術的協力に関し,企画連絡等にあたるためのもので,その長は
教授が併任する. 
 共同利用の研究所として円滑な運営を行うため,所長に対する助言あるいは
諮問機関として文部大臣が任命する評議員と運営協議員が置かれている.この
ほか,研究所内だけで構成する各種の所内委員会や,全国の多数の関係研究者
を構成員として共同研究計画等について審議する各種の研究委員会が設けられ
ている. 


評議員名簿(50音順・平成11年3月31日現在)

	阿部 博之	東北大学長
	秋葉鐐二郎	宇宙開発委員会委員
(副会長)井口 洋夫	(財)国際高等研究所副所長
	石井 紫郎	国際日本文化研究センター研究部教授
	内田 勇夫	宇宙開発事業団理事長
(会 長)小田  稔	東京情報大学長
	加藤寛一郎	日本学術振興会理事
	小平 桂一	国立天文台長
	佐藤 文隆	京都大学大学院理学研究科教授
	末松 安晴	高知工科大学長

	菅野 卓雄	東洋大学長
	菅原 寛孝	高エネルギー加速器研究機構長
	立花  隆	評論家
	西村  純	山形工科アカデミー短期大学校長
	野村 民也	宇宙科学研究所名誉教授
	蓮實 重彦	東京大学長
	廣田 榮治	総合研究大学院大学長
	増本  健	(財)電気磁気材料研究所長
	山口 開生	NTT相談役
	山本 明夫	早稲田大学大学院理工学研究科客員教授

運営協議員名簿(50音順・平成11年3月31日現在)

(所外)
	池内  了	名古屋大学大学院理学研究科教授
	海部 宣男	国立天文台教授
	梶 昭次郎	東京大学大学院工学系研究科教授
	高山 和喜	東北大学附属衝撃波工学研究センター長
	中澤  清	東京工業大学理学部教授
	原島 文雄	東京都立科学技術大学長
(副会長)藤原 俊隆	名古屋大学大学院工学研究科教授
	松岡  勝	理化学研究所主任研究員
	松本  紘	京都大学超高層電波研究センター長
	安田 靖彦	早稲田大学理工学部教授

(所内)
	上杉 邦憲	宇宙輸送研究系研究主幹
	奥田 治之	共通基礎研究系研究主幹
	栗木 恭一	宇宙推進研究系研究主幹
	鶴田浩一郎	太陽系プラズマ研究系研究主幹
	中谷 一郎	対外協力室長
	長友 信人	衛星応用工学研究系研究主幹
	雛田 元紀	システム研究系研究主幹
	廣澤 春任	宇宙探査工学研究系研究主幹
	槙野 文命	宇宙圏研究系研究主幹
(会 長)松尾 弘毅	企画調整主幹
	水谷  仁	惑星研究系研究主幹