運用終了電波天文観測衛星「はるか」

大型アンテナの展開技術など、工学的技術実証を主な目的とし、地上の電波望遠鏡と共同して電波観測を行う電波望遠鏡として、地球上の観測をはるかに凌ぐ解像度で電波天体の撮像観測を行った電波天文観測衛星である。

火星探査機「のぞみ」 宇宙実験・観測フリーフライヤ SFU

VSOP計画(VLBI Space Observatory Programme)は、衛星軌道に配置された電波望遠鏡と地上の大型アンテナの協力によって、地球上の観測をはるかに凌ぐ解像度で電波天体の撮像観測を行う手法です。とくに次のような科学目標にねらいが定められました。

活動銀河核(AGN:Active Galactic Nuclei)の高解像度の撮像
異常な明るさをもつ天体の構造変化の観測
AGNの赤方偏移と固有運動の関係
水酸基メーザー源のスポット・サイズの分布
電波星の高解像度の撮像
科学レビュー委員会(Science Review Committee)と VSOP International Science Council(VISC:VSOP国際科学会議)によってたくさんの重要天体観測計画が決定され、公募で提出された観測提案で選択された天体も入れて、総計で700をこえる観測が行われました。

“「はるか」は、1997年2月12日、M-Vロケット1号機によって打ち上げられました。電波天文衛星として、大型展開アンテナ、VLBI干渉実験などさまざまな工学実験を重ねて、スペースVLBI観測を実現し、大きな国際共同によるVSOP計画の中心となった衛星です。
当初の予想を上回っての観測運用が続けられましたが、8年9ヶ月の長い年月の後、2005年11月30日に最期の運用が行われ、静かに引退しました。万一の破裂による爆発を防ぐため残った燃料を吐き出し、最期の電波停止コマンドキーは、この日のために出てこられた前プロジェクトマネージャー広澤春任先生によって押されました。日本標準時間11時28分08秒の時刻付きのコマンド送出確認のオペレーターの声は、死のときの医師の宣告のようにも聴こえました。
24時間態勢で懸命の運用を続ける「はやぶさ」チームの傍らで、集まってきた「はるか」チームは立ち並んで静かに最期の運用を見守りました。平成元年から始まった「はるか」プロジェクト、残務処理をして、今年度末に終了の予定です。17年は、さまざまな想い出を擁しています。とても簡単には語りきれません。
「はるか」はゆっくりと回転しながら、これからも静かにあの羽を広げて飛び続けます。
かつて日本の空には、朱鷺(とき)が美しく飛んでいたといいます。「はるか」が消えずに飛び続けてくれるのはうれしいことです。いつか、夕日に光る「はるか」を眺めてみたいと思います。”
2005年12月  「はるか」プロジェクトマネージャー 平林 久

機体データ

名称(打上げ前) はるか(MUSES-B )
国際標識番号 1997-005A
開発の目的と役割 地上における電波望遠鏡と共同して軌道上で電波観測を行う(VSOP:VLBI Space Observatory Program)。また、大型アンテナの展開技術や衛星と地上局の原子時計の比較のための安定度の高いデータ送信技術、精密な姿勢制御など、各種の工学的実証も行う。※VLBI:Very Long Baseline Interferometer

※VSOP計画(VLBI Space Observatory Programme)は、衛星軌道に配置された電波望遠鏡と地上の大型アンテナの協力によって、地球上の観測をはるかに凌ぐ解像度で電波天体の撮像観測を行う手法。とくに次のような科学目標にねらいが定められた。

・活動銀河核(AGN:Active Galactic Nuclei)の高解像度の撮像
・異常な明るさをもつ天体の構造変化の観測
・AGNの赤方偏移と固有運動の関係
・水酸基メーザー源のスポット・サイズの分布
・電波星の高解像度の撮像
科学レビュー委員会(Science Review Committee)と VSOP International Science Council(VISC:VSOP国際科学会議)によってたくさんの重要天体観測計画が決定され、公募で提出された観測提案で選択された天体も入れて、総計で700をこえる観測が行われた。
打上げ日時 1997年2月12日 13時50分
場所 鹿児島宇宙空間観測所(内之浦)
ロケット M-Vロケット1号機
質量 約830kg
形状 1.5m×1.5m×1.0mの直方体
上部に最大径10m(有効径8m)の大型展開アンテナを備える
軌道高度 近地点560km 遠地点21000km
軌道傾斜角 31度
軌道種類 長楕円軌道
軌道周期 約6時間20分
主要ミッション機器 ケーブルネットワークに金属メッシュ鏡面を組み合わせた有効径8mのアンテナ。主鏡、副鏡の2種類の反射鏡により、電波が長さ2.5mのフィードホーンの中に導かれる。
運用停止日 2005年11月30日
運用 打上げ後、3軸姿勢制御を確立した後、2月14、16、21日に軌道制御を行った。2月28日には、大型アンテナの主反射鏡の展開作業を終了、追跡局との双方向の通信リンクなどの技術的なテストを経て、スペースVLBI衛星として本格的な運用を開始した。
「はるか」が観測に用いる周波数は、1.60-1.73GHz、4.7-5.0GHz、22.0-22.3GHzであるが、打上げ直後に、22GHz帯が大変低い感度に落ちていることが判明した。これは打上げの時の振動が原因と思われる。したがって観測は1.6GHzと5.0GHzで集中的に行われた。
打上げ前は、搭載された太陽電池パネルへの放射線による損傷が衛星の寿命を強く制限すると考えられ、ミッション寿命は約3年と見られていたが、打上げから8年9ヶ月となる2005年11月まで運用は続いた。
観測成果 世界各国の電波望遠鏡群と協同観測することにより、口径3万km(地球直径の約3倍)もの仮想の電波望遠鏡の一部として天体の観測を行った。
これまでに、クェーサーPKS0637-752の電波とX線のジェットを1万分の2秒の解像度で観測、M87銀河のジェットを1000分の1秒角で観測することなどに成功した。
スペースVLBIを世界最初に実現し、観測をすすめた国際VSOPチームは、IAA(国際宇宙航行アカデミー: International Academy of Astronautics)の2005年Laurel賞を受賞した。