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無容器法とは

 「宇宙で物質を合成する」ことを考えた場合,まず思い浮かぶのは「微小重力が何か影響を及ぼすのかな」ということでしょう.確かに微小重力が大きな役割を果たす場合もありますが,我々はそれよりも物体を浮かすことが出来るという点に着目しています.「物体が浮く」,それは合成の際に容器が不要になることを意味しています。下の写真は日本人科学者として初めて宇宙に上った毛利さんが、スペースシャトルで水の球を浮かせている様子です.私たちは高温液体からの凝固プロセスにおいて,このような浮かせた状態を積極的に活かした研究を行っています.では物質合成において,浮いている状態とはどういう利点があるのかをみていくことにしましょう.

毛利さん
JAXAデジタルアーカイブ)
 原料の固体を高温に加熱して溶かした融液を考えます.地上では重力があるためにるつぼ等の容器が必要です.この融液を冷却するとある温度で凝固するわけですが,容器がある場合,凝固は容器の壁から始まります.これは容器の壁面から不均一核が生成することによるものです.下右図に融液の温度を時間に対してプロットしました.融点よりも少し低い温度まで液体のままであることが読み取れます.この状態を過冷却液体と言います.水を凍らせるときに0度以下にしてもすぐには凍らないのもこの状態です.しかし,ある程度まで下がると凝固が始まります.このとき過冷却液体の内部に溜め込んでいた余分なエネルギー(潜熱)を放出するため,試料の温度は融点まで跳ね上がります.その後は固体として温度がどんどん下がっていきます.
 それに対して容器が無い場合はどうなるのでしょう.
 そうです.容器の壁がないので,凝固のきっかけとなる不均一核が生成しないのです.その結果,融液はなかなか固まらず,通常では考えられないような大過冷却状態が実現されるのです.こうして得られた大過冷却融液から凝固させると,時としてこれまで全く知られていなかった準安定物質が生成することがあります.私たちはこの無容器法が,高圧合成やエピタキシャル薄膜等のポピュラーな準安定材料合成手法と比肩しうる物質探索の武器になると考えています.

 私たちは無容器法を利用した機能性準安定相の創出を目指していますが,実際に宇宙環境で実験することは容易ではありません.現在各国が協力して国際宇宙ステーション(International Space Station : ISS)の建設を進めていますが,その完成はもう少し先になります.
 そこで,私たちは地上で無容器を実現できる実験装置を利用しています.近年の浮遊技術の進歩により,直径数mm程度の試料サイズであれば,微小重力環境を使わずとも地上において金属,半導体,酸化物等さまざまな材料の浮遊が達成出来ます.
 私達が主に使用しているのはガス浮遊炉,静電浮遊炉と呼ばれる浮遊装置です。下図はガス浮遊炉の概略図です.
 すり鉢上になった試料ホルダの底をカットし、ノズルを差し込みます。
 そこから空気やアルゴン、窒素等の気体を噴射させることで試料を浮かせます。
 試料はCO2レーザーで加熱するため、すぐに液体状態となります。
 浮いた状態からレーザーを切って急冷すると、容易に大過冷却が実現します。