宇宙に限らず輸送系に対する本質的なユーザ欲求は、「行きたいときに行きたいところへいけること」だと言えます。中長期的視点で戦略を策定する際には、その欲求に基づいて戦略シナリオを描き、いま目の前にいるユーザに対して小さく素早く応えて味方を増やし、「もっとやろうよ」という雰囲気を盛り上げていく方向性がよいと考えています。

宇宙科学研究所の宇宙輸送系分野では、中長期戦略の目標として、地上から深宇宙をつなぐ軌道間輸送ネットワークの構築を掲げています。それを実現するために取り組むべき開発研究の重点領域を三つ識別しました。一つめは、現在とはけた違いの高頻度大量輸送を実現する再使用型の軌道宇宙輸送システム。二つめは、探査の多様なニーズに応え、その自在性と効率を高める深宇宙・軌道間輸送システム。そして三つめは、以上の二つのシステムに係る技術を地球近傍で実証するための小規模飛翔体システムです。

JAXA 宇宙科学研究所 准教授 徳留 真一郎

最初に実現しようとしているのは、探査機技術と輸送系技術を組み合わせた深宇宙・軌道間輸送システムです。まず、太陽-地球系弱安定領域など探査に都合の良い深宇宙空間に、推進薬の貯蔵と補給を行うための深宇宙OTV(軌道間輸送機)を浮かべて拠点をつくります。そこに燃料を抜いた探査機を打ち上げて、燃料を補給した後に探査天体へ向けて打ち出すのです。イプシロンロケットは300kg程度のペイロードを運べますから、その拠点で燃焼補給をすれば、1トンクラスの比較的大きな探査機ミッションが実行できるでしょう。さらにこれを「深宇宙デポ」として大型化し、探査機だけでなく、探査天体の近くまで探査機を迎えに行く専用のOTVにも燃料補給して、地球近傍の宇宙ステーションに探査機の一部を連れて帰る機能を持たせます。こうすることによって、探査機は限られた質量をより多く探査ミッションの目的に充てられるようになり、その成果を最大化できるのです。

JAXA 宇宙科学研究所 准教授 徳留 真一郎

今から20年後には、二段式の再使用型宇宙往還機が本格的に運用されており、現在とはけた違いの頻度で大量の物資や人員が輸送される世界ができているでしょう。その結果、外惑星に行く様々な往還システムが定常運用され、科学・探査の自在性が大きく向上し、新たな科学が生まれている。私たち輸送系分野の研究者は、そんな未来を拓くことに貢献していきたいと考えています。