我々のこれまでの小天体探査戦略は、地球に近づいてきた小天体を戦略的に探査して、一部はサンプルリターンを行うというものです。地球に近づいてきた小天体は、もともとは太陽系のもっと外側にあり、氷や有機物が固まって泥団子のような天体だったもの、これらの軌道が変化し地球に降ってきて生命を造る有機物や海水の起源になったと考えられています。小天体を探査することで、地球の水・有機物の起源、太陽系外縁部から内惑星に水や有機物が輸送された、その過程を研究しようとする戦略です。

では、重力天体に水や有機物を含む天体が降った後にどう進化したかを調べるためにすべきことは、地球、そして火星の環境を、大気と水の、陸と大気の、もしくは水と陸の循環や相互作用の法則を明らかにすることです。そのためのデータは金星や火星、氷衛星を探査して取得し、地球と比較すればよいということになります。このように考えるとたくさん探査機を送り込める技術が必要になってきます。

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私の専門である火星に関しては、2020年代に火星衛星サンプルリターンを行う計画があります。この計画は小天体探査戦略の枠組みですが、得られた通信技術や火星圏往還技術は、次の火星周回探査や着陸探査、火星サンプルリターンミッションという重力天体探査へと派生します。

それから今後は、地下の探査が新たなフロンティアになるでしょう。火星の地下には分厚い氷の層が広がっていると推測されていますし、木星や土星の衛星の地下には海が広がっているということもわかっています。この新たなフロンティアに挑戦しようとするとき、日本の潜在的な強みを活かさなければなりません。

JAXA 宇宙科学研究所 教授 臼井 寛裕

私は地質学という宇宙探査とは少し異なるフィールドからこの分野に入ってきました。大学院まで地質学をベースに研究してきた私の視点では、日本という環境が潜在的な日本の強みになっているように思えます。我々の国には地震が起こり、それに伴って津波もあり得ますし、火山があり、台風も来ます。これらに対応するために、日本では地震学・火山学・気象学・海洋学・土木工学・建築学が相当なレベルにあります。これらは将来の重力天体探査や天体に基地を造るときのシーズになると信じています。こういう分野を取り込むような探査を是非考えていきたいと思っています。